東京喰種√ONI   作:マチカネ

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 司狼くんと『隻眼の梟』の対決の回。今回、カネキくんの出番はありませんでした。


第五章 隠忍VS隻眼の梟

 喫茶店『天地丸』に帰ってきた司狼。亜門やジューゾーや数人の捜査官たちも着いてきていた。篠原と黒磐始め、負傷した捜査官は治療のため、丸手は報告のために本局へ。

 

 

 

 店の中では鈴鹿と神奈が約束通りに、美味い物を作って待っていた。

 テーブルの上に並べられた、フロランタンタルト、マショマロクッキー、 蜂蜜入りのおからクッキー、リんごの焼き菓子、ブルーベリーマフィン等々、美味しそうなお菓子。戦闘で疲れている捜査官たちを、食べて食べてと誘惑している。

「まずは、一杯やりな」

 と言っても、鈴鹿が進めたのは酒ではなく、ジャスミンティー。

 いい香りのするジャスミンティー。ホッと一息、戦闘で疲れた捜査官を癒してくれた。

「お菓子が沢山あるのです~」

 甘いものが大好きなジューゾーは誘惑にはあらがえない。早速、食べようとした。

 そのジューゾーの襟首を亜門は掴む。

「まずは、お礼を言ってからだ」

 早く、お菓子が食べたかったので、

「ありがとうなのです~」

 一応、素直にお礼を述べた。

 

 疲れたときは甘いものがベスト。捜査官たちはジャスミンティーを飲みながら、お菓子を食べている。皆、口々に美味しいと褒めていた。戦闘で疲れているだけではない、ジャスミンティーもお菓子類も、本当に絶品と言う味。何人かは、常連客になるかもしれない。

 

 これでもかと、いうぐらいにパクついているジューゾー。美味しいです、美味しいですを連発。

「これ、全部、あなたが作ったのですか」

 ジャスミンティーのお代わりを持ってきた神奈に話しかける。

「ええ、私と鈴鹿さんで作りました」

 前もって、下ごしらえをしていた鈴鹿。帰ってきてから、2人で作った。

「すごいです、もっと、沢山食べたいです~。でも……」

 初めて、お菓子を口に運ぶのが止まった。

「こんな美味しいお菓子、篠原さんにも食べさせてあげたいです」

 篠原はケガの治療のために、ここには来てはいない。

「よかったら、お持ち帰りします、包んであげますよ」

「本当ですが、お願いするです~」

 生い立ちから、人間性に乏しいと言われるジューゾーだが、篠原だけには心を開いている。

「その篠原さんは、あなたにとって、大切な人になりますよ。大事にしてあげてくださいね」

 笑顔で言われたが、意味が解らずキョトンとしてしまう。

 

「少し、いいでしようか」 

 部屋の隅にいた鈴鹿に、亜門は近付く。

「何だい?」

 かなり色っぽい女性なので、耐性のない亜門は目のやり場に困るが、それでも聞きたいことがあった。

「司狼君は自分を隠忍と人間のハーフと言った。なら、あなたは……」

 どうみても司狼は母親似、喰種をものともしない戦闘力。それらを総合して、亜門は結論を出した。

「あんたの考えてる通り、あたしゃ、純血の隠忍だよ」

 普段の鈴鹿なら、からかいやすい亜門をほっておかないのだが、真剣な顔で話しかけてきたので、今日は辞めておくことにした。

「と、言っても、あたしは2度と隠忍の力を使う気はないよ。だから、あんたたちには協力は出来ないねぇ、あたしはね」

 隠忍の力を使わなくとも、あんたは十分に強いですよと言うほど、いくら、亜門でも命知らずではない。

「あの子がどうするかは、あの子次第さ。あの子があんたらの仲間になるって言うんなら、止めやしないよ」

 そう言う視線の向こうに、鈴鹿と神奈の作ったお菓子を食べている司狼がいた、美味しそうに楽しそうに食べている。

 きっと『CCG』は司狼を欲しがるだろう。亜門もかなりの戦力になるとは思う。思うが強要はしたくない、あくまで司狼の判断に任せたいと思っている。

 

