暗い、暗い、暗闇の中、その空間に俺は立っていた。俺には分かる、ここは俺の心の中だと。
目の前には、前と同じように俺とそっくりな奴がいる。
『おいおい、言わんこっちゃない。まだ、分からないのか?』
「…」
奴は呆れながら、俺に問いかけた。
『HAHA、ダメだな~。それじゃあ、いつまでも弱いお前のままだぜ』
「黙れ…」
俺はこいつの意図が読めない。俺を乗っ取りたいのか、消したいのか、邪魔をしたいのか。
『見てられないな。俺の目的はお前の絶望をお前の代わりに受けとめることだよ…今のところは』
「そのうち、俺を乗っ取るってか」
『隙を見せたらな』
奴の目を見る…本気だ。こいつは本気で隙あらば、俺を乗っ取ろうとしている。そんな風に感じた。
『最終通告だ…受け入れろ絶望を…』
「…」
その言葉の意味は分かる。
俺は怖いのだ…殺していった人々の声や、叫びを聞くのが。自分勝手だとは分かっている。でも、それを聞くために向かい合えば、人でなくなるような、そんな感じがするのだ。
『じゃないと、誰もお前は救えないぜ』
救いたい、でも認めたくない。そんな思いが自分の中でぶつかり合う。
俺は答えを出せないまま、意識は現実へと戻っていった。
「…ここは?そうか、俺はあの時」
目を覚ますと、そこは見慣れた血盟騎士団本部の自室のベットの上だった。俺は直ぐに現状を確認する。
「俺が死んでないということは、アスナたちが
間に合ったってことか。はぁ、やっぱり独断先行は不味かったな」
俺は自分が独断先行したことを、少し後悔する。だが、今回この行動を取ったのは理由があった。
一つは攻略組の連中を呼ぶため、分かりやすくじかに、状況を説明したかったこと。
二つ目は俺とPoHたちとの関係を知られたくなかったことだ。理由は…なんか知ってほしくないと思った。軽蔑されると思ったからか、それとも俺の問題に関わってほしくないと思ったからなのか…分からない。ただそう思った。
俺は状況を確認すると、メッセージボックスを
確認する。そこには予想通り、何件かメッセージが来ていた。
ヒースクリフにアスナ、アルゴにキリトか。
まぁ、予想通りだな。
俺はほとんどが、安否の確認だったので、大丈夫だと書いて送る。アスナからは事件の後について書いてあった。
俺が意識を失った後、笑う棺桶の連中は直ぐに去っていったらしい。そして、その後に攻略組が今回の事件の犯人であるグリムロックを確保し、その場に連れてきた。
最初は容疑を否認していたが、証拠である現場に残っていた、指輪が入っていた永久保存トリンケットと、ヨルコさんの証言によって、グリムロックがグリセルダを殺したことが証明された。
それを聞いたグリムロックは自身が妻のグリセルダを殺したことを認め、動機を語った。
動機は、彼女が変わった、自分が知らない彼女になった。殺人が合法的に許されるこの世界で永遠の思い出の中に封じ込めよう、そんな理由だった。
愛か…俺にはよく分からない。この世界に転生してから、愛情と呼ばれるものを向けられたことは少ない。真っ先に思い付くのは一姉と麻子の二人…そして。
俺は最後に見た母さんの顔を思い出した。
『ごめんね、母親らしいことしてやれなくて』
あの時の母さんの顔、言葉にはたくさんの愛情を感じた。
…愛情とはよく分からないな、本当に。いつか俺が雄二以外に、心から誰かに愛情向けられる日は来るのだろうか。
その後、グリムロックの処遇はヨルコさんたちに、任せたらしい。そんなことが、アスナのメッセージに書いてあった。
俺はとりあえず、この血盟騎士団本部にいるであろう、ヒースクリフに会うべく、体をベットから起こそうとする…んっ?
俺は起き上がろうと手を着いたところから、違和感を感じた。
何か柔らかいような…。
俺はその違和感の先を見る。そこにはなんと…見たことのない少女がいた。
………はっ?
俺はテュポーンを初めて見た時と同じくらいの
衝撃が俺を再び襲った。