東京喰種√ONI   作:マチカネ

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 司狼と『CCG』カネキたちVS『アオギリの樹』の戦い。


第四章 共闘

 喰種捜査官がいると気が付いた時には遅かった。慌てるトーカ。

「この子はライバル店の店員でね、うちの子や神奈も偵察に行ったこともあるし、その子も偵察に来たことがある彼氏を連れてね」

 芳村が助け舟を出そうとするより、早く、動いたのが鈴鹿。

 トーカは顔を赤くした。カネキも同じ顔の色。

「神奈はうちの店員で、司狼の裏の仕事を知っている。それでいて、ちゃんと、バイトに来てくれているんだ」

 

 トーカは事情を説明する。浚った相手がアヤトだと言うことは隠しておいた。噂で聞いた『アオギリの樹』のマスク、ドクロの仮面を被っていたと誤魔化す。

 

 話を終えたトーカを鈴鹿は帰した。

 『CCG』としても、これ以上、巻き込むわけには行けない。後日、話を聞くかもしれないと念押し。

 部外者と言う理由で、芳村とカネキは店から出ていかされた。

 

「状況からして、浚ったのは『アオギリの樹』だろうな」

 篠原の分析は正しい。『CCG』でも11区は『アオギリの樹』に占領されていることは掴んでいる。

「何て奴らだ! 人質を取るなど、卑劣な真似を」

 亜門は憤りを隠せない。正面から報復に出たが、返り討ちになり、こんな卑劣な方法を実行してきた。喰種捜査官としてだけでなく、亜門鋼太郎として。

 無言で司狼は店を出て行こうとする。その肩を亜門は掴む。

「これは罠だぞ、みすみす死にに行くようなものだ」

 手を振り払う。

「神奈を見殺しには出来ない」

 2度と出来ない。

「止めるつもりはない、俺も一緒に行く」

 亜門の顔を見る司狼。その顔は本気、目には闘志が宿っていた。

「でも」

 相手は神奈を人質にしているのだ、下手のことをしたら、大変なことになってしまう。

「『アオギリの樹』の要求は『大通連』を持ってくるなだけだよ。1人で来いとは行っていない」

 確かに篠原の言う通り、トーカの話では1人で来いとの指示はなかった。

「私たちは喰種捜査官だよ、市民を喰種から守るのが仕事なんだ。司狼君が気にする必要はない」

 例え、反対されても助けに行く覚悟が出来ている篠原と亜門。

 そんな2人に、お辞儀をして感謝の意を記す。

「さて、11区で私と亜門、司狼君の3人で『アオギリの樹』を相手にするのは自殺行為だ。戦略を立てる必要はあるな」

 指定された時間は、午前零時。まだ、余裕はある。

 篠原は携帯を取り出した。

 

 

 

 喫茶店『あんていく』の裏口が開く、そっと出てくるトーカ。動きやすい服装に着替えている。音をたてないように注していたのだが、

「一人で行くつもりなの、トーカちゃん」

 いつの間にか、カネキが後ろに立っていた。

「神奈を浚ったのはアヤト、あたしの弟だ。もっと、あたしが、しっかりしていたら、浚われずに済んだ。それにあいつはあたしが喰種だと知っても、態度を変えなかった」

 責任を感じているトーカ。このまま、黙っていることの出来ない性格。

 カネキの手には面当てと眼帯を合わしたようなマスク。

「何を考えているんだ」

 カネキも戦う決意をしている。喰種がマスクを着用するときは、捕食の時か戦闘の時。

「トーカちゃんを1人で行かせることは出来ない」

 止めてもトーカは止めない。そしてカネキも止めても、一緒についていく。

「ヘタレのくせに」

 口では、そう言っているが嬉しそう。

 

 2階の窓から2人を見ている芳村、その横には四方。

 

 

 午前、零時、司狼は篠原、亜門と共に11区の廃団地へやってきた。

 鼻と口だけにマスクを被った男、タタラ。大きな唇が描かれたマスクのノロ。ピエロのマスクのニコ。上半分のマスクと×印の付いたマスクの2人は瓶兄弟。全身包帯を巻いた女性、エト。そして黒いウサギの面を被ったアヤト。

