我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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人の時間なんて些細な物、楽しい時間はすぐ終わる。辛い時間もまた然り。


8話 思い出と今と

 顔に直射されたランプの光に照らされて目が覚めた、消し忘れてしまったらしい、眩しいわ。

 ここしばらく無理してたからかな、起きるのがダルくて仕方無い。

 朝飯は、缶詰あったっけ。食うか。

 

「今日も仕事か、ダルいなあ」

 

 缶詰を開ける、タラか。素手で掴んで口に放り込む、歯磨いて着替えないとな。

 寝惚けたまま洗面所に向かう、とにかく顔洗うか。目覚まさないと。

 水を手にすくい顔を洗う。そうだ髭剃らないと、リーマンの基本だ・・・。

 鏡に写るのは、リーマンの俺じゃない。金髪で髪先が巻き毛の目の死んだ女の子、ヨーテリア・グリンデルバルドだ。

 ・・・はは、忘れてた、ダルい朝が懐かしくてごっちゃになってた、髭とか無いよ卵肌だよ。

 しかし意外といい顔してんのなこの子、将来美人だ。背高いしモデル向きだな、ってコイツ俺か、あははは。

 ・・・現実逃避はやめよう。

 軽く寝癖を直しよく顔を洗う。ローブに着替えないとな、錫杖も忘れずに。

 

「ピーちゃん、朝だぞ」

 

 寝ていたピーちゃんを起こして、もふっと頭に乗せて準備万端。

 

「アーガス?リドルー」

 

 二人を呼んでさっさと授業に、ってだから俺女でしかも個室だろうが、居ねーよ二人、ハリポタ見たんだろ?女子と部屋違うの知ってんだろ馬鹿。

 何だよ、何で今日急にこんなになってんだよ、イライラする、無意識にこめかみを掻きむしる、この前まで平気だったのに、どうしてこんな・・・。

 山積みになってる本が見えた。

 ああ、研究に夢中で忘れてただけか、前は毎日こうだったな、慣れてた筈なのに。

 久々だからキツいんだな、仕事と一緒。

 

「・・・クソが」

 

 何が明日が楽しみ、だよ。最悪だぜ。もう一回顔を洗おう、目元が濡れてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 談話室にはいつものように喋っているガキ諸君、そしてこの前暴れたせいでまた怯えられる俺。

 疲労と寝不足と新呪文のせいでフィーバーしてたからな俺、仕方無い。

 

「目をあわせるな、呪われるぞ」

「あんなに暴れてよく出てこれるな」

「教師も逆らえないに違いない」

「いなくなればいいのに」

 

 いつも通り陰口を叩く連中、いなくなればいいのに、か。なかなかキツい事言ってくれるな。お兄さん傷付いちゃうよ、ははは。

 

「ヨーテ、おはよう」

「おはようグリンデルバルド」

 

 おお二人とも、おはようございますだぜ。

コイツらホント良い奴だよなそういえば。今までかなり振り回したと思うけど何だかんだ着いて来てくれてるもんな。

 というか、リドル小さいしなんか弟みた・・・っ、だから!思い出すなってんだよ!何でこんなナイーブなんだよ、久々だからか!?

 

「グリンデルバルド?随分暗いな、君らしくもない」

「抜かせ・・・ッ」

 

 やめろよ、何でそんな心配そうな顔をする、いつもみたいに馬鹿にしろ、調子狂う。それに俺は、昨日お前を・・・

 

「リドル」

「何?」

 

 そうだよ、あんな事した奴を何で引き離さない、何でそんな心配出来る、いい奴すぎんだよ。

 

「昨日は、ごめん」

 

 申し訳なくなってくるだろうが。

 頭を下げたから顔は見えないがきっと嫌な顔をしてる、俺ならそうする。

 ん?誰だ、俺の顔を上げさせるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リドルはヨーテリアの顔を上げさせ額に手を置いた。熱は無いようだ。

 

「何か変な物食べたの?今日おかしいよ君」

 