 

 

 事態が動く。『アオギリの樹』の喰種たちが捜査官狩りを始めたのだ。

 今までも、11区に置いて『アオギリの樹』が捜査官狩りを行っていた、その時は、ちゃんと、統制のある行動をしていた。

 今回は違う、区に関係なく、襲撃。返り討ちになることも珍しくない。 

 原因は解っている、退魔士、ONIの活躍、この間の11区の廃団地の敗走。これにより、喰種世界に異変が起こる。

 今まで『アオギリの樹』は力と恐怖で人間世界も喰種世界も支配を試み、多くの喰種を抑えていた。

 その『アオギリの樹』の度重なる敗北。

 力と恐怖に怯え、屈し、従い、支配されていた喰種たちが反撃に出たのだ。

 『アオギリの樹』狩りが始まったのである。特に1人でいるところを集団で襲われる事件が頻発。

 中のは名を売ろうと『アオギリの樹』狩りを行う、血気盛んな喰種も少なくない。

 『アオギリの樹』の力と恐怖は揺らぎ、支配が出来なくなってしまった。

 そこで、再び、己たちの力と恐怖を見せつけるために、捜査官狩りを始めたのである。

 これは幹部の命じたことではない、『アオギリの樹』の喰種たちが、勝手にやり始めた行動。

 普段なら、即見せしめだが、あまりにも同時多発的に起こったため、即時の対象が間に合わず、遅れ後手に回ってしまったのだ。

 『アオギリの樹』が統制を取れなくなっている。

 

 このチャンスを『CCG』は見逃すつもりはない、一気に組織を壊滅させため、行動開始。

 

 

 

 朝、店の前の掃除をしている司狼、大きな欠伸を1つ。

「司狼、ポストの新聞を取ってきてくれ」

 店の中からでも、鈴鹿の声はよく聞こえる。

「解った」

 ほうきを壁に立てかけて、ポストの中の新聞を取ると、ヒラヒラと一枚のハガキが落ちた。昨夜遅く、投函されたらしい。

 夜中にハガキが投函されるなんて、おかしなこと。変に思って拾ってみると、自分宛で消印なし。直接、ポストに投函もの。

 ますます、怪しい。自分宛なので、遠慮することなく、封を破り、手紙を読む。

 

 

 

 昼でもない、夜でもない、逢魔が時。古来より、魑魅魍魎が跋扈すると言われている時間。

 

 ありし頃は多くの若者が汗を流したグラウンド。今は芝生は捲れ、雑草が生え茂り、壁のペンキは剥げ、どこもかしこも朽ち、かっての面影はない。

 

 寂れたグラウンドに訪れた司狼。背中には『大通連』を背負っている。

 

 ポストに入っていた手紙は、一対一で決着をつけようとの内容の果たし状。時間と場所が指定してあった。

 この果し合いは『アオギリの樹』からの依頼として書いてあり、高額の小切手も入っていた、前払いである。

 相手が『アオギリの樹』では、どこに送り返せばいいのか解らず。落とし物として、届ける手段、もしくは『CCG』に通報する手段もあったが、この依頼を受けることにした。神奈は戸惑ったが、鈴鹿は反対せず。

 グラウンドには誰の姿も見えない、西に傾いた日が影を長く伸ばす。

 その時、空から殺気がした。司狼が飛びのくと同時に、何かが落ちてきた。

 もうもうと土煙を上がる中、そこにいたのは巨大な喰種。

 今まで倒してきた喰種は、どんな姿をしていても、人間の姿をどこかしら、止めていた。降り立った現れた喰種は化物。肩には羽根を彷彿とさせる、大きな赫子。背中にも、何本もの赫子を生やし、恐竜の骨のような手足、顔の真ん中には一つの赫眼。人の形を止めていない異形の怪物。

 司狼には、すぐに解った、こいつが本物の『隻眼の梟』だと。

 ニタ~、不気味な笑みを浮かべる。

「は・じ・め・よ・う」

 