 この6人が『アオギリの樹』の幹部。

「ラビット?」

 亜門の上司と部下の仇はウサギの面を被った喰種、『ラビット』あの時は白いウサギの面だったが。

 亜門は知らない、実際に上司の真戸と部下の草場を殺したのはトーカ。今、目の前にいる黒いウサギは弟のアヤト。

「白鳩を連れてくるとは、こいつの命はいらないのか」

 黒ウサギの面のアヤトが、簀巻きにされている神奈を付きだす。口には猿轡。

 喋ることは出来ないが、神奈の目は司狼を信頼している。

「貴様!」

 卑劣な行為に、今にも飛びかかりそうになる亜門。

「落ち着け、亜門」

 一括、篠原が止める。

「勘違いしないように断っておくが、彼が喰種捜査局に知らせたわけではないぞ。私たちも彼がONIだと、掴んでね。それを確かめに訪れているときに誘拐の知らせを聞いた。喰種捜査官としては黙ってはいられなくてね。そもそも、1人で来いとの指示はなかっただろう」

 篠原の言う通り。『アオギリの樹』側もONIが仲間を連れて来たら、仲間ごと殲滅する計画も立てていた。

 周囲にはドクロのマスクを被った喰種たち。包囲している喰種の数も前回の倍。

 タタラ、ノロ、瓶兄弟、ニコ、アヤト、エトの幹部、さらに『大通連』も持っておらず。

 おまけに『アオギリの樹』には人質と言う切り札まである。

 

 篠原と亜門は手ぶらではない、クインケを持って来るなとは言っていなかったので、しっかりと持ってきていた。

 おまけに篠原のコートの襟には盗聴器が仕込んである。

 

 少し離れた場所に、丸手率いる喰種捜査官の部隊が潜んでいた。

 篠原から連絡を受け、急遽、召集をかけた面々。

 今も盗聴器から聞こえてくる状況を把握し、分析している。

『そこに隠れているのは誰?』

 盗聴器から、そう聞こえた時、自分のことを言われたと思って丸手はドキッとした。

『出てきなさい、2人とも』

 それで自分ではないと解る。ここにいるのは部隊であって、2人ではない。

(俺たちの他に侵入者。誰なんだ?)

 

 

 

 エトに言われ、物陰から出てきたのは右目の部分に眼帯を当てた面当てを被った男性と眼帯とインコの面クを被った女性。どちらも若そう。

「『眼帯』何しに来た……」

 亜門が会って話したいと思っていた相手の登場。ただし、それを許す状況ではない。

「彼には借りがあるんだ」

 『眼帯』の視線の先には司狼。司狼は無言。

 インコの面を被った女性と黒ウサギの面のアヤトの目が合う。

(馬鹿姉貴)

 アヤトの呟きは、小さすぎて本人にしか聞こえなかった。

 

 突然、現れた『眼帯』カネキとインコの面、トーカは、亜門たちの敵ではない。むしろ味方である、それは尋ねるまでもない。

 トーカがインコの面に変えたのは、以前のウサギの面なら、亜門に仇とばれ、ややこしくなるから。

 

