我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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9話 クアッフル注意報

「ふぅん」

 

 トム・リドルは女子便所に居た。

 別段トイレに間に合わなかった訳では無いし、異常嗜好に目覚めた訳でも無い、しっかりとした目的を持って来ていた。

 

「・・・秘密の部屋」

 

 彼が数日前発見したこの学校の秘密、サラザール・スリザリンの残した遺物、それはこのトイレのどこかから通じるらしい。

 その中には、スリザリンの怪物が、その巨体を横たえ眠っているという。

 

「・・・ククッ」

 

 サラザール・スリザリン。ホグワーツの四人の創設者の一人にして、ゴドリック・グリフィンドールとホグワーツの有り様の価値観から衝突し、自らこの学校を去った選民主義者。

 自分と同じく蛇と話す事が出来た偉大な魔法使い、能力のある者しか認めなかった男。嗚呼、なんと自分と似ている事か。

 

「僕は、サラザール・スリザリンの再来だ」

 

 だったら後を継がなくちゃ、彼のしたかった事をしてみせよう。だって僕はこんなにも優れてるんだから。

 

「秘密の部屋、絶対に見つけてやるからな」

 

 邪悪に笑みを浮かべてリドルは天井を見上げ、それとほぼ同時に、奥の個室のドアが開いた。

 

「えっ」

「え?」

 

 そこに居たのは見慣れた金髪とカピバラ、ヨーテリア・グリンデルバルドである

 

「・・・えっ?」

 

 何故だ、何故居る、しっかり確認した筈だ、しかもよりによって何故お前なんだ。

 

「お、おま」

 

 やめろ、頼む、黙ってくれ、何も言うな。僕の所有物だろ?ね?いい子だから

 

「何やってんだぁ″ぁ″ッ、リドルゥゥゥ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨーテ、リドルどうした」

「触れないであげてくれ」

 

 いや、割と心折れ掛けてるからマジで。

 女子トイレに入ってたのを見事に俺に見られたリドル坊や。そのせいで昼飯時でも見事に沈んでいる、精神的クルーシオだわなこれ。

 

「死のう、今日死のう」

「よせよリドル」

「不謹慎な野郎め」

 

 俺達二人に制止されるが、両手で顔を覆ってうずくまってしまうリドル。

 

「何で、何でよりによって貴様なんだ・・・ッ」

「そんな事私に言われてもな」

「ずっと思ってたけどヨーテ、口調変えた?」

「これも罰則、私には自分の罪を悔い改める必要がありますの」

 

 メリィソート先生の罰則だもんよ、刑期は知らんから在学中ずっと守らんとなっ。リーマン時代を思い出すぜぇ。

 

「んふ」

「何か二人ともおかしいぞ」

 

 何がおかしいのかねフィルチおじさん、俺は魔法開発が趣味の普通のヨーテリアさんだぜ。

 

「それより午後はクィディッチらしいぜ。

 レイブンクローとスリザリンだ、今年は優秀なのが多いらしい、きっと凄い仕合になるぞ!」

 

 へえ、クィディッチか。

それも原作では多分見てない組合せだな、やっぱりやってたんだな、この二寮。研究の休憩にはなりそうだな、やんわりと楽しみますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい、誰だよ休憩とか言った奴、めっちゃ熱いし混んでんぞ!?

 足は踏まれるし押されるし、とりあえず俺のケツ撫でた野郎誰だ?探しだして新呪文の実験体にしてやるぞ、男に撫でられても嬉しくないんだよ。

 

「あ″あ″うざいなあっ!」

 

 思わず悪態をついてしまうと俺の周りだけ隙間ができる、ごめん、ちょっと傷付くからやめて。

 逃げるようにスリザリン席に転がり込む俺、そしてスリザリン席にも空きができる、イジメか?最近緩いからすぐ泣くよ?

 フィルチおじさんは前の方に居た。目があったので手話で移動しようと伝えるがどうやら身動きが取れない様子、残念。

 リドル坊やはドロホフと一年達と一緒か、背中さすられて慰められてる。友達多そうでいいねぇ。

 

「これよりレイブンクロー対スリザリンのクィディッチ、試合を行います!

 今回実況を勤めますはワタクシ、獅子寮のビリー・ヘリントンでございます!皆さんヨロシク!有難う!有難う!

 そして今日の解説はこの人!お馴染みダンブルドア先生です!どうぞ!ダンブルドア先生!」

「いよーしアルバス解説頑張っちゃうぞ」

 

 楽しそうだね実況席。あとダンブルドア、またあんたかよ。

 さて、ピッチに目を移すと、鷲寮と蛇寮の選手が整列していた。

 やっぱりスリザリン列は体格が良く、レスラーみたいな巨漢共が一列に並んでる。

 対してレイブンクローには細みの選手が多いが、皆筋肉質で貧弱には見えない。なんとなくスピード重視してる感じがするな・・・何か、一人見覚えあるような、ボヤけて見えない。誰か望遠鏡持ってない?