 梟の背中から飛ばされる羽赫。アヤトも同じ技を使うが、アヤトを羽赫をナイフとするなら、梟の羽赫は槍。

 あっさりと、地面を貫通。人間に当たれば、簡単に命を失う威力。

 連続で撃ちだされる羽赫、疾風のごとく走る司狼を捕えることは出来ず。

 フックの様な爪が振り下ろされる、それを背中から引き抜いた『大通連』で受け止める。

 そのまま握りつぶそうとする梟。クインケなら、簡単に握り潰せた。今まで、数多くのクインケを破壊した。しかし『大通連』はビクともしない、ヒビの1つも入らない。

 左手を付きだす司狼。

「招雷!」

 雷が迸り、梟を直撃。

 梟もビクともしない、ニタ~と微笑み、力任せにもう片手を振り下ろした。

 後ろへ飛ぶ司狼。

 司狼を引き裂き損ねた爪は、代わりに地面を引き裂く。

 再度、背中らの羽赫の攻撃。

 それを『大通連』で薙ぎ払う。たった一振りで、全ての羽赫を砕く。

 いきなり、ジャンプして司狼を押しつぶそうとした。

 難なくかわした司狼だが、梟は着地と同時に体当たり、躱した直後なので、体制が整わなかった。司狼は避けることも防御も間に合わず、直撃、グラウンドの壁に激突。

 

 普通の人間なら死んでいる、普通の人間なら。

「痛ててて、噂通りの力だな『隻眼の梟』」

 崩れた壁の破片をどけながら、起き上がる。

 梟もあれで司狼を仕留めることが出来たとは思ってはいない。

 『大通連』を鞘に納め、留金を外し、鞘ごと地面に置く。

 何故、態々、武器を外したのか、首を傾げる梟。

「俺も本気を出させてもらう」

 赤い髪が伸び、額には銀色に輝く二本の角。全身の雰囲気が変貌。

「転身、時空童子」

 そこに立っていたのは人ではない、正しく、鬼。これこそが隠忍。

 

 本気VS本気の戦い、早速、得意の背中の羽赫を放とうとした。この攻撃で幾多の敵を打倒してきた梟。

 司狼の姿が消えたと認識した時には殴られていた。

 いままで『隻眼の梟』は強い喰種と殺し合い、強力なクインケを持つ捜査官と戦い合った。

 その中で受けた、どんなダメージよりも強力な衝撃。

 まだダメージは残っていたが、それでもかまわずに攻撃、鋭い爪を振り下ろす。

 手首を掴んで難なく止め、間合いに引き寄せると、鳩尾に一撃を与え、上に放り投げ、司狼は飛び上がる。

 空中にいる梟に、蹴りを打ち込み、止めとばかり、地面に叩き付けた。

 蹴り自体が強力なうえ、落下スピードと叩き付けられたダメージ。上下のサンドイッチ衝撃。

 舞い上がった土煙がスモークの様に視界を遮る。

 