「一つ、いいことを教えてやる。君たち喰種の出自を」

 周囲を包囲され、今にも戦闘が始まりそうな空気の中、おもむろに司狼が口を開く。

「時間稼ぎはさせない」

 司狼の話を無視して、タタラは攻撃の指示を出そうとした。

「知りたくないのか、何故、喰種が生まれたのか、どうして、喰種は人肉しか食べれないのか。俺は知っている、その理由を」

 時間稼ぎのためのハッタリとは篠原も亜門も思えなかった。喰種たちの中にも、動揺が走ってゆく。

 カネキとトーカも知りたいと思った。

「アタシは知りたいわね。ほんとな知っているならね」

 ニコだけではない、無言だがノロも知りたそうな素振りを見せている。

 すぐにでも攻撃の指示を出さなくてはいけない。頭では分かったいるのに、タタラは出せない。

「1000年前、平安時代にオニという種族がいた」

 許可を得てはいないのに語り出す、誰も司狼を止めない。

「鬼? 桃太郎のか」

 口を挟んだのはトーカと、

「酒呑童子のこと?」

 エト。酒呑童子の名に司狼の表情に悲しみが浮かぶ。それに気が付いたのはカネキと亜門と、エトだけ。

「その頃は鬼火の鬼ではなく、隠れ忍と書いて、隠忍(おに)と名乗っていたんだ。鬼ではなく、隠忍と」

 鬼は1000年前では隠忍と名乗っていた。ここにいる誰もが、聞いたことのない。

 沢山の本を読んだカネキ。いままで、鬼の登場する本は何冊も読んだが、元々、鬼は隠忍だったとは、書いてはいなかった。

「伝説通り、隠忍は強力な力、頑丈な身体を持っていたし、神通力も使えた。でも争いは好まない性格で、隠忍は人と争はないように、富士の樹海の奥に村、隠れ里のしじまの里を作り、そこに結界を張って、自給自足の細々とした暮らしを送っていた」

 自殺の名所である富士の樹海。1000年前には、その奥に、隠忍たちの隠れ住む、村があった。

「何故だ? 何故、強い力を持っているのに、そんな生活を送っているんだ。それだけの力があれば、簡単に人間世界を支配で来たんじゃないのかよ」

 力こそ正義、その理念の『アオギリの樹』に入ったアヤト。幼い頃、人間に迫害されたアヤトは、力があるのに使わないことが信じられない。

「その頃にも、人に危害を加える隠忍はいることはいた。ただ、それは、ごく少数。殆どの隠忍は争うことは好まなかったんだ」

 本当に強い力を持っているからこそ、そんな習性を持ったのかもしれない。

「その頃の日本には、隠忍以外にも魔物がいて、人に危害を与えていた。そんな魔物を退治するものたちは必然として現れたんだ。それが退魔士」

 司狼も退魔士、ONIと名乗る、現代の退魔士。

「退魔士たちの中には組織を作るものもいて、その中で、最大、最強の組織が五行軍。民衆にとって、希望であり、正義の象徴だった」

 昔、退魔士がいた。その話は篠原も亜門も聞いてはいたが、組織の話は初耳、和修局長も話さなかった。和修家に伝わってはいなかったのか、それとも、あえて言わなかったのか。

 司狼の話は続く。

「ある日、隠忍の3人の子供の悪戯で、結界は壊れてしまい、タイミングの悪いことに五行軍が、近くでしじまの里を探している最中だった」

 もう誰も司狼の話を止めようとしない。最初に止めようとしたタタラも黙って聞き入っている。

 誰も時間稼ぎの作り話とは思ってはおらず、真実の話と確信。

「結界が解けたことで、五行軍の襲撃を受け、しじまの里は壊滅した」

 そう話す司狼は辛く、悲しそうであった。まるで、それを見てきたように。

「どうして? 隠忍は人と争わなかったんでしょ。なのにどうして、五行軍は村を壊滅させたの?」

 その疑問を口にしたのはカネキ。亜門も口にはしなかったが、同じ疑問を持った。

 何故、無害な隠忍の隠れ里、しじまの里を五行軍は滅ぼしたのか。

「そんなの決まっているじゃないか。五行軍、人間にとって、隠忍だろうが、化け物だろうが、皆、人間の敵なんだよ。あんたたちも、そう思ってんだろ」

 答えたのは司狼でなく、トーカ。亜門は反論しようとしたが、篠原に止められた。

「しじまの里の生き残りは、それでも人間と共存する道を選んだものと、人間に報復する道を選んだものに別れた。報復の道を選んだものは文字通りの鬼となり、伝説に登場する鬼ように、人を襲い、中には取って喰らうものも現れた」

 人間に隠れ里を滅ぼされても尚、敵対することを望まなかった隠忍もいれば、逆に復讐の道を選んだ鬼。

「隠忍を鬼に変えたのは人間だったんだ……」

 カネキの言葉は人間には重い。篠原や亜門だけでなく、盗聴器を経て、聞いた要る丸手たちも。

 元人間だったカネキは、なお重く受け取る。隠忍の記述する本がないのも、それが原因かもと、考えもした。

「なるほど、我々、喰種は報復の道を選んだ鬼の子孫ということか」

 喰種の出自を教えると言った司狼。タタラはそれが答えだと判断。

 しかし司狼は首を横に振る。

「喰種の祖先は五行軍だ」

 

