え、次回?未定ですよ。
結局、4対4で話し合うことになった、琉歌達。
話し合う、と言っても一方的に竹内が授業中でのことを責めてくるだけだった。
「あんたの授業態度、何?黒板に向かわず、ずーっと下向いてさ。
やる気ないなら学校に来ないでくれる?目障り」
「……」
「こっちが頑張って真面目に授業受けてるのに、隣で寝られてると邪魔なんだけど」
「……」
竹内が主に責め立てて、琉歌は
言いたい奴には言わせておけ――ではないが、説教をしているつもりであろう人間に言い返すとどうなるのか。
それを知っている琉歌は言い返さなかった。
「何か言ったらどうなん?」
「……」
「そうやって黙ってると話し合いにならんやろ」
「……」
イライラしているのが態度で解る。しかし、琉歌は何も言わなかった。
「もういい。話してるのも時間の無駄。
ウチは帰るわ」
そう言って、竹内は帰って行ってしまった。
「あのなぁ、安藤さん。
美香も確かに言いすぎやと思うけどな、でも、安藤さんは授業中寝とるんやろ?
それだけでも謝った方が良いやないの?」
「……」
「なぁ」
水田が声を掛けてきても、琉歌は黙ったままだった。
すると、見かねたベルが声を掛けてくる。
「彼奴の話聞いて、おかしいと思わないワケ?」
「え?」
ベルの言葉に、水田は頭を傾げる。
どうやら、ベルが感じた違和感の事を水田は理解していないらしい。
ベルの言葉で、漠然と違和感を感じていたフラン、マーモンが「あっ」と声を上げた。違和感の正体が解ったのだ。
「何で彼奴が授業中、琉歌の様子が見れるんだよ?
琉歌の席、オレの隣の窓際だぜ?
しかも、授業中彼奴が前見てりゃ琉歌の姿なんか見れないだろ」
「でも、美香は見えてたって言っとるやん」
ベルの言葉を聞くも、納得していない様子の水田。
ベルでなく水田は、竹内の言葉を信じているのだった。
「百歩譲って見えてたとしても、琉歌は寝てなんかないぜ?」
「そうですよー、琉歌は勤勉な子ですからねー。
それって寝てるんじゃなくて、至近距離でノート見てるんじゃないですかー?
琉歌って、集中すると対物レンズみたいに物体に近寄りすぎる変な癖ありますしー」
「――」
ベルとフランが庇うように水田に反論していく。
余計なことを言うな、と言おうとした琉歌の言葉は言葉にならなかった。
それを言うのは憚られたのだ。
「何でベル君達はそんなに安藤さんを庇うん?
安藤さんが弁明なり何なりすればえええだけやん。それなのに、安藤さんは
何も言わんってことは、肯定しとるんやないん?」
「……」
水田に付いて来ていた女子にそこまで言われて、ベルは何も言えなくなってしまった。
確かに、さっき琉歌が反論していればよかっただけの話。それなのに琉歌は何も言わなかった。
それは、竹内の言葉を肯定していたのと同じだ。
「ほら、安藤さん。黙ってないで何か言ったらええやん。
言いたいことあるんやないん?」
「別に」
「ほんまに?
今でも、ウザいと思ってるんやないん?」
「別に」
女子の言葉に短く答える、琉歌。問いを重ねてくる彼女たちに対しては特に何も思っていない。
ただただ無表情に琉歌は
「いつも、この子らぁとつるんでる時は凄く楽しそうなのに今の貴女、人形みたいやん。
なぁ?今のこの子、人形みたいやない?」
「……」
ベルとフランを指して琉歌に言う、女子――長谷川。
後半の言葉は、ベル、フラン、マーモンに向けられた言葉だ。
たしかに、とは言えなかった。しかし、否定の言葉も出てこない。
今の琉歌は無表情でまるで感情のない人形の様であることは否定できなかったのだ。
「ねぇ、何も言わないけど本当は美香に誤解されて傷付いてるんじゃないの?
