【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます   作:ルルイ

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第十二話 約束された勝利の言葉

 

 

 

 

 霊力も使えるようになって、改めて魔力と気の力の性質を見極めるため相性を調べてみた。

 気は生命力から練りだされ肉体の強化などの活力になる。

 魔力は自然にある魔力素を吸収して自分の色に染めることで自分の魔力として行使できる。

 霊力は恐らく実体を持たない思念や幽霊などにもっとも作用する。

 

 霊力は気とも魔力とも相性はよくて、混ぜることで両方の性質を併せ持ったうえに力を向上させられた。

 ただし気と魔力は反発して混ぜ合わせることは出来なかった。

 この辺りはネギまと同じ様だから、合成出来れば咸卦法も使えるようになるかもしれない。

 心を無にするってのは訳解んないから、とりあえず時々気と魔力を合わせて合成できないか試し続けることにする。

 これを無意識にかつ自然に行えるようになれば、咸卦法が出来るんじゃないかと思ってる。

 まあ『能力』もあるし、その内出来るだろうと気長にいくことにした。

 

 

 

 

 

 この日もいつも通り八束神社で久遠と遊びながら、思いついた技をいろいろ試していた。

 ただ最近那美姉さんが元気無い様で少し気になった。

 

「那美姉さん、最近元気ないけどどうかした?」

 

「え、そ、そうかな?

 そんなつもりは無かったんだけどな・・・。」

 

 ふむ、まさか・・・・・・。

 

「もしかして好きな人が出来たんだけど、自分と付き合っておきながら他の女性と彼氏がいちゃいちゃしていて困っているとかですか?」

 

 この人もヒロインの一人だからね、ありえる話だろう。

 そもそもとらいあんぐるハートって、題名からして三角関係が前提のギャルゲか?

 修羅場が前提のギャルゲって今考えればすごいな・・・。

 

「ち、ちがうよ!!

 私は誰かと付き合ったりしてないし、そんな人と付き合う気もないんだからね!!」

 

「それはよかった。」

 

 あれ?ヒロインフラグ叩き折ったか?

 まあそんなの折れちゃったほうがいいな。

 

「じゃあ、何があったの?」

 

「ううん、なんでもないよ。

 ちょっとお仕事のことでちょっと気になることがあってね。」

 

 那美姉さんが八束神社にいるのは巫女としての仕事だからだけど本業は退魔師だ。

 時々久遠を連れて仕事で出ているのを俺は知っている。

 霊力を使えるようになったとはいえ俺は関係者じゃないから、首を突っ込まないように仕事関係の話は遠慮している。

 

「そうなんだ、怪我してたら言ってよ。

 俺でもヒーリング出来るんだから疲れてたらしてあげるよ?」

 

「ふふふ、じゃあその時はお願いするね。」

 

 那美姉さんはこうして俺に対してお姉さんぶりたがる事が多い。

 双子の弟がいるらしいけど、同い年だからと年下の弟とは思えないらしい。

 だから俺を弟扱いしたいんだそうな。

 最初は俺も前世から見て年下の未成年の女性を姉扱いするのは違和感があったが、一年以上経っているのでもう慣れた。

 こういう時位は姉扱いして喜ばせる気遣いくらいはする。

 

「・・・・・・拓海君、今週はお仕事で忙しくなりそうなので神社には来ないでもらえますか?」

 

「ん、いいけど・・・・・・。

 まあ、気をつけてね。」

 

「ありがとう、拓海君。

 じゃあ、またね。」

 

「うん、また。 久遠もな。」

 

「クゥン。」

 

 やはり様子がおかしい気がしたが何か仕事の事であるのだろうとそう納得しておいた。

 退魔師の仕事関係なら俺が関わるべきことじゃないしな。

 

 

 

 

 

 俺が神社から帰路について数分後、入れ違いに一人の女性が那美姉さんの前に現れた。

 

「那美。」

 

「・・・・・・薫ちゃん。」

 

「クォン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神社に通うのをやめて数日、俺は普通に学校生活と家で出来る異能で練習をしていた。

 正直言おう、俺は友達が少ない。

 

 仕方ないじゃないか、別に学校で苛められてる訳じゃないが小学三年生では俺の感性じゃとても馴染めない。

 無難に会話を交わして存在は認知はされてるが、一緒に遊ぶ特定の相手というものがいない。

 これまでずっと学校から帰れば何時も異能練習だったからなぁ。

 

 久遠が唯一の同年代の友達?

