【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます   作:ルルイ

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第四十二話 誕生!!ニューパートナー!!

 

 

 

 

 月明かりが降り注ぐ満月の晩。

 俺はとある目的の為、真夜中ながら家を抜け出して八束神社に来ていた。

 目的とは前々から試そうと思っていた専属の式神の作成だ。

 

 前にも言ったと思うが、式神には大きく二種類に分けられる。

 即席で作られるその場限りの式神と、事前に作っておいて使い捨てで無い専属の式神。

 即席の物は簡単に作れるがそんなに強くない。

 そして専属の物は作成に時間は掛かるが、その分強力で一回で消えることは無く同じ式神を使うことが出来る。

 

 作成に手間が掛かるし使い捨ての式神に慣れてから作ろうと思ってたけど、予想以上に即席の式神が便利な上、色々応用も利き過ぎたので、応用技を修めてたりしてたらだいぶ後回しになってしまった。

 その上、ジュエルシードや闇の書の事件も時期的に重なったりしてたから、なかなか試す機会がなかった。

 

 だけど漸く試す機会と環境が揃った。

 専属の式神の作成は即席の物とは違い、地面に複雑な陣を形成する儀式魔法のようなものだ。

 即席の物とは書き込む術式量が桁違いなので、霊力光による即席の陣を形成するのは無理だ。

 なので昼の内に那美姉さんに許可を貰って地面に陣を書き上げた。

 書き上げるのに三時間は掛かった事から、術式量の多さを窺えるだろう。

 

 満月の晩を選んだのは、その時が月の光が一番強いので力が充実するからだ。

 儀式に部類されるだけあって周囲の環境によっても効果が変化するので、満月が出ているときが一番いいらしい。

 月の光には強い魔力があるなんて話は有り触れてるけど、実際には魔法で使う魔力では無くただ純粋な力らしい。

 聖王のゆりかごの設定にも月の魔力の重要さが載っていたが、これも実際には魔力ではなく月の光の力という事なんだろう。

 ともかく式神を作るには月明かりがもっとも強くなる満月がいいということだ。

 

 

 

 書き上がっている陣の大きさは半径三メートルほど。

 その中にはびっしりと術式の内容が記されている。

 ずっと試そうと思っていたから本に書かれていた術式内容を何度も読み返しているのでほぼ暗記している。

 それでも魔法陣のように霊力光で書き上げられないのは内容が複雑すぎるからだ。

 霊力光だけで書き上げるには術式を書き上げてくれるデバイスみたいな物が必要だろう。

 まあ霊力はデバイスでは認識すら出来ないから無理だろうけど。

 

 陣の中心には式神作成で依代となるものを置く。

 それを素材にして式神を作成するのだ。

 

 専属の式神は術者である俺の能力とは別に、素材によって式神の能力が決まるらしい。

 力量は確かに術者の霊力等によって左右されるけど、素材の性質によって能力の方向性が決まる。

 魔導師の使い魔のように犬を素材にすれば犬の使い魔、猫を素材にすれば猫の使い魔が出来るようなものだが、この式神は生物である必要はなく、条件さえ合えば無機物でも問題ない。

 なので石であれば土の属性の能力、樹であれば樹に由来する能力を得やすい。

 水生生物を素材にしてれば水の能力を持つ可能性が高いだろう

 

 ただその条件が少々厄介で、何かしらの思念が篭っているような物でないと難しいらしい。

 判りやすくいうと思い入れのあるものとか、年代物の古い品物とかだ。

 他にも動物の爪や角などの一部も素材として使える。

 それに生物の一部なら、元となる生物の思念が篭ってて当然だからだ。

 

 そこらへんの犬猫から爪なり毛なり拝借して試せばいいとも思ったけど、専属の式神だから長い付き合いになるし少々つまらないと思い却下。

 なら久遠の毛を一部貰って素材にすれば、出来上がる式神は久遠似の狐の式神なるだろう。 

 だけどそれじゃ普段一緒にいる久遠が少し機嫌を悪くするかなと思い、それも断念。

 そもそも他の式神の作成方法に妖怪を使役する方法もあり、久遠をそれに当てはめる事も出来る。

 けど久遠は那美姉さんに飼われてる立場なので、以前にそれを諦めているので一部を素材にするのも気が引ける。

 

