鬱だ死のう。
今俺は原作のホグワーツ特急の駅、つまり9と4分の三番線を探している。
「入学式じゃ! この駅を探しなさい。
席は自由席じゃ、友達を作っておいで」
朝起きるなりテンションMAXのダンブルドアが駅の番地のメモを渡してきた。
分かるけどさ、一人で行くのかよ。
そう言ってやると教員だから列車の見送りが出来ないので、先に学校で待ってると抜かしやがった。
錫杖でぶん殴ってから支度して出てきたが、駅のホーム広すぎ笑えない。11歳のおチビちゃんは人混みに流されるしね。
荷物多いし重いし疲れるし、何より人の目が痛い。
「つーかピーちゃん、降りろ」
自分の頭に乗るやたらデカい鼠に指示を出す。
ダンブルドアに買われたペット、カピバラのピーちゃんである。
大きくてふかふかでぬいぐるみみたいだが、生憎と俺の趣味じゃないし見た目がかわいいだけで大変態度がムカつく。
チューって鳴けこら、一度も鳴いてないよなお前。
「あの子カピバラ乗せてるわ」
「可愛いなぁ、ぬいぐるみみたいだ」
「ちょっと撫でさせてくれないかなぁ」
勘弁してくれ、目立ちたくないのに。
ピーちゃんも頭から降りない、ハゲちゃうだろが。
そう言っている間に9番線を発見、間に柱を挟んで4番線もだ、やったぜ。
・・・こっからどうすんだっけ。
え、ヤバいよ覚えてない、どう行くんだっけ? 呪文唱えてたような、手順があったような。
「君、どうしたね?お母さんかお父さんは?」
「お構い無く」
駅員の親切心が痛い、優しいおじさん・・・っ!
ヤバい、どうすりゃいいんだ、ダンブルドアのせいだ、おのれダンブルドア。
何で俺がこんなアホ臭い事しなきゃならない、頭にカピバラ乗せて大荷物で駅の柱で佇んで、畜生涙が出てきた。
「ちょ、そこのあなた大丈夫?」
涙目でわなわなと震えていたら、太っちょの優しそうな女の子が話しかけてきた。
俺助かった、感謝、圧倒的感謝・・・っ!
「新入生? この柱はね、思い切り走り抜ければいいのよ。
分からなかったのね、かわいそうに」
頭を撫でるな貴公、ピーちゃんが邪魔そうな顔してんぞ。
しかし走り抜けるのか、そういやそうだったな。
「ありがとう。俺はヨーテリア、あんたは?」
「ハッフルパフのポンフリーよ、ポピーって呼んでね」
マ ダ ム ポ ン フ リ ー k t k r
成る程、確かに原作の表現通りの人だ。後のホグワーツの医療の支配者か、すげぇ。
「じゃあ行きましょうか、私に付いてきてね」
ポンフリーに続いて柱へ特攻する。
すると一瞬視界が暗転し、真っ黒な機関車の停まった駅に立っていた。
本物の9と4分の三番線だ、圧巻だぜ。
「そういえばヨーテリア、家族は?」
「保護者がホグワーツで待ってる」
「そうなの? じゃあ、乗りましょうか」
そそくさと機関車、ホグワーツ特急に乗る俺達、映画のセットそっくりだ。
コンパートメントとかテンション上がる、不謹慎だけどディメンターごっこしようかな。あ″~、あ″~。
「ここが空いてるわ、座りましょう。荷物多くて疲れたわ」
まったくだ、ピーちゃんの分首も痛い。
コンパートメントに入りどっしりと座り込む、機関車のイスはふかふかで実に心地よい。
「もうすぐ出発ね、それにしても今年もおチビちゃんが多いわ。
ホグワーツは年々平均身長が縮んでるって噂、あながち間違って無いのね。
あなたは随分高いようだけど。うらやましい」
そうかな?俺の前世のこの頃じゃ普通だったぜ?クラス平均余裕で160超えてたからな。
「普通だ、多分」
「普通じゃ無いわよ、それ平均10以上ぶちぬいてるでしょ」
「158だった、普通だ」
「化けモンじゃない」
失礼な、中身20代リーマンでも女の子だぞ。
原作でもそうだったけど辛辣過ぎるよこの人。
「ポピー、空いていますか?