 人を取って喰らうようになった鬼ではなく、真逆の五行軍。よりにもよって、魔物を狩る最大組織が、喰種の出自とは、話を聞いていたもの全員の予想外。

 言い間違えたのかと思ったものもいたが、言い直さないところを見ると、間違えではない。

「どうゆうこと、魔物を退治する正義の味方の五行軍が喰種の先祖なんて?」

 一番、落ち着いていたエトが、全員、共通の疑問を尋ねる。

「五行軍の中にも、魔物や隠忍を退治すれば、みんなが平和に暮らせるようになる。自分たちのやっていることは正義の行いだと、信じている退魔士はいた。しかし五行軍の真の目的は別にあったんだ」

 ここでカネキの方に視線を向ける。

「君が言った。隠忍は人と争わなかったのに、何故、五行軍は壊滅させたのか……」

 先程、カネキの言ったこと。『どうして? 隠忍は人と争わなかったんでしょ。なのにどうして、五行軍は村を壊滅させたの?』

 それに対して、トーカは『そんなの決まっているじゃないか。五行軍、人間にとって、隠忍だろうが、化け物だろうが、皆、人間の敵なんだよ』と答えた。

「五行軍の目的は、魔物を退治して、平和をもたらすことじゃない。魔物を喰らうことなんだよ」

 一瞬、静まり返った。正義の味方のはずの五行軍の真の目的が魔物を喰らうこと。

「本当ことなのか」

 投げかける亜門の言葉には怒りがこもっている。

 『CCG』を正義と信じている亜門。話を聞いているうちは五行軍に対して、同じような思いを持っていた。五行軍も正義だと。

 それが、今、ひっくり返されてしまったのだ。

「魔物を喰らえば、その能力が身に付く。魔物の強靭な体や運動能力、老いは停滞し、寿命も延びる。強い魔物を喰らえば、より強い力が身に付いた。五行軍は魔物を退治して、表では平和をもたらすと言いながら、裏では魔物を貪り食ったんだよ」

 それが無害だったしじまの里を襲撃した、本当の理由。人と争うことを嫌った隠忍が鬼になるのも無理はない。

「でも魔物喰らいには、落とし穴があった。大きな落とし穴がね」

 

 

 

 

 丸手たちも話を聞いていた。胸くその悪い話だ。

「魔物を喰えば強くなれるのですか~。もしかしたら、喰種を食べたら、僕も強くなれるのですかね」

 話を聞いていたジューゾーがとんでもないことを言い出した。妙にはしゃいでいる。

 こいつなら、やりかねない。『CCG』の捜査官はそんなことを思ってしまう。

「黙って、聞いてろ。落とし穴があるっていっているじゃねぇか」

 篠原がいれば、もっと、うまく叱れるのにと、考えつつ、丸手は続きを聞く。

 

 

 

「魔物の肉を食べたものは、それが、ほんの小さなかけらでも、一度、口にしてしまえば、魔物の肉を食べ続けなければならなくなる。怠れば、凄まじい飢餓状態に陥り、苦しんで死に至る。強い魔物を喰えば強い力が身に付くが、強い魔物を喰わなければ、飢えは癒せない。力を求めた結果、餓鬼道に堕ちた」

 言葉の中に、怒りがこもっていた。そのことに気が付いたものは少ない。

「五行軍が無作為に喰い続けたことで、魔物の数は激減した」

 今、喰種以外に魔物と呼ぶべきもの見当たらないのは、それが原因。

 凄まじい飢餓状態。『アオギリの樹』の喰種たちの中にも、それを味わったものたちはいる。

 カネキも味わった。飢餓状態に陥ったカネキは自我を失い、親友の英良を喰おうとした。トーカが止めてくれていなかったら、カネキは一生、苦しみ、後悔していただろう。

「しじまの里の生き残りが頭目を倒したことと、魔物喰いのために五行軍は滅んだ。魔物を喰った奴らは、皆、死んだ。第一世代は……」

 直接、魔物喰いを行った連中は、皆、死んだ。正義の名を騙り、そのような畜生なことを行った報いだ。亜門はそんな思いを抱いた。正義感が強い分、正義を汚した行為が許せない。

