我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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鬱展開にインターバル、閲覧はリラックスしてどうぞ。


18話 旧秘密の部屋事件 後日談

 リドルが朝、事件を解決した功績を称えられホグワーツ特別功労賞を与えられた後、犯人に仕立て上げられ退学になったハグリッドは今後について話し合う為、校長室に呼び出された。

 

「先生ぇ、来ましたぜ」

 

 しゃがれた声でハグリッドが言い、ドアを開けた。

 中に居たのはディペット校長とダンブルドア、そしてちょうど報告に来ていた森番のオッグだ。

 ディペット校長がハグリッドに声をかける。

 

「ああ、ハグリッド。呼びつけてすまんのう」

「俺の今後について、たぁ聞きましたが」

 

 酷く落ち込んだ顔で呟くハグリッド。校長はため息をつき資料を覗きこんだ。

 

「ああ、君は怪物を解放した罪で退学になった、しかし生徒を襲ったのは怪物だ、君では無い。

 君とて悪気があった訳じゃなし、更正の余地はある、魔法省も理事会も同じ意見じゃ。

 君が犯人だとは公表しない方針で処理した、ホグワーツを出ても、頑張っていきなさい」

 

 ディペットは努めて優しい声色で語りかけたが、ハグリッドはボロボロと涙をこぼし、目元を覆う。

 

「ど、どうしたのかね?」

「む、無理です校長先生ぇ、先生方は知ってる筈だ。

 俺にゃ、半分巨人の血が、流れてやがるんだ!」

 

 しゃくりあげながらそう言ったかと思えば、ハグリッドは遠吠えのように男泣きに泣いた。

 彼はただのデカい少年では無い、彼の母親は巨人である、つまり彼は魔法族と巨人のハーフという訳だ。

 巨人とは残虐さと凶暴さで知られる種族、例え半分だとしても、その血が流れるハグリッドに世間が良い顔をする程、魔法界は優しくなかった。

 

「ここを出ても親父はもう居ねぇ!

 仕事のアテも無ぇし雇ってくれるたぁ思えん、ああ先生、俺ぁどうしたらいいか分からねえんだ!

 本当に、これから、どうすりゃ・・・?」

 

 両手で顔を覆い崩れ落ちてしまうハグリッド。

 ホグワーツを放り出されたら彼に行く場所は無い、それは見た目が大きくとも、10代の少年にはあまりにも残酷な現実であった。

 しかし、ダンブルドアはオッグに目をやった。

 

「オッグや、君は確かダームストラングからクィディッチの教官にスカウトされていたね?」

「え?ああ、来年辺り異動しようか考えてますが」

「よろしい。ディペット校長、そうなると森番の席が空きますな?」

 

 ダンブルドアがハグリッドの側に歩みより、彼の肩に手を置いて、こう言った。

 

「どうでしょう、償いもかねまして、このルビウス・ハグリッドを森番として、このホグワーツで訓練致しませんかね?」

 

 その場の全員、開いた口が塞がらなかった。

 何とか我に帰ったディペットは、大慌てでとんでもない爆弾を投下した老人に待ったをかけた。

 

「待て待てアルバス、幾らなんでもまずいじゃろ。

 生徒を死亡させた怪物を放してしまった男を森番にするじゃと?いやいや、そんなのは」

「全責任はわしがとる、何かあった際はわしも魔法省に出頭しブタ箱にでも入ろう、それなら文句は無かろう?」

 

 笑顔で言い放つダンブルドアに校長は頭を抱え、疲れきった表情で一言、呟いた。

 

「君に任せるよ、ダンブルドア」

 

 その一言を聞いた老人は、ハグリッドへと向き直り目元の涙を拭ってから、優しく肩を叩いた。

 

「森番は大変危険であるが、やれるかね?ルビウス・ハグリッド君」

 

 その言葉を聞いたハグリッドは、もう一度泣いた。

 感謝の気持ちで一杯だった、嬉しくて仕方無かった、自分は救われた、ホグワーツに残れる!