 そうなると自分の周囲で見つかりそうな素材は余り思いつかなかった。

 骨董品店とかになら思念の篭った古い品は見かけたけど、由来とかが解らないとどんな式神が出来るか想像もつかないので試したくはない。

 悪い物だったりしたら大変な事になりそうだし。

 仕方ないので那美姉さんなら何か心当たりがあるかもしれないから相談しようと思ったけど、その前に一つだけ俺の身近で式神に出来そうな物があったことに気づいた。

 

 素材にしようと思ったのは俺の愛木刀海鈴だ。

 海鈴は唯の手製の木刀だったけど霊力などを込め続ける事によって霊刀化している。

 俺と相性が良くなっていて、体の一部のように気も魔力も流す事が出来る。

 霊力自体が俺の手を離しても篭っているので、素材としても十分だろう。

 

 ただ、どんな物が出来るのかあまり想像は出来ない。

 樹が素材だからそれに関係する式神になりそうだけど、篭ってる霊力は俺自身のが宿った物だから俺自身に関係する式神になるのかもしれない。

 

 だけど式神の儀式が成功しないとは思わなかった。

 長年というほど今世は生きてないけど、そこそこ長く使っている愛木刀だ。

 悪い事になるはずは無いとなんとなく確信していた。

 

 

 

 海鈴を陣の中心に置いて陣に霊力を流すと、書かれた陣に沿って霊力光が浮かび上がり準備が完了した。

 ここからは魔法の呪文ならぬ、呪言を霊力を発しながら唱える。

 呪言には正しい発音などは重要ではなく、言葉の意味を霊力に乗せて唱える事が重要らしい。

 これも何度も本を見返してしっかり意味を理解しきっているので問題ない。

 

 こういう大掛かりなことは闇の書の時にも感じたが、やはり何度やっても緊張する物だ。

 軽く深呼吸をして緊張を少しだけ解けたと感じたら、ゆっくりと呪言を唱え始める。

 人の中心にある海鈴を見据えて成功を祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の学校の授業中、はやてちゃんから念話が来た。

 

『たっくん、久しぶりやなー

 元気にしとったー?』

 

『ああ、はやてちゃん、おかえり

 だいぶ長く向こうに居たんだね』

 

『ホンマになあ

 なかなか帰ってこれへんかったわ

 もう少しは早う帰ってこれるはずやったんやけど、引き止められてもうて』

 

『なんか問題でも起こったの?』

 

 原作とは違う結末を迎えたから何処かから圧力でも掛かったのか?

 無事に帰ってこれたみたいだからいいけど、今後の問題になるかもしれない。

 

『いや、そういうわけやあらへんよ

 むしろ逆に私が思うとったよりすごく歓迎されすぎたんや』

 

『歓迎されすぎた?』

 

『うん、夜天の書が聖王教会にとってすごい物やって解っとったけど、あれほどとは思うとらんかった。

 式典があるって聞いとって学校の表彰式みたいなものかなと思うとったけど、始まってみれば騎士風の格好をした人がズラーっと並んで、その間のレッドカーペットを私ら歩かされたんよ!!

 分かる!? 私、心臓が飛び出そうなほど緊張したんやで!!』

 

『それはまた……大変だったね』

 

 闇の書だったというのはマイナス要素だけど、夜天の書は蒐集機能にリインさんのユニゾン、シグナムさん達守護騎士プログラムと今はない古代ベルカの技術の集まりだ。

 それにシグナムさん達自身も古代ベルカの知識をそのまま蓄えてるに等しいから、重要な文化財ともいえるだろう。

 高い評価を受けてはやてちゃんの後ろ盾になればいいと思ってたけど、予想以上の評価を受けてしまったらしい。

 

『そこで私が夜天の王って言う称号を聖王教会から貰う事になったんよ

 ただ偶然私んとこに夜天の書が来ただけやからあまり実感湧かんのけど』

 

『それは大変だったね

 それで帰ってくるのが遅くなったの?』

 

『確かにそれで私もなんかいろんなお偉いさんと話をしたり聖王協会の事を聞く事になって時間は掛かったけど、それだけやったらもう少し早くに帰ってこれたんや

 やけどシグナム達が教会の騎士さん達に引き止められたんや』

 

『どうしてまた?』

 

『シグナム達の使う古代ベルカ式って今じゃあまり使い手がおらんらしいんよ

 それでその技を見せて欲しいって皆が教会の騎士さん達と模擬戦をすることになったんや

 負ける事はなかったんやけど、勝ったら勝ったで皆の人気に火がついてもうてな

 色々教えて欲しいゆうてなかなか返してくれへんかったんや』

 

『そういうことだったのか』

 

 模擬戦って、またシグナムさんが中心になって暴れたって事か?