 亜門だけではない、篠原や盗聴している丸手たちも、似た思いを持っていた。

「魔物喰いを行ったものたちの子供たち、第二世代にも力は残っていて、そして飢餓の体質も引き継いでいた。第二世代からは捕食対象にしたのは人間だ」

 ふ~んと呟くエト。

「生存本能かしら、親から受け継いだ魔物喰いの体質。でも、魔物はいなくなっちゃったから、そこで代わりに人間を捕食対象にしたのね」

 カッコウの托卵。カッコウは自分で子供は育てない、他の鳥の巣に卵を産み、育てさせる。

 カッコウの雛は、どんな鳥の雛よりも、早く孵る。いち早く生まれた雛が、一番、最初にすることは他の卵を巣の外に捨てること。

 こうして、育ての親を独り占め。

 親鳥は自分の雛を守るため、自分の卵ではないと気が付くと、卵を巣の外に捨ててしまう。

 そこでカッコウは托卵する巣の卵とそっくりの卵を産むようになった。

 カッコウは子孫を残すため、短期間でそんな能力を身に着けた。これこそが生存本能。

「喰種は魔物喰いの子孫。代を重ねるうちに人肉しか喰えなくなってしまった。強靭な体や力も引き継いでいるがな。何故、コーヒーは飲めるかは解らないらないけど」

 親の因果が子に報うと言うが、1000年前の業が今の世にも伝わってきてしまっている。

「よく解った」

 タタラは作り話だとは思ってはいない。しっかりと話を飲み込み分析して、真実の話と判断。

「では聞こう、何故、君はその話を知っているのだ?」

 タタラが投げかけた言葉。『アオギリの樹』でさえ、掴めなかった話。『CCG』も知らなかった話。それを、何故、司狼は知っているのか。

「俺は人との共存を選んだ隠忍と人間のハーフだ」

 

 

 

「冗談じゃないぞ、こりゃ」

 聞いてしまった話に困惑しながら、丸手は頭を掻く。

「いいな、テメーら、今、聞いた話は誰にも話すんじゃねぇぞ」

 喰種の出自だけでも、最重要機密に相当する話なのに、隠忍と人間のハーフまで現れた。

 『CCG』の捜査官なら、言われるまでもなく、今、聞いた話を口外できないことは心得ている。

「そうなんですか、食べちゃったら、大変なことになるのですね。食べない方がいいです」

 一名を除いて。

「オイ、ジューゾー。特にお前だ!」

 丸手からの叱責を、しれっと受け流すジューゾー。

 

 

 

「隠忍と人間のハーフか。それで、あんなに強いんだね」

 司狼に対して、かなり強い興味をエトは示す。

「それじゃ俺らは五行軍の子孫で、お前は共存を選んだ隠忍の子孫ってことか……」

 神奈を人質にとったままのアヤト。

 司狼は沈黙、何も答えない。

「お前は人間が憎くはないのか?」

 尋ねるタタラの瞳に、人に対する憎しみを煽り、こちら側に引き込もうとする策謀が見える。

「憎しみは何も生み出さない。第一、1000年前の恨みを、今頃、晴らしても、仕方がないだろ」

 憎しみは何も生み出さない。司狼の言葉の中で、このセリフはトゲとなりトーカとアヤトの心に刺さる。そして亜門にも。

「そうか、なら話はここまでだな」

 引き込めないのなら、邪魔になるだけ。今度こそ、タタラは一斉攻撃を仕掛けようとする。

 アヤトは抵抗すれば、神奈の命はないことを表し、脅しをかけてきた。

 何としてもトーカは、アヤトの元へ向かい神奈を助け出そうと身構える。

 躊躇する余裕はない、早々に間合いを詰めないと、あっという間に周りを取り囲まれてしまう。

 カネキは、トーカは全力でサポートするつもり。

 篠原と亜門も、いつでもクインケを抜く体制。

 