 いや、久遠はあくまで子狐、同年代の人間とは認識していない。

 でなきゃ抱っこしたり撫でたりなんて出来ないじゃないか、恥ずかしくて。

 

 

 

 とまあ、神社に通ってはいないが何も問題なく過ごしている。

 ・・・・・・過ごしているはずなんだが、神社に行かなくなってから違和感を感じている。

 

 正確には那美姉さんの様子が可笑しかった事がずっと気になってそれが違和感になってる感じだ。

 更に可笑しいのはその違和感がだんだん強くなってきているのだ。

 体調を崩してるわけじゃないが、何かが俺に何かを伝えようと警告している気がする。

 その何かが解らず、更に落ち着かないという悪循環が起こってる感じ。

 

 

 

 神社に行かなくなって数日後の夜、訳のわからない違和感に苛まれて布団に入ってもなかなか眠れなかった。

 いったいなんなんだとずっと考えてるが、落ち着かない気持ちのまま時が過ぎていった。

 

 そして、それが来たのは突然だった。

 

 

(『クォン。』)

 

 

「!? 久遠!!!」

 

 突然脳裏に久遠のイメージが響いて、体中から響く違和感がこれまでで最大の警告を鳴らしていた。

 このはっきりとした警告で、何が違和感を発していたかわかった。

 俺の霊力だった。

 

 

 最近習得した栄光の手モドキ、霊気手甲を出すとちゃんと制御は出来ているが、同時に何かを訴えるように霊気が波打っていた。

 ここまではっきりとしていたら、これがどういう力か想像がついた。

 恐らく霊感というやつだろう。

 正確には霊力が教える直感みたいなもので、それが教えるのは自身が認識していない不測の事態。

 今見えた久遠のイメージから、恐らく久遠に何かが起こる、あるは起こっているんだろう。

 

 

 

 俺は自分の霊感に従うままに、最近はあまり振っていなかった愛木刀海林を手にとって舞空術で八束神社へ飛んだ。

 高速かつ自在に飛べるようになった舞空術なら八束神社は一分もかからず見えてきた。

 

 神社の境内に人影が見えた。

 不意に凝をして視力を高めて確認する。

 見えたのは那美姉さんと久遠・・・・・・そして久遠に刀で切りかかろうとする髪の長い女性の姿だった。

 

 

 俺はこのままでは間に合わないと思い、とっさに虚空瞬動をして更に加速して墜落するように境内に転がり込み、久遠を抱き抱えて振り下ろされた刀の剣線から逃げ切った。

 虚空瞬動は普段は使う機会のない技だけど、とりあえず習得しておいた技だ。

 

 

-ドカッ!!ゴロゴロゴロゴロ!!-

 

 

「な、なんだ!?」

 

「た、拓海君!?」

 

「いたたたたた。」

 

 普通は痛いで済まないような速度での墜落だったが、日頃から堅を維持することに慣れてたおかげで地面にぶつかった時も衝撃をやわらげてくれて助かった。

 全部とっさの判断だったが、それをやり遂げた俺って割とすごいと思った。

 

「どうして拓海君がココに!?」

 

「嫌な予感がもうバリバリってしたんですよ。

 それも久遠が危ないってはっきりした感じがして。

 ・・・で、どういう事なんですか?」

 

 そういって俺は久遠を切ろうとした女性を睨みながら立ち上がる。

 これまで久遠とは一緒に遊んで来た大切な友達だ。

 妖怪とはいえ動物が友達とはっきり言うのは少し恥ずかしいが、助ける為には俺の力を全力で行使する気でいる。

 戦った事はないから主に逃げる方向で・・・。

 

「君が誰かは知らないが・・・・・・久遠を渡してくれ。

 うちは・・・・・・久遠を切らなきゃいけないんだ。」

 

 ところが切ろうとした女性の様子も可笑しいことに気づく。

 女性の声には感情の揺れがはっきりと現れて、目には涙を浮かべていた。

 

「薫ちゃんやめて!!

 久遠は大丈夫だから・・・・・・私が止めるから!!」

 

「無理だ!! もうすぐ封印が解ける!!

 もう一度封印することなんて私だって自信がない!!