 ハグリッドはしばらく老人の手を取り、恥も外聞も無く、ありがとうと泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室にて、元リーマン現魔法少女な俺、ヨーテリア・グリンデルバルドは鬱だった。

 校長に医務室に放り込まれて一日がたった、犯人がトドメを刺しに来るかもしれないので医務室は基本面会不能、事件の状況が分からない。

 ダンブルドアは安心しろとは言っていたが、今の俺の産みの親はお辞儀クラスの極悪人、親が親なら理論で俺を疑う奴は馬鹿みたいに居る。

 下手をするとこのまま犯人にされちまうかも・・・。

 

「ヨーテリアや、起きているかね?」

 

 医務室の入り口が開きダンブルドアが歩いてくる、おい何だよその死んだ目は、やめろよ。

 

「違うぞ、私は犯人じゃないからな!?」

「知っておるよ、真犯人が見つかった。

 お主は無罪放免じゃ、疑惑は解けんがね」

 

 ま、マジで?俺は犯人にはされずに済むのか!?しかも無罪放免って、ははっ、マジかよ!疑われたままなのが痛いが、仕方ない・・・。

 

「犯人は君の友人、ルビウス・ハグリッドじゃった。

 秘密の部屋の怪物を匿っていたのが発見され、昨晩校長室に連行された後、秘密裏に退学処分となった」

 

 条件反射で錫杖を投げつけた、そりゃそうだろ、何でハグリッドが捕まってるんだよ!

 しかも匿っていた怪物って、アラゴグだろうが!

 

「何でッ、ハグリッドッ、なんだよッ!?どうトチったらそう解釈出来るんだ!

 第一、秘密の部屋の怪物が匿えるようなチャチなモンだと思うのか!?」

「やはりのう、わしも同じ意見じゃ」

 

 錫杖を無造作に掴みとり、ベッド横の椅子にどっかりと座り込んで俺を見つめるダンブルドア。

 ・・・今、なんて?

 

「アクロマンチュラが生徒を石化?何を馬鹿な、あれにそんな毒など無い。

 何と愚かしい、彼が犯人でないのは間違いないのじゃ、何が現行犯じゃ。流石に校長も愚が過ぎる」

 

 紛れもない怒りを籠めて捲し立てるダンブルドア、あまりの様相に口から言葉が出てこない。

 

「退学処分の後にわしが責任を持った。

 彼はホグワーツの森番として償いをする、そういう名目でここに残す事にしたよ。

 今は校外でオッグに訓練されておる筈じゃ」

 

 額を押さえながら言い終えたダンブルドア。

 愚痴みたく色んな事を言われて頭が追い付かないが・・・つまり、ハグリッドを庇ってくれたのか?

 

「は、ははっ、何やってんだよ、ダンブルドア」

「無実の者を不足ながら支援したのじゃ、それ以下でも以上でも無い。

 むしろ不足過ぎる、本当ならば退学の時点でありえんのじゃ」

 

 イライラとした顔で言い放つダンブルドア。

 この狸が、平然と何をやらかしてんだよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばヨーテリアや、一ついいかね?」

 

 アルバス・ダンブルドアは目の前の少女に尋ねた。

 硝子玉のような目を向け彼を見る少女。実を言うと、ダンブルドアは彼女の位置を常に把握しており、彼女の無実は知っていた。

 しかしだからこそ、何故秘密の部屋の存在を、怪物の事を含めて知っていたのか分からなかった。

 

「君はどこで秘密の部屋の事を知ったのかね?」

 

 真っ直ぐ彼女を見つめて尋ねるダンブルドア。

 彼女は酷く狼狽え、目線を逸らしてしまう。

 

「君が犯人でない事は承知じゃ、どう言ったとしても、わしは君を信じるよ」

「言える訳、ないだろう」

 

 目を逸らしたまま、彼女は呟いた。

 

「信じる?無理だ、こんな頭のおかしい話は無い。

 秘密の部屋の事はもう聞かないでくれ、私はそれを話すつもりは絶対に無い」

 

