我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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前編と後編じゃ足りる気がしなかった、反省はしてるんです。


16話 旧秘密の部屋事件 中編

 生徒が石になってから一晩、俺、ヨーテリアさんの生活環境は変わった。

 まず廊下に出る度にすれ違った生徒が悲鳴をあげ、下手をすると集団から呪いが飛んでくる。

 それを避けるために誰も居ない道を遠回りし襲撃者共に襲われいらない疲労を得る。ははっ、事件の次の日のお昼だぜ?これ。

 襲撃者に真っ赤に腫れさせられた右目の周囲を包帯で応急処置しながら、次の授業に向かう為のまわり道をする俺。

 フィルチおじさん?危ないから側に置けないよ。

 ああ最悪だ、何だって俺がこんな目に遭うんだ、本当に何もしてないし関係ないのによ。

 それより、この道だと廃倉庫が途中にあるな、ハグリッドが都合良く居るといいんだけど・・・。

 廃倉庫を覗くと、やっぱり居たなハグリッド。

 

「ヨ、ヨーテ?その目どうしちまった?」

「昨日の事件知ってるだろ?犯人扱いされてる

 それよりハグリッド、アラゴグだよ。早くどっか逃がした方がいい」

 

 率直に言ってやるとハグリッドは渋い顔をした。

 

「この危険な時に、アラゴグを出したくねぇ

 犯人に狙われたらどうすんだ?こんなに小せぇのに」

 

 何を言ってるんだよこのデカブツは!一般的に見たら馬鹿みたいにデカイよ、言っちゃ悪いが何も知らずにこの蜘蛛見たらむしろ犯人ご本人にしか見えないくらいだよ!

 

「ハグリッド、アラゴグが見つかったらどうする。

 先生方が血眼になって犯人を探してる筈だ、勘違いされて捕まったらヤバいんだぞ」

「そ、そうかもしれんが・・・」

「カシャ、ハグリッド、私からも頼む、カシャカシャ、私達の恐れる者がすぐそこにいるんだ。

 私は怖い、カシャ、今すぐ遠くへ逃げ出したい」

 

 アラゴグが慌ただしく鋏を打ち鳴らす、コイツが怯えるのは正直理解に苦しむが、この糞蜘蛛が見つかったらまずいのは確かだ。ナイスな助け船を寄越したな、アラゴグ。

 

「ぐっ・・・だ、だがよ!せめてだ、せめて今日は様子を見させてくれ。

 ホントにアラゴグが危ねぇと思ったら、すぐにでも禁じられた森に逃げてもらう」

「私はいいけど、いいのか?アラゴグ」

「カシャ、ハグリッドは親友だ、任せる」

 

 まあ、コイツらがいいならいいか、俺があれこれ決めたって仕方ない、それに俺が心配なのはハグリッドだけだし。

 

「じゃあ今日は様子見だな?結構、ならすぐに離れよう。糞蜘蛛、見つかるなよ」

「おう、アラゴグ。また来るからな」

「カシャ、さらばだハグリッド。

 奴は近くにいる、カシャ、気を抜くんじゃないぞ」

 

 アラゴグとハグリッドと別れ授業に向かう俺。奴が近くに、ねぇ。

 あの糞蜘蛛がビビるような化け物がそう簡単に校内を彷徨けるとは思えないんだが。

 

「おわっ」

 

 しばらく歩いた廊下の角にて、女の子が胸にぶつかった。

 

「どこ見て歩いてんのよ!?この乳袋!

 うわぁぁぁん!みんな鬼畜、畜生よぉぉっ!」

 

 俺を罵倒した後にトイレに走る女の子、なんか見覚えあるけど何だったんだアレ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイブンクロー生、マートルは嘆いていた。

 自分のにきび面や地味顔、眼鏡は認める、しかしからかう事は無い筈だ、断じて。

 

「オリーブ・ホーンビー!何て酷い奴なの!

 私の眼鏡を馬鹿にして、酷すぎるわ!

