ご注文は護衛ですか?   作:kozuzu

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……。
タブレットが、逝きおった……。


第九話 そうだ、OHANASIをしよう

リゼが雄二をとある手段で捜索していたその頃、雄二は一人寂しく昼食を胃に収めていた。

 

 

「……うまいな」

 

 

うまい。咀嚼し終え、菜っ葉のおひたしを嚥下した俺は自然、そうこぼしていた。

日本人らしく、純和風の献立を一汁三菜の割合で適当に皿に取り、席に着いた。

だがしかし、何故か俺の周りだけ人の波が引き、必然、俺はドーナツ化現象のようにぽつりと空間の中央にに取り残されてしまったのだった。

この状況から鑑みるに、どうやら俺は、お嬢様方から、完全に警戒されてしまっている様である。

まあ、唐突にどこの馬の骨とも知れぬ異性が乙女の花園に土足で踏み込んできたのだ。あちらが警戒しなければ、こちらの方が警戒してしまっていたことだろう。

そんなわけで、護衛対象兼オトモダチの天々座 リゼにどうしたものかとメールで相談したのだが、

 

 

『よし分かった今すぐそっちに行く首を洗って待ってろ』

 

 

と、何やら彼女の機嫌を損ねてしまったようなのだ。

まあ、喧嘩腰なのはともかく、一人で昼食というのは何やら体裁が悪く、お嬢様方の警戒を一層強くしてしまうだろうと危惧していたところであったので、この返事は渡りに船だった。

メールに俺の現在地は記載していなかったはずだから、どうやってここまでたどり着くのかは甚だ疑問だったが、リゼ自身がああして言っているので、あてがあるのだろう。

そんなこんなで、リゼを待つべく、かなりゆっくりとしたペースで食事をしていたが、その為なのか思いの外、個々のの料理の味をじっくりと堪能することが出来た。

そうして、文頭の小学生並の感想に戻るわけだ。

今度は豆の煮ものを(はし)で一口分つまみ、口内に運ぶ。

すると、口の中に醤油ベースの出汁と、豆本来の甘みが調和した形で味が発露する。それらを舌の上で転がし、噛みしめ、最後に嚥下する。

 

 

「うまい」

 

 

また、自然と称賛の言葉が口から零れる。

普段、食事は栄養補給と割り切り、胃が消化できるか否かで胃に収めるかを決定してるが、そんな俺でもこれらの料理は素直に賛辞を呈することが出来た。

料理は殺菌消毒の為にどうこうする、という認識しか持ち合わせがないので、これがどれほどの逸品であるかは想像もつかないが、学校の学食でポンとセルフサービスで放置されていて良いクオリティでないことだけは確かだ。

 

 

(……一体、これ一品で俺の給料何か月分に値するのか、逆に興味が湧いてくるな…)

 

 

それを聞いてしまったが最後、この学食での料理を取る際にいらん勘定をしてしまいそうだが。

と、至高の品々を心中で絶賛していると、

 

 

「相席、よろしいかしら?」

 

 

前方から声が降りかかった。

途端、周囲の喧騒が消え、生徒たちの視線が俺と声の主へと集まった。

それを肌で感じた俺は、声の主へと目を向けた。

第一印象は、『清』だ。

白いブレザーとモノクロチェックのスカートによく栄える、長い青く清い印象を持たせる髪。それとお揃いのアジュールブルーの瞳。

肌は不健康に見えない程度で白いが、しかして、柳眉は長い時間をかけて精練されたかの如く整い、頬はほのかに朱がさしている。

そんな印象とはうらはらに、身体の肉付きは「女」として完成しており、街に出せばその艶やかなプロポーションに、百人中百二十人は振り向き熱っぽい溜息を吐くことだろう。

 

 

「あら……日本人とお伺いしていたのですが…日本語、通じていますか?」

 

「ああ、すまない。別に日本語が聞き取れていなかった訳じゃないんだ……ただ」

 

「ただ?」

 

「素直に、見惚れていただけだ」

 

「まあ、お上手ですわね」

 

「俺は世辞は好きじゃないんだ」

 

「そうですか。だとしたら、とても光栄ですわ……ところで」

 

 

優しげに微笑む少女だが、言葉を途中で切り、両手に持ったトレーを誇示するかのように一度揺すると、再度言葉を紡ぐ。

 

 

「私はいつまでこうしていれば良いのでしょうか?」

 

「ああ、すまなかったな……ふむ」

 

 

意図せず少女に立ち話をさせていたようであったので、謝辞を一つ並べると自身が陣取っている座席数を確認する。

現在座っているのは、白い円卓で、それを三人で囲むタイプのものだ。よって、目の前の少女が座席を取ったとしても、リゼの座席は確保できる。

リゼと何か因縁がある人間であればともかく、彼女はあまり周囲に敵を作るタイプの人間ではないことが、先の言動から見て取れる。

そして、そういうタイプ程敵に回すと厄介だ。敵の敵は、敵。敵の味方は敵。すなわち、目の前の少女を敵に回せば、彼女の味方が全て敵に回るというわけだ。

さて、あまり見知らぬ人間と飯を食らうのは好まない俺だが、ここで俺が「NO」と拒絶すれば、尚の事この学園で孤立していくわけだ。

それは好ましくない。で、あればだ。悪手を避けるために、目の前の少女が伸ばした手を握った方がベターというものだ。

 

 

「ああ、後から連れが一人くるが、それでも良いいか?」

 

「ええ、問題はないです。ありがとうございます」

 

 

そう言って微笑んだ彼女は、トレーを円卓へ安置すると、今度は自身が静かに座席の一つを引き、着席した。

 

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね……私、こちらの学園の生徒会長を務めさせていただいております、マーロウ・ブルームと申します。以後、お見知りおきいただければ幸いですわ」

 

 

生徒会長。さて、確かこれは生徒を牽引する生徒会という組織のトップという役職だったはずだ。

 

 

(……提案を突っぱねなくて、正解だったか。……いや、分からん。こういう手合いは、突っぱねても何かしら屁理屈をごねて提案を押し込んでくる可能性があるからな…俺の第一印象は可もなく不可もなく、といったところか?)

