Croce World―君に呼ばれて―   作:紅 奈々

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珍しく、連日更し((殴
はい、これが普通なんですよね、作者の更新速度が柔らかい銀行のネット回線並みに、いや、それ以上に遅いんですよね、さーません←

あと20話程度で終わりたいな、と思っているのですが、終われるのだろうか;;
先が不安過ぎる;;


第5章 「孤独」
第1話


琉歌は、河川敷で月の光が乱反射する水面(みなも)をずっと眺めていた。

あれから、何時間が経ったのだろう。

最初に辿り着いた時は夕方だった気がする。

それから、長い時間をここにずっと居たのだろう。

月は昇りきって、水面は月明かりと隣町の橋の上を通る車のテールライトに照らされて、黄金と淡い紅に染まっていた。

水面は暗く沈んで、何処までも抜ける所のない闇を連想させる。

その深淵を琉歌は飽きるまで眺めていた。

どうして、自分はここに居るんだっけ―――――?

つい、2時間かそこら前の記憶を琉歌は、手繰り寄せた。

 

 

 

 

事の発端は、つい2時間前の事だった。

 

マーモン、ベル、フランはそれぞれ、実習と教師の呼び出しにより、琉歌よりも一足早くに家を出て、学校に行っていた。

琉歌はいつも通りの時間に駅に向かい、ホームで電車が来るのを待っていた。

 

 

「安藤さん!」

 

 

電車がホームに入ってきて、琉歌が電車に乗り込むのと時を同じくして、水田が声を鋳掛けてきた。

琉歌はいつも通りにスルーしようとボックス席に乗り込む。水田も、琉歌の向かいの席に座った。

 

 

「ちょっと、話があるんだけど、良いかな」

 

 

改まった様な水田の口ぶりに、なんだ、と思いながら、琉歌はヘッドフォンを外した。

それを見届けた水田はほっと、胸を撫でおろして、琉歌が何かを言う前に口を開いた。

 

 

「いきなりだけどさ、安藤さん、美香から嫌われてる事知ってる?」

 

 

唐突に水田は、琉歌にそんな事を訊いてきた。

勿論、幾ら人間の感情に乏しい琉歌だろうが、自分に抱かれている他人の感情くらいは読み取れている。

自分がクラスメイトに良く思われていない事も当然、知っていた。

琉歌は「薄々、感付いてたけど?」と無機質な声で対応する。

すると、また、水田は質問を投げかけてきた。

 

 

「じゃあ、ベル君とフラン君とマーモン先輩の事、名前でしかも、呼び捨ててるでしょ?

あれ、やめて上げて。

特に、マーモン先輩、年上なのに呼び捨てるって、どうと思うんだけど。

三人とも、迷惑がってたよ?」

 

 

水田の言葉に、琉歌は思考が止まるのを感じた。

はぁ?と、目が点になる。

そんな事を他人の水田から聞いて、信じられる筈が無い。

琉歌は動揺を隠す様に、抑えた声で言った。

 

 

「三人は、何も言わなかったけど?」

 

 

「それは、三人とも優しいから、安藤さんに気を遣って言わないだけだよ。

本当は、迷惑してるって。最近、メッセージのやり取りしてて、そんな事呟いてたもん。

それと、安藤さんは男子苦手なんでしょ?

だから、三人とも気を利かせて、安藤さんには極力近寄らない様にしてたのに、安藤さんから近付いてどうするの?」

 

 

琉歌の言葉に納得のいかない回答をして、更に矢継ぎ早に責める様に言う、水田。

水田の話は、でっち上げであるというのは、三人の性格を考えれば直ぐに解る事だった。

だが、この時の琉歌の心境は、穏やかではなかった。

少しずつ信用していっていた居場所だったモノが、崩されている様な、そんな感覚が琉歌に襲いかかる。

信じている、とかそんな問題では最早、なくなってきた。

本当であろうが、嘘であろうが、琉歌には真相を訊かなければならないと言う、義務感の様なモノが込み上げてきた。

更に、畳み掛ける様に水田は言った。

 

 

「あの三人には、関わらないで」

 

 

水田の言葉が、琉歌の心に突き刺さった。

琉歌はその傷を悟られない様に、無表情を装って、淡々と反論する。

 

 

「要するに何?

“イケメンは私のモノにしたいけど、アンタが居ると私が却って引き立て役になっちゃうから、アンタは私の視界とあの三人の視界に入らない様にしてね。

そうすれば、あの三人は、私のモノ”って、脳内快適系理論?

めでたいね。まず、私に言うよりもその性格を修正して、ダイエットでも頑張ったら?

外見を着飾る前にね」

 

 

嫌みたっぷりの毒舌を吐くと、琉歌は立ち上がって、電車を降りた。

水田が引き留める様な声も聞こえたが、そんなモノは知った事じゃない。

琉歌が降り立ったのは、学校の最寄り駅の手前の閑散とした無人の駅だった。

駅には、改札がポツンとあり、それ以外は何も無い。

一度、改札を通って、琉歌はまた、改札を潜った。

上りの電車が来るまで、約1時間。

 

 

 

 

それから、水田に言われた言葉が呪いの様に頭を支配して、それからは何を思って蒼星川へ行ったのか、見当が付かなかった。

ただ、一人になりたかっただけなのだと、琉歌はぼんやりと推測する。

一人になりたい時は、蒼星川に足を良く運んでいた。

親と住んでいた、中学の時の事だ。

家には片方の親、どちらかが必ず居た為、一人になりたい時は自分が人気のない所に行くしかなかった。

その一つが蒼星川の河川敷である。

特に、川に浮かんでいる橋には誰も近付かない為、殆ど一人だ。

 

琉歌は膝に腕を組んで、その腕に顔を埋める。

今頃は、ベルもフランもマーモンも、自分を心配しているだろうか。それとも、何食わぬ顔で授業に出ているだろうか。

どちらを考えるにしても、琉歌は気分が沈んでいく。

水田にあんな事を言ったが、あんなの、ただの強がりに過ぎない。

言い返した後の動悸が、走った所為もあるのか、未だに収まらない。

まるで、苦痛にのたうち回るバケモノの様に心臓が暴れている。苦しい。

額から、背中から、嫌な汗が滲む。これだから、話したくもない人間と話すのは嫌なんだ。

自分の体質と、水田の無神経さに腹が立つ。

治まれ、治まれ、治まれ、治まれ・・・・・・。

念じる様に、左胸の近くの服を握る。

パニック発作と言う診断を受けて、薬も処方してもらってはいるモノの、生憎、薬も飲料水も家に置いてきてしまっていた。

そもそも、マーモン達が来てからは、不用意に持ち歩かない様にしていた。

それは、琉歌なりのマーモン達への配慮からだ。

サプリや鉄剤や頭痛薬などは別として、精神安定剤の持ち歩きや使用は、あまり良い印象は持たないだろう。却って気を遣わせてしまってはいけないと思っての事だった。

まぁ、それが今は裏目に出ているのだが。

今の所、琉歌の障害の事を知っているのはマーモンのみであった。

知っている、と言っても、マーモンが知っているのは、自閉症スペクトラムのみ。パニック発作や、対人恐怖症、不安障害などの障害がある事は、マーモンは勿論、誰も知らない。

尤も、対人恐怖の事は感付かれているかも知れないが。


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