 鬼よ!鬼畜、外道、マーリンの髭だわ!」

 

 涙目になりながらいつも利用するトイレに走る、角を曲がろうとすると何かに押し戻された。

 

「おわっ」

「どこ見て歩いてんのよ!?この乳袋!」

 

 自分と衝突した背の高い女生徒を罵倒し、わんわんと喚きながらトイレに駆け込むマートル。

 一番奥の個室に飛び込み、鍵をかけて静かに泣いた。

 

ーー酷いわ、酷すぎるのよ、みんな畜生よ。

 

 ここしばらくの不運やからかいを嘆くマートル。

 外見を馬鹿にされ、からかわれ、変な背の高い女に絡まれたり、糞爆弾に被弾して地獄を見たりといい事が無い。

 最早、この個室で泣くのが彼女の日課だった。

 

ーー畜生、外道っ、みんな神様に叱られ・・・あれ?

 

 マートルはトイレに人が入ってくる気配を感じた。

 足音は一人、それ自体は問題無いのだが、何故水も出さずに手洗い場で立ち止まっているのか。

 しかも何か英語以外の言語を喋っているようだが、あれは女子の声では無い、男子の声に違いない。

 

ーー男子が女子トイレで何してるのよ!男子トイレを使えばいいじゃないの!

 

 マートルは不快感と苛立ちに震えた。

 

ーー絶対に文句言ってやるわ!見てなさいよ!

 

 そう思いながら彼女は、個室の鍵を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トム・リドルは猛り狂っていた、勝手に生徒を襲い学校を混乱に陥れた、己の下僕である筈の蛇の王への怒りに我を失っていた。

 奴をどうしてくれようか、そう考えながら彼は秘密の部屋の門がある女子トイレに駆け込んだ。

 

『バジリスク!バジリスク!何をしてる!?早く出てこい!この、聞こえているのか!』

 

 女子トイレに入るなりリドルは手洗い場に直行し、怒りに体を震わせながら蛇語でバジリスクを呼んだ。

 しかしあの大蛇は中々パイプから顔を出さない、おかしい、継承者の呼び掛けにはどこからでも馳せ参じ、その意向に従うという存在なのに。

 

『このッ・・・バジリスク貴様!どこに居る!継承者を蔑ろにするのか!?』

 

 憤怒に身を任せ声を荒げるリドル、すると天井のパイプから嘲笑うような腹底に響くような、低い含み笑いが聞こえた。

 

『お心安らかに継承者様。あなたが下僕、蛇の王バジリスク、ただいま参上致しました』

 

 天井から尾で目元を隠したバジリスクが降りてくる、リドルは再び怒りに身を震わせた。

 

ーー何の悪びれも無く、しかも(上から)だと・・・ッ

 

 どこまでも不遜なその態度を示しながら悠然とその巨体をとぐろに巻くバジリスク。

 

『申し訳ありません、何分近場で鼠を追っておりまして』

『鼠より継承者を優先しろ、愚か者』

『何分、(うまそうな)鼠だった物で。

 して、ご用件は何でしょうか?』

 

 白々しくリドルにこうべを垂れるバジリスク。リドルは大蛇を指差し弾劾する。

 

『貴様、僕に背いて生徒を襲ったな!?あれほど、行動を起こすなと言ったのに!』

『はて?私にはなんの事やら』

 

 くっくっと、笑いながら言うバジリスク。

 

『何を白々しい、こんな騒ぎを起こしておいてッ』

『私はスリザリンの名の元に穢れた血を粛清しようとした、それまでの事。本当ならば、お前とて・・・』

 

 リドルに顔を近づけ声を低くするバジリスク、しかし突然トイレの奥を向いて大口を開けた。

 

『そこに居る者は誰だ!』

 

 リドルが奥の個室を見たその瞬間、個室が勢いよく開いた。

 

「出てってよォッ!!」

 

 個室から出るなり大声をあげた女子生徒、その目の前にバジリスクが躍り出た。

 

「かァ・・・ぐ・・・?」

 

 女子生徒は、目の前の蛇の王の最悪の魔眼を、直視してしまった。

 生徒はぐらりと揺れたかと思えば、人形の糸が切れたように床に崩れ落ちた。

 女子生徒、マートルは実に呆気なく、脳を魔眼に焼き切られて死んだ。

 

