これは、後に更新停滞する予兆ですね、解りますww←
「琉歌!」
駅の改札を通った後でやっと琉歌に追い付いたマーモンは、琉歌の肩を掴んで引き留める。
琉歌はいきなり肩を掴まれて引き留められた事に驚いて、「離して!」と思わず叫んでいた。
どうやら、走る事に夢中になって周りが見えていない様だ。
マーモンはそんな琉歌に「落ち着いて、僕だよ」と冷静な声を掛けて、落ち着く様に促す。
その声に冷静さを取り戻した様で、琉歌はゆっくり振り向いた。
目の前には、未だに空気に馴染めずに息切れを起こし、肩を上下させて荒い息を繰り返しているマーモンの姿があった。
その顔は走った事によって血液の循環が良くなって、白い頬が紅く染まっていた。
琉歌とマーモンはそのまま、無言で今来たばかりの電車に乗り込んだ。
ベルとフランには、琉歌は無事に捕まえて、調子が悪いみたいだから帰る事をメールで伝え、それを教師に言う様に言った。
ついでにマーモンも病欠で、と言う事で、マーモンは後に来た苦情メールを無視して、琉歌に向き直った。
ボックス席で向かい合う様に座っていたマーモンは、不意に琉歌の隣に移動した。
琉歌は突然のマーモンの行動にも目を向けず、黙って俯いているだけだった。
夕方の帰宅ラッシュの前の車内は人がそれ程居なくて、電車のガタン、ゴトン、という音以外に何の騒音も聞こえない。
マーモンは不意に口を開いた。
「もう大丈夫だよ、琉歌」
不意に掛かった優しい声に、琉歌はやっと顔を上げた。
固く握り締めていた琉歌の手の上にマーモンがそっと手を添えると、琉歌はその力を緩めた。
何かを訊こうとするワケでもなく、咎めるワケでもなく、ただただ、傍に居てくれるマーモンに琉歌は安心した様に目を閉じた。
今はマーモンのその配慮が有り難い。
マーモンは幼子をあやす様に琉歌の頭を撫でた。
触れている手は温かく、何処までも琉歌を安心させた。
「私は、自分が笑っている顔が大嫌い」
不意にポツリと、琉歌は漏らした。
マーモンは言葉を挟まずに、琉歌の言葉を待つ。
琉歌は少しずつ話していった。
「感情の出し方も、抑え方も知らない。
笑うな、って言われた。
お前に感情なんかない、とも言われた。
言われた言葉が突き刺さって、その通りの人間になっていく。
感情のない人間になっていく」
琉歌の言葉にマーモンは衝撃を受けた。
無表情に語る彼女は、何を思ってこんな話をし出したのだろうか。
マーモンには、皆目見当も付かなかった。
ただ解ったのは、琉歌の話している事は、家族の事だろう、と言う事だ。
「両親は、私が小さい頃に離婚して、暫く母子家庭だった。
母親は、学校から帰ってくると居なくて、朝は寝顔だけ。
母親の存在を感知したのは、10歳くらいのことだった。
再婚相手と引っ越しを機に同居、そして、総紗に引っ越してきた時に再婚、それから毎日が地獄だった。
カウンセリングの数なんか、何回したのか解らない。
その果てに、私が自閉スペクトラム症を持っていた事が解って、余計に私に対する風当たりがきつくなった」
自閉スペクトラム症―――――またの名を広汎性発達障害というその障害は、脳に何らかの発達障害があり、社会適応能力に乏しく、協調性に欠けており、偏った分野では記憶力を発揮する事もある障害の事である。
簡単に言えば、軽い自閉症であるが、自閉症よりも認知度が低く、また、理解度も低い。
その障害がある事を言われた時は、琉歌は13歳。幼い頃から発覚していたのなら、学習訓練の様なモノである程度は矯正できていたかも知れないが、今となっては殆ど無意味である為、ずっと放置されていたのだ。
当然、そんな事をいきなり言われても、本人は勿論、誰も理解できる筈もなく、逆に現実逃避する様に琉歌への風当たりが強くなったのだ。
琉歌は自分の事を理解しようと、自分で調べていた。
知れば知る程、現実逃避したくなる現実に琉歌は全てから心を閉ざす様になった。
当然、そんな琉歌に両親は更に強く当たる様になる。
仕舞いには、虐待まがいの事までされていたと、琉歌は語った。
マーモンは淡々と語る琉歌の横顔を見た。
その目からは、涙の膜がうっすらと張っている様に見えて、マーモンは掛ける言葉を失う。
一体、僕から彼女に何を言えるだろうか。何も言えない。
琉歌からは、諦めた様な溜息が零れた。
「もう、良いんだ。
誰からも理解してもらおうとは思わない。
だから、水田の言葉もぜーーーーーんっぶ、聞こえないフリしてたのにな。
まさか、あのハゲには水田が私を変えたように見えていたとか、ほんっと、
彼奴、実は目に神経が通ってないんじゃないの?ふはっ」
嘲笑する様な琉歌の言葉に、マーモンは言葉を探す。
ちなみに、琉歌の言った
用法が違う事は解っているが、誤解釈が定着してしまった為、「まぁ、造語って事でいいや」と気にせずに琉歌は使っている。
乾いた笑いを零すと、琉歌は立ち上がった。
話している内にいつの間にか、総紗に着いていたのだ。
琉歌とマーモンは電車を降りて階段を上がり、改札口を出た。
「なーんかムシャクシャするから、カラオケで発散するか。
マーモンも付き合ってよ」
伸びをしながら、琉歌はマーモンに言った。
マーモンは「仕方ないね、今日だけだよ」と頷いた。