 だから・・・・・・久遠は殺すしかない!!」

 

 ・・・・・・事情がわからなくて蚊帳の外です。

 刀を持った女性は久遠を殺そうとしているけど本位じゃない。

 那美姉さんは女性とどうやら親しい関係で止めようとしている。

 そして問題の中心は俺の腕の中の久遠・・・・・・?

 

 

「・・・・・・久遠?」

 

 久遠の様子が可笑しい。

 先ほどから声を出さず黙っている。

 いや、何か久遠から力を感じる。

 それがどんどん溢れてきて・・・。

 

「!! まさかもう封印が!?」

 

「そんな!!拓海君、久遠から離れて!!」

 

「って、ええぇ!!」

 

 

-バキャアァァァン!!!!-

 

-バチバチバチバチッ!!-

 

 

 何かが砕ける音とともに久遠から衝撃と雷が放たれて俺は吹き飛ばされた。

 とっさに久遠を手放して堅をしていたが、間近だったため衝撃はともかく雷を食らって体が痺れた。

 吹き飛ばされた俺のところに那美姉さんと刀の女性が駆け寄ってくる。

 

「拓海君、大丈夫!?」

 

「ええ、なんとか。

 ちょっと痺れましたけど平気です。」

 

「普通あんな近くで雷を食らったら痺れただけじゃすまないはずだが・・・」

 

 まあ、そりゃそうだけど日々の異能の訓練が護身に役立ったということで。

 

「ところで事情を説明してくれませんか?

 一番危ないのが久遠だってことしかわかってないんだけど。」

 

「那美、この子供はいったい?」

 

「ごめんなさい拓海君、巻き込んじゃって。

 実は久遠は・・・・・・」

 

 

 

 話を要約すると久遠は実は封印されていて、元は祟り狐という理性なく周囲を破壊して暴れまわる妖狐なんだそうな。

 10年ほど前に刀の女性、那美姉さんの姉の神咲薫さんが封印したが不完全だったらしくもうすぐ切れるところだった。

 その前に久遠を殺そうと思ったが那美姉さんの説得にあい遅延。

 それを振り切って敢行したがそこへ俺がダイビングキャッチで久遠を守って失敗。

 直後もう少し持つと思ってた封印が解けちゃった。

 

「というわけですか。」

 

「ええ、だから危ないから拓海君は早く逃げて。」

 

「君も何か特別な力を持っているみたいだけど、子供を巻き込むわけにはいかない。」

 

 それは大人として正しい判断だと思います。

 けど既に巻き込まれちゃった、というより知ってしまった。

 このまま逃げてどうにかなるなら逃げるけど、どうにかならないなら逃げられないじゃないか。

 

「俺も戦う、とは言いませんけどココにいます。」

 

「拓海君、ホントに危ないのよ!?」

 

「頼むから帰ってくれ。

 君を守れる余裕はないんだ。」

 

「身を守ること、あるいは逃げることくらいは出来ます。

 少なくとも那美姉さんよりはすばしっこいつもりです!!」

 

「そう・・・なのか、那美姉さん?」

 

「あはは・・・・・・確かに拓海君は私より運動できるもんね。」

 

 

-ドゴロゴロロン!!!-

 

 

「「「!!」」」

 

 話し合っていると久遠のいる辺りから再び雷が発生して周囲に降り注ぐ。

 薫さんは刀を構えてその先を見据え、那美姉さんは俺を庇う様にして前に出た。

 雷が発生したところを見ると・・・・・・

 

「・・・・・・あれ、誰ですか?」

 

「久遠だ、封印が解かれた。」

 

「久遠・・・・・・」

 

 二人は全力で警戒しているが、俺はかなり戸惑っていた。

 封印の解けた久遠は人の姿をしているが、以前見た俺と同い年くらいの子供の姿じゃない。

 立派に成人したくらいのスタイルがはっきりとした年頃の女性になっていた。

 その上服装は子供姿の久遠に似た巫女っぽい服装だが、足のところにスリットが入って太ももが丸見えだ。

 

 もしかして久遠もとらハシリーズのヒロインの一人だったのかと思いちょっと悲しくなった。

 子供だと思っていた子がいつの間にか恋人を作って結婚して行ってしまったような。

 かなり切迫した状況だというのに、俺は緊張感が持ちきれず二人との温度差を感じていた。

 

「くおーん!!、しっかりしてー!!」

 

「『アアアアアアアアアア!!!』」 

 