「あッ・・・ああっ!?」

 

 マートルが崩れ落ちる瞬間を目の辺りにしリドルが目を見開き、バジリスクを見た。

 

『貴様ッ、そいつを、殺したな!?』

『クカッ、クカカカカカァッ!!』

 

 バジリスクがマートルの死骸を一舐めし、大笑いした。

 

『いやいや、我らの話は聞かれてはまずい、この件はどうか目をつぶって、いただきたい。

 では、私は鼠を追いに戻ります故。継承者様、どうかお健やかに・・・』

 

 高笑いしながらバジリスクがパイプに戻り、女子トイレから去っていった。

 残されたのは哀れなマートルの亡骸と、呆然と立ち尽くすリドルのみ。

 

「なんて・・・こんなの・・・まずい」

 

 冷や汗が止まらない、なんという事か。

 彼は人が死んだ事に焦っている訳では無い、自分の所有物でも無い彼女なんてどうでもいい、問題はバジリスクが死体を作ってしまったという事。

 間違いなく大騒ぎになる、大事件だ、犯人だって探される、他の教師ならともかくダンブルドアを騙しきる自信は彼には無い。

 

「なんとかしなければ、なんとかしなければ・・・ッ」

 

 焦る気持ちを押さえられぬままリドルは女子トイレを出た。

 その間もマートルは、真っ白になった目で虚ろに天井を見上げ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業途中にて、廊下ダッシュなう。

 俺、ヨーテリアさんは今トイレに向かっている。

 ストレスを抑えるために飲んでいた大量の紅茶が最後の授業中に裏目に出てしまった。

 膀胱じゃなくて喉だ、言ってしまえば吐きそう、吐きそうな位紅茶飲む奴なんて俺くらいだよな。

 もう喉元まで紅茶が戻ってきてる、やばい。

 かなり走ったがようやく女子トイレが見えてきた、うおお間に合え、間に合っておくれー!

 トイレに飛び込み、個室を見回す。

 

「は?」

 

 ・・・誰か、倒れてんぞ?奥の個室前で女子生徒が倒れていた。随分不自然な体勢だな、大丈夫かな?

 

「お前、大丈夫か?」

 

 歩み寄りながら声をかけるが全く反応しない、あれ?そういやあの眼鏡、どっかで見たような。

 

「・・・マートル?」

 

 こいつマートルじゃないか、昼時にもぶつかったような・・・

 何で、白目、剥いてんだ?

 

 

   「覚えてるのは大きな黄色い目玉が二つ

    体全体がギュッと金縛りにあったみたいで・・・

        ーハリーポッターと秘密の部屋、嘆きのマートルの台詞よりー

 

 

 

 

「あ・・・う・・・?」

 

 何だよ、今俺、何を思い出した?とにかくマートルを起こさなきゃ、揺すろう、マートルようトイレで寝ちゃダメだろ、早く起きろよ、なあマートルよう。

 

「マートル・・・マートル・・・ッ」

 

 なあ、飛行訓練の後絡まなかったの謝るから、糞爆弾の件も実は俺なんだ、なあ起きてよ、何で息してないんだよ。

 

「ゲホッ、ゴブッ!?おげぇぅ、おぐっ・・・」

 

 紅茶どころか胃液まで全部ぶちまけた。

 マートルが死んでる、それも秘密の部屋の怪物にやられて。

 思い出したぞ秘密の部屋の詳細、生徒を襲ったのは人ですら無い、秘密の部屋に住んでる、桁外れのバケモンだ。

 

「シュル、シュルル、シュー・・・」(自分から来てくれるとは、やれうれしや)

 

 ヤバい、何かが俺の後ろに居る、何かが、天井から垂れ下がって俺を見てる。

 

「う″あ″あ″あ″あ″ッッ!!」

 

 思わず目をつぶったまま駆け出した、アイツを見たら死ぬ、それだけは分かる!絶対に目を開けちゃならない!

 

「がふっ!?ひっ、ひぃぃっ!」

 

 壁に正面から激突し鼻が折れたが無視する、もっとやばいのが後ろから這ってきてる!