 キャプテンが握手し、審判のオッグが大降りなボール、クアッフルを投げた。

 それを合図に試合開始、箒に乗った選手が一斉に飛び立つ。

 

「さあて始まりました、レイブンクロー対スリザリン。

 解説のダンブルドア先生、どう見ますか?」

「そうじゃのう、スリザリンは見ての通りパワーを活かした強引なプレーが強みじゃ。

 対してレイブンクローは今期最速のチーム、スピードとパワーの勝負になるのう」

「レイブンクローが捩じ伏せられる心配をしているのですが、どうでしょう」

「無いじゃろうな、練度の高いチームじゃし」

 

 ダンブルドアの言う通り、鷲寮がクアッフルを取ると蛇寮のゴリラが何人向かってもひらりひらりとかわされてしまう。凄いな、あんな動き人間に出来るのか。

 しかし蛇寮も負けてはいない。

 

「レイブンクロー、ボーンズ選手の一球!」

 

クアッフルを持っていた選手が、加速に任せてゴールにクアッフルを投げ付ける。

 

「取ったァァ!スリザリンキーパー、カルロス・スタローン選手!

 入団してゴールを守った回数、実に56!流石スリザリンが誇る鉄壁だ!」

「ッシャァァオラァァ!」

 

 蛇寮チーム最大級のゴリラが咆哮と共にクアッフルをぶん投げる、狙いはピッチ真ん中の一人。飛んできた剛球を見事にキャッチし、攻め上がる長身の男。

 

「スリザリン、オービエ選手!ゴリラ揃いのスリザリンの中で、唯一機動力を持った男だ!」

「うまいのう、キーパーの意図を完全に理解して真ん中に上がりおった」

 

すごいな、確かに速い、攻め上がっちゃった鷲寮が追い付かない。しかーし、クィディッチと言えば、あれだ。

 

「レイブンクロービーター、会心の一撃ィ!

 あれザミエルか?ザミエルだ!失礼」

 

 鷲寮のポニテのビーターがブラッジャーを撃ち込む。辛うじて反応した蛇寮のノッポは寸前でバレルロールして避けたが、クアッフルを取り落としてしまった。それを素早く回収する鷲寮、なんつー手際だ。

 

「さて、レイブンクローのジェラルド選手、手際よくクアッフルを回収したがッ、ああーッ!またやりやがったあいつらァァ!」

 

 うへぇっ、スリザリンのビーターがブラッジャー殴る棍棒投げつけてクアッフル持ちを気絶させおった。これ反則だわ。

 

「すまねぇ、すっぽぬけた!」

 

 舌出して笑いながら言っても説得力無いよ。

 オッグが怒り心頭で怒鳴り散らし、会場からも大ブーイング。それでも笑うのか、大物だなあいつ。

 

「ペナルティーだ!このバカ!」

「すまねぇ、すまねぇ」

「さてレイブンクローのペナルティースロー、投手はコルピ・チャンプ選手。

 レイブンクロー内では文句なしのエースストライカーの彼ですがッ、

 ダメだァーッ!カルロス選手を抜けないィーッ!マジでバケモンだよアイツどうなってんの!?」

 

スリザリンのキーパーがえげつない、巨体に見合わない瞬発力で3つのゴールを同時にカバー出来てる。何あの逸材、プロと変わんないぞ。

 

「さてスリザリンの投球です、カルロス選手振りかぶり、投げたッ

 オオーッすげぇっ!レイブンクローが取った!あれは、ジョーンズか!?レイブンクローの参謀、ジョーンズ選手だ!」

 

 背の高いスポーツ刈りの男がクアッフルを奪い、ピッチ外周を飛ぶ。

 蛇寮はスポーツ刈りに追従し両脇から挟み込むように飛ぶ、これ映画で見た気がするぞ!

 

「ウワァァ何て事しやがる!?

 ジョーンズが壁に叩きつけられたァァ!」

 

 映画通りだ、両脇から挟み込んで動きを封じ壁ギリギリまで飛んで叩きつける。

 えげつない上に反則にはならない、何故なら直接掴んで叩きつけた訳じゃないからだ。

 うーん、これレイブンクロー無理だな・・・お?何か鷲寮一人変な動きしてんぞ?最初の見覚えある奴かな。

 

「おや、レイブンクローシーカー、最年少のフーチ選手、これはもしや」

 

 あれフーチ先生か!?ほんとだ、居たのか!?

 そういや、クィディッチって二年も参加してたな、原作で言うフォイフォイ、げふんげふん。

 

「マジか!?あいつスニッチ見付けやがった!

 ピッチ左側を飛行しています!」

 

 ピッチ左側上空を爆走するフーチ先生、それに向かって蛇寮のシーカーも飛んでくる。

 スニッチとの距離はせいぜい5メートル、このまま行けばスニッチ獲得は確実。

 しかしここは蛇寮、当たり前のようにフーチ先生へ体当たりを見舞い、体格差はどうにもならずフーチ先生が吹き飛ぶ。

 

「スニッチは私のモンだああ!!」

 

 うおお!?持ち直して体当たり仕返した!体格差がある筈の相手を押し退け飛行する。

 うわスニッチこっち来た、怖ェ!