 いや、シグナムさん以外に積極的に戦いに行くやつはいないよな。

 ヴィータは好戦的で熱くなり易い性格だけど、節度を弁える位には冷静に判断出来るし。

 逆にシグナムさんは冷静に見えて戦いになると熱くなり易かったりする。

 普段はしっかりしてるように見えるんだけどなー。

 

『滞在してる間は綺麗な部屋に豪勢な食事を用意してくれたんやけど、庶民育ちの私には少し息苦しかったわ

 帰ってきてから作ったお味噌汁がこれまでで一番美味しく感じたで』

 

『まあ、無事に帰ってこれで何よりだよ』

 

『ホンマやな、豪勢過ぎてストレスで死ぬかと思うたわ

 まだ話したい事もあるけど続きは後でにしようか

 お土産もあるから今日家に来てくれへん?』

 

『いいよ、はやてちゃんがいない内に色々進展もあったし』

 

『進展? なんの?』

 

『色々ね、まあそっちに行ったら教えるよ』

 

『しゃあないなぉ

 じゃあ、待っとるでー』

 

 そうしてはやてちゃんとの念話を終えた。

 デュランダルの事もあるけど、先に海鈴のことを紹介したいな。

 昨日の儀式はうまくいったことだし。

 

 

 

 

 

 学校が終わって家に戻って準備をしてからはやてちゃんの家に向かった。

 途中で俺の円に引っかかった久遠も一緒に連れてだ。

 最近は何時でも円を維持出来るくらいに手馴れているので、知り合いが範囲内で擦れ違えば直ぐに分かる。

 まあ久遠はいつも学校が終わる頃に俺を探しに来るのですぐ会える。

 

 久遠の飼い主である那美姉さんとは最近会えていない。

 今の那美姉さんは高三で大学受験を控えているからだ。

 さざなみ寮にいるにはいるのだが、最近は勉強が忙しいらしくて神社にもあまり来ない。

 久遠の相手もあまり出来ないので普段から俺と一緒にいる。

 

 俺としては一緒に居られるのは嬉しいが、久遠は時々那美姉さんと遊べないとぼやいていたりする。

 やっぱり付き合いが長い那美姉さんとの絆は強いようだ。

 

 

 

 八神家に着くとインターフォン越しに出迎えられて中に入っていく。

 俺の腕の中には久遠と一緒に久遠と同じくらいの茶色い猫を抱いて。

 

「待っとったで、たっくん

 ん? 久遠も一緒やけどそっちの一緒に抱いとる猫は見慣れへんな」

 

「何ですって?」

 

 久遠と一緒に抱いている猫とはやてちゃんが言ったことで、人型のアリアが反応した。

 他の皆も久しぶりだけど何時も通りそれぞれリビングで寛いでいたが、何時も猫姿だったアリアが人型でいるのが珍しかった。

 

「あ、アリアもお帰り…でいいのかな?

 こっちで人型でいるのは珍しいね」

 

「どちらでもいいんじゃないかしら

 知ってると思うけど当分こっちで厄介になる事になったから、普通の生活をするなら人型でいた方がいいのよね

 まあ拓海が相手してくれるときは猫型になるわよ

 それともこの姿でも撫でてくれるかしら?」

 

 とアリアがからかう様に言った。

 ふざけてるのは分かるけど、そういうのは最初の喘ぎ声を経験してしまったのでそれほど驚かない。

 なので冷静に対処する

 

「撫でるとしても人型だと失礼なところとかは撫でる気はないよ?

 頭くらいな普通に撫でてあげるよ」

 

「あまり戸惑わないのね

 クロノだったらムキになって反論するのに

 やっぱりこういう冗談はロッテ向きね」

 

 そういえばアリアと双子のロッテは良くクロノにこの手の悪戯をしてたんだっけ

 アリアが当分こっちにいるというのは、グレアムさんがはやてちゃんの保護監察官になったからだ。

 と言ってもはやてちゃんが別に何か罪を犯したわけではないからその言い方も少し間違っている。

 夜天の書に戻った闇の書が安全かどうかを監視するためだから、ある程度の期間問題が起こらなければ直ぐに終えてしまうものだ。

 

 それでも恐らく数ヶ月は様子見の期間があるらしいので、その間はグレアムさんの代理として使い魔であるアリアがはやてちゃん達と行動を共にすることになる。

 まあ俺からしたら当分ミッド式の魔法の先生に困らないと言うことだ。

 

「それで私の場所をとっている猫は何かしら?

