普通に面白いゲームだったので残念。
ONI零の主人公の名前は司狼丸ですが、現代風に時津司狼にしています。
本日、金木研(かねき けん)は喫茶店『あんていく』の店長、芳村(よしむら)に連れられ、行きつけの仕入先に来ていた。
まだ『あんていく』に来て、間もない金木に、芳村は、ここで基本的な豆の選び方を教えるつもり。
「カネキ君、このコーヒー豆は良質ですから、覚えておいて損はないですよ」
芳村が豆の入った袋を取ろうとした時、同じ豆に手を伸ばす、赤毛の少年。棚の高い位置にあるため、一生懸命、背伸び。
「これは司狼君」
「ああ、芳村さん」
赤毛の少年はぺこりと挨拶。
「相変わらず、司狼君は、歳の割には目利きだね」
豆の入った袋を取って渡す。
「まだまだ、母ちゃんや芳村さんにはかないませんよ」
言ってから、袋を受け取り、お礼。
「あの、店長、彼は?」
取り残されている金木。赤毛の少年とは初対面。
「ああ、彼は時津司狼(ときつ しろう)君と言って、喫茶店『天地丸』の子だよ。母親と2人で店を営んでいる」
赤毛の少年、司狼を紹介。
そういえば『天地丸』はコーヒーと紅茶が評判の店(ライバル)だと、トーカちゃんたちが話していたことを思い出す金木。
「俺、時津司狼です。よろしく」
自身も紹介し、手を差し伸べる。
「金木研です。こちらこそ、よろしく」
手を掴み、握手。
「司狼君、暇なときにウチに来てくれるかい。美味しいコーヒーをご馳走するよ」
優しい笑顔の芳村。ライバルであるはずの司狼を店に招待。
喫茶店『あんていく』で金木はバイト中、今日も芳村の教えられた通り、コーヒーを淹れている。始めのころに比べれば、随分、上手に淹れれるようになった。
『あんていく』に来る客は人間だけではない。喰種(グール)も訪れる。
人間社会に潜み、人を捕食する喰種。
この『あんていく』に働く者たちは、皆、喰種である。
無残に人を喰い殺す喰種もいる。しかし『あんていく』で働く、喰種たちは人間との共存を願う喰種たちだ。
金木はリゼと言う名の喰種の臓器を移植され、半喰種になってしまった青年。
喰種は人肉以外、口には出来ない。それ以外の食べ物は、全部、不味く感じ、無理に食べれば吐き気を覚え、飲み込めば体調を崩す。
そんな状態になり、苦しんでいるところを『あんていく』に救われた金木。
喰種が人肉以外で、口に出来るのはコーヒー。
『あんていく』は喰種同士の情報交換の場所でもある。
「なぁ、最近、喰種を狩っている奴がいるらしい」
常連の1人が恐る恐る口にした。
「白鳩(はと)じゃないのか?」
白鳩とは、喰種たちの喰種捜査官の呼び方。
喰種捜査局、略称『CCG』は喰種の捜査及び、駆逐を職務とする組織。喰種たちにとっての天敵。
喰種たちは赫子(かぐね)と呼ばれる捕食器官を体から発動させ、武器や防具として使用する。
その赫子の元となるのが、喰種の体内にある赫包(かくほう)。喰種捜査官は、倒した喰種から、この赫包を取り出し、対喰種用の武器、クインケを制作しているのだ。
「多分、違うだろう。見つかったのに見逃された喰種もいる。白鳩なら、喰種(おれたち)を見逃しはしないだろ。どうやら、狙った相手だけを始末している」
喰種捜査官は喰種を見逃したりはしない、見つかれば命はない。命を取られなくとも、喰種の収容所、コクリア送り。入った喰種は二度と、出られない、生きているうちは。
「見逃された奴の話だと、鬼の面を被っていたと」
「鬼の面? なら、そいつは喰種か?」
喰種は素性を隠すため、捕食するときにはマスクを着用する。
「いや、そいつは赫子を使わなかったそうだ。背中に大きな剣を背負って、そいつで斬った」
普段、クインケはコンパクトにできるので、アタッシュケースなどにしまって持ち運びする。態々、背中に背負ったりはしない。
「そんな大きな剣を使うからには、相当な筋肉質の大男だろうな」