 そう言うとヨーテリアは口をあんぐりと開け、リドルを呆然と見つめた。

 

「だって、俺、昨日お前を、あんな目に」

 

 リドルは逆に呆れ返った。

 トム・リドルはプライドが高い。認めた相手はとことん評価する。

 だから自分より格上と判断する、ダンブルドアや一部の教師の前では何があっても傲慢な態度はとらない。

 格下ながらに自分を負かしたヨーテリアを、ちょっと見直そうと考えていた所だ。

 というかこれより頭に来る事をダンブルドアに初対面でやられている、この程度僕は引き摺らない。そう自己完結していた矢先にこれだ。

 

「あのね、仮にも決闘なんだぞ?結果にどうこう言うのは三下のする事だ。

 僕は違う、君の勝利を認めるし、いつか仕返ししてやろうとも思う。

 そう本人が思ってるのに、何故君はそんなに引き摺ってるんだ?」

 

 リドルの呆れながらの説教に、何も口を挟まず聞き入っていたヨーテリア。

 しかしすぐにいつもの様子に戻り、彼女は憤怒を込めてリドルを睨んだ。

 

「何を、偉そうに説教するな!」

「あぁそれそれ、君はそれが一番(らしい)」

 

 小馬鹿にしたように笑いながら、リドルはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リドル坊やに説教されたで御座る。

 このクソガキ、誰に向かって言うとるね!?結局いつも通りだ、ホント嫌な奴!いっそ昨日仕留めりゃ良かった!

 あー気分悪い、授業の支度しよ。

 

「それじゃ朝食だ、腹ペコだよ俺」

「早く大広間に行こう、時間無くなる」

 

 はい?何故大広間に行くのかね?

 

「おい、何で大広間?」

「え?朝食食べるからに決まっているだろう」

「ヨーテも時間ずらして行ってたんだろ?」

 

 え、何何分かんないヨーテリアさん理解不能。今まで飯部屋の缶詰食ってたしそれしか無くね?大広間にあったの?

 

「行った事無いんだけど」

「じゃあ朝食は?」

「部屋の缶詰」

「えっ」

「え?」

 

 何かおかしい事言ったか?

 

「じゃあ君、昨日まで不眠不休どころか、マトモに食事すらとって無かったの?」

「う、ん?多分」

「 こ の 愚 か 者 !!」

 

 ひえっ、リドルがマジ切れしおった!?

 

「この、どこまで馬鹿なんだ貴様は!ホントに考える頭あるのか!?ああ、この馬鹿!アーガス、コイツ運ぶぞ!」

「合点」

 

 俺の両脇を担ぐ二人。ちょっと待て、どこに連れてくんだ!?やめろ、運ぶな、人さらいだー!誰か助けてくださーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人に連行され大広間についた俺。マジで朝食がある、知らなかったわ。

 待てよ、ハリーも大広間で朝飯食ってたな、じゃあ何?俺の朝飯抜き地獄は俺の理解不足で陥ってた訳?

 うわっ、超恥ずかしい死にたい。つーか一回死んだんだった、生きたい。

 

「食べろ、異論は認めない」

 

 有無を言わせぬ様子で料理の盛られた皿を俺に突き付けるリドル。なんかこわい、逆らいたくない。

 フィルチおじさんまで俺ガン見だし、えー、これステーキ乗ってるよ、朝からこんな重たいの食べたくないよ。

 つーか肉料理って確か昼飯に、って、ダンブルドア!お前か!お前なんだな!?なんで何食わぬ顔で教員卓で飯食ってんだよ!いい笑顔してんじゃないよ!

