元リーマン現魔法少女、ヨーテリアさんです。
あの後ハグリッドと薪を割った数を競って完全に日が沈んでしまうまで薪割りに興じた結果、エンゴージオをしたにも関わらず筋肉痛です。
そんな状態で朝を迎え機嫌悪く談話室を出た今、素晴らしいまでの恐怖体験をしています。
「遅いぞ、ヨーテリア・グリンデルバルド」
俺の目の前には、全身に鎖を巻いた大男が銀色の霊体を浮かせて雄大に浮かんでいた。
ゴーストである事を考慮しても悪すぎる顔色、全身に飛び散る銀色に変色した血飛沫、紛れもなくスリザリンお付きの血みどろ男爵だ。個人的に、ホグワーツ最恐のゴーストだと思う。
「今日から貴様は私が監視する事になった。
授業以外は二十四時間、とり憑き続けてやる」
「もぅやだ、助けてアルバス・・・」
胃袋に走った激痛により、腹を押さえてうずくまる。
映画では俺は見なかったと思うが、はっきり言う、こいつを見てビビらない奴は正気じゃない、スプラッターと幽霊の悪夢のハーモニーだ。
「さっさと歩け、朝食の時間だ」
男爵に急かされふらふらと大広間に向かう俺。俺を早く歩かせる為か、男爵は俺の背後に張り付いて、凄まじい寒気を感じさせてくれる、あんまりにびったりと張り付くもんだから何か大事な物が少しずつ吸いとられてる気がする。
途中生徒を見かけたが、俺と男爵を見た途端情けない声をあげて腰を抜かしてしまった。仕方ないよな、俺だってそんな反応するよ。
「誰か助けてェ・・・」
「ほほほほォーーッ??だァーれかと、思えば、泣きみそヨーテちゃんじゃ、あーりませんか?」
頭上から声がしたので首を上に向けると前に見たカラフルな小男が、逆さまの状態で俺を見て、ニヤニヤと笑っていやがった。
「誰だよテメェ」
「あァァーら悲しい、ピーブズ様をご存知無い!?
この御祭り男ピーブズ様を知らんとは、やっぱり脳みそ泣きみそ、お嬢ちゃんだなぁッ!」
ゲタゲタ笑いながらクルクル回りだす小男、不愉快な奴めピーブズだと?映画じゃ見てないな。
「この私が泣きみそだと?何を根拠に・・・」
「アルバスと呼びなさい、ヨーテリアや」
ピーブズがダンブルドアの声真似をして、何かを抱き締める動作をして、ニヤリと笑う。
・・・おい、待てや、その台詞まさか。
「昨日はありがとな、アルバス・・・ニコッ!」
「う″わ″ぁ″ぁ″ぁ″ッッ!?」
頭に血が急激に昇ってきた、顔がとっても熱い、この野郎、全部、見てやがったのか!?
顔を真っ赤にして震えている俺を見てピーブズは大笑いしながら煽りを放ってくる。
「デレッデレですなァー、ヨッッッちゃん?アルバスお父さんが大ちゅきでちゅかァー?
泣きみそヨーテちゃんは爺がお好きーッ!ギャーッッハッハッハッハッ!」
「テメッ、許さん、降りてこい!クソッッ!」
「ヒャハーッ!泣きみそが茹で蛸だ、コワイ!」
「やかましいッ、静まらんか貴様らッ」
突然響いた地獄の魔王みたいな低音に、馬鹿笑いして宙返りしていたピーブズも錫杖を取り出して呪文を撃とうとした俺も、思わず固まってその場で姿勢を正す。
声の主は勿論、血みどろ男爵だ。全身から粘つく殺気を放っているのが分かる。無表情が獲物の品定めにしか見えない、あれゴーストなんだよね?そうだよね?