「喰種を狩る相手。喰種でもない、捜査官でもないとしたら、誰なんだろう?」
洗ったコーヒーカップを磨きながら、疑問。
大学の先輩の西尾錦(にしお にしき)は喰種で、一戦交えたことがある金木。なんとか勝てたが、厄介な相手だった。
喰種にしろ、喰種捜査官にしろ、厄介な相手には変わらない。
「どっちでも、構わない。邪魔なら始末すだけだ」
『あんていく』の店員の霧嶋董香(きりしま とうか)は金木だけに、聞き取れる、小さな声で呟いた。
生まれながらの喰種である彼女は、敵には容赦はしない。喰種であれ、人間であれ。
金木の首筋が冷たくなった。
からん、ドアのカウベルが鳴って、来客が現れた。人間の来客、それに気が付いた喰種の客たちは、一斉に噂話を辞める。
「よう、金木。また来てやったぞ」
入ってきたのは金木の幼馴染みの親友、永近秀良(ながちか ひでよし)。
陽気な乗りで、席に着き、
「カプチーノ、トーカちゃん、また淹れてね」
手を振り、笑顔。
以前から、秀良は董香に気があるらしく。金木が移植手術を受ける前から、よく『あんていく』に来ていた。
早速、カプチーノを入れるが、淹れているのは董香ではなく、金木。前も同じように誤魔化したことがある。
董香が運んでやると、金木が淹れたとは気づかず、秀良は大喜び。
からんからん、またドアのカウベルが鳴り、新たな来客を告げる。
「こんにちわ」
入ってきたのは司狼。
「これは司狼君、よく来てくれましたね」
歓迎する芳村。司狼と金木は、顔を合わせると、お互い会釈。
「なんだ、金木。知り合いか」
カプチーノを啜りながら聞く。子供の頃から、秀良以外とは、あまり人付き合いの無かった金木。『あんていく』を除いて、秀良以外と親しくするのは珍しい。
「豆の仕入先であったんだ」
ふ~んと、言いながら、何とはなく、司狼を見る。何かを考えているのか、いないのか、解らない視線。見た目の軽さとは違い、秀良は、結構、鋭い。
「敵情視察来ました」
さらっと、そんなことを言いながら、適当な席に着く。
そのセリフに反応を示す、董香。金木の袖を引き、
「あいつ、誰なんだ」
耳打ち。
「店長が『天地丸』の子だって、言っていました」
喫茶店『天地丸』評判のいい店。『あんていく』のライバル。
「あのヤロー。敵情視察なんて言いやがって」
どんなコーヒーを淹れてやろうかと、悪だくみ。
「店長が招待したんですよ」
そんな董香の心情を察した金木。
突然、司狼は顔を金木と董香たちの方を向いた。
「金木さんも、その横の人と、今度、一緒に『天地丸』に来てくださいね」
笑顔を見せるが、心情は読めない。
「どうぞ」
芳村が司狼の前に、コーヒーを置く。
香りを確かめる、鼻孔を擽る、挽きたての豆の香り。豆の質が良いため、香りも良し、
まずは、一口。
「これは悔しいけど、美味しい。ウチも負けてられないな」
『あんていく』のコーヒーを飲み、司狼は闘志を燃やす。
「『マスクコレクター』ですか」
20区所属の喰種捜査官、中島は聞き返した。聞いたことのない名前だったから。
駆逐された喰種、696番の妻と娘を追って、本局からやってきた捜査官。上等捜査官の真戸呉緒(まど くれお)と一等捜査官、亜門鋼太朗(あもん こうたろう)の2人。痩せた真戸に対して、逞しい大男の亜門、対称的なコンビ。
彼らのターゲットは、696番の妻と娘以外にもあった。
「殺した喰種から、マスクを剥ぎ取っていく、それで『マスクコレクター』と呼ばれています。特徴としては喰種しか殺さないと言うこと」
亜門は『マスクコレクター』について分かっている情報を話す。
「そいつも喰種なんですか?」
眼鏡をかけた中島の相棒、草場が尋ねる。
「違うでしょうな」
確信、真戸は確信を持って、断言。白い手袋をした両手の指を絡み合わせる。
「どうして、解るんですか」
亜門の話からは『マスクコレクター』が喰種ではないと、断定は出来ていないのに、断言した理由を中島は気になった。
