楽園を求む転生者   作:厨二王子

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34話 月夜の黒猫団

「命の恩人のダイキさんに…乾杯!」

 

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

 

「はっはっは…乾杯」

 

俺はこの場にいる皆のテンションとは違い苦笑いしながら手に持ったグラスを他の人の持っているグラスにぶつける。

 

「いやー、本当に助かりました。しかしあの攻略組であり、血盟騎士団で有名な『瞬速の騎士』のダイキさんが助けてくれるなんて…」

 

今この場にいるギルド…月夜の黒猫団の団長である

 

「いや、別に偶然通りかかったところを助けただけだし…とにかく、皆さん無事でよかったよ」

 

「あの…本当にありがとう」

 

ケイタに続きこのギルドに所属している少女…サチも俺にお礼を言ってくる。

 

さて、どうしてこんな状況になったのかは今から数時間前に遡る。

 

 

 

二十八層のボス攻略に成功した俺はこのまま次の階層に進もうと考えてたが、グロウズナイフとは別に持っている片手剣を強化するのを思い出し、その素材を手に入れるため、十一層へ向かった。

 

俺のほしい素材はこの階層の森のエリアに出現するモンスターがドロップするので、森に入る。すると、何人かがモンスターに囲まれているのを発見した。

 

一瞬でその集団を見るに、状況は大部まずいみたいだと分かると、俺は直ぐにその集団に向かっていった。

 

 

カマキリのようなモンスターが前衛であろう少女に向かって攻撃しようとする…させるか!

 

俺は自慢の速い足を使い、その少女とモンスターの間に入る。少女は突然のことでパニクっている様子だった。

 

俺は片手剣を構えて、ソードスキルであるスラントを発動させる。モンスターは一瞬で真っ二つになり、消えていった。

 

「少し待ってろ…」

 

「…うん」

 

俺はまだパニクっているだろう少女に向かい言葉を言い、ほかのモンスターに向かっていく。

 

他のプレイヤーは少し陣形が崩れただけっぽかったが、やっぱりまずい部分があり、俺はフォローする形になり、無事誰も犠牲者をだすことなくこの戦闘は終わった。

 

その後、助けた集団は『月夜の黒猫団』というギルドで、そのまま流れでこの層の街の宿屋に行き、この状況になったってことである。

 

それと、アスナがいないのは彼女は副団長でよくヒースクリフに使われる様になり、忙しいので、最近俺と一緒に行動してないのだ。

 

 

 

「しかし、ダイキさんは何でこんな低い層にいたんですか?」

 

「あぁ、片手剣の強化で必要な素材があってね、それでこの層に来ていたんだ」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

この会話の後、いろいろアドバイスしたり、面白い話などして盛り上がった。少し静かになった後、俺は皆に言う。

 

「そうだ…皆に頼みってか、提案があるんだが…」

 

「えっ、ダイキさんが頼み?」

 

「ああ…俺で良かったら少しの間、戦い方をレクチャーさせてくれないか?」

 

「えっ、本当ですか!?ダイキさん自ら」

 

俺の言葉を聞いたとたん、皆が集り、話し合いを始めた。

 

「実は団長から俺は他のギルドの戦力アップも頼まれててな」

 

「血盟騎士団の団長から…」

 

そう、俺はヒースクリフから攻略組の増強のため、個人で低層に行くことがあれば、そういうことも頼まれているのだ。まぁ、これも俺も個人行動にした理由の一つだろう。

 

「分かりました。ぜひ、僕らにレクチャーをお願いします」

 

「ああ、引き受けた。これから少しの間だが、よろしく頼む」

 

こうして、俺の月夜の黒猫団へのレクチャーが始まった。

 

 

 

実際、レクチャーを始めてみると皆筋がよく、みるみる効率のいい戦い方を身に付けていった。しかしその中に一人、表情が暗く、なんというか何かに迷ってるような少女がいた…そう、サチだ。

 

俺はその事が気になり、彼女本人に聞いてみることにした。

 

「どうしたんだ、サチ?」

 

「あの、私…怖いの」

 

「怖い?」

 

俺はそれを聞いて思った。戦いはどんなものでも命がかかる戦いなら誰でも怖いものだと。

 

俺は無理なら別に戦かわなくていいと言おうとするが、サチがその言葉を遮るように言った。

 

「でも私、貴方にずっと憧れてたの」

 

「俺に?」

 

「そう、だから前衛になったんだ」

 

俺に憧れたか…。そういえば今までこのゲームだけじゃなく、海兵の時も憧れてるなんて言われたことなかったな。そうか、なら…。

 

「仕方ないな…」

 

「えっ…」

 

サチが俺の突然の呟きに驚く。

 

「その憧れている本人が近くにいるんだ…その怖いと思う気持ちがなくなるほど、お前を鍛えてやるよ」

 

「でも私、才能もないし…」

 

「最初は皆そんなもんさ…なに、攻略組なみには育ててやるよ。後、俺のことはダイキでいいぜ」

 

俺がこういうとサチはさっきまでの様子とはうって代わり、表情が明るくなった。

 

「よろしくね、ダイキ」

 

「ああ、絶対強くしてやる。よろしくな、サチ」

 

こうして、俺にとって初めてと言える、弟子のような存在ができたのであった。

 

少なくともこの時、俺は確かに幸せを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

月明かりが光る夜空の下、フードを被った一人の男が暗い町の中を歩いていた。

 

「HAHA、準備は整った」

 

男は一人、奇妙な笑い声を発する。

 

「ダイキ…お前には希望は似合わねぇ」

 

さらに、腰にさしてある一本の剣…いや、首切り包丁を抜き、一人で誰もいないところで楽しそうに宣言した。

 

 

 

「It's show time」

 

絶望が一歩、一歩と主人公へ近付いていく。

 


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