 魔力を感じないから普通の猫かと思ったけど、拓海だと何かありそうな気がするのよね」

 

「確かにたっくんなら猫又連れてきても私は驚かへんで」

 

 二人の意見に賛同するように守護騎士達にも同時にに頷かれた。

 失礼だなと言いたいけど、腕の中の猫も確かの普通の猫じゃない。

 猫又ではないから尻尾はちゃんと一本なんだけどな。

 

「まあ猫又じゃないし猫ですらないんだけどね

 じゃあ、挨拶してごらん」

 

『はい、わかりました、ご主人』

 

 茶色の猫が流暢にそう返事をする。

 喋った事自体にはここに居る皆は誰一人として動じない。

 まあ何度も動物が喋りだすような事があったからな。

 

『改めまして自己紹介させて頂きます

 私、昨日をもってご主人の式神となりました海鈴(みりん)です』

 

「海鈴というとお前の木刀の名前ではなかったか?」

 

 海鈴の名前に一番最初に反応したのはシグナムさんだった。

 以前に手合わせをした時にしっかり海鈴の名前も教えたからな。

 戦いに関わったことなら律儀にしっかり覚えてくれてるんだろう。

 

『はい、確かに私はご主人の木刀である海鈴です、シグナム様』

 

「けど式神って拓海がいつも使っているあれだろ

 何で拓海の木刀が式神になるんだ?」

 

「この海鈴は何時も使っている式神とは違う

 この子はどちらかというと、たぶんミッドの使い魔と似てるんじゃないか」

 

「使い魔と?」

 

 使い魔と言う単語を出したことで、ミッド式の使い魔であるアリアに視線が集まる。

 アリアも使い魔と似たような物と聞いて興味が沸いてきたのか海鈴を凝視する。

 

「昨日、普段使ってるのとは違う式神の作成術を試してね

 その時に海鈴が式神化の条件にあったから試してみて成功したんだ」

 

 専属の式神の特徴と素材の内容を簡潔に説明する。

 アリアには作成方法が使い魔と似たような所があるということに納得がいき、他の皆はそんなものなのかと普通に理解をしたみたいだ。

 

「じゃあ、たっくんの木刀を猫の姿の式神にしたってことなん?」

 

「いや、猫の姿は仮の物でちゃんと元の木刀に戻れる

 海鈴、元の姿に戻って」

 

『はい』

 

 

-ボフンッ-

 

 

 腕の中の海鈴が煙に包まれると腕の中の猫の毛触りが消えて、そこに無骨な小太刀サイズの木刀があった。

 左腕で久遠を抱えて右手でその木刀海鈴を右手に持つ。

 

 

「この通りいつでも元の木刀の姿に戻せる

 それから、海鈴出といで」

 

『はい』

 

 俺が呼び掛けると木刀の中から緑色の光の玉が現れて人の形になる。

 大きさは15cmくらいで三頭身程だが、輪郭が微妙にぼやけていて形が定まっていない。

 手足は間接部はあるように見えても指先ははっきりしておらず、頭部も髪の毛や顔の造詣はあってもちょっと鋭い感じの目の部分が黒いだけで口や鼻の穴はない。

 

 まさに精霊といった感じの人型は海鈴の霊体だ。

 以前から海鈴に宿っていた霊力が式神化により形を成した物らしくて、これが海鈴の本当の姿といえる。

 その為、霊力が宿ってからこれまでの事もぼんやりとだが記憶に残ってるんだとか。

 ご主人とか初めて呼ばれたときはちょっと困惑したけど、素直で礼儀正しい子みたいだ。

 

「これが海鈴の本来の姿になる

 基本的に俺と自分の霊力で構成されるけど、俺が気や魔力を送れば海鈴が使うことも出来るみたい」

 

『ご主人の力を使うのはご主人の為です

 今までもこれからもご主人の力になる事が私の務めですから』

 

 作成が終了して現れた姿はもともとこの姿だ。

 この姿でも結構愛嬌はあるけど普段使ってる式神と違って生き物を基にした姿にならなかったので少し残念だと思った。

 そしたら海鈴が何とかならないかと考えたら猫の姿になれた。

 同じ位のサイズなら他の動物にもなれたけど、質量に差のあるものにはなれなかった。

 簡易の式神っぽい能力だけど、こういう能力を持つとは式神の本には書かれてなかったな。

 