 フーチ先生も方向転換し、スニッチを追い、俺達スリザリン席の方角に飛ぶ!

 

「させるかァァァァ!!」

 

 おまっ、クアッフル投げつけてきた!?

 轟音を立てながら飛んでくるクアッフル、箒の上であんなの当たったら死んじまうよ!

 

「フーチ!後ろだ!」

 

 思わずフーチ先生に叫ぶ俺、まずいよ、頼む避けてくれ!

 

「うおお!?ちゅっ、宙返りしてかわした!?」

 

 何と先生、宙返りしてクアッフルを回避しそのままスニッチをスリザリン席の目の前でキャッチ!

 ふおお!すげええ!格好いーー

 

「あ″あ″ッ!?」

 

 先生の避けたクアッフル、俺の左腕にヒット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぃよっっっしゃぁぁ!」

 

 フーチは舞い上がっていた。

 スリザリン席の目の前でスニッチを掴みその場で数度バク転した後、愛するチームメイトの下に向かうフーチ。

 

「よくやったフーチ!」

「ッシャァァッ!俺達の勝ちだッ!」

 

 鷲寮チームが次々とフーチを抱き締め、空中で揉みくちゃになる。

 

「勝ったァァッ!フーチ選手の活躍により、レイブンクローに150点!スリザリンの息の根を止めましたァァッ!」

「フェアプレーの勝利、ようやった!

 レイブンクローとフーチ選手に拍手じゃ!」

 

 レイブンクローからの割れんばかりの拍手と歓声、チームメイトに囲まれながら、鷲は蛇を食らい、雄々しく舞い上がる!フーチはスニッチを空高く掲げ、吼えた。

 

「私らの、勝ちだァァッ!」

 

 その様、まさしく誇り高き鷲の如し!

 

「さて、スリザリンの投球によりケガをしたであろう生徒は今、果たして無事なんでしょうか?」

 

 審判が望遠鏡を覗いたまま黙ってしまった。

 フーチがそれに気付き怪訝に振り返ると、何故か審判は顔面蒼白で、ダンブルドアが完全に真顔だった。

 

「ギャアアアア!あれッ、グリンデルバルドじゃ無ェかァァッ!」

 

ーーあっ、スリザリン終わった。

 

 フーチはそう思いながらスリザリン席を見た、成る程、左腕を押さえてヨーテリアが喚いている。この遠くからでも分かる、あれは折れてる。

 

「あ″あ″あ″あ″ッ!?クソ、痛ェ″ッ!?

 ゴリラァッ!テメェ覚悟出来てんだろうなァ″ァ″ッ!」

 

 苦悶と怒りで涙と涎を散らしながらエンゴージオを乱射するヨーテリア。

 クアッフルを投げた選手は悲鳴をあげて肥大呪文から逃げ惑う。

 

「逃げんなァァッ!」

「落ち着けヨーテ!」

「ごめんみんな、手伝ってくれ!」

 

 フィルチとリドル、リドルに従う生徒達がヨーテリアを押さえて担ぎ上げる。

 

「医務室に運び込めェェ!」

「があ″ッ!左腕持つな痛ェだろうが!

 クソ、クィディッチなんて大嫌いだーッ!」

 

ーースリザリン大丈夫かなぁ。

 

 我知らずと地上に戻りつつ、フーチはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複雑骨折でした。

 自室で左腕のギプスを擦る俺、中身は二の腕からクアッフル型に円描いてた。全治6ヵ月、半年ですなぁ、ハッハッハ、あのゴリラぶち殺す。

 あーあ、こんなんじゃ実技どの教科も無理だ。

 

「そうじゃのう、実技は休みにしようか

 かの子は泣きながら謝ったからとりあえず許してあげなさい」

「ナチュラルに居るんじゃねーよダンブルドア」

 

 このジジイ生徒寮にまで姿あらわし出来るのかよ、神出鬼没にも程があるぞ、どこの邪神だよ

 

「しかし授業関係の相談は普通親とするじゃろ」

「親じゃねー保護者だ。私の親はお前じゃない」

 

 俺の親は工場勤務の大酒飲みと専業主婦だけだ。断じてお前じゃないぞ、ダンブルドア。

 

「おや、ようやく女の子らしい言葉じゃ。

 どうしたね、何か良い事でも?」

「別にィ、ただのメリィソート先生の罰則だよ」

「ほう、彼の罰則かね、よく守っているね」

 

 まあね、あの人は良い先生だし。俺を庇ってくれたのはマジで嬉しかった。それにだ、あの人はよぉ

 

「んふ・・・んふふふ」

「ヨーテリアや?」

 

 俺の研究成果を、俺の記憶の再現を、綺麗だって言ってくれたんだ。

 

「んふふふふふっ」

 

 嬉しかったなぁ、誉められたのはいつぶりかな。

 なあ親父、あの人あんたそっくりだ。後腐れ無くて、あったかい男だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガラテアァァ!お主ヨーテリアに何をしたァァッ!」

「ぬわーーッ!」

 


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