 仰向けで倒れている『隻眼の梟』の全身が崩れ、砕け散り、中から、1人の女性が出てきた。

「高槻泉!」

 その女性を知っていた、女流作家の高槻泉。神奈がファンで、よく読んでいて、面白いからと、進められ、司狼も読んでみた。確かに面白かったので、その後も何冊も読んだ。

「嘘つき、何が隠忍の子孫よ。あなた、自身が隠忍の生き残りでしよう」

 常軌を逸する司狼の強さ、それで気が付いた。司狼自身がしじまの里の生き残り、隠忍、そのものだと。

「嘘は言っていない、人との共存を選んだ隠忍と人間のハーフと言っただけだ、あんたたちが勘違いしたんだけ」

 そんなのマスゴミの言い訳と同じじゃないと、『隻眼の梟』高槻泉はぼやく。

 生きている、けれども、動くことは出来ない。再生が役に立たないほどのダメージを受けた。以前、赫包を黒磐に破壊されたときより、回復には時間がかかるだろう。

「私は喰種と人間のハーフよ。そんな私の人生は地獄だった」

 東京の地下、通称、24区。そこは闘争と闘争の地獄。そこに捨てられ、そこで生き、そこで生き延びた。

「あなたは人間が憎くないの」

 自分をあの24区に捨てた父親が憎い、敵とみなし、駆逐しようとする人間が憎い。その憎しみをバネに『隻眼の梟』と呼ばれる程に強くなった。

 司狼も目の前で、人間に同郷の隠忍を喰われるのを見た。

「全く憎くないと言えば嘘になる。隠忍の力に目覚めて間もない頃は、暴走して、人を何人も殺してしまったこともある」

 あの頃は時空童子の力には目覚めておらず、緋焔童子であった。

1000年たった今でも、忘れられない罪、重い罪。

「人間と敵対する道を選んだものから、何度も誘われた。中には兄のように慕ってた奴もいた」

 外道丸、血の繋がりは無くとも彼は兄。人間との共存か敵対かで袂を分かった親友にして、家族。

 再会を果たした時、外道丸は酒呑童子になっていた。それだけ、外道丸は人間の闇の部分に触れてしまったのだ。

「憎しみは憎しみしか生まない。1000年、世界を見回して、俺が知ったことだ。だから、俺はこちら側にいる。今も、これからもな」

 長い月日、生き抜いてもその思いは変わらない。

 そうと小さな声で、泉は呟いた。

「さぁ、止めを刺しなさい。勝者の権利よ、ただ……」

 何とか動く顔で、司狼を見る。

 時空童子となった司狼は恐ろしかった、それなのに、どこかしら、色っぽさ、艶やかな美しさを持っている。

「隠忍こと、あなたのことが小説に書けないのが、心残りね」

 その時、司狼、泉と共にグラウンドに、現れた新たなる気配に気が付く。

 

 立っていたのは喫茶店『あんていく』の店長の芳村。

 何も言わず、司狼の前を横切ると、倒れている泉を担ぎ、お姫様抱っこ。

 司狼に一礼してから、グラウンドを去る。

 

 後は追わなかった、転身を解き、人の姿に。

 

 お姫様抱っこされた泉。

「お父さん……」

 それだけを呟き、意識を失う。

「エト……」

 芳村もそれだけを呟く。

 

 

 

 時空童子と『隻眼の梟』が戦ったグランドから、少し離れたビルの屋上。

 この場所からはグラウンドを一望できる。

 

 ここにはニコを始め、ピエロのマスクの宗太。タトゥーとピアスをしたウタ。胸の大きなイトリに、小柄な女性のロマ。皆、『ピエロ』の喰種。

 全員が双眼鏡を手にして、先ほどのバトルの一部始終を見学していた。

「すごい……」

 まだ体の震えが止まらないロマ。

「あれが、最強の隠忍、時空童子ね」

 少々、興奮しているイトリ。『ピエロ』の情報網を駆使して、時空童子が最強の隠忍であるという伝説を突き止めた。

「素敵な子ね。変身前は可愛いけど、変身後はイカスわね。是非ともウチに欲しいわ」

 ニコの台詞を司狼が聞いたら、さぶいぼが立つに違いない。

 

 『アオギリの樹』連敗の情報を喰種世界に流し、襲撃するように仕向け、また、捜査官狩りを行うように誘導したのは『ピエロ』の策略。目的は『アオギリの樹』の弱体化と、この状況。

 理想的だったのは司狼と『隻眼の梟』との共倒れだったが、それ以上の成果を得た。

 『CCG』も狙っている司狼。それを手に入れることが出来たなら、世界そのものも手に入れられることも夢ではない。恐れるものなどないだろう。

「最後に笑うのは『ピエロ』(ぼくら)だよ」

 そう言って、手にした眼球をウタは頬張る。

 

 

 

 『ピエロ』は知らなかった、過去、何度も時空童子の力を求め争い、戦が巻き起こった。人のみならず、妖魔や神さえも争ったことを。

 

 




 司狼くんの転身は緋焔童子ではなく、時空童子なので、オリジナルのデザインにしております。
 芳村と高槻泉の話は、原作とは逆の展開にしてみました。

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