 式神の本に載ってた専属の式神の作成法には、素材と術者の資質と霊力量、そして生み出す式神をどのようにするかをイメージする事で能力が決まるらしい。

 イメージが重要になるのは式神を形作る方向性がより定まるからだ。

 簡易の物でも出来たが視覚共有による探査を目的とするために素早い小動物や鳥になるように望んだり、戦いに向いた鬼みたいな巨漢になるように望んだりすればそのようになる。

 素材だけでは方向性を決めきれないこともあるから、イメージする事によってより己の望んだ式神を生み出せるんだとか

 

 今回は初めてだったので素材と自分の今の能力に方向性を任せたが、普段使っている式神が色々変身できて便利だったから、専属の式神もそうだったらと願ってしまっていたかもしれない。

 その御蔭で変身出来るようになったかもしれないけど、海鈴自身も変身出来る事には試してみて初めて気づいた。

 もしかしたら他にも何か出来ることがあるかもしれない。

 昨日の内に調べられるだけのことは調べてみたけど。

 

 ちなみに両親には既に紹介して猫の姿で家に居着く事を了解してもらっている。

 あくまで猫は仮の姿で霊力さえあれば活動出来るから食事も要らないし当然排泄もない。

 知恵もあるので普通の猫のように世話を必要としないから容易く了解を貰えた。

 まあそれでもちゃんと責任を持って世話しろよと言われたのが、信用されてるのか普通のペットと変わらないと判断されたのか。

 

「いい子なんだけどちょっと忠誠心みたいなのが強くて硬いんだよね」

 

「まるでシグナムやリインみたいやな」

 

「そ、そうですか、主はやて」

 

「とても良い心意気だと思うのですが」

 

 シグナムさんが戸惑い、リインさんは海鈴に賛成的みたいだ。

 だけど俺は久遠くらいに甘えてくれる感じだといいんだけどな。

 せっかく普段は猫の姿でいるように決めたのに。

 

「そんなに硬くならないでもっと楽にしていいよ」

 

『ご主人の意思とあらばそうするように努めますが…』

 

「あくまで海鈴の意思でそうして欲しいんだけどね」

 

 まあ、個性って言うんならしょうがない。

 シグナムさんやリインさんもそういうもんなんだし。

 

「なあなあ、海鈴ちゃんは他に何が出来るん」

 

『さあ…私自身もまだ生まれたばかりなので良く分かりません

 ですがこれまで以上にご主人の力になれる事は断言出来ます!!』

 

 何が出来るか尋ねたはやてちゃんに力強く応える海鈴。

 変身や俺の力を使える事以外にはちょっと便利程度の能力しかない。

 

「まあ後は持ち運びがしやすくなったくらいかな

 海鈴、伸ばすよ」

 

『はい、ご主人!!』

 

 元気良く応えた海鈴が本体の木刀に戻ると、俺は霊力を海鈴に込める。

 すると本体である木刀がスススっと伸びていつもの長さの木刀にまで成長した。

 いつもは(主に美由希に)斬られたり折れたりしても水を用意して木行の力を操って成長させてたけど、俺が霊力を送るだけで海鈴が自分の意思で体を伸ばせるようになった。

 海鈴が自分で伸びるから無駄に根っこや枝が伸びたりしないので、今後は再生の度に木刀になるように切り揃えなくて済む。

 

 逆に縮めたりも出来ないかと海鈴が試したらそちらも出来た。

 これなら縮めておけば持ち運びしやすいので、学校カバンの中にも入れられたりする。

 

「こんな感じで伸ばしたり縮めたり出来るようになったくらいだ

 もしかしたら他にも出来るかもしれないけど、今はこれくらいしか判ってない」

 

「作り方は使い魔に似てるけど魔法とは違うのね

 霊力だから探査魔法とかには全然引っかからないし」

 

 皆が霊体姿の海鈴に注目しているが、一番近くまで寄ってきて興味を持って見ててるのはアリアだ。

 魔法を使って今の海鈴を調べてるみたいだけど何も分からないみたい。

 

「さっき、気や魔力を送れるって言ってたけど普段は霊力を送ってるの?」 

 

