あれから、俺たち増員要員として様々な現場に動員された。雨の日も風の日も、地雷埋めたりゲリラと遭遇すれば応戦しひたすら逃げる、そんな繰り返しだった。
ある日の夜、雄二が口を開いた。
「敵が近づいてくる」
「まだ少し遠いが、確かに近づいてきてるな」
「マジかよ」
俺も雄二と同じく敵の気配を感じ、ダニーは驚きの声を感じる。
「本当だ、八百メートル先のタブに僅かに反応がある」
ロビイはパソコンを見て確かに何かいることを確認する。
「八百メートル?」
「敵かと思うかね?」
ジェーが皆に問う。
「動物か何かかもしれないし」
「敵だ」
「ああ、これは敵だな」
「ショーティーとトーラーが敵だと言っている」
「私もジーニーとダイキを信じるよ」
「うん私も信じよう、敵だ」
皆が俺と雄二の発言を信じ次の行動の準備をする。
「また逃げますか?」
「そうしよう、また逃げながら敵の規模を確認し友軍に協力してもらう」
「スリノブセですね」
どうやら方針は決まったようだ。
「雄二君が先頭だ」
「了解」
こうして敵と接敵し戦闘が始まった。
バンバン
あちらこちらに銃声がなる。
俺もヤブイヌ小隊に入ってから、ナイフの接近戦よりも銃で攻撃する手段が多くなっていた。
すると銃を構えていた、雄二が口を抑えた。俺はそれを見ると一旦攻撃をやめて雄二のもとへ近づく。
「雄二大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃない」
「今増援がこっちに向かっている。もう少しの辛抱だ、頑張ってくれ」
「あと、どのくらいだ?」
「二十分くらいだよ。後退しながら合流する」
「そうじゃない…あと敵はどのくらい残っている?あと何人殺せばいい?」
「そうだね…あと十七人も殺せば敵は全滅するかな」
十七人…十七人か多いな。
俺がこの状況をどうするか考えているとミリーが雄二に弾を持ってきた。ダニーは今の雄二の状態が分かっているので、ミリーに怒鳴る。
「そうだな…女の前でカッコ悪いところは見せられないしな。兄さん俺の背中に葉っぱと土をかけてくれ」
「はいよ」
「俺はここで固定砲台になる」
雄二の奴どうやらスイッチが入ったようだ。
なら俺もスイッチ入れますか。そこでダニーが怒鳴る。
「抜けたことを言ってんじゃねぇ。いいか、ショーティー。ダチってのはな最後まで裏切らねぇ、最後まで見捨てないからダチなんだ」
「格好いいなダニー、大丈夫まだやれるよ。ミリー弾をくれ」
「私ジーニーと一緒なら、どれだけ敵が来ても恐くない。だから頑張って諦めないで」
「そうだぞ雄二お前ならできる頑張れよ」
「ミリー、兄さん…」
ミリーと俺が雄二と話すとジェーがやってくる。
「ミリエラがかき集めてくれた、七.六ミリ弾は九発…全部君に集めよう。この弾で敵を九人殺してくれできるかな?」
「任せてくれ。九人殺す必ず殺す」
「雄二…」
「ショーティーが残るなら俺も残るぞ」
ダニーが友を残せて行けないとジェーに言う。
「いや逆だ。我々は前進する」
「前進?」
「そうだ。風見を最終ラインとし敵に仕掛ける」
「どうやら、ここからは俺の出番のようだな」
俺はここからが俺の出番だと思い皆の前に出る。
「ダイキ君にはギャレット大尉から一回の戦場で殺す人数を制限してくれと命令を受けてる」
「そうか…」
制限については前からギャレット大尉から聞いていたのでそこまで驚かない。
「だから四人だ…それ以上殺すことは許さん。わかったか?」
「…了解」
「それとこれは、私から君に伝えようと思っていたことなんだが…」
「何ですか?」
「確かに我々軍人は人を殺す…けどね、それは我々が殺しに対して『楽しい』という感情を抱いてるわけじゃない」
「…」
「でも、何も思わず人を殺していてはいつか壊れてしまうだろ…だから君はこれから仲間を守るために殺すんだ」
「仲間を守るため…」
「そうだ、わかったかね?自分を見失うなよ」
「分かってるよ」
「それに頼りになる仲間もいることだしね」
この時、俺は皆の顔を見渡す。皆、当たり前だみたいな顔をしていた。そうか…今の俺は一人じゃない。
「ああ、そうだな」
「はっは、ジェーやっぱりあんた逝かれてるぜ」
「勘違いするなよ。増援が来たらまっさきに逃げる、それまで踏ん張るんだからな」
ダニーのジョークにジェーは進みながら答える。
「増援が来るまで何分かかる?」
「三十分ってところですね」
「速くしないと足止めしているジーニーがやられちゃうよ」
俺は右手にナイフ左手に小型のマシンガンを持ち皆の前で言った。
「行くぞ皆!」
「よしヤブイヌ小隊反撃開始だ。ダイキに続け!」
俺はジェーの合図をスタートに走り出した。銃弾の雨が俺らに降り注ぐ。俺はそれを木に隠れながら敵に近づいていく。そしてそ銃弾の雨が一瞬止んだ時その瞬間を俺が見逃すはずがない。
「四人殺す!」
俺は近くにいる敵に後ろから近づき首をナイフで引き裂く…まず一人。
そしてその右の方にいた敵が味方が殺られたことに気づき俺に銃を向けてくる。俺は敵が銃を放つより前にマシンガンを使い敵に撃つと敵は血を吹き出して倒れる…これで二人。
俺はこの後、一旦立て直すべくまた近くの木に隠れて敵の場所を正確に把握すべくロビイに連絡を取る。
「ロビイ聞こえるか?」
『おうダイリー無事かい?』
「もちろんだ。それより残り二人の場所を教えてくれ」
『オーケー。君の場所からは北西の方角から五メートルのところに二人いるよ』
「固まってるか…了解」
『健闘を祈るよ』
こうしてロビイとの連絡を切ると、自分のマシンガンの弾の数を数えて飛びだす準備をした。
バンバン
すると雄二の方から銃弾の音が聞こえてくる…ふっ雄二が頑張ってるんだ、俺が頑張れなくてどうするよ!