 

「た、べ、ろ」

 

 分かった凄むな食べる食べるから。

 皿を受け取りステーキをナイフで切る、どうやら焼き加減はレアらしい。表面だけ焼いた感じだ、俺嫌いだな。

 切った感じの肉汁は凄い、じゅわ、みたいな感じに切り口から溢れてくる。いい肉、なのかなぁ。

 フォークで串刺しにし口に運ぶ。何度も言うが俺ステーキ嫌いなんだけどなー・・・。

 

「ムグッ!?」 

 

 口に入れた瞬間全身に電流が走る。一噛みしただけで溢れる肉汁、柔らかいがしっかりしている牛肉。

 備え付けソースはオニオンか、玉ねぎの控えめな感触が面白い、よくスパイスが効いていて味も刺激的だ。

 いくら噛んでも味が消えない、それどころか噛めば噛む程味がしみ出す。

 飲み込んでみればなんとサッと入る事か、後味は随分とすっきり、飽きが来ない。

 横についていた特製ソースを試してみよう、これは、嘘だろハバネロか?またハバネロか、うーん、辛いのは嫌いだがせっかくだし、ほんの一滴だけ。

 覚悟を決めていざ、いただきます。

 一口食べてみて、衝撃が走る。何だこれあんまり辛くないぞ!?ピリッとするだけでむしろ刺激的でうまい、それよりこの酸味は、レモン?成る程、酸味で辛味を抑える理論か!

 辛味は苦味、酸味は苦味で中和する事が出来る、それ利用してハバネロを食べれる辛さに抑えつつ、レモンで味を確保か。

 多分それ以外にも調味料使ってるな、味が控えめながらしっかりしてる、しかもハバネロの独特の辛味がついて幾らでもいける旨さだ!しかも肉と相性抜群!

 

「ぅぐ・・・ひっく・・・」

 

 これは、泣いても許されるよな・・・?

 

「グリンデルバルド?」

「い″き″て″でよ″か″った″あ″あ″」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部平らげてしまった、まさか俺がステーキ全部いけるとは我ながら驚きだ、満腹満腹。

 

「ヨーテが飯食うの初めて見た」

「泣きながら馬鹿食いするのか、馬鹿だなやっぱり」

「うるさい」

 

 だってあんな旨い物初めて食ったもん、そりゃ感動して泣きながらがっつくだろ。今日は涙腺緩いようだけどな。

 

「今日は変身術と魔法史、あと呪文学、午後に闇の魔術に対する防衛術・・・か」

 

 行きたくないなぁ、メリィソート先生絶対に怒ってるよ、賭けてもいい。

 ハァ、昨日フィーバーしてて忘れてたわ・・・しゃーない、最後に謝っておくか。

 とにかく最初に変身術だ、確か実演やるらしい、マッチを針に変えるんだっけ。

 落ち込んでるフィルチおじさん元気出せ、筆記は平均だろ?そんな暗い顔するなよ。

 さて、教室にたどり着くと、さっきまで飯食ってた筈のダンブルドアが、教卓でニッコリ笑ってる。あいつ絶対校内で姿あらわししてるだろ。

 ディペット校長ー?あんたの部下セキュリティ破ってますよー?出来ない筈の姿あらわししてますよー?

 

「さて、遅刻者は居らんらしい、結構。

 よろしい皆、今日はふぅふぅ言う日じゃ。このマッチを小さな針に変えてもらおう。

 簡単に見えるし、今まで散々解説したのう。でもぶっちゃけ実演はうまくいかんのが常識と言う物じゃ。

 幸い本日は一時限丸々、授業はむしろ進みすぎとるし、のんびり試しても構わんよ」

 

 そうなのか。

 フィルチおじさんが取ってきたマッチを受け取る、うんどう見てもマッチ、コイツを針にするのか。

 えーと、ラテン語でしたい事象を命令して、針に変わる様をイメージしながら魔力を注入する、だっけ。

 錫杖がデカイから立たないと出来ないな。さて、では起立して杖を向けよう。

 

「〈マッチ棒よ針になれ〉」

 

 杖を向けて魔力を注ぐ、イメージは充分の筈、魔力も適量だ。

 さて、針になって欲しいが、これ先端尖っただけだわ、色まんまだわ。うーん、何を間違えただろうか。

 回りを見ると、リドルはやはり余裕の一発成功、他のガキ共はちらほらと変身させてる様子。

 フィルチおじさんは案の定というか、物凄い顔して変身させようとしてる。なんて痛ましい、もういい休め・・・ッ。

 出来ないのは君が一番よく分かってる筈だッ。

 

