Croce World―君に呼ばれて―   作:紅 奈々

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今日は珍しく2話連続更新できた・・・・・・!!
これは、後に更新停滞する予兆ですね、解りますww←


第6話

「琉歌!」

 

 

駅の改札を通った後でやっと琉歌に追い付いたマーモンは、琉歌の肩を掴んで引き留める。

琉歌はいきなり肩を掴まれて引き留められた事に驚いて、「離して!」と思わず叫んでいた。

どうやら、走る事に夢中になって周りが見えていない様だ。

マーモンはそんな琉歌に「落ち着いて、僕だよ」と冷静な声を掛けて、落ち着く様に促す。

その声に冷静さを取り戻した様で、琉歌はゆっくり振り向いた。

目の前には、未だに空気に馴染めずに息切れを起こし、肩を上下させて荒い息を繰り返しているマーモンの姿があった。

その顔は走った事によって血液の循環が良くなって、白い頬が紅く染まっていた。

 

 

琉歌とマーモンはそのまま、無言で今来たばかりの電車に乗り込んだ。

ベルとフランには、琉歌は無事に捕まえて、調子が悪いみたいだから帰る事をメールで伝え、それを教師に言う様に言った。

ついでにマーモンも病欠で、と言う事で、マーモンは後に来た苦情メールを無視して、琉歌に向き直った。

ボックス席で向かい合う様に座っていたマーモンは、不意に琉歌の隣に移動した。

琉歌は突然のマーモンの行動にも目を向けず、黙って俯いているだけだった。

夕方の帰宅ラッシュの前の車内は人がそれ程居なくて、電車のガタン、ゴトン、という音以外に何の騒音も聞こえない。

マーモンは不意に口を開いた。

 

 

「もう大丈夫だよ、琉歌」

 

 

不意に掛かった優しい声に、琉歌はやっと顔を上げた。

固く握り締めていた琉歌の手の上にマーモンがそっと手を添えると、琉歌はその力を緩めた。

何かを訊こうとするワケでもなく、咎めるワケでもなく、ただただ、傍に居てくれるマーモンに琉歌は安心した様に目を閉じた。

今はマーモンのその配慮が有り難い。

マーモンは幼子をあやす様に琉歌の頭を撫でた。

触れている手は温かく、何処までも琉歌を安心させた。

 

 

「私は、自分が笑っている顔が大嫌い」

 

 

不意にポツリと、琉歌は漏らした。

マーモンは言葉を挟まずに、琉歌の言葉を待つ。

琉歌は少しずつ話していった。

 

 

「感情の出し方も、抑え方も知らない。

笑うな、って言われた。

お前に感情なんかない、とも言われた。

言われた言葉が突き刺さって、その通りの人間になっていく。

感情のない人間になっていく」

 

 

琉歌の言葉にマーモンは衝撃を受けた。

無表情に語る彼女は、何を思ってこんな話をし出したのだろうか。

マーモンには、皆目見当も付かなかった。

ただ解ったのは、琉歌の話している事は、家族の事だろう、と言う事だ。

 

 

「両親は、私が小さい頃に離婚して、暫く母子家庭だった。

母親は、学校から帰ってくると居なくて、朝は寝顔だけ。

母親の存在を感知したのは、10歳くらいのことだった。

再婚相手と引っ越しを機に同居、そして、総紗に引っ越してきた時に再婚、それから毎日が地獄だった。

カウンセリングの数なんか、何回したのか解らない。

その果てに、私が自閉スペクトラム症を持っていた事が解って、余計に私に対する風当たりがきつくなった」

 

 

自閉スペクトラム症―――――またの名を広汎性発達障害というその障害は、脳に何らかの発達障害があり、社会適応能力に乏しく、協調性に欠けており、偏った分野では記憶力を発揮する事もある障害の事である。

簡単に言えば、軽い自閉症であるが、自閉症よりも認知度が低く、また、理解度も低い。

その障害がある事を言われた時は、琉歌は13歳。幼い頃から発覚していたのなら、学習訓練の様なモノである程度は矯正できていたかも知れないが、今となっては殆ど無意味である為、ずっと放置されていたのだ。

当然、そんな事をいきなり言われても、本人は勿論、誰も理解できる筈もなく、逆に現実逃避する様に琉歌への風当たりが強くなったのだ。

琉歌は自分の事を理解しようと、自分で調べていた。

知れば知る程、現実逃避したくなる現実に琉歌は全てから心を閉ざす様になった。

当然、そんな琉歌に両親は更に強く当たる様になる。

仕舞いには、虐待まがいの事までされていたと、琉歌は語った。

マーモンは淡々と語る琉歌の横顔を見た。

その目からは、涙の膜がうっすらと張っている様に見えて、マーモンは掛ける言葉を失う。

一体、僕から彼女に何を言えるだろうか。何も言えない。

琉歌からは、諦めた様な溜息が零れた。

 

 

「もう、良いんだ。

誰からも理解してもらおうとは思わない。

だから、水田の言葉もぜーーーーーんっぶ、聞こえないフリしてたのにな。

まさか、あのハゲには水田が私を変えたように見えていたとか、ほんっと、()ウケる。

彼奴、実は目に神経が通ってないんじゃないの?ふはっ」

 

 

嘲笑する様な琉歌の言葉に、マーモンは言葉を探す。

ちなみに、琉歌の言った()ウケる、とは、琉歌が始めに何処かのサイトで「鬼ウケる」というギャル語だか何だかを見て、「()ウケる」と誤解釈して、それ以来、全く笑えない状況だが、笑えてしまう(多くは嘲笑)状態の時に口走る様になった言葉だ。

用法が違う事は解っているが、誤解釈が定着してしまった為、「まぁ、造語って事でいいや」と気にせずに琉歌は使っている。

乾いた笑いを零すと、琉歌は立ち上がった。

話している内にいつの間にか、総紗に着いていたのだ。

琉歌とマーモンは電車を降りて階段を上がり、改札口を出た。

 

 

「なーんかムシャクシャするから、カラオケで発散するか。

マーモンも付き合ってよ」

 

 

伸びをしながら、琉歌はマーモンに言った。

マーモンは「仕方ないね、今日だけだよ」と頷いた。


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