「ああ、普通の使い魔みたいに維持するだけだから微々たる物だけど送ってる

 それに併せて気や魔力も自分の意思で送れる

 まあそれは即席の式神でも同じようなことは出来たし、海鈴はしっかりとした意思を持ってるから自分の意思でも使える」

 

「だったら魔法の使い方を教えれば海鈴は拓海の魔力を使って魔法を使えるのかしら

 そしたらまるでインテリジェントデバイスね」

 

「あ、そうか

 そういうことが出来る可能性もあるのか」

 

「(無機物を使い魔にしたようなものだけど、魔法が使えるとしたらデバイスと使い魔の中間みたいみたいね

 その可能性があるなら魔法として興味深いけど、魔力で感知出来ない霊力で作られる式神は魔法技術として確立させるのは難しいか)」

 

 なにやらアリアが何かを考え込んだ後にため息をついて残念がってた。

 これまでは海鈴に気を送って強化したり気の刃を作り出したりしてたけど、魔法の杖にもなりえるかもしれない。

 海鈴に補助魔法を任せでデュランダルをメインに攻撃魔法を使うとか。

 …面白そうではあるけど、どうしてもこういう発想は戦闘系の事になっちゃうな。

 戦闘以外にも色々魔法は使えそうなんだけどな。

 

 

 

 式神化した海鈴の紹介が終わった後は、ここ数日こちらであった事を話したりはやてちゃんからお土産を貰って向こうでの話を聞くことになった。

 聖王教会で買ってきたお土産は洋風のお菓子などが中心だった。

 発展してる文明でもお土産屋とかはこの世界と似たような感じだったそうだ。

 

 教会の騎士相手に暴れたシグナムさん(達ではなく)は、今後古代ベルカ式の使い手として色々教えるために時々聖王教会がある世界に行くことになったようだ。

 やることは結局向こうで暴れるだけとはやてちゃんには呆れられながら言われたのをシグナムさんは少し応えてたみたいだ。

 他の皆も似たように持ってる技術を教会の騎士に教える仕事を貰った。

 はやてちゃんは称号を貰ったとはいえ、知識はまだ管理外世界の住人が少し魔法を知った程度なので何かを教えることなど出来ないが、将来的に役職に就く可能性もあるので聖王教会の事を時々学びに行くことになるらしい。

 それでも月に一回くらいで、後は資料を家で読みながらリインさんから夜天の書の魔法をしっかり学び続けるだと。

 

 ベルカ式は基本的に近接戦闘を主体にする魔法がメインだけど、リインさんが使う魔法は広域型と真逆であることから非常に珍しい。

 そして夜天の書に選ばれたはやてちゃんは当然その資質があるから広域型の古代ベルカ式使いというレア中のレアな魔導師の卵と言える。

 だからこそ今はリインさんから魔法を学んで夜天の書の知識を自分の物にするのが一番いいと聖王教会も判断したんだろう。

 教師役もリインさん以上に適任な人は聖王教会にも居そうにないし。

 

 聖王教会の人に言われた管理世界への移住は、今の所は特に考えていないらしい。

 原作でははやてちゃんはSTSの時期には既にミッドに移住していたけど、中学までは確かこっちで生活していたみたいだし。

 まあ、いきなり生まれ育った故郷を離れるなんて望みはしないだろう。

 

 それに向こうの雰囲気は庶民生まれのはやてちゃんには辛い物があって、滞在する間は全然落ち着かなかったらしい。

 待遇も良過ぎる上に食事も洋風の高価な物ばかりで、早く帰って味噌汁が飲みたいなんで思うことになった。

 向こうへの移住を断った最大の理由はそれだそうだ。

 

 将来どうなるかはわかんないけど、当分はこっちの世界で暮らし続けるつもりだとはやてちゃんは言った。

 グレアムさんがこれからも援助してくれるといってくれたそうで、せっかく友達や家族が出来て楽しくなってきたのだから、まず学校にも普通に通ってみたいんだと。

 まあたぶんなのはちゃんあたりと同じクラスになるだろうと予測はしている。

 原作でもフェイトの編入には管理局が手続きしたのだから、はやてちゃんが望んで保護責任者に当たるグレアムさんが手続きすればそうなるだろう。

 

 そういえばフェイトは聖祥に通うことになるのだろうか?

