遂に、奴が動き出す!!
そんな第3話です。
「それじゃあ琉歌。
僕はちょっと先生に呼ばれてるから、先に帰ってて」
「うん、解った」
次の日の放課後。琉歌はマーモンと職員室前で別れた。
マーモンは琉歌が頷くのを確認すると、職員室に入っていき、それを見送った琉歌は職員室前の下駄箱から自分の靴を取り出して、その場に落とす。
靴を履いて歩き出したタイミングで職員室から誰かが出てきた。
耳を劈く様な喧しい声は、水田のモノだ。
甲高い金切り声で笑っている。
「今日の安藤さん、髪型見た?
あれ、座敷わらしだったよねぇ~! ないわぁ~!」
琉歌は、聞こえてきた会話の内容に目眩のする様な怒りを覚えた。
『可愛い琉歌がもっと可愛くなる様な髪型にしてあげるよ』と、琉稀に切ってもらった髪。
それを貶されたとなっては黙っていられない。
しかし、琉歌は彼女に食ってかかる事をグッと堪えた。
怒りでヒートアップしている今、彼女に食ってかかるならきっと、まず出てくるのは罵詈雑言だ。
それも、理路整然と並べる正論ではなく、感情をぶちまけるだけの汚い雑言。
それをぶち撒けてしまえば、悪者になるのはこっちだ。
理性で感情を無理やり抑える。
怒りで震えてその場から動けないでいると、不意に誰かに腕を引っ張られた。
そのまま、琉歌は引きずられる様に学校から出て行く。
「ベル!」
琉歌の腕を引いていたのは、ベルだった。
†
駅の裏側に着くと、琉歌とベルは走って息の上がった呼吸を整える。
ベルがまず、琉歌に話しかける。
「大丈夫か?」
「なん・・・・・・で・・・・・・」
全速で走った琉歌は、途切れ途切れに問う。
息を大きく吸ってゆっくりと息を吐くと、琉歌はベルを睨みあげた。
その目は氷よりも冷たく、鋭利な刃よりも鋭い。
しかし、その
「学校では関わるなと何度言えば・・・・・・」
「その事なんだけどさ」
琉歌の言葉をベルが遮る。
ベルは続けた。
「もう、やめにしない?
俺、そう言う器用な事は出来ないんだよね。
学校では他人のフリして家じゃ仲良しって」
「じゃあ、家でも学校でも他人のフリしてれば良いでしょう」
「そう言う事じゃなくて」
「私は構いません。
別に誰がどう関わってこようが、私には
「だからさぁ!」
突き放すような琉歌の言葉に、ベルは歯痒さと苛立ちを感じる。
何を言っても琉歌には届かない。
その苛立ちから、ベルは衝動的に琉歌の背後の壁を殴り付ける様に手をついた。
琉歌は依然と無表情でベルを見上げている。
「そうやって壁作るの、やめてくんない?
最初の頃、俺言わなかったっけ? お前と関わらない選択肢はねぇって。
俺は琉歌と・・・・・・一緒に居たいんだって・・・・・・」
最後の方は声が小さく、よくは聞こえなかったが、何となくベルの言いたい事が琉歌には解った。
何で、マーモンにしろ彼にしろ、こうして自分と進んで関わろうとしてくるのだろうか。
普通の人間ならば、自分が
それが人間の心理なのでは?
ならば何故、彼らは省かれると知りながら自分と関わってこようとする?
琉歌はベルやマーモンの行動の意味が理解できない。
「――」
琉歌は、何かを言わなきゃと、言葉を必死に探す。
しかし、この場面で琉歌が言えるような適切な言葉が見つからない。
ただ、口を開けたり閉じたり、何か、何でも良いので何かを伝えようとするモーションをする事が精一杯だ。
琉歌が何かを言う前に、琉歌の体は程よく硬い腕に抱きすくめられた。
現状を理解できず、琉歌は眼を見開く。
そんな琉歌の耳元に、ベルの低い声が聞こえた。
「どう言っていいかとか、こんな事初めてだからよく解んないんだけどさ・・・・・・。
俺、琉歌が好きなんだよ。 だから、壁とか作られるとすげぇ・・・・・・辛くなる。
だからもう、壁作るのやめようぜ?