 那美姉さんが久遠に呼びかけるが、逆に久遠は人の姿でも鋭い爪を振り上げて叫び声を上げながら襲い掛かってきた。

 すかさず薫さんが那美姉さんと久遠の間に入り込み、刀で久遠のツメを受け止めた。

 

「くっ!! はあっ!!」

 

 更に刀を押し込みながら振り切る事で久遠を退けて、更に追撃に前に出て刀を久遠目掛けて打ち込んでいく。

 よく見れば薫さんの刀には霊力が込められているらしく、淡い霊気の光が炎のようになって取り巻いている。

 

 対して久遠は全身からは黒い煙のような濃厚な霊気が体を纏わり付いていた。

 霊力による凝、いわば霊視をしてみたら何か強い負の感情が読み取れた。

 恨み、怒り、憎しみ。 感じ取れる感情を挙げたら切りがないが、恐怖を感じる以上にとても悲しい気持ちになった。

 久遠がこんな感情を持っているというのもあるが、直に感じ取れた負の感情は俺にそんな感情は悲しすぎると俺に思わせた。

 

 

「那美姉さん、久遠の体から出てる黒い煙のような霊気はいったい何なんです?」

 

「あれが久遠を暴走させている恨みや憎しみの元である祟りよ。

 あれがあるから久遠は理性と優しい心を失って回りを手当たり次第に攻撃しちゃう。

 あの感情に負けないように久遠に心を強くしてほしかったけどダメだった・・・。」

 

 那美姉さんに事情を聞く間も、薫さんと暴走する久遠の戦いは続いた。

 薫さんはすごい速さで切るかかるが、それ以上の力と速さで両手の爪を振るってはずした攻撃が地面や木を削り取っていく。

 

「久遠を元に戻す方法はないんですか?」

 

「前に封印が解けたときに再び封印をかけたのは薫ちゃんなの。

 だけどその時は他にも人がいたし、今の久遠は薫ちゃんでも手一杯だから。」

 

 実際の戦いなんて始めてみたけど、力も早さも久遠のほうが圧倒的に上といった感じ、薫さんはそれを受け流したり避けたりするだけでなかなか攻撃を行えていない。

 

 俺が、戦うべきなのか?

 久遠は助けたいけど、技は練習しただけで刀の打ち合いどころか振り方すらまともに学んでいない。

 気で身体能力を上げれば今の久遠の運動能力くらいには追いつけそうではあるけど、それだけじゃどう考えたってまともな戦いにならない。

 やっぱり身を守るためでも戦いの基礎くらい学んでおくべきだったか・・・。

 

 そもそも学ぶ先がなかったし、戦いに関わるのは一年後のジュエルシード事件だと思ってたからな・・・

 戦いは何時も準備不足って、どっかの格言にあったっけ・・・

 

 

「封印の解けた久遠が手ごわいとは分かっていたが、今のうちでも受けに回るのが精一杯とは。

 クッ、神気発勝!! 神咲一灯流!! 真威・楓陣刃!!」

 

「『アアアアアアアアアア!!!!』」

 

 振り下ろした刀から霊気の球が打ち出され久遠に向かって飛来する。

 それを見た久遠は全身から雷が迸り、霊気の玉を打ち砕くべく雷を開放した。

 雷はろくに制御されてないらしくいくつのも帯になって周囲を破壊し、更には薫さんの放った霊力の玉を撃墜してそのまま薫さんを直撃した。

 

「ガハッ!!」

 

「薫ちゃん!?」

 

 雷を食らってその場に膝を突くが、刀を支えにしているので意識はあった。

 

「だ、大丈夫だ・・・・・・

 私は退魔道・神咲一灯流の正当伝承者・・・・・・

 これは・・・私がやらなければいけないんだ・・・」

 

 再び立ち上がって刀を構えるが、俺から見ても既にふらふらで負けるのもそう遠くないと分かった。

 

 どうすればいい・・・・・・俺の使える異能で何か役立てることは出来ないか!!

 俺じゃ気で強化しても体格の差でまともに打ち合えない、実戦どころか稽古すらやったことない俺じゃ打ち合いなんて出来やしない。

 

「久遠!! お願いだから!! いつもの優しい久遠に戻って!!

 くおーん!!!!」

 

 再び那美姉さんが久遠に呼びかけると反応してこちらを見て認識した。

 こちらに来るかと思い、海林に全力で気と霊力を込めて受け止める体制をとる。

 

「『アアア・・・アアアアア・・・ナ・・・ミ・・・・・・』」

 

「!? 久遠の意識が!!」

 

「!!久遠、そうよ私よ!!

