ご注文は護衛ですか?   作:kozuzu

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リゼちゃんお誕生日おめでとう!!


……え、何?一日遅いって?

ほら、あれだよ……ハッピーバレンタイン!!(唐突な話題転換)


番外編 別に、忘れてしまっても構わんのだろう?

現時刻、マルヨンサンマル。

冬将軍がノリノリで軍配を振り回し、寒気という名の軍勢が町を闊歩しているのか、時折手を擦り会わせて、白旗代わりに白い吐息を振る。

そんな冬の日に、私こと天々座 リゼは、自宅の厨房にて業務用冷蔵庫を覗き込んでいた。

 

 

「よし、寝かせておいたチョコはバッチリだな」

 

 

ざっと見渡す限り、型崩れや気泡の跡であるクレーターは見つからない。思わず片手でガッツポーズをとる。

それほどに、今年は改心の出来だった。

チョコ──正式名称は、チョコレート。それは、カカオを原料として作られる世界で最大の知名度を有するであろうお菓子だ。

起源は開拓前、紀元前二千年中央アメリカでカカオが栽培されたことから始まる。当初は先住民族の間で嗜好品、又は薬用として珍重された。

そして、アメリカ開拓時にかの有名な冒険家クリストファー・コロンブスの紹介によって世界に広まった。

そんな甘くてほろ苦いお菓子、チョコレートが最も世間で注目されるのが今日、二月十四日つまりはバレンタインデーだ。

 

 

「今年も皆、喜んでくれるといいな……」

 

 

そんな願望が、私の口から意図せずして漏れた。

バレンタインデーに、私は毎年決まって、大量の手作りチョコレートを作る。

何故かと言えばそれは、毎日欠かさずに私たちの家を警護してくれる皆――――親父の部下たちを労う為だ。

我が家では毎年の恒例行事ではあるが、念のためタカヒロさんに量産しやすい手作りチョコレートのレシピとレクチャーしてもらった。そして、今日の会心の出来に至るわけだ。

だが、こんな事を毎年続けていると、

 

 

「そんな面倒な事をせず、市販の物を渡してしまえ」

 

 

と、前に親父にも言われた。

言われたが、親父は何にもわかっていない。

私が、自分自身の手で作るからこそ、意味があるのだ。

別に、市販品を渡すことが悪いと言っている訳じゃあないが、やっぱり、日頃の感謝の気持ちを伝えるもであれば、丹誠込めて、手間をかけて作るのが筋というものだろう。

まあ、これは持論であり、そんなの個人の自由だ、と言われてしまえばそれまでなのだが。

そんな事を回想しながら、冷蔵庫の一番奥に鎮座したソレ。

彼の嗜好を考え、若干他より苦く作ったハート型のチョコを、何の気もなしに眺めた。

 

 

(アイツも、喜んでくれ……いや、いやいや。これは義理チョコであって、そういうのじゃないだろ!)

 

 

毎年毎年、恒例恒例と言っているが、今年だけは例外に当てはまるだろう。

そう、今年は彼―――風見 雄二がいる。

いつもいつも、一々私の勘に障る奴だが、親父たち全員に配るのに、奴だけに渡さないというのは、なんというか、その―――

 

 

(その、親父たちや親父たちの部下にも渡すから不公平の無いように、一応作っただけであって……そう!言うなればこれは、義務チョコだ!!だから、別にアイツが美味しいとか、どうとか関係ないしな!!)

 

 

誰に向けるでもない言い訳を何よりも自分自身に言い聞かせ、心を落ち着ける。

本当に、彼がこっちに来てから、私は心が休まるときがない。

油断すれば、同じ更衣室に入ってきたりするし。

寝起きに、その、は、はだ……裸!とか見せてくるし!!

 

 

「ホント、アイツはいつも私の心をかき乱してくれる……」

 

 

頬が紅潮し、その熱がじんわりと体中に巡っていくのを感じながら、私は独白した。

そして、私が油断しきっていたこの時、

 

 

「ほう、アイツというのは心理戦のエキスパートか何かなのか?リゼを手玉に取れるというのなら、ぜひその手腕を伝授してもらいたいものだ」

 

「うあああああ!?」

 

 

寄りにもよって、この瞬間最も聞きたくない声が後方から降って来た。

反射的にチョコレートを寝かせておいた冷蔵庫をバシンと閉じ、後ろ手で隠すように立ちはだかる。何故だろう、別にやましいことなどあるはずもないのに、私は冷や汗をだらだらと滝の様にかきながら、彼を問いただす。

 

 

「な、なな!なんでお前がここにいる!?」

 

「何だ、下宿先の冷蔵庫の使用すら許可してもらえんのか?」

 

 

そう言って、彼は私など最初からいなかったかのように私の前を通り過ぎ、こちらも同じく業務用の冷蔵庫から良く冷えたミネラルウォーターのボトルを一本手に取ると、ごきゅごきゅと喉を鳴らした。