「ピーブズとやら。その行い、あまりに低俗。
ホグワーツに居を構えるならば、弁えぬか」
「へ、へぇ、でも、オィラは御祭り男でして」
そう言ったピーブズの耳元へと急接近した男爵はピーブズの耳元で、何かをぼそりと呟いた。
途端にピーブズは涙目になって震え始めその場に中世ヨーロッパ風に跪いて、頭を垂れた。
「男爵様、どうか、ピーブズめをお許しください。このどうしようもない道化をどうか、どうか」
「うむ、特に許そう。ピーブズよ。
ヨーテリア・グリンデルバルド?」
男爵がぐるんと俺の方を向いたモンだから、思わず情けない声と共に手をあげてしまった。
違うだろ、手をあげろなんて言われてないよ、何かあげなきゃ死ぬ気がするけど違うだろこれ。
「何が言いたいか、分かるね?」
血みどろ男爵の真っ暗な深い目に見つめられ、俺の歯は自然とガチガチと音を立て、あまりの怖さに目元に涙が溜まり始めた。
でも返事しなきゃ、返事しなきゃ死ぬ、絶対に。
「すっ・・・いません・・・でした・・・っ」
「それで良いのだよ、利口な子だ」
男爵が俺の頭を無表情に撫でようとしたが生憎とゴーストなので頭を貫通して首に入った。全身に寒気が走る、心臓が止まった気がする。
気を取り直して大広間に向かう途中も男爵がびったりと背に張り付いていたので俺の震えは止まらず、寒気も引かなかった。
大広間に着いてようやく男爵が離れた。解放された俺は安心のあまり少しだけ泣いた。
朝食にパンとベーコンを取りはしたがはっきり言って食欲が無い、そりゃそうだよな、さっきまで幽霊にとり憑かれていたんだからな!
「朝食を抜くのは感心せんなァ」
「食べるよォッ、勿論食べますよォッ!?」
地獄ボイスが聞こえたので慌ててパンを食らう、逆らったら殺される間違いなく殺される、俺には分かる。男爵なら絶対に殺る!死んでたまるか、こんな所で死んでたまるか!
「クッソ・・・クッソ・・・」
「グリンデルバルド・・・何故涙目なんだ?」
背後から聞こえた声に超反応する俺、この呼び方もしかして、いや、そんな!
俺は勢いよく後ろを振り返り、声の主を見た。
「俺だ」
誰 だ よ テ メ ェ は 。
俺の後ろにいたのは強面で悪そうな男子、どこかで見たような気がするが、うん、リドルじゃないなら興味無いや・・・。
思わず半目になってしまう、自然とため息が出る。
「アイツじゃ無いのかァ・・・」
「俺はドロホフだ、残念だったな」
ドロホフ?あぁ、リドルの取り巻きの?そういえば一度話した事があるな、確かマッチを針に変える授業で騙された気が、なんだよクソ野郎じゃないか、余計興味失せた。
・・・ん?何だか視線を感じるような?
チラリと視界の元を辿ってみると、取り巻きと話してるリドルが居ただけだった。
・・・ワハハ、気のせいにしちゃ悪質だな。
「ドロホフ、貴様彼女と親しいのか?」
「勘違いするな、気になっただけだ」
ドロホフがリドルの席へ向かおうとする・・・うーむ、折角だし、ちょっと確認するか。
「ドロホフ」
「何だ?」
「アイツは、元気してるか?」
「死ぬほどにな」
凄まじく短い受け答えを済ませて、ドロホフがリドルの席に歩いていく。
死ぬほど、って、どういう事だ?さっぱり分からんが、とにかくまあ、元気そうならそれでいいよ。
リドルなら、俺が居なくてもきっと大丈夫だろう。何せアイツにはちゃんと友達が居るんだからな。
「アイツ、とは誰の事だ?グリンデルバルド」
「誰でもいいだろ、男爵」
男爵が尋ねてきたが、これだけは死んでも言わん、何のためにリドルを引き剥がしたと思ってやがる。
適当に返事をしてパンにかじりつくと男爵は低く唸っただけで引き下がってくれた。
それで良い、詮索するんじゃあ、無いぜ。
「ムッ、ふくろう便か」
ふと男爵が頭上を見上げて、鋭く言った。
同じく見上げてみれば成る程、ホグワーツ名物の天井を覆い尽くす量のふくろう便である、ぶっちゃけ見飽きたが、やっぱりこの量は異常だ。
ぼんやりとふくろうの絨毯を眺めていると、ふと一匹のふくろうがぶら下げていた包みを俺の目の前に実に乱雑に落としてくれやがった。
割と鈍い音を立てた包みは、どうやら俺宛らしい。
おっかしいなー。俺、今は家族なんて居ないよー?まさか罠か?びっくり箱的な質の悪い贈り物?