 原作では闇の書事件が起こったから滞在のついでに編入した。

 事件が起こらないのであれば聖祥に突然編入するということはないだろう。

 まあなのはちゃんとの縁が切れたりする事はないだろうけど、もしかしたらこっちで暮らすことすらないかもしれない。

 

 まあホントにこれで事件に関わることは全て片が付いたんだ。

 裁判が終わればフェイトもなのはちゃんに会いに来るだろう。

 そしたらなのはちゃんからポンとフェイトを紹介される日も来るだろう。

 

 

 

 

 

 後日、なのはちゃんや美由希にも海鈴を紹介しようとした時の事だった。

 

「きゃあぁぁぁ!!

 なにこれ、根っ子!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「どうなってんだ?」

 

 突然海鈴から霊力が発せられたかと思うと、地面から根っ子が伸びて美由希に巻きついて宙に吊るし上げる。

 その間もなお海鈴から霊力が発せられていて、美由希を吊り上げてる原因はこの子に違いない。

 

「海鈴、どうしたんだ突然?」

 

『申し訳ありません、ご主人!!

 ですが奴を見たら以前斬られた事を思い出してしまって!!

 感情で溢れた霊力が暴走してしまいました!!』

 

「ふむ、つまり斬られた時の事を思い出したらイラッと来た感情が霊力に作用して、その霊力が根っ子を動かして美由希を吊るし上げたという事か

 こんな能力も海鈴にはあったのか」

 

『そうみたいです…

 私を直す度にご主人の手を煩わせてしまった事を思い出すと、とても悔しく申し訳なく思います』

 

「それくらいの事は気にするな」

 

 あれが切欠で五行の術を多少なりとも使えるようになったんだ。

 それに海鈴に霊力が篭るようになったのもそれが原因だ。

 霊力が篭り始めた頃から海鈴の記憶が疎(まばら)らにあるらしいから、斬られた時の記憶なら特に印象に残ってるだろう。

 霊力を込めてた俺も悔しくかった記憶があるから、それも海鈴に引き継がれてるかもしれない。

 

「いきなりなんでこうなるの~!!」

 

「何でたっくんの木刀が喋ってるのかわかんないけど、早くお姉ちゃん降ろしてあげて!!」

 

「ん~、海鈴、霊力を制御して暴走してる根っ子を止められるか?」

 

『ご主人の命令とあれば止めてみせます

 自分の感情よりもご主人の意思を優先すると自負してしますから!!』

 

 そんな力説しなくても。

 素直ないい子だけど俺に仕え過ぎるのはちょっと困惑する。

 俺がしっかり命令すればたぶん止められるという事か。

 だったら…

 

「やり過ぎない程度だったら海鈴に任せる

 まあ、ほどほどに仕返しする気持ちでな」

 

『了解しました』

 

「いやぁ~!!

 振り回さないで~!!」

 

「お姉ちゃん!?

 たっくん、どういうこと!?」

 

「ああ、実はな、なのはちゃん」

 

 まず海鈴が式神化したことを話して、暴走した原因を話す。

 以前海鈴をばっさり叩き斬り、その後も手合わせで何度かやられてしまっていること。

 叩き斬られたのは俺がしっかり気で強化しきれなかったこともあるかもしれないが、その都度俺が直しては宿る霊力も増えていったことから、海鈴の霊力=美由希への恨みとも考えられなくないかもしれない。

 流石に何度も叩き斬られた恨みと言われたら、止めようとしていたなのはちゃんも押し黙ってしまった。

 

「えーと……それだと仕方ないのかな?」

 

「納得しかけないで、なのは~!!」

 

「海鈴が怒りを霊力と一緒に発散したら止まると思うし

 耐えろ、美由希」

 

「理不尽だよー!!」

 

 数分ほど海鈴は根っ子を通じて美由希を振り回した後、霊力の放出が止まった。

 怒りを発散しきって報復を終えたのかと思ったが、海鈴自身の霊力が尽きてしまったらしい。

 そのせいで海鈴が喋れなくなってしまったので、一瞬消えてしまったかと思ったくらいだ。

 だが霊力を多めに送ったら直ぐに霊体で姿を現したので安心した。

 

 その後に改めてなのはちゃんと美由希に海鈴を紹介したが、美由希は海鈴にばつ悪そうな表情をしながらも終始足元を警戒していた。

 逆になのはちゃんは海鈴の霊体姿に興味津々だったと言っておこう。

 

 

 

 

 

●専属式神、海鈴作成完了

●海鈴、変身、霊体形態、植物操作能力取得


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