そうだった、彼は毎朝十五キロのランニングを日課としているのだった。

であれば、水分補給の為にここに来るというのは予測できたはずだ。

何やってるんだ、私……。

 

 

(う、迂闊だった……)

 

 

何故、コイツはいつもいつも狙いすましたかのように、私の意識の隙をついてくるんだ……。

そんな私の心中など知りもせず、500mlのペットボトルを半分ほど飲み干したところで、彼は飲み口から唇を離すと、

 

 

「で、リゼはこんな朝っぱらから厨房で何をやってるんだ?朝飯のつまみ食いなら、もっと後に起きるんだったな」

 

「んなわけあるか!お前には私が朝っぱらからつまみ食いをするような奴に見えるのか!?」

 

「ああ、もっと言えば、炊いた米を窯ごとばっくりといかないかと、」

 

「食べるかああああああ!!」

 

 

そんなこんなで、私は何か重要な事を忘れているのではないか、という疑念を完全に失念したまま、学校へ登校した。

誓って、つまみ食いなどはしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、学校に到着し、

 

 

「起立、礼!」

 

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

 

あれよあれよという間に朝のホームルームが終了した。

そして、皆が次の授業の準備の為に、ロッカーへ向かった時に、その事件は起きた。

 

 

「さて、次は確か、物理だったかな……。よし、今日も一日、張り切っていk」

 

 

 

 

――――ガラガラガラガッシャーンッッ!!

 

 

 

ロッカーのあたりから、轟音が響いた。

 

 

「何だ!敵襲か!?」

 

 

日頃の訓練の賜物か、それとも弊害か、咄嗟に愛銃であるガバメントに手が伸びるが、その音源に視線を向けることで、伸ばした手は宙をかいた。

 

 

「……忘れてた……そうだ、そうだよな、そうなるよな…」

 

 

そこには、

 

 

 

「フム……新手のいじめか?」

 

 

顎に手を当て、膝までチョコに埋もれた風見雄二の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレンタインデー、か。……なるほど、良いトレーニングになる日だな」

 

 

どこか、と言うか世の男どもが聞いたらc4を体中に巻いて特攻してきそうな感想を漏らす彼。

現在彼は、事務員室にて貰った袋に、大量のチョコをはち切れんばかりに詰め込み、次の授業の会場である講堂まで歩いていた。

右腕に三袋、左腕に三袋、計六袋をウェイトトレーニングかのように腕を上げ下げしていた。

 

 

「いや、お前な……」

 

 

横目で私が呆れていると、

 

 

「あの、風見先輩!これ、良かったらどうぞ!!」

 

「わたくしも、わたくしも作りましたので、どうかお納めくださいまし!」

 

 

ワタシモ、ツクッテキマシタ!!

 

アタシモ!!

 

 

 

行く先々で、その量を増やすものだから、始末に終えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、お昼時。

四時限目が終わった瞬間、私はダッシュでその場を離脱した。

それはもう、周囲をテロリストに囲まれた米兵をも余裕で置きさってゆくレベルで。

何故かと言えば、

 

 

「風見様!」

 

「風見先輩!私のチョコを!!」

 

 

チョコヲ‼ワタクシノチョコモ‼

 

 

ワーワーワーキャーキャー‼

 

 

(危なかった……あともう少しで、あの波に呑まれるところだった……)

 

 

後方でとぐろを巻く風見チョコ軍団を後ろ目に、私は安堵するのだった。

携帯で、「今日の昼は別行動で」とメールするのを忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、シャロー!」

 

 

屋上にて、今日も律儀に待ってくれていたシャロに、声を掛けた。

 

 

「あ、リゼ先輩!……よ、よくぞ、ご無事で……!!」

 

 

開口一番、戦場から帰還した兵士を労うように、シャロは言った。

まあ、ある意味では間違いではない。

で、二人で昼食を終え、

 

 

「あの、リゼ先輩!……こ、こ、ここっこ、ここここっ!」

 

「どうした、シャロ?」

 

「こ、コケコッコー!!」

 

「本当にどうしたんだシャロ!?」

 

 

突然シャロが鶏になった。

おかしい、食べてすぐになるのは、牛だったはずだが。

と、思ったら今度は茹で上がったカニみたいになった。

 

 

「お、おい……シャロ?大丈夫か?熱でもあるんじゃないのか?」

 

「い、いえ!あの……ちょっとすみません!!」

 

 

そう言うと、シャロは大きく深呼吸。

その後、パンパンと頬を叩くと、

 

 

「リゼ先輩!ハッピーバレンタイン、です!!」

 

 

ポケットから、オレンジ色に緑のリボンが掛かった小箱を手渡してきた。

ああ、なるほど、それでか。

 

 

「ありがとう、シャロ!大切に食べるよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、結局紙袋で収まらなくなった彼のチョコレートを、皆に頼んでトラックで家まで運んで貰った。

その時、受け取りに来た一人が「リア充め、もげろ」と言っていたのは聞かなかったことにした。

で、ラビットハウスでは。

 

 