美香は捲し立てるだけ捲し立てて行ったけど、話は聞くよ?」
前言撤回。特に何も思っていなかったが、少し長谷川がウザく感じてきた、琉歌。
あんたは一体、何が言いたいんだ?その言葉を飲み込む。
質問してきてるのは相手の方だ。ここは相手の質問に大人しく答えるが正解だろう。
「傷付くなんて今更ですね。もう、傷付くところすらありませんよ」
嘲笑するような琉歌の言葉。その言葉を聞いたベル、フラン、マーモンは、心に何かがチクリと刺さってくるのを感じた。
琉歌の家庭環境は、決していいものではない。その話は聞かされた。
傷付くところすらない。その言葉の意味は考えなくても解る。
琉歌が人間嫌いな根本的な理由だ。
「私の事を誰がどう思おうが別にどうでも良いです。
他人に何を言っても無駄でしょう。だから、私は喋らなかった。それだけです」
「では、電車の時間なので」それを言うと、琉歌はホームへ歩き出した。ベルとフランが琉歌を追う。
琉歌を追って歩き出したマーモンが徐に足を止めて、振り向いた。
「彼女の事はもう放っておいてもらえるかな?さっきの通り、琉歌は他人を拒絶している。
これ以上、君たちが関わって来ようとしたら今度は僕が黙ってないよ」
「ッ!」
水田達を睨んで、マーモンはそれだけを言うと歩き出した。
「何で……!」
マーモンの背中に声が投げられる。水田は感情をぶつける様に言った。
「何で、マーモン先輩は安藤さんばかり庇うんですか!?
安藤さんが貴方達に何をしたっていうんです!?
全校集会の時にあんなに拒絶されたのに!その後も避けられていたのに!どうして!?」
水田の言葉にマーモンは歩みを止め、肩越しに振り返ると言った。
「全校集会の後、琉歌が僕らを避けだしたのは、君が彼女にない事ない事言ったからだろう。
だいたい、好きな女を庇うのは当然のことじゃないか」
水田を軽く睨んだ後で、マーモンは改札を通って行った。
―― ――
ホームに入れば今しがた電車が行った後だったようで、総紗行きのホームには人が居なかった――ただ一人を除いて。
「琉歌」
「あ……マーモン。話、終わった?」
琉歌は人の気配に気付き、振り向いてマーモンの姿を認めるとヘッドフォンを外した。
マーモンは、既に琉歌が帰っているものだと思っていた為に琉歌が居てくれた事が嬉しく思った。
「うん、終わったよ。
ごめん、先に行ってて良かったのに」
「いい。私が好きで待ってただけだし」
そう言った琉歌は微笑んでいたが、その微笑みは無理やり作られたモノのように見える、マーモン。
「琉歌。さっきのは気にしちゃ駄目だよ。
琉歌が頑張っていることは、僕やベルたちだけじゃなくて、ボスやスクアーロ達もちゃんと知ってるから」
マーモンは琉歌の頭を撫でて言った。
「うん」と頷いた琉歌の声は力がなく、やはりさっきの事を気にしているようだった。
「さっき、何でベルとフランは私を庇ったんだろう」
「……」
「竹内に便乗して、長谷川先輩に同調して、私を責める事もできたのに。私を無視する事だって、できた筈。
それなのに――」
「琉歌」
琉歌の話を黙って聞いていたマーモンは、突然琉歌の唇に自分の指を当て、物理的に琉歌の言葉を遮った。マーモンの顔が近い距離にあり、琉歌の血の気の薄い頬に赤みが差す。
「君、ベルとフランと何かあったのかい?」
「え……?」
「僕が気付かないとでも思ったのかい? 何だか君たちの距離が微妙に近すぎる気がするんだよね。
もしかして、二人に告白された、とか?」
「――ッ!」
琉歌はただでさえも赤い顔を更に赤くした。どうやら、図星の様だ。
「図星だね」
「うん」
「じゃあ、何でベルたちが君を庇ったのか解るんじゃないのかい?」
「……」
琉歌は黙り込んでしまった。