船に揺られて数日、俺らは戦場の島に着いた。
着いた島にはもう何人も兵士がいて、テントをはったりしている。砂浜の先には森が広がっていて、その森に俺らは入っていった。
森の中を進む中、俺はこの小隊の面子について考えていた。
元車泥棒のガキ大将ダニエルボーン
その日食事代を稼ぐためにバーの隣りのトイレで身体を売っていた貧乏ビッチミリエラスタンフィールド
二次元しか愛せない俺と同士であるオタクのロバートウォルソン
俺の親愛なる弟で生き物を殺すことに抵抗があるスナイパー風見雄二
そしてその逆で人殺しをすると止まらなくなる狂犬風見大樹…
この小隊は不安要素ばかりだな。
しばらく森の中を進んでいると、ダニーが声をあげる。
「おい、トーラーにショーティー。見ろよあのでかい鳥、焼いたらうまそうだぜ」
ダニーは近くの木の上にいるでかい鳥を見て言う。まぁ、腹も減ってきたしちょうどいいか。
「ぶっ殺して、持ち帰ろうぜ」
「待て」
ダニーが銃を構えようとするとそれを雄二が止める。
「ダニー、それは俺がやる」
「大丈夫なのか、雄二?」
「大丈夫だよ、兄さん。そこで見てて」
俺はまだ雄二が生き物を殺すことを克服してないのを知っているので心配になり声をかけるが
雄二は問題ないと銃を構える。
バン
雄二の放った弾丸は見事に命中して鳥に当たる。当たった鳥は木の下に落ちていった。
「よっしゃ命中!さすがだな」
「あんなのジーニーだったら目を閉じてても、当たるっつーの」
ダニーとミリーは雄二が見事鳥に弾を当てたことを話している。しかし俺は雄二が口を手で抑えるところを見て直ぐに雄二に駆け寄った。
「大丈夫か、雄二?」
「ごほごほ…うぇ」
俺は雄二の背中をさすってやる。
「もう大丈夫だよ、兄さん」
「雄二…」
この後、雄二が落ちつくのを見計らって、俺らは奥の基地へ向かった。
しばらく歩き続けていると、目の前の木が拓けていき目的地の基地の近くの洞窟にたどり着いた。すると、入り口の兵士が話かけてくる。
「通るのか?」
「この先で部隊を再編成するとのことです」
「立ち止まるなよ、できるだけ見ない方がいい」
俺らはこの洞窟の中がどうなっているのか大体分かっているので覚悟を決めて進む。
そして中にあったのは同士の…いや兵士たちの死体の山だった。
いつ見てもこういう光景はひどいものだな…。
「おう…ジーサス」
ダニーもこの光景を見て、何か思うことがあるらしい。すると、雄二がとある一人の死体を見つめていた。そこにダニーが声をかける。
「あんまり見てやるなよ」
「だな」
「…」
死体を見た雄二がまた吐いてしまうか心配したが、大丈夫だったので安心する。俺らは洞窟の先を進んで行った。
基地のテントに着いて一息していると誰かが中に入って来た。なんか雄二に向い教官って言っている。
「やあ、エディー奇遇だな」
「いつこちらへ?」
「誰だ?」
ダニーが雄二以外の俺らが疑問に思っていたことを代表して聞く。
「射撃ケースでトップを取った俺は一度落ちこぼれの指導を任されたことがあってな。それがこの男、エドワードオーカーだ」
「おかげで自分は落第を免れここに配属されました」
「よろしくなエディー、敬語はいいよ」
こうしてまた俺らに新たな仲間が加わった。
また時間が経つと、おそらく上司であろう人がやってきた。
「はい、というわけでね。私が小隊長のジャスティンマイクマイヤー軍医少尉だ。十年代の親友のようにジェーで構わないよ」
「「「「「「はぁ?」」」」」」
俺ら全員溜息を吐いた。
「海兵隊遠征打撃軍第十五MEU中隊所属特別行動小隊、通称イランコ小隊へようこそ」
「イランコ小隊?」
ダニーが小声で呟く…ていうかその名前悪意しか感じないな。
「ほら、グループ作れって言わてかならずクラスで何人か余っちゃう子っているよね。それが君たちだ、よくぞこれだけ屑が揃ったものだ感動すら覚えるよ」
こんなことを言われて、俺らはなんとも言えない気持ちになる。しかしよくこんなに口が回るよな。
「うーん、まぁかく言う私が一番私がアホなんだがねぇ」
「「「「「「?」」」」」」
俺らは突然の少尉の落ち込みように首を傾げる。
「親に反発し歯医者になろうとしたのに、何故か軍医になり、こんなところで人殺しをやっている」
どう間違えたら歯医者を目指し軍医になるんだよ…。俺が疑問に思っていると少尉が真剣な表情になる。
「いいかい、戦場に正義なんてものはない。あるのは徹底した現実のみ、きれいごとや理想なんてものは何の力も持たない。むしろ邪魔で消されていく存在だ」
正義なんてないか…確かにそうだな。
「だから、こんな自分の嘘っぱちな名前が嫌いだ…大嫌いだー。ははっ、いっそ豚に食わせてしまいたいくらいだよ」
どうしてそうなる?
