『……』
ダイキくんが家に入った後、その場には暗い雰囲気が広がった。
「ダイキくんは、どんな人生を歩んできたのかな?」
「わからない……」
「私は知りたい」
「だが、それは本人が教えてくれないと、分からないじゃないか!」
キリトくんは強く言葉を出した。
「俺はアイツが自分の言葉で、俺たちに伝えてくれるって信じてる。それにユイちゃんも心配してるし、今日はこのくらいにしようぜ」
クラインさん……。
「そうだな。皆部屋に入ろう」
この後は、皆くらい感じになったが、クラインさんが怒涛の盛り上がりを見せて、今夜のパーティーは終わりを迎えた。
「突然呼び出して、すまなかったね」
「別に……俺を呼んだということは、休暇は終わりということか?」
「そういうことだ。しかし、昨日は随分と、盛り上がったそうじないか」
「まさか、呼んでほしかったのか?」
「まさか」
パーティーの次の日、俺はユイとともにヒースクリフに呼び出され、血盟騎士団の本部に呼び出されていた。人払いしてあることから、どうやら裏の任務らしい。とりあえず、ユイは俺の横で静かにしている。
「で、俺だけではなくユイまで呼び出して、何の任務だ?」
「なに、そう慌てなくても、構わんよ。少し上層を見てきてほしいんだ」
「上層?」
「そうだ。しかもただの上層ではない、百層だ」
「なるほど……でも、何でまた」
「実は、一ヶ月前にこのゲームにあるシステムが介入してきてね。どうやら、その影響でバグらしきものが発生してしまったようなんだよ」
「そのシステムって、何なんだ?」
「それは私の口からは、言えない。ただ一言表すなら、『災害』ともいえるな」
災害……。
「まぁ君の事だ、いずれ知ることになるだろう」
「めっちゃ気になるが、今は気にしないことにしておくよ」
「それが、賢明だ」
とりあえず俺は、謎のシステムのことは頭の隅に追いやり、任務について聞くことにした。
「で、任務っていうのは?」
「それは百層に異常がないか、調べて来てほしいんだ。もし、バグを発見したら、対処はせず、ここに戻って来てくれ」
「それだけで、いいのか?」
「ああ、それだけで構わない」
俺の休暇明け任務はそこまで、そこまで大変な任務ではないらしい。後は、想定外が起こらないことを願うことかな。
「その任務には、彼女も連れて行きたまえ」
「何で?」
「100層にはカーディナル本部と、繋がっているGM用システムコンソールもある。彼女の本来の記憶も戻るだろう」
「GMって……目の前にいるじゃん」
「例えグランドマスターでも、やれることは限られるということだよ。どちらかと言えば、カーディナルの方がやれることは多いんでね」
「そうなのか」
GMさんも、いろいろあるらしい。
すると、ヒースクリフが二つの結晶を渡してきた。
「何だこれ?」
「一つは管理者権限付き転移結晶だ。これさえあれば百層や、転移無効エリアなど、どこにでも転移することができる」
「なるほど……じゃあ、もう一つは?」
「これはもし、そのシステムを一人の少女…として、思っているのなら君の役に立つだろう」
「『心の器』……」
「では、頼んだよ」
「ああ、任された」
俺はヒースクリフとの話を終えると、さっそく転移結晶を使い、ユイと共に百層に向かった。
「システムが感情を持つとは……本当に、この世界には様々な可能性がある」
ダイキくんが任務に向かうと、私は一人このゲームのシステムについて考える。
「カーディナルに彼女が消されるまで、もう時間がない。がんばることだな、ダイキくん。しかし……私も変わったな」
たった一人の人間に、ここまでの執着するとは……。
私は一人、誰もいない部屋で呟いた。
次回予告
「一姉……なのか?」
「久しぶりね、大樹」
次回ついに、邂逅する。
お楽しみに!