 紛れもない拒絶。ヨーテリアは嫌悪感をさらけ出し頭を抱えながらダンブルドアの問いを拒否する。

 ダンブルドアはため息をつき、彼女の頭に手を置く。

 

「話さなくとも良い、顔を上げなさい。

 とにかく夕方には退院出来るそうじゃ、何かあればわしを訪ねなさい。君はわしの養子なんじゃからな?」

 

 彼女の頭を撫でてから、医務室を出るダンブルドア。

 ヨーテリアは秘密を教えてはくれなかったが、彼は彼女を信じていた。難のある性格はしているが、彼女は父親とは違う、奴のように残忍な子では無い。

 極秘の事を知っているから何だ?そんな物はどこから漏れるか分からないのだ、彼女はその漏れを見てしまっただけに違いない。

 

ーーそうじゃろう、ヨーテリアや。

 

 医務室の扉を一度振り返った後に、ダンブルドアは自室への歩を早めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石にされていた生徒も元に戻され、医務室で一人ギプスで固定された右腕を擦る俺。

 そろそろ日も沈む、ダンブルドアが言うにはもう退院しても構わないらしいけど、本当に大丈夫なのか?一回死にかけたんだけど。

 

「ヨォーーテェーーーェッ!?」

 

 ベッドから起きようとした瞬間に大声と共に医務室の扉が開いて、見知った顔が飛び込んで来た。

 フィルチおじさん?何をそんな慌ててるのかね。

 

「ダンブルドアから聞いたぞ!怪我は平気!?」

 

 ベッド脇に走ってきたかと思えば怪我人の俺の両肩を掴んで揺するフィルチボーイ。

 一応あばらも折れてるんだが、勘弁してくれ。

 

「アーガス、痛い、痛いよ」

「ご、ごめん、それより大丈夫なのか?

 犯人に襲われたって聞いたんだけど」

「手酷くやられたけど生きてる、大丈夫。

 手を貸してくれないか?外に行きたい」

 

 そう言うと喜んで右脇を担いでくれるおじさん。体が重いけどハグリッドの所に行ってみるか。

 ホグワーツには残れたけどやっぱり心配だ、本人もそうだけど、アラゴグは無事だろうか?

 もし死んでたら、精神的にかなりキツい筈だ。励ますか何かしないと一杯一杯になっちまう。

 フィルチおじさんに助けられつつ校外に出て、原作の小屋の方を目指す。

 丘のような場所に出ると成る程、禁じられた森の目の前に小さな小屋が立ってる。 

 外で作業はしていない、小屋の中か?

 

「ヨーテ、森番の小屋なんかに何の用?」

「ハグリッドが居る。話がしたい」

 

 フィルチおじさんを促し、小屋へ向かう。

 途中転びそうになったがなんとかたどり着き小屋の戸を錫杖で数度叩くと、程なくして戸が開いて野太い声が響く。

 

「おう、どちらさんだ?」

 

 戸の隙間からハグリッドが顔を覗かせ、俺達を見るや否やぽかん、と呆けた顔をしてみせた。

 

「ヨーテにアーガス、何でおめぇらが」

「ハグリッド、森番の小屋で何してる?」

 

 俺の脇から怪訝な声をあげるフィルチおじさん、秘密裏に処理するって言ってたしそりゃ知らないか。

 

「ルビウス、誰が来たんだ?」

 

 中からもう一人分声が響きオッグが出てきて、俺を見た瞬間に渋い顔をする。まあそうだよな・・・

 

「オッグ先生ぇ、こいつらは俺の友達なんでさ、様子を見に来てくれたに違いねぇ」

「友達、なぁ、まあいい。俺は報告に行かないと。

 中で休んでいって良いぞ、樽は開けるなよ?」

 

 そう言うなり資料と資材を持ち校内に向かう前任様。居ない方が話しやすい、ありがたいな。

 

「・・・あー、ヨーテは全部知ってる、って顔だな」

 

 ハグリッドが頭をかきながら呟いた。まあ、大体はダンブルドアから聞いたしな。

 

「本当に退学にされたんだな、ハグリッド」

 

 俺がぼそりと言うと、フィルチが目の色を変えてハグリッドへと食って掛かった。

 

「退学って、どういう事だよハグリッド!?