「貴様宛かグリンデルバルドよ。
どれ、開けてみようではないか」
「鬼が出るか蛇がでるか、だな・・・」
前もって自分にプロテゴをかけてから慎重に包みを開けてみると、中には分厚い本と一通の手紙が、それはそれは丁寧に入れられていた。
プロテゴはかけてある、いざ中身を拝見。手紙を広げてみると、こんな内容が書かれていた。
ー親愛なるヨーテリア・グリンデルバルドへー
ヨーテが怪我無く、健やかにこれを読んでいると不肖アーガスは切に願い、御手紙を出します。
ホグズミードの(三本の箒)でアルバイトを始めた、もし良かったら休暇に遊びに来て欲しいな。
それより、同封しといた本には満足したかな?ヨーテの研究に役立つと嬉しいんだけど。
ーアーガス・フィルチより、愛を込めてー
「んふ、んふふふ・・・」
やばい、勝手に頬が緩んで笑い声が漏れちまう、フィルチおじさんかよ。はは、マジかよ。
満足したか?そりゃもちろんだぜおじさん、アンタからの贈り物なら何だって嬉しいよ。しかも研究資料だと?感無量って奴だおじさん、ホグズミード行こう絶対に行こう。
「貴様、何か怪しい物では無いだろうな」
地獄ボイスに水を差され幸福な気分が霧散する、邪魔すんなよ男爵よう、今いいとこなのに・・・。
ヨーテリアが包みを開けて顔を綻ばせている頃、ドロホフはリドルの席へとたどり着き彼の隣に座り、不機嫌そうに首を鳴らした。
「で、どうだった?ドロホフ」
朝一番に彼女の様子を見るよう命令した張本人、つまり彼らの親分こと優等生トム・リドルは、席に座ったドロホフに素晴らしい真顔で尋ねた。
「何故か分からんが、涙目だった」
「何?」
ドロホフの言葉に目を剥いて動揺するリドル、同じく取り巻きのロジエール、マルシベールは思わず半眼になって自分達の大将を見つめる。
「トム、もう関わるなと言われたのですよね?」
「もういいだろ大将、放っておこうぜ。な?」
「いつから僕に意見出来るようになった?
自分の所有物を心配して、何が悪いと言うんだ」
マルシベールとロジエールの控えめな忠告は怒りを込めてばっさりと切り捨てられ、リドルは苛々としながらパンを口に運んだ。
三人はそれに反論せず、黙って食事をとる。
ドロホフはベーコンを食らいながらチラチラとヨーテリアを見やるこの優等生を、呆れ半分、面白さ半分でしげしげと眺めた。
昨日から彼は、普段共に行動していたスクイブや学年一の問題児であるヨーテリアと行動しておらず、非常に機嫌悪く、また落ち込んでいるように見えた。
それだけなら物珍しく面白いだけだと流していたが、ヨーテリアが復帰していきなりこの様子では、これから一体、何を言い出す事やら・・・。
「ドロホフ、折り入って頼みがある」
そら来た、彼はそう思いながら唸って返事をする。
リドルがこう言った時は大概その内容は、完全強制の命令であると相場が決まっている。
何を言い出す事やら、とドロホフは目を細めた。
「今日から、グリンデルバルドを監視しろ、出来る限り一日中、張り付いた状態でだ。
つまり友人を装え。アレの様子を随時伝えろ」
「待てや」
予想斜め上のさらに斜め上の命令が下され、思わず声を荒げリドルに食って掛かるドロホフ。
それを聞いたロジエールはむせて悶え苦しみ、マルシベールは自慢の眼鏡をずり落とし、呆けた様子でリドルを見つめ目を点にしている。
「勿論、僕との関わりは極力避けるんだ。
報告は部屋で聞く、問題ないだろう?」
「ざけんな、何で俺がそんな」
「お前にしか出来ないんだよ、ドロホフ。
この中でアレと関わって不自然で無いのは何かと問題を起こしているお前だけだ」
「誰の命令で起こしたと思ってやがる。
大体、俺まで教師に目をつけられるじゃないか」
こめかみに青筋を浮かべて怒るドロホフ、しかしリドルは真顔でドロホフを見据え続け、その目は「反逆は許さない」と雄弁に語っていた。
マルシベールがおろおろと二人を交互に見る中、ドロホフは目の前の優等生の放つ重圧に負け、冷や汗を垂らしながらため息をついて頷いた。