 

 

「……風見 雄二だ。雄二で構わない。マーロウ、で発音は合っているか?」

 

「あら、いきなり呼び捨てですか?」

 

「気に障るのなら他の呼び方を考えるが?」

 

「いえいえ、親しみがあっていいと思いますわ。それでは、私も雄二さん、と」

 

 

にこにこと微笑むマーロウ。

ここ周囲のお嬢様方はどうも温室の設定温度が高めだった為か、異性に対しての免疫がほぼゼロであった。

が、こちらはそれなりに場慣れしているようで、明らかにこちらの腹を探りに来ている。

まあ、こういう露骨なのはここに来て初だ。秘密の花園に紛れ込んだ正体不明の種子。それが益が害か、案じるのは当然だ。

きっとこれが然るべき反応だろう。

と、マーロウについての大体の推察を頭にインプットしていると、トレーに並べた小皿のサラダをまるで小鳥が餌を突っつくかのように小さくフォークで刺し、口に運んでいたマーロウが、突然手を止め、こちらに話の種を蒔く。

 

 

「どうですか、雄二さん」

 

「どう、とは?」

 

 

漠然とした質問に、俺は食事の手を止め、あまり褒められた行為ではないが、質問に質問で返した。

 

 

「まだ二日目ですが、乙女の花園にトリップした感想ですよ」

 

「……」

 

 

にこにこと微笑むマーロウ。

……さて、なんと返すのが正解なのだろうか?

正直に「一々気を張っていなければならないのは面倒だ」と言うのか?

またまた、前言を撤回し、「素敵な学び舎です」とお茶を濁すか?

…………。

 

 

「……はあ。もういい。やはり、俺に腹芸は向いていない。ってか、面倒だ」

 

「あらあら、もう降参ですか?化かし合いは始まったばかりですよ?」

 

「あんたのホームに土足で踏み込んでいくほど、厚顔無恥ではないつもりだ。……それに、あんた俺の事を識ってる(、、、、)だろ?」

 

「……ええ。なんたって、生徒会長ですから」

 

 

えへん、とその豊満な胸を張る生徒会長殿。

開き直り、ちょっとしたカマを掛けてみたが、案の定、この腹の探り合いはただのお遊戯だったらしい。

なんせ、ここまでの規模の学園、その生徒達の長だ。それなりの事が知らさせていても、不思議はない。というか、上層部に情報がある程度回っていなければ、そもそもこちらの学園への編入など、土台無理な話だろう。……いや、それでも異常は異常なのだが。

 

 

「それで、あんたは何が目的なんだ?」

 

「あら?うら若き乙女が、同年代の異性に興味を持つのは、当然の事でしょう?」

 

「……ああそうかい」

 

 

……俺の元上司へ、男への免疫を三倍濃縮して投与したら、こんなのが出来上がりそうだ。

 

 

「何て、冗談はさておき。……そう難しい話じゃないわ。あまりうちの生徒に手を出さないでね、って釘を刺しに来ただけ」

 

「……なるほど。何、その辺りはわきまえているさ。そもそも、俺はあまり自分から女に手を出したことはない」

 

「あら意外。女に慣れているのは、否定しないのね?」

 

「別に、珍しいことじゃないだろ? 否定したところであんたは識っているんだから、偽ったところで意味がない」

 

「ええ、そうね。……んん! 今日もここのグリルチキンは絶品ね」

 

「……はあ。話はそれだけか?」

 

「ええ。生徒会長(わたくし)の話は、ここまで。でも、年頃の乙女(マーロウ)の話はまーだまだ、終わってないのよ? ……と、言いたいところなんだけど」

 

 

と、マーロウはまたしても言葉を中断し、いつの間にやら空になっていた食器と、それを積載したトレーを両手で持つと、席を立った。

 

 

「シンデレラがお城に到着したみたいなの。意地悪なお姉さんは、ここらで退散するわ」

 

 

ちゃお、とウィンクを一つ飛ばすと、マーロウはそのまま人の波へと消えていった。

その直後、

 

 

「風見ぃ……」

 

 

肩を怒らせ、息を弾ませ、うら若き乙女がしてはいけない類の形相を浮かべたリゼが、入口で仁王立ちしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、まえがきの通り、出先でこちらの小説を執筆しようかとタブレットを開いたら、なんか知らんけど、windws8のアプリが強制終了する……。
おかげで、blue toothのキーボードが使えない(;~;)



そんなこんなで、更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
そして今回、オリキャラ、颯爽登場!
原作キャラ、ほぼカメオ出演!
そうさ、これがkozuzuクオリティさ…。
あとあと、活動報告にて、少しこの小説についてのアンケート擬きをやっております。
よろしければ意見を。
それでは、タブレットが大破して涙目な社畜作者ですた。

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