俺は五十五層にある血盟騎士団の本部に帰って来ると、直ぐに団長室に向かった。俺は団長室の扉を勢いよく開ける。
「無事に帰って来たようだね」
「茅場、聞きたいことがある」
「ふっ、そうか。人払いはしてある、答えられるならことなら聞こう」
「タナトスシステムについてだ」
茅場はこの名前を聞いた瞬間、眉をひそめるも溜め息を吐きながら答えた。
「やはり、彼女から聞いたのか」
「やっぱり、お前は一姉とあのシステムのことを……」
「ああ。私はあのシステムの開発にも関わったことがあるからね」
「何で黙っていたんだ?」
茅場は後ろに向き、窓から外を眺めながら、話し始めた。
「なに、単純に国家機密だから黙っていただけさ。さすがの私も国に勝てるほどの権力はなくてね」
「このゲームで俺に武器とかをくれたのも」
「ああ、あの時ことについてもそうだし、今回のことの後ろめたさもあったからね」
「……」
「ダイキくん、今現実世界で革命的な発明といったら二つある。なんだと思う?」
「この仮想世界、そして……そのタナトスシステムか」
「そうだ。正確には仮想世界ではなく、シードと呼ばれるものだけどね。タナトスシステムは次世代型国家防衛装置。簡単に言うと情報覗き見し放題システムだ」
「なんでそんな物が……」
「君も十分知っていると思うが、この世界は平和そうで平和ではない。まぁ、ようは怖いのだよ。この国、日本も」
「なるほど」
あの時一姉に言ったが彼女の救出は苦労しそうだ。
「どうやら、彼女を助けようと思ってるようだが、彼女を助けるということは国家を敵に回すということだぞ」
「関係ないさ」
「ふっ、君らしいな」
茅場は静かに笑うと、机の上に置いてあったコーヒーに手をつけた。
「まぁいい、聞きたいことは以上かね?」
「タナトスのありかは?」
「すまない、それは私でも分からない」
「そうか……」
さすがにそれは茅場でも分からないか。国家秘密だし。ClRSなら何か知っているかもしれない。
「教えてくれてありがとさん」
「お礼を言われることはしてないよ。今まで黙っていたしね」
「それでもだよ」
すると、茅場は思い出したように声を出す。
「そうだ、副団長がお呼びだったよ」
「えっ、マジか」
俺はアスナの居場所を聞き、そこへ向かった。
「まったく、彼はいつまで経ってもかわらんな」
私は静かになった部屋で、紅茶をのむ。味は現実世界よりも落ちるが、心は落ち着かせることが出来る。
「私は今はこんな身だが、彼は違う。国に抹消などされなければいいんだが」
あのタナトスとダイキくんの会話は強度なプロテクトで数分保護することに成功したので、国の中枢部にばれることはないだろうが……一応後でそのことも話しておくか。
「しかし、 彼女も記憶を戻すのに私が資料を送ったとはいえあそこまで速いとは。やはり、この世界には科学の力とはまた違う大きな可能性があるということか。興味深い」
私は過去自分の行動を思い出した。さらに、同時に心配ごとも思い出す。
「心配ごとといえば、あの後輩もだな。間違いなくテロリストとも繋がっているし」
……困ったものだ。
私は心の中で呟いた。
「しかし、私の出来ることは決まっているがな」
すると、私の元に一通の連絡が掛かってきた。
「ダイキくん、どこに行ってたの?」
「ちょっと、任務に」
「まったく、休暇明けからはりきってるわね」
どうやら、心配を掛けてしまったようだ。
俺は適当に謝りつつ、彼女に要件を聞いた。
「それが、七十四層についてなんだけど」
「どうしたんだ?」
話を聞くにキリトにリズベット、クラインが暴走した軍の奴等を追っていったら、そのままボス部屋に入ってしまったらしい……って。
「大丈夫だったのか!?」
「軍のメンバーは数人を除き死亡、三人は無事みたい」
「良かった。でもよく無事だったな」
「それがキリトくんが隠してた二刀流っていうユニークスキルを使ってボスを倒したみたいなの」
「なるほど」
俺は分かったように頷いた。
時は近いか……。
俺が一人心の中で呟くと、俺とアスナに同時に連絡がやって来る。恐らく血盟騎士団からだろう。そして俺とアスナはその内容を見て、驚いた。
「ダイキくん」
「ああ。直ぐに本部に戻ろう」
そうそのメッセージには『ラフコフのアジトを発見した』と記されていた。
彼らとの決戦は近い。