あら、ヨーテリア、また会いましたね」
聞いた事のある声と共に戸が空けられると、そこにはにゃんこ先生、そしてちょっとギョッとしたけどフーチさんが居た。
「こんにちはマクゴナガル」
「ミネルバでいいですよ。ポピー、あなたも彼女と?」
「この子さっき柱の前で泣きそうだったの。それで一緒に来たわけ」
「ブフッ、コイツが? マジうけるんですけど」
真顔で座っている俺を見ながらフーチ先生がケタケタと笑い始める。
やかましいわ、この前涙目でおろおろしてたろアンタ。
「そういえばヨーテリア、あなた寮どうするの?」
「獅子寮でしょう」
「いや鷲だろ」
二人の期待の目はスルーしまだ決めてない事を簡単に伝えておく。
どれがどんなのか分かんないしね、寮が幾つあるのかすら忘れた。
「まあ組分けで決める事だしね。お楽しみって事で、食事にしましょうか」
ポンフリーがちょうど通りかかったカートのオバさんにお菓子を頼む。
頼んだのはカボチャケーキにカボチャジュース、賢者の石でおなじみカエルチョコ。
そして百味ビーンズ、捨てて良いかな?
「おぅ、今回はエバラードか、当たりだな」
「ホントそれ好きですねあなた」
「カエルちゃんかじって喋るのやめてよね」
「えっ、チョコだからいいじゃん」
さて、俺はこの
いざオレンジ色のを取り、南無三。
「ホゴッオォアッ!?」
「何ごとですか!?」
あ″あ″あ″あ″あ″!! 辛い、痛い、目にしみる!
ピーマンか何かの味の後から伝わる、舌先どころか唇まで酸で焼かれるようなヒリヒリとした痛み、ソレが一気に口内で爆ぜて隅々までぶちまけられるような衝撃!
俺はコレを知っている、前世の記憶が蘇る。これは、前世の飲み会で酔った勢いのまま挑戦し、メンバー全員を悶絶させた劇物ーー
ハ バ ネ ロ だ コ レ ー ! ?
「へぅぉおっ、おぅっぐ、はひっ、ひいいい!?」
「落ち着けヨーテリア! 何があった!?」
「ほほぉぉぅうおおおお!!??」
何でだよ、何でよりによってハバネロなんだよ、口が痛い、ヒリヒリする。
「大丈夫ヨーテリア? 応急処置しかしてないんだけど」
「ほぅふ」
とりあえずの処置を施してくれたポンフリーが心配そうに声を掛けてくれたが全然大丈夫では無い。死んじまいそうだ。
俺が唇を真っ赤にして呻いている間に、ホグワーツ特急は泉の近くに停まった。
ここからはボートだ、痛みも引いてきたしゆっくり休もう。
「一年生! 俺に付いてきなさい。
ボートの上で暴れるなよ、大イカは気紛れにしか助けてくれない」
列車から降りるや否や、大柄な刈り上げの男が声を張り上げる。多分森番だな、原作の引率ハグリッドだったし。
他の生徒に紛れてふらふらと森番の横を通りすぎようとすると俺の惨状に気がついたのか、森番は「おい、でかいの」と俺を呼び止めた。
「どうした、唇なんか真っ赤にして」
「ほふぅ」
「百味ビーンズか、察した」
すげぇ、喋ってないのに分かるのか。さすが前任様は違うぜ。
そんなやりとりの後、俺を含む生徒全員がボートへと乗り込んだのを確認し、先頭のボートに乗った森番が声を張り上げた。
「よーし出航! 楽しい泉渡りの時間だ!」
ボートが勝手に動き泉を渡り始める。
夜の泉の先には古風な城、ホグワーツ魔法魔術学校。壮観な景色だ、写真とりたいな。
夜風に当たりながらそんな事を考えていると、ピーちゃんが波にビビって頭によじ登り始めた。やめんか。
「一年生諸君、せいれーつ!組分けで雑多な並びではカッコ悪いぞおっ!」
セイウチが服着て喋っておるわ。
冗談はさておき、あの立派な髭とはち切れんばかりの腹はスラグホーン先生だろう、間違いない。セイウチにしか見えん。
「では参ろうぞ、一年生。入場!」
スラグホーン先生に率いられ大広間に入場する、途端に割れんばかりの拍手の嵐と、ゴーストの編隊飛行が俺達を迎える。すげぇ迫力だ、映画顔負けじゃん。
しっかりと校長卓の前には椅子にのせられた素敵なズタボロ組分け帽子。
視線を移すと教員卓にダンブルドア、確実に俺見て笑顔で手を振っている、やめーや。
俺達が座り、校長らしき老人が号令を下すと、途端に大広間が鎮まり校長へ視線が集中する。
「結構、結構。諸君、よう来た! ホグワーツは君らを歓迎しよう、盛大にな!
これより君らには、寮を決める組分けを行ってもらう、内容は単純、この素敵な帽子を被る、たったそれだけじゃ!
寮は4つ制定は1度切り、クレームは無しじゃ! ABCで参ろうぞ、これより組分けを執り行う!
