麻子に引き取られた次の日、俺は目を覚ました。
起き上がると、昨日までなかったはずの両手に傷がついていてが、特に気にせずリビングに行く。
リビングに着くと、すでに雄二、麻子、起きていてなにやら揉めていた。JBの姿は見えないが、おそらくどこかへ出掛けたのだろう。
「おう起きたか大樹、ほら速くこのおじやを食べろ」
「兄さんだめだ。それを食べちゃ…」
「うっ、なんだこの匂い」
「大樹までなに言ってやがる…お前ら飯を食わないと死んじゃうんだぞ」
「俺もパス」
俺と雄二は麻子が押し付けてくるおじや…いや、えたいの知れない物体から抵抗する。
だが、その途中麻子の右腕に付いている傷が目に入いる。
「麻子何その傷?」
「んっああ、ちょっと切っちゃってな。まぁ、気にするな」
「ふーん」
「まぁ、それよりこれ食え」
「無理」
この会話の後、また激闘は続いたがJBが帰ってきて騒動をおさめた。結局、おじやはJBが作ってくれたものを食べた。
雄二はJBに食べさせて貰い、俺は一人でもくもくと食べているとJBが俺にも食べさせると言って、強引に俺の口まで運んできた。俺はそれを拒もうとするが、結局食べさせられ、その時の麻子の笑い声がうざかった。
おじやを食べた後、俺は麻子に一人呼び出したされていた。
「大樹、お前昨日の夜のこと何か覚えてるのか?」
「昨日の夜…なんかあったけ?」
「いや、覚えてないんならいいんだ」
「?」
んっ、昨日の夜?まったく覚えがない。なんなんだ?
俺が首を傾げてると、麻子はまた真剣な表情で問う。
「大樹、今のお前が一番幸せに感じることは何だ?」
「弟…雄二の笑顔だ」
俺は即答した。
「そうか…ならいい。その気持ちを絶対忘れるなよ」
「なんだよ一体、こんな事あたりまえだろ」
俺は突然の麻子の言葉の意味は分からず、雄二のもとに向かった。
この後、麻子は俺と雄二に、犬の世話を要求された。もちろん、俺と雄二は面倒くさと思ったが、結局この魔王ギロ…いや麻子前では何もできず世話をすることになった。
だが、この時、俺は雄二の笑顔を見ることができて、自分も自然と笑顔になっているのに気づいた。
遠くから私麻子は兄弟が笑っているところを見てた。
「あの子たち兄弟が揃って、笑ってるとこ初めて見たわ」
「子どもっていうのは面白れーなー。教えれば何でも覚えるし、その先を考えて予測する。教えてないことも、いつの間にか自分で覚えていたりする」
「まぁ、あの子たちには頭がいいっていうかちょっとずる賢いところもあるしね。大樹に至っては少し大人びいてるし」
「大樹か…」
「どうしたの?」
「いや何でもない」
私は昨夜の出来事を思い出す。
私は死体の山の上で立っている絶望…いや大樹に声をかけた。
「なにそんな不気味なとこで、いつまで立っているつもりだ?」
「…」
「たく、いい加減に…!?」
私は戻って来いと言おうもすると、突然大きな殺気を感じ、直ぐさま腰にあったナイフを抜く。
大樹はこちらに文字通り跳んできて、手に持っていたナイフを私に切りつける。
不覚にも、私は最近視力が衰えてきているせえで、反応が遅れナイフは私の右腕にかすってしまった。
「ちっ…」
「…」
私は舌打ちして、大樹のナイフを弾き後ろへ下がった。
大樹は相変わらず、血走った目でこちらを見ている。
「俺はもう誰も失わない…俺はもう誰も失わない…俺は…」
「大樹…」
大樹はずっと同じ台詞を呪詛のように、繰り返している。
「失う前に…殺す」
「来るか!?」
私は大樹が再び襲いかかると思い、ナイフを構える。しかし大樹は糸がきれた人形のように倒れた。私は慌てて大樹の近くに行き、息をしているのを確認すると、抱き締める。
「ああ、大丈夫だお前はもう大丈夫…」
「…」
私は大樹をずっと赤子のようにあやし続けた。
昨夜の事を思い出していると、JBの声で我にかえる。
「ちょっと聞いてるの?」
「んっああ、すまん。聞いてなかった」
「もう、だから…」
こんな感じで、私はJBの小言をいつも通り聞き流す。傷のことも聞かれたが、これも適当な理由をつけて誤魔化した。私は大樹の事を考える。
(いつかしっかり話さなきゃなこりゃ。今は雄二がストッパーになっているがそれが無くなったら…いやそれに匹敵するようなことがあれば)
そして私は最悪な可能性に至る。
赤い空、数々の死体…今度はあれに人間の死体も交じりその上に立つ男。
(殺人者…いやあんな絶望なんかに私はさせねえ。絶対させないからな)
私はこのことを心の底から誓うのだった。