我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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これより本番地獄道中、タグの注意フル活用、そして加速するヨーテ嬢の不幸。展開の質問等には一切お答えできかねます、どんなに原作人物やヨーテ嬢がひどい目にあっても構わないという方は、共にお辞儀をしましょう。



15話 旧秘密の部屋事件 前編

 女子トイレ内に、男の子が居た。

 端正な顔立ちを愉悦に歪ませて、女子トイレ中央の手洗い場前に佇む彼はトム・リドル。スリザリン一の優等生で5年生の監督生も務めている。そんな彼は人の声とは思えない、シュー、シュー、と、奇妙な音を口ずさんだ。

 

『開け』

 

 彼はその奇妙な音で、この意味を持つ言葉を発した。

 すると奇妙なデザインだった手洗い場が、石の擦れる音と、物が軋む音が響かせその姿を段々と変えていく。

 

「ククッ、クククッ」

 

 リドルの前に現れたそれは、入口であった。地下へと続くトンネルのような穴、これこそ彼の求めていた門、彼の求める物への道のり。

 彼は迷いもせずに穴に飛び込んだ。

 中は滑り台のようになっており、彼はかなりの速度でその先の広い場所に放り出されたが、慣性を無視したように見事に着地してみせた。

 足元の鼠の骸を踏み散らし、水道管と思われる道を進むリドル。その間も彼はねちっこい微笑みを絶やさなかった。

 

「・・・見つけた」

 

 彼の前に現れたのは、不気味な扉だった。

 蛇を象った彫刻の前で、彼は再び音を発した。

 

『秘密の部屋よ、開け』

 

 その言葉に反応し、門が埃を立てながら開く。

 

「ッハハ、ハハハハハッ!」

 

 彼は堪えきれずに高笑いし、その先の広い空間に彼は思わず走り出した。

 

「やった、ついにやった!見つけたぞ、アハハッ!」

 

 両手を広げてダンスのように回りながら、奥の巨大な人の顔の像に向かうリドル。

 彼の求めていた場所、サラザール・スリザリンの残した遺物、秘密の部屋、スリザリンの為の部屋。その深部に彼は今居る。その愉悦、その喜び、優越感、彼は生まれて一番幸福な気分だった。

 しかし、まだ封印は完全に解かれていない。

 

「さあご開帳、お待たせしましたスリザリン。あなたの継承者が今、参りました」

 

 人の像に向かって芝居じみた一礼をしてから彼が厳かに、件の音、つまり、サラザール・スリザリンと同じ蛇語を話した。

 

『スリザリンよ、ホグワーツ四強で最強の者よ、我に話したまえ』

 

 人の像の口がゆっくりと開いて行く。リドルはその瞬間、目をつぶった。

 これから現れる者の目を見てはいけない、それは目を見た者を確実に殺してしまう化け物、例え継承者と言えどそれに例外は無い。

 何か巨大な物が地面をはう音を聞きながら、リドルは背にゾクゾクとした喜びを感じていた。

 

『継承者様、御目をお開けください』

 

 腹底に響くような低いトーンの蛇語が聞こえる。リドルは目を開けて、その顔を歪ませた。

 毒々しく輝く鱗がびっしりと並ぶ胴体、とぐろを巻いてようやく視界に収まる巨体、尾の辺りで隠された目元には、恐らくは生き物を一睨みで殺してしまう魔眼。そして魂を蝕む忌むべき毒を垂らす、子供の肘から先と同じくらいありそうな一対の牙。

 

『お待ちしておりました、スリザリン。

 貴方に仕えしバジリスク、ただいま参上しました』

 

 スリザリンの忠実な怪物、バジリスク。

 スリザリンの下僕にして蛇の王と呼ばれる化け物が、リドルにこうべを垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、私コレまずいと思うんだ」

「・・・いや、ウン、そうだな」

 

 この前まで大型犬くらいだったアラゴグがさらに一回り大きく成長していた。ここまで来ると吐き気もおきないな。そろそろ隠すのも無理臭くなってきた、しかもこの蜘蛛、最近は様子がおかしい。

 

「カシャ、ハグリッド、頼む、私をここから出してくれ、頼むよ」

 

 どうにも落ち着いていない、何かを恐れてる。でも何にビビってるのかは教えてくれない、うーん、面倒な蜘蛛野郎だな。

 

「アラゴグよう、オメェが見つかったらヤバイんだ。

 どうか分かってくれ、まだ大人しくしてくれ」

「カシャカシャ、しかし・・・」

「ハグリッドが育ててくれたのに今さらワガママかよ、呆れた糞蜘蛛だな。

 リドルが聞いたらブチ切れそうだ。お前なんか要らないー!ってな」

 