 犯人が退学になったって発表されたけど、何でお前が、そんな馬鹿な!」

「ハグリッドは犯人に仕立てあげられたんだ、アラゴグが見つかって襲撃犯にされた」

 

 俺が説明してやると、フィルチおじさんはふざけるなと近くの箱を蹴飛ばして怒る。完全に頭にきてるらしい、気持ちは分かる。

 

「アラゴグが、犯人だと、クソ、馬鹿な!しかもハグリッドを退学になんて、狂ってる!俺、校長室に抗議しに行ってくる!」

「やめろアーガス!大丈夫だ、大丈夫だから!

 俺はダンブルドア先生が助けてくださったからホグワーツに残れるんだ、そうだとも!これ以上先生に迷惑かけちゃいけねぇ!」

 

 ハグリッドが慌ててフィルチを止めると、顔を真っ赤にして怒っていたおじさんが我に返り、額を押さえて椅子に座り黙りこんでしまう。

 しばらくそっとしておこう、頭を冷やさないとな。

 

「本当なら追い出されても仕方ねぇんだ、リドルに捕まってアラゴグが犯人にされて、誰がどう見たって俺はもうおしまいだった。

 だのに先生は何かあれば自分がブタ箱に入るって校長を説得して、俺を森番にしてくださった。

 だからもう良い、これ以上は望まねぇ」

 

 穏やかに独白するハグリッド、ちょっと待てよ、今(リドルに捕まった)って、言ったのか?

 

「リドル?リドルの野郎か?アイツが?」

 

 よりによってリドルがハグリッドを捕まえたのか?あいつ、ハグリッドとアラゴグを売ったのか!?

 

「リ、ドル、あの、野郎ッ!!」

「ヨーテ、リドルを責めちゃいけねぇ!」

 

 机を叩いて勢いよく立ち上がった俺だが、ハグリッドに肩を掴んで再び座らせられた。

 何だよ!リドルの奴を叩きのめさないとだろ!?何で止めるんだハグリッド、しかも何で泣いてるんだ?

 

「あいつは、この学校に良かれと思ってやったんだ。

 生徒が襲われて、校内に魔法生物が居りゃ誰だってソイツを疑う、そうだろうが?

 アラゴグを疑って捕まえようとはしたがよ、それでもあいつは、情けをかけてくれたんだ!」

 

 涙ぐみつつ大声でリドルを庇うハグリッド、あの野郎が情けをかけた?何を言ってるんだ。

 

「突きだすなら死体を見せりゃ良かったんだ、あいつならやれる、簡単にアラゴグを殺せる!

 だのにアイツはやらなかった、追いもしなかった!

 アイツは、アラゴグを見逃してくれたんだ!」

 

 そう言ったかと思えば盛大に男泣きするハグリッド。

 確かにリドルならアラゴグを簡単に始末できる、逃げた大蜘蛛を追いかけるなんて朝飯前だろう。

 

「グスッ、退学にはなったが、アラゴグは逃げた!俺はアイツを恨んじゃいねぇ、断じてだ!」

 

 泣き腫らした顔のまま力強く言い放つハグリッド。なんともまあ、お人好しな男の子だわな・・・ハグリッドらしいと言えば、ハグリッドらしいけど。

 フィルチおじさんの肩を叩いて席を立つ、励ますとかお節介だったな、おいとまするかね。

 

「思い詰めて無くて良かった。アーガス、行くよ。

 じゃあねハグリッド、これから毎日来るからな」

「おう、また来いよ、二人とも!」

 

 ハグリッドと別れ、校内に戻っていく俺達。

 こんな経緯で森番になったなんて胸糞悪いが、多分ハグリッドは大丈夫だ、やってける筈だ。

 むしろやばいのは俺だ、先生方に疑われたままだしこれからどうなるんだか、胃が痛いなぁ・・・。

 とりあえずリドルは殴る、ハグリッドの為に。


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