 私はココにいるから!! だから祟りなんかに、恨みや憎しみなんかに負けないで!!」

 

「『アア・・・アアアア・・・・・・アアアアアアアア!!!!』」

 

 まだ完全に理性を失っていないのか、久遠は那美姉さんの名前を呟く。

 久遠はその場で頭を抱えで何かを振り払うように頭を振って叫び声を上げる。

 

「久遠!! 戦ってるのね!!

 負けないで!!」

 

「『アアアアアアアアアアアアア!!!』」

 

「那美姉さん!!」

 

 叫び声と共に再び無造作に周囲に雷がばら撒かれ、そのひとつが那美姉さんのほうに飛んできた。

 俺は防御手段の無さそうな那美姉さんの前に出て、海林を構えてそれで雷を受け止めた。

 

「拓海君!!無茶しないで!!」

 

「大丈夫です、気を張ってたんでちょっとビリッとした程度です。」

 

 実際ほんとにそれくらいの痛みで済んだ。

 現在堅と体の身体強化を全力でやっている。

 とりあえず基礎能力は十分戦闘に耐えられる程度には持っていたらしい。

 

 俺は考える、この状況で俺に何が出来るのか。

 これまで俺はただ不思議な力が使いたくていろいろ実験してきた。

 それは戦いなんてもの使うためでなく、あったら便利だなという程度の好奇心でしかなった。

 ゆえに俺が出来るのは戦う術でなく、この状況をどうにかする方法を考えること。

 

 そして一つ思いついた、この状況にまさにふさわしく久遠を救えるかもしれない手段。

 霊視する先の久遠は祟りと思える体から立ち上る黒い霊気を、頭を振って振り払おうとしあまり動いていない。

 この状況なら・・・・・・。

 

「那美姉さん、久遠が苦しんでいる理由はその祟りってやつが原因なんだよね。

 それってあの久遠から滲み出している黒い霊気?」

 

「ええ、あれは久遠が自分でもどうすることの出来なくなった強い恨みの思念よ。」

 

「アレだけを倒す事が出来れば久遠は助けることが出来るんだよね。

 なら一つ試させて。」

 

「!!ダメよ拓海君!!

 拓海君は才能があると思うけどまだ子供なのよ!!」

 

「那美姉さん、俺は確かに子供だけどあまり子供扱いされるの好きじゃない。

 俺だって久遠を助けたいと思ってるんだ。

 だから出来ると思ったことをやりたい!!」

 

「拓海君・・・・・・」

 

 引き止める那美姉さんを説得して俺は久遠に近づいていく。

 

「『アアアア・・・アアアアア・・・・・』」

 

「すぅっ・・・・・・久遠!!聞こえるか!!」

 

「『!!アアア・・・ああああ・・・・・・タク・・・ミ・・・・』」

 

「俺が何とかしてやる!! だからそこでじっとしていろ!!」

 

 そう言って俺はただ海林を振りかぶる。

 剣術の心得なんかない俺じゃ、きれいに振るとかなんて考えずただ振り下ろすだけ。

 俺はこれまで以上に気を練り霊気を込めて海林に力を注いでいく。

 連続して使える技じゃなくいつまで久遠が止まっていてくれるか分からない。

 急ぎかつ全力で集中して技の体勢に入る。

 

「『アアア・・・アア・・・・・・アアアアアアアアアア!!!!』」

 

「グウッ!!」

 

「拓海君!!」「やめろ、離れるんだ!!」

 

 久遠から再び放たれた無差別の雷が、傍まで来ていた俺に直撃する。

 海林に力を全力で送っていたので防御の堅がおろそかになっていたのか、先ほど食らった雷よりずっと痛かった。

 だがそれでも集中を続ける。

 やめるわけにはもういかないからだ。

 

 この技を習得したのは面白そうだからという好奇心だ。

 ネタ技としてかくし芸に様に皆に披露する日でも来るかとすら思っていた。

 だがこの技が真の意味で、本来の目的で使われる日が来てしまった。

 俺も使うとは思っていなかったが、この状況はまさにあの台詞の使いどころ。

 

「そう・・・こんなこともあろうかと!! この技の練習をしておいてよかった!!