  突然、アヤトの真横に何かが飛び下りてきた。

 一体、誰が飛び下りてきたのか、確認するまもなく、ぶん殴られるアヤト。

「いっぱしの男の子が、女の子を人質に、するなんて情けないことするんじゃないよ」

 いきなり飛来してきた鈴鹿。かなり高い場所から飛び下りてきたのに、平然としている。

 『アオギリの樹』の喰種たち、幹部たちも、状況を飲み込むのに時間が掛かり、反応が遅れる。

 その隙に片手で簀巻きにされた神奈を担ぎ上げた鈴鹿。

 

 司狼たちが『アオギリの樹』を引き付けている間に、鈴鹿が乱入して、神奈を助け出す。

 こんな作戦を考え出したのは、もちろん、鈴鹿本人。誰にも反対させる余裕すら、与えなかった。

 

 

 

 片手で神奈を担ぎ、もう片手には『大通連』が握られている。駆け出し、司狼たちの元へ。

「そいつを逃がすな」

 タタラの命で、襲いかかった喰種たちは、一瞬にして吹っ飛ばされてしまう。

 すれ違いざまに、

「司狼、受け取りな」

 『大通連』を渡す。

「店で美味いもん、用意して待っているからな。早く帰って来きな」

 それだけを言い残し、神奈を担いだままダッシュ。後を追った喰種たちは、ことごとく、素手でフルボッコ。

 

 これを合図にカネキとトーカは赫子を出し、篠原と亜門はクインケを展開。

 

 

 

「突撃ィ!」

 丸手が突撃を命令。

 今まで潜んでいた、捜査官たちは廃団地に雪崩れ込む。

 

 

 

 『CCG』VS『アオギリの樹』は混戦となる。攻と防の戦いではない、攻対攻の戦い。撃ち合う、クインケと赫子。

 

 一進一退の戦場と化した廃団地に、えらく強い喰種、瓶兄弟が参戦してきた。

 自身が強いうえ、指揮能力にも優れていて、喰種が攻勢に出る。喰種たちの士気も高まり、捜査官が、次々に倒されていく。

 優れた指揮官が指導すれば、隊、そのものの戦力がレベルアップする。

 でかい刃物型のクインケ、クラを構えた亜門が瓶兄弟の前に立ち塞がった。このクインケは真戸の形見の品。

 いきなり、攻撃を仕掛ける瓶兄弟。2人の攻撃をクラで受け止め、身を反らすことで、ダメージをやり過ごす。

 今度は二点同時攻撃を仕掛けてくる。一方の攻撃を受けたり、躱したりしても、もう一人が死角から攻撃を仕掛ける。この連携プレイで、多くの捜査官を瓶兄弟は葬ってきた。

 瓶兄弟が、今にも攻撃を与えようとした時、クラが真ん中で割れ、二刀に分離。

 クラを重量が取り柄の武器だと、見くびっていた瓶兄弟に、対応できる余裕はなかった。

 

 切り捨てられた瓶兄弟。指揮者を失った喰種たちの統制が乱れる。捜査官は一気に巻き返す。

 

 意気揚々とジューゾーはナイフ形のクインケ、サソリで喰種を切り刻む。

 遠隔から、攻撃しようとした喰種の顔面にサソリが何本も突き刺さった。

 ジューゾーの服の下には、まだまだサソリが仕込まれている。

「さて、次に切り刻まれたいのはだけですか~」

 微笑みながら、サソリをかざすジューゾーに、喰種たちは怯えた。

 

 

 

 

 トーカが攻撃、カネキが防御、それぞれをサポートしながら、戦っている。

 見事に息があっていて、敵を、どんどん蹴散らしていく。

 予想していなかった位置から、カネキ目がけての攻撃、奇襲。

 トーカの防御に専念して、自身の防御にまで気を回していなかった。『アオギリの樹』の喰種と戦っているトーカは助けに向かえない。

 やばいと思ったのもつかの間、カネキに攻撃してきた喰種が倒れる。

 そこに立っていたのは、カラスのマスクを被った体格のいい男。カネキもトーカも、彼が四方だと解ったが、喰種捜査官がいる前で、それを口にはしない。

 