「こいつなんか決めてないか?」
ミリーが小声でツッコム。もう面倒くさいからそういうのはいいんだよミリー。
「どうもいかんな、ー頭がシャッキリしない…。
コーヒーだ、コーヒーがいるな。おーい、アリソン。コーヒーを入れてくれ、アリソン!」
「アリソン上等兵は先日夜襲で戦死されました」
「「「「「っ!?」」」」」
エディーの一言に俺らは動揺する。
「そうか…なら私は誰にコーヒーを入れて貰えばいい?私は彼女がいないと替えの靴下の場所も分からない人間なんだ…困るな、本当に困る」
ダメ人間だな…典型的な。
「おっ、そうだ誰も死ななければ今後こんなトラブルは起きないじゃないか。うんそうだそうしよう」
「こいつコーヒーになに混ぜてるんだ?」
「砂糖と間違えて重曹でも混ぜてるんじゃね?」
ミリーの質問に俺は小声で答えた。
「さてここで問題だ。あきらめが悪くてしつこいのが誉められる三大職業といえば科学者と借金取りともう一つは何でしょう?」
「「あっ?」」
ダニーとロビイは驚きの声をあげる。
「あと五秒」
「ちょっと待ってくれ今ネットで…」
ロビイは慌てて後ろにあるパソコンで調べようとする。ていうか、そんな直ぐに出てこないだろ。
「ここは戦場だ。悩んだり考えたりして行動を起こさない奴は死ぬ」
確かに、この人の意見は正しい。そしてその答えはおそらく…
「はい、風見雄二答えたまえ」
「答えは軍人だ」
「イッツザッソー、おめでとう」
やはり軍人だったか…。
「軍人って奴はタフで、しつこくて、あきらめが悪いほど誉められる。けどね、ダメな時はダメだ、だから逃げる時は逃げる、それが僕の小隊だ」
逃げる時は逃げるか…たまにいいことを言うなこの人。
「そうだ君たち、プッシュドッグを知ってるか?」
「なんだそれ?」
ミリーは首を傾げる。するとロビイが直ぐにパソコンで調べ始めた。
「ヤブイヌだよヤ・ブ・イ・ヌ、とても狡猾でずる賢い生き物だ。ピンチの時になると後ろ向きのまま全力疾走で逃げる習性があると言われている」
「我々はそれを目指そうじゃないか!ずる賢く立ち回り、やばいと思えば銃を敵に向けたまま後ろ向きに全力疾走。よし本日より、現時点より現時刻を持って、イランコ小隊はヤブイヌ小隊と改称する。異論はないな?」
「まぁ、あんたが隊長だ好きにしな」
ダニーは改称を認める。
確かにあんたが隊長だしイランコという名前にもこだわりないしな。
「では決まりだ新名称を祝して、勝ちどきをあげよう。総員銃を掲げて力の限り叫べ…ナフー!」
はぁ?
「そんな声で鳴くのか?」
「いや全然違うみたいだけど…」
ミリーの当たり前であろう疑問をロビイがネットのヤブイヌの鳴き声を聞き否定する。
「どうした声をだせ!」
はぁ、やるしかないか…
「鳴くまで終わらんらしいぞ…鳴いておこう」
雄二の言葉で皆覚悟を決めて俺らはそれぞれ銃を持ち準備する。
「ではもう一度行くぞ。ヤブイヌ小隊…アーヘンアーヘンゴーバッヘン、アイシー…ナフー!」
「「「「「「ナフー!」」」」」」
俺らは銃を大きく掲げて叫んだ…超恥ずかしい。
こうして奇妙な鳴き声とともにヤブイヌ小隊は結成された。