「やれば良いんだろ、やれば」
「それでこそ、僕の所有物だ。ドロホフ」
死んだ魚のような目になった彼の肩を叩いて、リドルは実に穏やかな笑顔を浮かべ、そう言った。
ドロホフは助けを求めるように他の二人を見たが、マルシベールは悲しそうに首を横に振るだけで、ロジエールに至っては親指を立てたと思えば、満面の笑みを浮かべてドロホフにこう言い放った。
「グッドラック、切り込み隊長っ」
ーー俺は悪くない。
全力でフォークを投擲した後、彼はそう思った。
「これより闇の魔術に対する防衛術を開始する。
今日は昨日やった無言呪文の続きだ、二人一組で呪文を掛け合って貰うぞ。
念を押すが、無言呪文だからな?」
メリィソートが教卓に立ち、号令を出すその間もドロホフは目が死んだままだったが、リドルは容赦無くヨーテリアを顎でしゃくり彼女と組むように命令し、マルシベールと組む。
「ロジエールロジエール」
「何だよドロホフ」
「ザマァ」
「このクソ野郎」
ロジエールを煽って溜飲を下げたドロホフは、組む生徒を探すヨーテリアへと近付き、肩を叩く。
彼女は顔をこちらに向けた途端、眉を吊り上げた。
「ドロホフ?アイツはどうしたんだ?」
「捨てた。いいから俺と組め」
「お、おう?そうか、じゃあ私と組もうか」
戸惑いながらもヨーテリアが頷き、二人は少し離れた地点で向き合い杖を構えた。
特徴的な錫杖を構える彼女を見据えて、ドロホフはいつ来るか分からない呪文を警戒する。
あのリドルを、真正面から打ち負かした実力者で、彼の一番のお気に入り。無言呪文など容易だろう。
気を抜けば医務室送りは確実、面倒極まりない、しかしドロホフは彼女と相対し高揚していた。
自分は、リドルに規格外と言わしめたその実力を今、ほんのちょっぴりだが味見できるのだ!
ーーさあ来いよ、リドルのお人形さん。
目を細めてヨーテリアを見据えるドロホフ。
ヨーテリアは錫杖を構えたまま硬直し、感情の無い硝子玉のような目で彼を見つめていた。
「どうした、俺はもういいんだぞ」
「・・・うるさい、黙ってろ」
ドロホフの挑発に彼女はギリと歯軋りし、目を見開いて手に力を込め、呪文を撃とうとする。
しかし呪文は光すら発すること無く、ただただ錫杖が震えるばかりであった
「・・・〈エンゴージ〉」
「聞こえてんぞ。おい、お前まさか」
ーー無言呪文が使えないのか?
そうドロホフが言おうとした瞬間、離れた場所でロジエールの放った〈フリペンド〉が彼の練習相手の顔をかすめて、壁に当たって跳弾、ヨーテリアの後頭部へと一直線に飛んでくる。
「グリンデルバルド、後ろ」
「何だよ?」
ヨーテリアが振り返った瞬間呪文が命中、つまりフリペンドを顔面に被弾した彼女はもんどり打って後ろに倒れ、白目を剥いて気絶した。
「ヒギィ」
「うおおっ!?すまねぇ、やらかした!」
「また君かミスターロジエール!
誰か!彼女を医務室に運んでやってくれ!」
メリィソートが大慌てで周囲を見渡すがどの生徒も彼女を恐れて動こうとはしない。
ドロホフも我関せずで通そうとしたが、ふと殺気を感じたので後ろを振り返った。
殺気の元はやはりと言うか、リドルだった。目でドロホフに命令している、お前が行けと。
「・・・先生、俺が行こう」
「ミスタードロホフか、助かるよ」
死んだ目で笑みすら浮かべて名乗り出ると、メリィソートは安心した様子で彼女を預けた。
流石に同年代最大級、中々に重たかったが、リドルに殺されるよりはマシと背負い、これで文句は無かろうとリドルに目をやると、彼はペアをロジエールに変え、杖を構えていた。
顔を真っ青にしたロジエールの冥福を祈り、ドロホフはヨーテリアの足を引き摺りながら、医務室へと歩を早めるのであった。
後の死喰い人、取り巻きトリオ参戦です。
マッドアイを叩きのめしたドロホフ公、死んだと言われていたロジエール、親世代に居た服従の呪文のエキスパートのお父さんとして登場、マルシベールです。
ヨーテ嬢の監視役としてドロホフがレギュラー入り、さあ彼は何日持つでしょうか?ご期待ください。