アイリーン、スミス! 一番のりじゃ、景気よく、被りたまえ!」
多分あの校長はアーマンド・ディペット、ダンブルドアの前任の校長だ。
原作ではダンブルドアに隠れがちだったけどなるほど、知恵ある偉人オーラが溢れでてら。
他にも教員卓には原作で見なかった教師達や、さっきの森番がいる。
・・・しかし、あのマ⚪リックス避けでもしそうな男の子は一体何者なんだろうか。
「レイブンクロー!」
・・・むしろ、見てくれ的にスリザリンじゃね?
グラサンスーツでエージェントをやってそうな子が着席した後、次第に興味を無くしていった俺はうつらうつらとしながら、次々新入生が他のテーブルへ流れていくのを眺めていた。
非常に眠い。ホグワーツ特急内で苦しみのたうち回ったのが効いているらしい、あと久々の人混みでしかも流されまくったのもあるだろうか。
俺の番になるまで仮眠をとっておくか・・・この後の食事で眠るというのも癪だし何よりみっともない。
両肘を立てて指を組み、その上に額を乗せて目を閉じる。
徐々に遠のいていく意識の中、ふと聞き覚えのある名前を耳にしたのでぼんやりと目を開けた。
「フィルチ、アーガス!」
おほっ、猫狂いさんオッスオッス。
仏頂面で思いの外ハンサムな幼少期フィルチおじさんが、気だるげに組分け帽子へと歩いていくのを見届け、再び俺は目を閉じて仮眠の姿勢を取り、意識を暗闇に沈めていく。
悲しいなぁ。何が悲しいってお前ーー
「スリザリン!」
あのハンサム、将来ハゲちゃうんだもの・・・。
「ギルバード、ジーナ!」
おぅっ!? もうGなのか、寝すぎた。
組んでいた手から顔を上げ、俺の前の番らしき子が組分け帽子を被るのを見る。
「グリフィンドール!」
気の強そうなポニテのジーナちゃんは獅子寮か、まあ見てくれから大体察してはいた。見るからに喧嘩っぱやそうじゃん?
さて、次は俺か、ははは、嫌だな。
「グリンデルバルド、ヨーテリア!」
俺の名が呼ばれた瞬間、大広間が静まりかえった。
だろうな、だと思ったよ。
「やれやれ、だ」
思わず内心を口に出してしまう。
立つのがダルい、視線が重い、突き刺さる目に好意的な物は無い。あるのは恐怖、憎悪、嫌悪ばかり。
ダンブルドアをチラリと見る、目ェ逸らすな。
最悪の気分だ、畜生、死にたいわ。ああでも死んでからこうなったのか、はははクソが。
「グリンデルバルド、ヨーテリア!!」
何度も呼ぶな、俺だってこの名前が大嫌いなんだよ。
組分け帽子へ歩いていくと、俺を見ていた奴等が顔を逸らしていく。
お子様方が。目を合わせたくないなら最初から見るな、見せ物じゃないぞ。
帽子の置かれた席へ辿り着いてピーちゃんをどかした後、組分け帽子を被った。
『ほう、ほう。何と荒んだ心境かね』
脳内に組分け帽子の声が響く。
『自分と親は違う、全くの別物だ、しかして誰もそう扱わん、そうだね?』
その通りだ、でも今は関係無い。
『すまないね、さて組分けは難しい。
知恵はあるが尖りすぎ、勇気はあるが無鉄砲でもある。優しさは無くはないが余裕が無い。
欲望はハナから無く、貝の如く忍んでいたい、そうだね?』
客観的に人を見るの神がかってるよねコイツ、俺より俺を理解してるんじゃないか?
『しかし、黒い感情もある』
へえ、そりゃなんだい。
『こんな筈じゃ無かった、こんな人生認めない、自分をこんな目に遭わせた奴等を許さない。
怒りのまま真っ向から鼻面を殴り付けたい、そう思っていないかね?』
そりゃそうだ、俺はこんなの望んでない。そもそも俺は弟の夢を叶えてやりたかったんだ。
なのにこんな場所に放り込んだあいつに、罵声を浴びせて正面から殴りかかったら、どんなに胸がすくだろう。
『よろしい、ならば決まりだ』
組分け帽子が目一杯、口のような裂け目を開けた。
「スリザリン!」
スリザリン寮から凄まじいどよめきが起こる。
狡猾で目的の為なら手段を選ばない、他とは違うスリザリン。
気に入らないが、まあ、悪くないかな。
スリザリンのとある上級生は、ジーナ・ギルバードという生徒の次に呼ばれた名を聞いて、唖然とした。
グリンデルバルド。ヨーテリア・グリンデルバルドだ。
その名を聞いて連想するのは、紛れもなく史上最悪の闇の魔法使い、ゲラート・グリンデルバルドの名。
東ヨーロッパに広く勢力を持ち、魔法使い至上主義を掲げていながら、逆らった者を魔法使いだろうがマグルであろうが例外なく虐殺しているという、ヨーロッパ全土から恐れられる魔法使いだ。
それと同じ姓名、つまりは子という事か?