 壁伝いに廊下を走る俺、後ろからズルズル音がする、今どこに居るんだっけ、まだトイレか!?

 

「げぶぅ″っ、お″ごぉ″っ!?」

 

 突然横腹に固い何がが叩き付けられ、吹き飛んで地面を滑る俺。ふざけんな、今ので肋骨何本か逝ったぞ!

 

「ひぃぃっ、ひぅっ、死ぬ、死んじまうっ」

 

 無理無理立ち上がり壁を伝って逃げる。

 目の前で派手な崩落音、壁を壊したのか!?糞、コイツ、俺をなぶって遊んでやがる!

 

「誰か・・・誰かァ・・・死ぬ・・・殺され、ちまう・・・ゴフゥッ!?」

 

 やばい喉から血返吐がせりあがってきた、内臓までやられたのか、笑えないぞ。とにかく、逃げ、逃げないと。

 

「あ・・・あ?ああ?うああっ!?」

 

壁が、二回同じ方向に、直角に?行き止まり・・・っ!?行き止まりじゃねーか!?

 

「あ″あ″あ″っ!嫌だ嫌だ嫌だァァッ!!

 こっちに来るな、来るなァァッ!」

 

 バケモンが居るであろう方向に錫杖を振り回す、ああ、ズルズルと寄ってきやがる!畜生死にたくない、冗談じゃないぞ!

 ダメだ、無意識に目が、ビビって開く・・・。

 飛び込んできたのは新緑の鱗、幸い目は見えなかったがだから何だ、顔が見えないくらいデカイぞコイツ

 

 

 

        我らが世界を徘徊する多くの怪獣、怪物の中で

        最も珍しく、最も破壊的であるという点で

        バジリスクの右に出る物は・・・

          ーハリーポッターと秘密の部屋、ハーマイオニーの残した紙切れよりー

 

 

 

 

 ははは、ご丁寧にどうも、俺の記憶。つまりあれだ、バジリスクが目の前に居たらもう助からない、そういう訳だな?

 

「ふざ、けんなァ″ァ″ッ!」

 

 いい加減にしろ、死ぬのも理不尽も!嬉しい事に俺の後ろは明るいんだ、つまり俺の後ろに、何があると思う!?

 

「〈エンゴージオ!〉」

 

 窓だよ、窓!筋肉を強化して窓をぶち破り城の外へと身を投げ出す! 

 どうやら塔に誘導されていたらしい、今は地上10階くらいの高さにいる。そのまま落ちたら死ぬな。

 

 そ の ま ま 、ならな!!

 

「〈プロ、テゴッ!〉」

 

 俺の右手へと錫杖を押し当てプロテゴを発動、出来なきゃ死ぬ、俺の研究途中の理論!プロテゴによる、肉体への装甲の付与!魔法の膜が俺の右手を優しく包み込む。成功だ、ならばやる事はひとつ!

 

 

 

 

 

 

 

 

   城の壁に、この右手を突っ込む!

 

 

 

 

 

 

 

「ル″、ア″ア″ア″ア″ア″ア″ッ!!」

 

 落下中に壁へ腕を突き刺した瞬間、凄まじい摩擦と振動が俺の右腕をズタズタにしていく。

 しかしプロテゴの防護は本物、ズタズタになるのは皮膚ばかり。

 

「ぎっ・・・ぐぐ、う・・・」

 

 それでも地面に辿り着く頃には俺の右腕は関節部が振動で粉々になっていて、ぐにゃぐにゃとありえない動きをしていた。

 でも・・・俺は、生きてる!

 

「ハッハァ!糞蛇がァッ!してやったぞォォァッ!」

 

 塔の上を見ないようにしつつ中指を立てる俺、いやこんな事してる場合じゃないだろ。

 

「ダンブルドアっ・・・!」

 

 足を引き摺りながら校内のダンブルドアを探す、次に追われたら今度は逃げれないだろう。何よりあいつがバジリスクなら、早く手を打たないと大量に人が死ぬ、ダンブルドアに知らせないと、急げ俺!

 

「ダンブルドアァァッ!どこだァァッ!」




6月2日、欠如していた一文を復旧

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