俺は別に、琉歌と居られるなら誰とも仲良くならなくて良いよ」
「ベ、ル・・・・・・」
ベルの突然の告白に、琉歌は頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。
ただ、ベルの言った言葉が頭の中で乱反射して、ベルの名前を呟くのが精一杯だ。
身体中が熱く感じるのはきっと、この鬱陶しい夏の暑さの所為だ。
ベルは依然と琉歌の肩に顔を埋めている為、彼の顔を見ることができない。
しかし、伝わってくる体温が熱いので、恐らく彼の顔も真っ赤なのだろう。 ドクドクと速い彼の鼓動が伝わってくる。
琉歌は困惑した。
こんな事は初めてで、正直反応に困る。
彼の事は嫌いではない。
しかし、彼の言う「好き」と言うのとはちょっと違う気がする。
そもそも、彼の言ったことは本当に「好き」なのだろうか?
何かを聞き間違えたんじゃないのか。 それか、社交辞令というものか。
「わた、しは・・・・・・」
それ以上の言葉が見つからない。
こんなの、嘘だ。 有り得ない。
そうだ、きっと都合の良い夢でも見ているんだ。
じゃなきゃ放課後に金髪碧眼のイケメンが自分に告白してくるワケないじゃないか。
それか、ドッキリだ。
きっと、この後でフランとか竹内美香とかが陰から出てきて「実はドッキリでしたー」「あんたにベルが告白するわけないでしょー」的な虐めでも展開されるのだろうか。
そんなことをついつい考えてしまう。
生まれてこの方、他人から好意を寄せられたことがない。
寧ろ、蔑まれてきた。
挙げ句の果てに義理の父親からは「お前を好くような人間は居ない」とまで言われる始末。
その為か、こうして告白されてもその想いを信じることができないのだ。
不意にベルの体が離れて、ベルは琉歌の顔を覗き込んできた。
その蒼穹のような碧眼が自分を射抜いてくる。 ただ、真っ直ぐに自分だけを映している青碧の瞳。
それはとても綺麗な宝石の様で、研ぎ澄まされた刃の様でもあった。
その瞳は、タネも仕掛けもないのだと、偽りの心などないのだと真剣に訴えかけていた。
「ごめん、ベル・・・・・・」
漸く出てきた言葉は、それだった。
琉歌は、考えながら喋る。
「私は今まで・・・・・・他人に悪意しか向けられたことがない。
だから・・・・・・ベルのその言葉の意味を裏返しでしか受け取れなくて・・・・・・。
今までだって、マーモンやスクに「ベル達を信じろ」とか言われてたけど・・・・・・。
でも、私は第三者の言う言葉ほど信じられなくて・・・・・・」
ゆっくりと、頭の中で文を作成しながら琉歌は話す。
何を言いたいのか、何を伝えたいのかなんてもう、解らない。
ただ、壊れた様に出てくる言葉をそのまま紡いでいく。
「本人にどう言われても、「それは社交辞令なんじゃないのか」としか思えなくて・・・・・・。
ただ、他人を信用する事が怖くて、何を信じたら良いのか解らなくて、気が付いたら何も信じられなくなってた」
「今でも、か?」
ベルの問いに数拍置いて、琉歌は小さく頷く。
ベルはなんとも言えない気持ちになった。
琉歌が気難しいのは何となく解っていた。 だけど、これはそんな問題じゃない。
目に見えない鎖が琉歌を縛り付けて、苦しめている。 そんな感じだ。
暫くの沈黙の後、ベルは琉歌の頭に手をポン、と乗せてクシャっと撫でた。
「直ぐに信用しようとしなくて良いよ。 でも、さっき言ったことはホント。
だけど、琉歌の気が済むまで疑って悩んで、暗中模索すれば良いんじゃね?
琉歌が信じてくれるまで、さっきの告白の返事は要らないからさ」
言ったベルの目はチカチカと頼りなく夜道を照らす街灯の光の加減の所為か、とても淡く儚げに見えた。
琉歌はそれに、頷くことしかできない。
その後、ベルと琉歌は二人で一緒に帰路に着いたのだった。
琉歌から見た琉稀
いや、あの、とりま〜眼科逝ったら?
あー、それとも、脳外科?