珍しく、連日更し((殴
はい、これが普通なんですよね、作者の更新速度が柔らかい銀行のネット回線並みに、いや、それ以上に遅いんですよね、さーません←
あと20話程度で終わりたいな、と思っているのですが、終われるのだろうか;;
先が不安過ぎる;;
第1話
琉歌は、河川敷で月の光が乱反射する
あれから、何時間が経ったのだろう。
最初に辿り着いた時は夕方だった気がする。
それから、長い時間をここにずっと居たのだろう。
月は昇りきって、水面は月明かりと隣町の橋の上を通る車のテールライトに照らされて、黄金と淡い紅に染まっていた。
水面は暗く沈んで、何処までも抜ける所のない闇を連想させる。
その深淵を琉歌は飽きるまで眺めていた。
どうして、自分はここに居るんだっけ―――――?
つい、2時間かそこら前の記憶を琉歌は、手繰り寄せた。
事の発端は、つい2時間前の事だった。
マーモン、ベル、フランはそれぞれ、実習と教師の呼び出しにより、琉歌よりも一足早くに家を出て、学校に行っていた。
琉歌はいつも通りの時間に駅に向かい、ホームで電車が来るのを待っていた。
「安藤さん!」
電車がホームに入ってきて、琉歌が電車に乗り込むのと時を同じくして、水田が声を鋳掛けてきた。
琉歌はいつも通りにスルーしようとボックス席に乗り込む。水田も、琉歌の向かいの席に座った。
「ちょっと、話があるんだけど、良いかな」
改まった様な水田の口ぶりに、なんだ、と思いながら、琉歌はヘッドフォンを外した。
それを見届けた水田はほっと、胸を撫でおろして、琉歌が何かを言う前に口を開いた。
「いきなりだけどさ、安藤さん、美香から嫌われてる事知ってる?」
唐突に水田は、琉歌にそんな事を訊いてきた。
勿論、幾ら人間の感情に乏しい琉歌だろうが、自分に抱かれている他人の感情くらいは読み取れている。
自分がクラスメイトに良く思われていない事も当然、知っていた。
琉歌は「薄々、感付いてたけど?」と無機質な声で対応する。
すると、また、水田は質問を投げかけてきた。
「じゃあ、ベル君とフラン君とマーモン先輩の事、名前でしかも、呼び捨ててるでしょ?
あれ、やめて上げて。
特に、マーモン先輩、年上なのに呼び捨てるって、どうと思うんだけど。
三人とも、迷惑がってたよ?」
水田の言葉に、琉歌は思考が止まるのを感じた。
はぁ?と、目が点になる。
そんな事を他人の水田から聞いて、信じられる筈が無い。
琉歌は動揺を隠す様に、抑えた声で言った。
「三人は、何も言わなかったけど?」
「それは、三人とも優しいから、安藤さんに気を遣って言わないだけだよ。
本当は、迷惑してるって。最近、メッセージのやり取りしてて、そんな事呟いてたもん。
それと、安藤さんは男子苦手なんでしょ?
だから、三人とも気を利かせて、安藤さんには極力近寄らない様にしてたのに、安藤さんから近付いてどうするの?」
琉歌の言葉に納得のいかない回答をして、更に矢継ぎ早に責める様に言う、水田。
水田の話は、でっち上げであるというのは、三人の性格を考えれば直ぐに解る事だった。
だが、この時の琉歌の心境は、穏やかではなかった。
少しずつ信用していっていた居場所だったモノが、崩されている様な、そんな感覚が琉歌に襲いかかる。
信じている、とかそんな問題では最早、なくなってきた。
本当であろうが、嘘であろうが、琉歌には真相を訊かなければならないと言う、義務感の様なモノが込み上げてきた。
更に、畳み掛ける様に水田は言った。
「あの三人には、関わらないで」
水田の言葉が、琉歌の心に突き刺さった。
琉歌はその傷を悟られない様に、無表情を装って、淡々と反論する。
「要するに何?
“イケメンは私のモノにしたいけど、アンタが居ると私が却って引き立て役になっちゃうから、アンタは私の視界とあの三人の視界に入らない様にしてね。
そうすれば、あの三人は、私のモノ”って、脳内快適系理論?
めでたいね。まず、私に言うよりもその性格を修正して、ダイエットでも頑張ったら?
外見を着飾る前にね」
嫌みたっぷりの毒舌を吐くと、琉歌は立ち上がって、電車を降りた。
水田が引き留める様な声も聞こえたが、そんなモノは知った事じゃない。
琉歌が降り立ったのは、学校の最寄り駅の手前の閑散とした無人の駅だった。
駅には、改札がポツンとあり、それ以外は何も無い。
一度、改札を通って、琉歌はまた、改札を潜った。
上りの電車が来るまで、約1時間。
それから、水田に言われた言葉が呪いの様に頭を支配して、それからは何を思って蒼星川へ行ったのか、見当が付かなかった。
ただ、一人になりたかっただけなのだと、琉歌はぼんやりと推測する。
一人になりたい時は、蒼星川に足を良く運んでいた。
親と住んでいた、中学の時の事だ。
家には片方の親、どちらかが必ず居た為、一人になりたい時は自分が人気のない所に行くしかなかった。
その一つが蒼星川の河川敷である。
特に、川に浮かんでいる橋には誰も近付かない為、殆ど一人だ。
琉歌は膝に腕を組んで、その腕に顔を埋める。
今頃は、ベルもフランもマーモンも、自分を心配しているだろうか。それとも、何食わぬ顔で授業に出ているだろうか。
どちらを考えるにしても、琉歌は気分が沈んでいく。
水田にあんな事を言ったが、あんなの、ただの強がりに過ぎない。
言い返した後の動悸が、走った所為もあるのか、未だに収まらない。
まるで、苦痛にのたうち回るバケモノの様に心臓が暴れている。苦しい。
額から、背中から、嫌な汗が滲む。これだから、話したくもない人間と話すのは嫌なんだ。
自分の体質と、水田の無神経さに腹が立つ。
治まれ、治まれ、治まれ、治まれ・・・・・・。
念じる様に、左胸の近くの服を握る。
パニック発作と言う診断を受けて、薬も処方してもらってはいるモノの、生憎、薬も飲料水も家に置いてきてしまっていた。
そもそも、マーモン達が来てからは、不用意に持ち歩かない様にしていた。
それは、琉歌なりのマーモン達への配慮からだ。
サプリや鉄剤や頭痛薬などは別として、精神安定剤の持ち歩きや使用は、あまり良い印象は持たないだろう。却って気を遣わせてしまってはいけないと思っての事だった。
まぁ、それが今は裏目に出ているのだが。
今の所、琉歌の障害の事を知っているのはマーモンのみであった。
知っている、と言っても、マーモンが知っているのは、自閉症スペクトラムのみ。パニック発作や、対人恐怖症、不安障害などの障害がある事は、マーモンは勿論、誰も知らない。
尤も、対人恐怖の事は感付かれているかも知れないが。