俺はまたさっきのように敵に向かい突っ込んでいく。敵が俺に向かい、二人銃を向けてくる俺は避けようと左右に動こうとするが隣りには木があって動けない。
あと俺の視力は銃を撃つのが雄二よりも下手だがそれでも高い。こんな暗闇でもしっかり敵の位置を見ることができて弾まで捉えることができる。
俺の下に敵の銃弾が迫ってくる俺はそれをしっかり捉えそして…銃弾をナイフで弾いた。
こんなこと殆どの人はできないだろうが俺は過去のウィサゴとの暗闇の戦闘で得た勘と実際に銃で撃ち弾の速さを体感したことでこの技を可能にした。
敵は驚き怯むが俺はその一瞬でさらに加速する。敵二人のうち一人をナイフで心臓を刺し、もう一人をマシンガンで撃ち殺した。これで四人殺し終わる。
ちょうどいい、タイミングでジェーから増援が来たと、連絡が来たので俺は後ろへ後退した。
この後、雄二が気を失ったことにもの凄く心配したが、無事目が覚めて、俺らはこの戦場をあとにした。
あれからも俺らヤブイヌ小隊は何度も戦場を駆け抜けた。
銃弾を敵から掠めとることも当たり前になっていく。何もかもおかしくなっていた。それくらいひどいことをしてひどいものを見たのだ。本当にひどい戦場だった。
実践訓練を終えた俺らはアメリカの学校に帰ることになった。一ヶ月後には俺と雄二は日本に帰ることになっている。
だが帰って来たちょくごいきなりギャレット大尉に呼び出された。
「何の用でしょうか大尉?」
「けっ、生意気なことを言うようになったじゃねぇか。えっ、大樹伍長」
「…」
この人は相変わらずだなと思った。
「今回お前を呼んだのは日本に帰るついでに、とある任務を与えるために呼んだ」
「とある任務?」
「VR技術については知っているな?」
「ええ、もちろんです」
「その技術が我が軍にも訓練で五年後使用されることになった。だからお前には実際にそれを体感してレポートにまとめて軍に送って貰いたい」
なるほど、日本に帰る俺は好都合ってわけだ。んっじゃあなんで雄二にはこの任務を与えないんだ?
「それでだが近々VR技術の生みの親とも言われているミスター茅場が作り出した『ソードアートオンライン』が一週間後にリリースされる」
「っ!?」
俺はソードアートオンラインについてはプレイするつもりでロビイから情報を聞いていたが予定よりリリースが速くなっていて茅場との約束が守れなくなりそうで焦る。
「待ちわびているファンのためだか、どうとかでリリースが速くなったとかだが…そんなのはどうでもいい。ともかくお前にはこのゲームをプレイしてほしいというわけだ」
「雄二に任務を与えないのは、やはり…」
「ゲームでもまだあいつはだいぶ良くなったが生き物や人を殺すのに抵抗があるからなたとえそれがゲームでもキツイだろう。それにミリエラのこともあるしな」
「えっミリエラのこと気づいていたんですか?大尉はそういうこと疎いかと…」
「何か言ったかギロ」
「いえなんでも…」
俺は大尉の睨みに黙らせられた。しかしこんな形でSAOに参加することになるとは人生何が起こるか分からない。
「だからライセンスも特例でもうできてるから安心しろ。ナーブギアやソフトは麻子が準備するそうだ。だからお前には直ぐに日本に帰って貰う分かったか?」
「了解…それとギャレット大尉大変お世話になりました!」
「日本でもうまくやれよ」
「分かってますよ…またいつでも呼ばれれば来ます」
「うむ達者でな」
俺はこの後ヤブイヌ小隊の皆と別れを告げて部屋に戻り荷物の準備をして次の日空港に向かった。結局ギャレット大尉もヤブイヌ小隊の皆も忙しく見送りに来たのは雄二だけだった。忙しいなんて言ってたが絶対涙を見せたくないとかだな絶対(確信)。
「兄さん行くんだね…」
「ああ、先に帰ってるよ。それとミリーと決着つけてこい」
「分かってるよ」
「泣かせんじゃねぇぞ。じゃあまたな」
「ああ、一ヶ月後に」
すまんな、雄二一ヶ月後か…実際は三年後になっちゃうんだがしばらくの別れだな。
こうして雄二とも別れを告げて俺は日本行きの便に乗りアメリカを離れた。
今回でカプリスの繭は終わりです。次回はSAO編に入ります。繋げ方が少し強引ですがそこは目を瞑ってもらいたいです。