 

 

 不利な情勢と悟った『アオギリの樹』の幹部たちは、撤退を開始。それに気が付いた捜査官たちは後を追おうとした。

 そうはさせないと、喰種たちが道を塞ぐ。

 このままでは逃げられてしまう、そう思った時。

「おぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 二刀のクラを振り回し、立ち塞がる喰種たちを倒していく亜門。他の捜査官たちも彼に続いた。

「篠原さんたちは、奴らを追ってください」

 篠原たちは、後ろ髪を引かれるような思いはあったが、亜門たちが喰種を抑えている、今しか追撃できないと、幹部たちを追うことにする。その決断の裏には、亜門たちなら、しのぎ切れるとの信頼があった。

 

 次々と喰種を仕留めていく司狼。流石の『アオギリの樹』の喰種たちも恐れ始める。

「これが隠忍の力……」

「あの話は本当なんだ……」

 隠忍などの魔物の肉を食べ、餓鬼道に堕ちたものの子孫の自分たちと、隠忍と人間のハーフの司狼、濃さが違う。

 敵わない。そう言い残して、逃げ出す喰種たち。

 ふと、見れば逃げた幹部たちを追う、篠原たちの姿が見えた。

 

 

 

 逃げた『アオギリの樹』の幹部たちを追う篠原たち。篠原の他に、特等捜査官の黒磐巌(くろいわ いわお)名は体を表すと言った典型的な姿。上等捜査官の平子丈(ひらこ たけ)は村人、その2のような顔をしているが『CCG』最強と言われている亜門とコンビを組んでいた。その実力は本物。その他、大勢の捜査官。

 窓を突き破り、朽ちた廊下に、何かが立ち塞がる。咄嗟に距離を取ったのは、実戦経験のなせる業か。

「あの時、私の両腕を奪って行った青年は、今日はいないのか」

 そこに立っていたのは『隻眼の梟』と呼ばれ、SSSレートに認定される、最強最悪の喰種。

 今まで何度も『CCG』と戦い、多くの捜査官の命を奪った。一度は黒磐が重傷を負いながらも、致命的な一撃を与えたものの、復活。

 10年前の戦いで有馬が撃退。

「な~んで、こんなところで出ちゃうかな―」 

 篠原は溜息を漏らす。

 

 『梟』出現の一報は、外で指揮を取っている丸手にも届く。

「間違いないんだな?」

 間違いであって欲しいとの願いは叶わなかった。

「死んでもいい、優秀な奴だけ、残し、他は撤退させろ」

 それが丸手の出した決断。有馬が居ない以上、犠牲は最小限に抑えたい。

『亜門たちなら、私たちを送り出すため、足止めしてくれたよ』

 今いるメンバーで挑む、それが篠原の返事。そして、希望はある。

 

 篠原と黒磐はクインケ、アラタを着込む。

 アラタは全身を包む、鎧型の強力なクインケだが、装着者の血肉を喰らうわせることでパワーアップさせることが可能。非常に取り扱いが困難。ここぞと言うときにしかね使わない、そして、今が、ここぞと言う時。

 

 篠原と黒磐が前線に出て、平子たちは後方でサポート。平子たちの戦闘力を見くびっているわけではない、相手が悪すぎるのだ。

「こいつ、赫者って話だな、篠原。さっきの話、覚えているか?」

「ああ、共喰いを繰り返すと赫者になるか……」

 共喰いを繰り返すと、身にまとうような赫子を扱うようになる。そうなった喰種は強力。2人が身にまとっているアラタも赫者の赫包から、作られたクインケ。

 司狼が言っていた話。魔物を喰い、その能力を身に着けた五行軍が喰種の先祖なら、子孫が同じように喰種を喰えば強力になるのも、説明が出来るかもしれない。

 現に『CCG』の特等捜査官で、多くの強力な喰種を討伐してきた、篠原と黒磐の2人がかりでも、押されている。2人とも何とか致命傷になる攻撃を避けている程度。

 このままでは危ない、自分たちが倒れれば平子たちが犠牲になる、篠原と黒磐がアラタに血肉を喰わせ、パワーアップを図ろうとした時、廊下の向こうから、誰かが走ってくる。『大通連』を抜いた司狼だ。