「雄二君、リゼちゃん!ハッピーバレンタイン!私のチョコは、チョココロネパンにしてみたよ!!」

 

「あの……雄二さんあの、これ…うまくできているかわからないですけど……」

 

 

二人から、追加でチョコを貰った。

また、その日は何故か、タカヒロさんが用事があるようで、早めにお店を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、私たちは帰路についた。

 

 

「フム……皆タダでチョコを配るとは、気前がいいな」

 

「いや、お前バレンタインデーの意味って理解してるか?」

 

「前の職場では、その言葉を口にすると周囲の職員が一斉に舌打ちするのでな。よく知らん」

 

 

マジかよこいつ……。

で、門の前に着いたわけだが。

 

 

「あれ……?明かりがついていない……」

 

「ゲリラに占拠でもされたか?」

 

「いやいや、ウチに限ってそれはないだろ…」

 

 

おかしい、明かりがついていないのだ。

そして、見張りもいない。

おかしい。

ゲリラに占拠された、なんてのは置いといて、確かに奇妙だ。

訝しく思いながらも、私は裏口から家に入った。

そして、

 

 

 

 

「「「「「お誕生日おめでとう、リゼちゃん(さん)」」」」

 

 

そこには、ラビットハウスで別れたはずのココアとチノ、そしておまけにシャロと千夜の姿まであった!

そうか、何か忘れていると思っていたら、今日は私の誕生日でもあるんだった……。

自分に関心なさすぎだろ、私……。

その後、突然のサプライズパーティに目を白黒させたが、チノ、ココア、シャロ、千夜、親父たちに盛大に祝ってもらい、涙が出そうになったのは内緒だ。

ああ、絶対に、内緒だ。

 

 

そして、その日の内に皆チョコレートを配り、皆で一緒に食べた。

この時のチョコの味は、きっと一生忘れないだろう。

 

 

よ、余談だが、ちゃんと彼にも渡した。

ああ、なんたって、「義務チョコ」だからな!他意はない。ああ、断じて、絶対、だ。……多分。

私は、誰に言い訳しているのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

「全く、皆人が悪いなぁ……サプライズパーティ、だなんて……ははは…」

 

 

によによ、へらへら……。

きっと、私の今の表情に擬音を付けるとしたら、そんなところだろう。

まあ、とても人様に見せられるような顔じゃない。それだけは確かだ。

毎年毎年、皆へのチョコを作る過程、こんな感じで自分の誕生日の事を忘れてしまう。

 

 

―――コンコン。

 

 

まあ、私が忘れていても、親父たちはしっかり覚えていて、毎年きちんと祝ってくれる。

自分自身が一番自分の扱いが雑なのに。

 

 

『おい、リゼ。入るぞ?』

 

 

だから、皆に大事にされているような気がして、また頬が緩む。

まあ、今日ぐらいいいだろう。

 

 

『沈黙は肯定と受け取るが、構わないな?』

 

 

 

だって、今日は、

 

 

「誕生日、だしな。……ふふっ。ああ、全く、そうは思わないか、ワイルドギース?」

 

 

そういって、私はお気に入りのうさぎのぬいぐるみに微笑みかけた。

すると、

 

 

「そうか、それは良かったな」

 

「ぬいぐるみがしゃべった!?」

 

「ああ、そうだ。今日はリゼの誕生日だからな。ぬいぐるみぐらい、幾らでも喋るさ。なんなら、日本国憲法を第一条から補則百三条まで暗唱してみせるが?」

 

「何が楽しくて、誕生日に日本国憲法を清聴しなきゃならないんだ!?っていうか、お前風見!!いつからいた!」

 

「いや、ノックはしたぞ?入室許可も取った」

 

「許可なんかした覚えないぞ!?」

 

「沈黙は時に肯定を意味する」

 

「恣意的な解釈!?」

 

 

ってことは、私の一人芝居も聞かれていたってことだろ?

……。

 

 

「……一気に最悪の誕生日になった!」

 

 

ボスン、と枕に頭を埋め、うーううーと、声にならない呻きを上げる。

耳が熱い……!!

 

 

「恋人とのピローキス中に悪いが、少し顔を上げてくれないか?」

 

「……やだ」

 

「……なら、そのままで構わん。これだけ、言っておくぞ。誕生日おめでとう。プレゼントは、机の上に置いておく。じゃあ、邪魔したな」

 

 

パタンと、扉が開閉する音がして、私は顔を上げた。

そして、机の上を見ると、

 

 

「……あり、がとう、な。……雄二」

 

 

 

 

 

そこには、小さな紫色のうさぎを象った、ネックレスが鎮座していた。




疲れた……。
今朝、リゼちゃんの誕生日に気づき、仕事中にプロットを練って、家に帰って一時間で書いた……。

おい、時速10kbとか……。



つーわけで、なんか荒っぽいけど、まあいっか。
こういうのは気持ちだよ!!(イイハナシダナァ……)





尚、本話は番外編であり、本編とは一切関連性がありません。
ご了承下さい。

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