 いくぞ久遠、いつものように撫でてやるだけだ!!」

 

 気と霊気の宿った海林に込める思いは、いつものようにゴットハンドで撫でる落ち着きや安らぎ。

 そして狙うのは今も霊視をして見据えている久遠から出ている黒い霊気、祟りの大元。

 

 この技が失敗するなんて思っていなかった、久遠を切る気持ちなんてこれっぽっちも湧かない。

 ただ久遠とまた一緒に遊んで撫でたり日向ぼっこしたりしてゆっくり平凡な日々を過ごす。

 そんな代わり映えののない日常が頭に過ぎ去り、これからも続くという願いを込めて完成した技を久遠に宿る祟りに向けて放った。

 

 

「斬魔剣 弐の太刀!!!!」

 

 

 目に見えない実体無きものを切り、なおかつ切るものを選ぶ本来神鳴流の真髄の技。

 遊びで覚えた俺がこの技を正しく使う日が来るとは思わなかった。

 神鳴流もまた那美姉さんの使う退魔剣術。

 その心得なんてもののない俺が使うのはよく考えれば非常に失礼なことだが、今ココで使わせてもらうことに感謝した。

 おかげで久遠が救えると・・・

 

 放たれた斬魔剣の剣撃は久遠のまっすぐ突き進み、当たると祟りだけを久遠からはじき出し吹き飛ばした。

 本当はそのまま倒したかったのだが、切る意思を入れると誤って久遠を切りかねないと、弾き飛ばすイメージで久遠の中から叩き出した。

 

 

「『アアアアアァァァァァ』ぁぁぁぁ・・・・・・あぁ(バタン)」

 

「うそぉ・・・・・・」

 

「祟りだけを・・・・・・切り飛ばしたのか?」

 

 久遠の体から叩き出された祟りは、そのまま煙の塊のようになって宙に浮かびあがった。

 祟りが抜け出た久遠は力が抜けてその場で倒れ付した。

 俺も防御が甘い状態で雷を受け、更に全力で気と霊力を放ったので一気に力が抜けそうになるがまだ終わってないと足を踏ん張る。

 

「後は・・・こいつだけか・・・・・・」

 

 眼前に浮かぶ黒い煙の固まり、祟り。

 久遠から抜け出た思念の固まりは、霊視出来るからか俺にこれ以上無い悲壮感を感じさせた。

 後は那美姉さんと薫さんに任せようと思ったが、これだけなら俺がやればすぐ終わる。

 久遠を苦しめた恨みも憎しみも無く、ただこんな気持ちは無くなってしまえという思いを優先して。

 

「那美姉さん、これをどうにかすれば終わりだよね。」

 

「え、ええ。」

 

「待て、後は私たちがやる。

 ここまでしてくれれば十分だ。

 君にもそんなに力が残っていないだろう。」

 

「ええ、一気に使い切っちゃってだいぶ減ってます。

 けどこれくらいなら・・・」

 

 俺は久々に直死の魔眼を開放する。

 これも始めてまともに使用するが、霊視と合わせていたせいか死線と死点がこれまででもっともよく見える。

 俺は無造作に煙状の祟りの死点を、霊力を僅かに込めた海林でトンッと突いた。

 直死の魔眼には実態在る無しに死が見えるから、気の篭ってない武器で突いても効果はあるはずだが、念のため霊力を込めて突いた。

 死点を疲れた祟りは一瞬で収縮して、その後光になってはじけ飛んだ。

 最後はあっけない幕切れだったな。

 

 終わったと思ったら今度こそ完全に力が抜けてその場に座り込んだ。

 それを見て那美姉さんが駆け寄ってきた。

 

「拓海君、大丈夫!?」

 

「ええ、まだ体が痺れていて、力も使いすぎてちょっと眠いです。

 そういえば、もう寝る時間でしたね・・・。」

 

「そう、よかった。

 後片付けは私がやっておくから休んでて。

 それと・・・・・・。」

 

-久遠を助けてくれて有難う。-

 

 

 

 那美姉さんの言葉を最後まで聞く前に俺の意識は落ちてしまった。

 久遠がどうなったかと聞きたかったが、体力的にも精神的にも年齢的のも限界だった。

 このとき既に午前0時過ぎ、8歳の子供は寝てる時間です。

 

 

 

 

 

●霊感を自覚した。

●栄光の手モドキは霊気手甲と命名。

●直死の魔眼で死点がはっきり見えるようになった。


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