「グリンデルバルド?君の中で針は片側がマッチなのかい?」

「うるさいよ」

 

 煽んなや、こっちは大真面目なんだよ。

 しかしなあ上手くいかない、かけ直したら今度は鉄製のマッチが出来た。何が足りないんだろうか。

 

「詠唱の言葉増やせばいいんじゃないかな。

 ドロホフ、見せてやれ」

 

 リドルがたまにつるんでる色黒で強面な男子、ドロホフに指示を出すと、彼は頷いてマッチに杖を向けた。

 

「〈茨の棘、鋭利な牙 このマッチ棒を針に変えよ〉」

 

 ドロホフが詠唱し魔力を注ぐと、マッチ棒は見事鋭利な針に変身した。

 

「詠唱を増やしてイメージしやすくすれば、その分変身もさせやすくなる」

「そうか、ありがとうドロホフ」

「フン」

 

 そっぽを向いてしまった。しかしドロホフか、ドロホフねぇ。何だか覚えがあるような、無いような。

 

「ほら、やってみなよ」

 

 お、おう。今やるぞ。しかしなあ、詠唱を増やすねぇ、針をイメージしやすいの、しやすいの・・・。

 

「〈ペン先、突き刺さる物 このマッチ棒を針に変えろ〉」

 

 アバウトだけどこれしか無いよ、ていうか他に針って何よ?

 でもイメージは出来たらしい。

 マッチ棒が完全に針にな・・・っ、カラーリングマッチ棒のままじゃねーか!?

 

「ドロホフてめぇ」

「待て、僕は悪くない」

 

 うるさいお前のせいだ、覚悟しろエンゴージオぶつけてやる。

 

「ヨーテリアや、針が何かマッチカラーじゃの」

 

 馬鹿野郎何で高らかに宣言してんだ!?ほらぁ、周りクスクス笑ってんぞ。

 

「ヨーテ、お前なら出来るよ」

 

 フィルチおじさん何がグッジョブだよ。畜生何これ、イジメか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局俺の針はマッチ棒カラーのままだった。

 魔法史と呪文学は比較的楽だった、何せ筆記と魔法ぶっぱだ。

 筆記はフィルチおじさんいるし、魔法ぶっぱは研究の副産物を披露してなんとかなった。

 昼飯にはまた大広間に行った。

 ピーちゃんにローストビーフを強奪されたが、まあある程度腹は膨れた、堪能したぜ。

 というかピーちゃん学校じゃ下ろすべきかな、子供だから小さいけどやっぱ邪魔だ。ノート書く時とかしがみ付くから痛いし。

 

「次闇の魔術の防衛術だなピーちゃん、やっぱ先生怒ってるかね」

 

 我がいけすかないペット様に声をかける。どうやら反応してくれた様だが、やはりこのカピバラ一鳴きもしない。

 

「入るなり追い出されたら嫌だなぁ」

 

 流石に心折れるからな。最初の授業で庇ってくれた人だ、出来ればうまく付き合いたい。うーん、嫌われたくないのう。

 

「一鳴きくらいしろよ」

 

 ピーちゃんよぉ、ちょっとは飼い主癒せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「授業を始めよう、諸君」

 

 メリィソート先生ご入室である。

 見た感じ今まで通りだ、不機嫌では無い。やっぱ俺の考えすぎだったのかな?

 

「ッ」

「グリンデルバルド?」

 

 ヤバい目があった。ちょ、マジで怖い。感情が読めない。

 先生俺見て何を思ってらっしゃる?怒ってる?呆れてるか?

 

「今日は42ページ、魔法生物のM.O.M.分類についてだ。ミス・グリンデルバルド」

 

 うへぇっ!?嘘だろ先生!