静かに立ち上がり、組分け帽子へと歩いていく背の高い少女ーー頭に乗せている小動物には目を瞑るとしてーーを見ながら、魔法省勤めの父親から聞いたゲラート・グリンデルバルドの特徴と照らし合わせてみる。
金髪の巻き毛に、異国人らしく高い身長ーー肩まで伸ばした明るい金髪の巻き毛と、新入生の中でも頭一つ抜けた高身長。
鷲のような堂とした、他を圧倒する佇まいーーすらりとした体躯で堂と背を張り、生徒が次々目をそらしていく威圧感。
この世の物とは思えない美貌と、人を人と思わぬ冷徹な眼差しーー確かに、整った顔立ちは愛らしさよりも凛々しさを感じさせ、人を惹き付ける物であろうがーー
彼女と目が合った瞬間、彼は全身にかつて無い程の悪寒が走り、思わず顔を背けてしまった。
なんだ、あの瞳は。
暗い、ひたすらに暗い。宝石のようなアメジスト色をしていながら、感情の一切を感じさせない無機質な目。
あれが義眼だと言われたら信じてしまう位に虚無的な目だ、あれが本当に息をして歩いている人間の目だと言うのか!?
間違いない。あんなに恐ろしく、非人間的な目が出来るのは、人の道を踏み外し外法に走る闇の魔法使いに他ならない!
額から流れる冷や汗を拭いながら、組分け帽子を被った彼女を注意深く見守る。
スリザリンには、スリザリンにだけは来るな。
確かにスリザリンは闇の魔法使いの名産寮と言われる事もあるが、他の寮からも闇の魔法使いは出ているし、そもそも本来のスリザリンは誇り高いエリート集団だ。
そんな中にあの特大の爆弾が紛れるなど、悪夢でしか無いーー
「スリザリン!」
「っ!?」
心臓が止まったかと思った。
他の生徒らも動揺し互いに話し込んでいる、自然と空いたスペースに彼女が座るのを見て、彼は頭を抱えた。
こっち来ちゃったよ、ふざけんなよ組分け帽子、なんであのファンシーサイコパスこっちに寄越すんだよ、ていうか何故僕の近くに座るんだよ。
無論声をかける勇気など無い。
幸い彼女は両肘を立てて指を組み、組分けなど興味なしと仮眠をとっているようだが、あの虚無的な目に睨み付けられたら本気で死んでしまうかもしれない。
仲の良い友人に背をさすられながら、彼は気を取り直し新入生の組分けを見届ける事にした。
「リドル、トム!」
残り少ない生徒の中から呼ばれたのは、ハンサムになるであろう整った容貌を持つ真面目そうな男の子だった。
独特の雰囲気を持つ、自然に惹き付けられるような不思議な少年だ。目も活気と野心に満ち非常に
来るならああいう子が欲しいのだが、ああいった子はレイブンクローに流れやすいのが常だ。
今年のスリザリンはとんだ貧乏くじだ・・・彼はそう意気消沈していたが、組分け帽子は彼の予想に反し、リドルが被るや否や叫んだ。
「スリザリン!」
「あ、やった」
瞬時に顔をあげた彼は、うって変わって明るい調子でそう呟いた。
あの見るからに当たりと言える少年は、どうにかスリザリンが獲得したようだ。
悪いことばかりでは無いらしい、あの小動物付き爆弾も何もしなければファンシーなだけだ。そうポジティブに思案していた彼だったが。
ーーひえっ。
その爆弾がピクリと反応し、あの虚無的な目を細め、リドルを睨み付けているのを見て即座に真っ青な顔になってしまった。
なんという事だ、あの少年に目をつけたらしい。
グリンデルバルドはあくまでも無表情で無感情、何を考えているか分からないがソレが逆に不気味だ。
何をする気だ、父親譲りの残虐性を、あの少年へと向けようとでも言うのか?
そんな彼の戦慄など知らず、リドルは席へと座り、魅力的な新入生に興味を惹かれた生徒達と楽しげに話をしていた。
ーー・・・守らなければ。
あの不思議なカリスマを持つ少年を、自分達が守らなくては。
普通のスリザリン6年生は、心の中でそう誓った。
・・・聞き覚えがあったから起きたけど、あのエリート坊やの名前、どっかで・・・?
2016年2月17日、内容を大幅に修正。
自身のミスを忘れぬ為に、アイリーン・スミス改めスミス・アイリーンには犠牲になってもらいました。