 何か感じるものがあったのだろう、篠原や黒磐たち捜査官を無視して、『梟』は司狼、ただ一人に向かう。

 放たれる羽赫を『大通連』の一凪で払い、返す剣で斬りかかる。

 右肩から出現した赫子で受け止めるものの、その勢いに後退った。

 『梟』の腹に司狼の蹴りが炸裂。

 蹴っ飛ばされた『梟』は動じることなく、両肩の赫子を巧みに操り、司狼に連続攻撃。

 全ての連続攻撃を凌いでみせる司狼。

 捜査官たちは、口々に『すごい』を連発。

 10年前、有馬と『梟』の戦いを間近で見た篠原は、あの一騎打ちを思い出す、あの時の光景を彷彿させた。

 一撃を受けた司狼が、体勢を崩す。

 生まれた隙を見逃すほど、『梟』は甘くない、更なる追撃を与えようとした。

「召雷!」

 掌から放たれた雷が『梟』を打つ。

 ふら付いたものの、『梟』は倒れなかった。そのまま、踵を返し、別の窓を破って逃亡。誰も後を追おうとはしなかった。

 

 

 

 残った喰種たちは、全員、片付けた。残るは『眼帯』たち、3人のみ。捜査官たちは『眼帯』とインコとカラスを取り囲む。

 戸惑う『眼帯』に、戦う気、満々のインコ、平然としているカラス。

「やめろ」

 亜門が止める。

「どうしてですか、亜門一等」

 1人の捜査官が抗議。今なら、確実に仕留められるのに。

「この数の喰種、俺たちだけでは倒しきれなかった」

 辺り一帯に倒れている喰種たち。確かに亜門の言う通り、この数の喰種と戦ったなら、本来、『CCG』側にも、多数の犠牲者が出たはず、それが少ないのは『眼帯』たちのおかげ。

「今日は敵ではない、行け」

 インコのマスクのトーカが食って掛かろうとしたが、カラスのマスクの四方が止めた。

 四方が一礼して、廃団地から出ていった。カネキも一礼して続く、トーカ一人だけが、ふてくされて出て行った。

 

 

 

 アラタを外し、その場に座り込む篠原と黒磐。強力な分、肉体に掛かるダメージが大きい。

 平子たちが応急処置を施す、幸い、軽傷で済んでいる。

「司狼くんもだったね」

 応急処置を終えた平子は、1人で窓辺に立っている司狼に話しかけた。

「どうして『梟』と本気で戦わなかった?」

 これに捜査官たちは驚く。さっきの戦いが本気ではなかったなんて。

 篠原も黒磐も、そのことに気が付いていたが、何か考えがあっての事だろうと黙っていた。

「殺気が無かった。あの『梟』も本気じゃなかったから」

 言われてみれば『梟』の力は凄まじい。でも、誰一人、死んだ者はいない。篠原と黒磐が前線で戦ってくれていたとはいえ、あの『梟』を相手にして、確かに犠牲者が1人も出ていないのは、本気ではなかったと言わざる得ない。

 殺気もなく、本気を出していない相手と本気では戦えない。それが司狼。

 

 黒磐は『梟』が出て行った窓を見つめている。

(儂が戦った『梟』は、もう一回り大きかった気がする……)

 

 

 

 瓶兄弟以外の幹部は取り逃がしたとはいえ、『アオギリの樹』と戦って死者は少数で済んだ。『梟』と交戦して、アラタを使った篠原と黒磐以外、けが人が居なかったという、功績は大きい。

 これも司狼のおかげと言わざる得ない。

「こりゃ、ますます、欲しい逸材だな」

 丸手はクインケを嫌う。司狼はクインケを使わずに、『梟』と互角の戦いを行った。

 

 

 

 




 隠忍と東京喰種のクロスオーバーを書こうと思ったのは、この設定を思いついたからです。

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