俺は今の状況を整理する。
テュポーンと戦闘→意識を失う→血盟騎士団本部の自室へ→状況の確認→隣に少女が寝ていた
←今ココ
突然事態に頭がついてこない。いや、マジで覚えがない、本当に。俺は自分の小さな脳味噌を使い考える。
突如隣に少女が現れる、こんなケースは普通ありえないだろう。前に起きたという事例もあるはずがない。アルゴだって知らないと思う。
では、どうするか。だが、俺はあいにくこのゲームの開発者を知っている。ちょうど、会いに行こうと思っていたところだ。さすがに少女を連れてはいけない。彼女がどんな存在か分からないのに見られたら、厄介だからな。
俺は寝ている少女をもう一度見て、ヒースクリフのいる部屋へと向かった。
「助けてヒスえもん!」
「今すぐ出ていってくれ。心配していた私がバカだったようだ」
「ジョークだよ。それより話を聞いてくれ」
俺は血盟騎士団本部のヒースクリフのいる部屋に来ていた。それと、ちょっとしたジョークを言ったんだが、真顔で返された…何故だ?
この部屋には俺とヒースクリフの二人だけで、
他のプレイヤーはいない。人払い的なものは既にやってあるようだ。
俺は目を覚ましてから、隣なりに少女が寝ていたことと、その少女の特長をヒースクリフに話した。
「心あたりはある…」
「本当か!?」
どうやら、開発者さんには心あたりがあるらしい。
「では、まず君が何故意識を失ったか、理解しているかね?」
「それは俺のHPが減ったからとか?」
「違う。基本的にHPが減って、意識を失うことはない。君が意識を失ったのは精神的ダメージを受けて、心の限界が来たとシステムが判断したからだよ」
「…」
俺は昨日のことを思い出す。確かに俺のあの時の精神状態は正常ではなかった。
「君の隣に寝ていたのは、プレイヤーではない。精神的に限界が来たと判断したシステムが送った メンタルヘルスカウンセリングプログラムだろう」
「メンタルヘルスカウンセリングプログラム?」
「プレイヤーの負の感情を察知して、ケアをする人工知能のプログラム。正式名称はメンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号、コードネームユイ」
「ユイ…それが彼女の名前か?」
「ああ。しかし、本来その場所に一定の間表に出てくることはないんだが…」
「なにかしらのバグか?」
「その可能性が高い 。さらに、彼女にもなにかしらの影響が出ているかもしれん」
なるほど。しかし、プレイヤーの心のケアをするプログラムが存在していたとは…驚きだな。
俺が一人考えていると、ヒースクリフが何か思い付いたような顔をする。なんか嫌な予感が…。
「ちょうどいい、君には暫く休暇を出そう」
「休暇?」
「そうだ、暫く攻略から離れたまえ。思えば、君には色々動いてもらっていたからね。それに、精神的ダメージを受けたんだ、心を休ませる時間が必要だろう」
「おいおい、攻略に俺は必要だろ」
「幸い、今の攻略組には戦力が揃っている。それより、君に死なれた方が大きな痛手だよ」
「話がうますぎるな」
「分かってるじゃないか。ここからが私の頼みなんだが、彼女の面倒を暫く見てくれないか」
「…そんなことだろうと思ったよ」
俺は一人溜め息をつく。しかし、彼女も本来俺の心のケアで来てくれたのだ。面倒を見るのが、筋というものだろう。
「君が気にしていたあの二十二層のログハウスを購入しておいた」
「何で分かったんだよ」
「君は本当に昔から、分かりやすい性格をしてるよ」
思えば、こいつには昔からいろいろ考えていたことを当てられてたような気がする。
「なに、彼女と入れば癒されるかもしれないだろう」
「そうかい…」
このような流れで、俺は休暇になり、ユイを暫く引き取ることになってしまった。
「どうやら、行ったようだな…」
ダイキくんが部屋から出ていったのを確認すると一人溜め息をつく。
「しかし、 カーディナルからの権限の制限さによるバグの蓄積か。さらに、あのシステムの介入…困ったものだ」
私は誰もいない部屋で一言、静かに呟いた。
部屋に戻った俺は、部屋に未だに寝ているユイがいることを見て考える。
どう見ても、普通の女の子だよな…。
というか、NPCを見ても思うが、かなり見た目は普通の人間と変わらないと思う。俺は凄い技術力だと改めて思った。
俺が一人考えていると、彼女が目を覚ました。
どうやら起きたようだ。
「目を覚ましたか?」
「…」
彼女は目を覚ますと、周りをキョロキョロ見渡している。起きたばっかで、状況が理解できていないのか、それとも…。
「君の名前は?」
俺は彼女のことを知っているが、一応彼女に自分のことを理解しているか、聞いてみた。
「…ユ…イ、そうそれが私の名前」
なるほど…どうやら、自分の名前は分かるようだ。
「…」
様子がおかしい…あれっ?もしかして記憶がないのか。
「もしかして、何も覚えてないのか」
俺がユイに質問すると、彼女は分からないと言いながら首を振った。
「そうか…俺の名前はダイキだ。暫くお前のことを世話することになった。よろしくな!」
「ダ…イ…キ」
「そう、それが俺の名前」
俺が自分のことを名乗ると、ユイはポカンとした表情になって、俺の名前をゆっくりと呟いた。
「そう、呼んでくれればいいよ。呼びにくいなら他のあだ名でもいいぜ」
あだ名は海兵時代の苦い思い出しかないが、小さい子供が言うことなら、大丈夫だろう。
「…」
ユイは少し考える仕草をし…すると。
「パパ」
「…なんやて」
俺はユイの思わぬ呼び方に驚き、変な声を出してしまった。
こうして、俺はこの年でパパになってしまった…なんでやねん!