 

「この分類について述べてくれ」

 

 ま、まま、マジか、先生に集中してた。

 え、えぇ?M.O.M.分類?何それ知らないよ教科書見よ。見ながらの説明でいいかなぁ。

 

「M.O.M.分類とは、魔法省の決めた、生物の危険度を表す物で、Xで度合いを決めている、です」

 

 教科書まんまだぜ、ハッハッハ。先生絶対呆れて、え?笑顔じゃん。

 

「よろしい、よく述べてくれた。スリザリンに一点だ」

 

 お、おお!?やった!?点数までくれた、これ大丈夫な奴か?あっ、ダメだすぐ視線戻しちゃった。

 

「今彼女が述べた様にM.O.M.分類とは、言わば魔法生物の危険度の事だ。

 Xが多いほど危険度が大きいが、中には不死鳥等、管理が難しい物も多くつけられている事がある。

 今日はそれを踏まえて、授業を進めよう」

 

 いつもの調子で教鞭を振るう先生、その様子からはどんな機嫌してるのか分からない。さすがにプロ、私情は一切無しか・・・帰りに話しかけてみようかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで、皆一日お疲れ様だ」

 

 闇の魔術に対する防衛術が終了した。

 ガラテア・メリィソートは生徒を労い、寮に戻るよう促す。

 生徒達が各々今日は難しかっただの、今夜は何をしようだの、仲の良い友人と寮に戻る。

 自分も一度職員室に戻ろう、と荷物を纏める。

 

「メリィソート先生」

 

 ん?と顔をあげると、そこにはヨーテリアが立っていた。

 

「どうしたね、ミス・グリンデルバルド。

 補習はいらんだろう?君は優秀な方だし、今日の説明、よく出来ていたよ」

 

 にこやかに声をかけるメリィソート。しかしヨーテリアは顔を曇らせた。

 

「怒っていらっしゃらないので?」

「はて、何の話かね」

 

 ヨーテリアと向き直り、真っ直ぐ目を見つめると、少し狼狽えながら、ヨーテリアが口を開いた。

 

「昨日、俺、暴れてしまって、先生に、迷惑かけちまった・・・本当にごめんなさい」

 

 頭を下げ詫びる彼女、メリィソートはこの行動に驚いた。

 思ったより素直だったのもそうだが、この孤高な少女が今回の件をあっさり流すと思っていたのに、存外思い詰めていたからだ。

 

ーーああ、この子もやはり子供なのだな。

 

「ふはは、意外だな」

 

 笑いながら肩に手を置いてやる。

 

「君は随分と大人びていると思っていたが、なかなかどうして、幼い所もあるのだな」

 

 呆けた様子でメリィソートを見上げるヨーテリア。ポカンとした顔が面白くて、デコピンしてみる。

 

「あ″痛っ」

「気に病む事は無い。ミスターリドルとはもう仲直りしたのだろう?

 私も罰則は与えた筈だ、何の後腐れもない」

「しかしっ」

「周囲の目なら気にするな。

 あの程度の騒ぎ、毎年起こってる」

 

 言葉通りメリィソートは昨日の件をそこまで重要視していなかった。少なくとも去年の一年生が半年入院していた事よりはだが。

 しかしヨーテリアは納得いかないのか渋い顔をしてメリィソートを見つめる。それを見て彼は律儀な事だ、と微笑んだ。

 

「なら、追加罰則を与えよう。君のその(俺)という一人称を禁ずる。

 そして魔法の開発、これからも励みたまえ。あの魔法、危険だが綺麗だったよ」

 

 そう言うとヨーテリアはしばらく茫然とし、すぐに目を輝かせて笑顔を浮かべた。

 

「はいっ、俺、これからも頑張るッス!」

「ほら、罰則は?」

「すいません、あの、私は、これからも励みます!」

 

 元気よく教室を出ていくヨーテリアを苦笑しながら見送るメリィソートは彼女が出ていってから、荷物を纏め始める。

 

ーーああ笑うと本当に子供だな。

 

 教員室に戻る途中、メリィソートはそう思った。




修正事項
冒頭の(日光)を(ランプ)に修正

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