真戸上等捜査官と亜門一等捜査官は、凄腕のコンビだとの噂は、20区にも届いている。とくに亜門は、捜査官候補生の育成機関である、アカデミーを首席で卒業した。何か、いいアドバイスが聞けるかもと期待。
「勘だ」
始めは中島も草場も聞き間違いかと、思った。
相棒の亜門が初めて真戸と仕事した時も、同じ思いを持ったが、真戸の勘が凄いのは、経験して知っている。
「現場からは喰種の体液は、一切、検出されていません。さらに傷口も赫子で斬られたものとは違い。捕食された後も見当たりません」
真戸を補足。
喰種が喰種を喰らう、共喰いの報告は何度かある。縄張りや勢力争いの他に、共喰い目的で殺し合うこともある喰種。
「また、クインケで斬られた傷口とも一致しません」
もう一つ、付け加える。
喰種の皮膚は堅く、生半可な武器では傷つけられない。何とか傷つけることが出来ても、強い再生力で治してしまう。
さらに常人を上回る運動能力。捜査官でもクインケなしではやばい。
にもかかわらず『マスクコレクター』は喰種を退治している。
「一体どうやって……」
喰種退治のイロハを学んだ捜査官。草場は、いろいろ考えては見たが、赫子、クインケを使わずに喰種を倒す方法が思い浮かばない。
「本人に会うのが、一番、手っ取り早い」
もっともな意見を真戸が呟く。
確かにそれが、一番、手っ取り早い。
黒ずくめに緑色の無表情のゴムマスクを被った喰種。今夜の獲物を探して、夜の町を歩く。
元々は5区を縄張りにしていたが、『CCG』に目を付けられ、20区に逃れてきた。
ここは比較的、大人しいと聞いている。そのため、住人の警戒も薄く、捕食しやすいと読んで来たのだ。
曲がり角を曲がった先に、誰かがいた。獲物だ! そう考えて襲いかかろうとした。マスクに開いた穴から見える目が、赤く輝く。赫眼(かんがん)、喰種が戦闘、もしくは捕食の時に現れる現象。
月明かりに照らされた相手の異様な姿に、立ち止まってしまう。
両肩に大袖の付いた白いコート。体格からして少年。顔を覆っているのは赤い鬼の面。
《『ファントマ』か?》
『ファントマ』とは緑色のマスクのあだ名。声はボイスチェンジャーで変えている。
一瞬、噂の鬼の面かと思ったが、あの体格では、背中の剣が本物なら、重くて抜けないだろうし、動くことさえ困難。偽物なら喰種の体を傷つけることは無理。見た目で、大したことがない、噂は尾に鰭が付いだけと判断。
元来、喰種は人間を低く見る傾向がある。
『ファントマ』の尾骶骨の辺りから、蛇のような赫子が、うねりながら出現。
マスクの下の顔で笑みを浮かべながら、回転する赫子で鬼の面を貫こうとした。
背中の剣を一息に引き抜いた。その大きさをものともせず、軽々しく、簡単に。
「なっ」
信じられないと、驚愕する『ファントマ』の目の前で、大剣を振り、襲いくる赫子を切り刻む。
「き、貴様!」
それが『ファントマ』の最後の言葉となった。振り下ろされた剣により、右肩口から脇腹まで切断。
血を払らい、大きな剣を鞘に納めた後、『ファントマ』の緑色のマスクを剥がす。
『ファントマ』の素顔は、ハンサムかそうじゃないかと聞かれれば、そうじゃない方。
突然、振り返る。
《……》
しばらく闇の中を見ていたが、剥がしたマスクを懐にしまい。何処かへと歩き去る。
咄嗟に物陰に隠れた董香。振り向かれたときには、大いに焦った。
ホッと、息を吐く。
『あんていく』での噂話が気になり、この辺りを見回っていたら、モロに遭遇してしまった。
噂通り、赫子もクインケも使っていない。それでいて、喰種を倒してしまった。
「あいつ、何者なんだ……」
喰種か、人間か、目的も敵かどうかも不明。
敵なら、容赦するつもりはないが、あいつには隙が感じられなかった。
今のところ、カネキを黒カネキのままにするか、白カネキにするかで迷っています。