 俺がにやけながら罵倒してやると、奴は不満そうに鋏を鳴らしながら大人しくなった。

 

「そういえばリドル最近は来ないよね」

「監督生だからだろ?それよりハグリッド、確かにコイツもうここには置けないよ。箱かなんかで隠して連れ出さないと。」

「うーん、やっぱりそうだよなぁ・・・」

 

 腕を組んで唸るハグリッド。流石に限界だろ、隠しきれないぞ。

 このままだと見る見る象くらいになっちゃう、その前に手を打った方がいいだろ。

 

「まあ、次にでも運び出そうか。今日は帰ろう、箱を探さないと」

 

 アラゴグに別れを言ってから俺達は寮に戻る、しかしな、あの蜘蛛何にビビってるんだろ?

 この時期何か起こったかな、思い出せない。何もないといいんだけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バジリスクは苛立ちながら校内のパイプの中で校内の様子を眺めつつ、移動し続けていた。

 行動は起こさない、リドルに命令されたからだ。

 あの青二才は、自分を部屋から解放したが、話だけ聞いて何もするなと部屋を出た。

 しかも自分をパイプの道を戻るための乗り物にまで使う始末。バジリスクは猛った、自分はそんな扱いをされるそこらの家畜のような生き物では無い。

 自分は誇り高きスリザリンの怪物、スリザリンに仇なす愚か者を絶滅させる者、昔からそうだった、そうである筈だった。

 だのに、眼前に汚い混血共を捨て置いて、ただパイプを這っていなくてはならない。

 

ーー青二才めが、睨み殺してくれようか。

 

 悪態をつきながらバジリスクはそう思った。

 パイプの隙間を覗いて廊下を眺めると、ああ、目の前に汚い血の童が一人。

 殺してしまいたい、睨み殺してしまいたい、偉大なサラザール・スリザリンの思想を汚す輩を自分の魔眼で、毒牙で、太い胴体で、長らく苦しめて殺したい、我が主の為に。

 

ーー一人くらい、構わんよな?

 

 バジリスクはパイプの隙間から身体を伸ばした。狙うは鏡を持った一人の生徒、殺しはしない、殺せば己の仕業とバレる。鏡に己が映るように移動し、鏡に向かって一睨み。

 

「ヒッ!?ガ・・・ッ」

 

 生徒は魔眼で死にはしなかったが、それでも彼の目を通じて脳に達した魔力が、彼を石のように固めてしまう。

 

ーーああ、なんと歯痒い。

 

 パイプへと身体を戻すバジリスク。今噛みつけば確実に殺せる、巻き付けば簡単に砕ける、しかし出来ない、リドルに命令されたから。

 ああ、小僧め、殺してしまおうか。

 現場を眺めていると、生徒が一人やってきた。生徒は石になった子を見ると、腰を抜かして助けを求めながら廊下を這って行った。

 

ーーはっは、穢れた血めが、愉快愉快。

 

 バジリスクはパイプ内で、その様を見て機嫌良くとぐろを巻いて、場を観察した。

 

ーーせいぜい恐れおののけ、継承者の敵よ気を付けよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道に人だかり、しかも回り道なんてありません。うわぁ、トラブルの予感、嫌だなぁ。

 

「ひぃっ!?グリンデルバルド!?」

「通せ、邪魔だよ」

 

 生徒を押し退け人だかりを掻き分ける俺。でかいって便利、通勤ラッシュが大変だったリーマン時代が懐かしい。

 さて、人だかりの真ん中には何がある・・・?

 

「は?」

 

 そこに居たのは、ハッフルパフの生徒だった。

 鏡を持ったまま、石のように固まって地面に倒れている。

 

「何だこれ、ヨーテ、何だよこれ!?」

「し、知らない、何が起きて・・・?」

 

 待てよ、この現象に見覚えがあるぞ。

 間違いない、秘密の部屋で起きてた怪事件だ。今回は血文字は無いらしいが関係ない。

 

「どうしたんだ、通してくれ、僕は監督生だ!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえる、振り替えるとリドル坊やが人波を掻き分けていた。

 

「一体何をしているんだ、何があった?」

 

 リドルが石になった生徒を見た途端、唖然とした。そりゃそうだ、こんなもん驚いて当然だ。

 

「皆散って、散るんだ!先生を呼ぶ!全員寮から動くんじゃない!」

 

 リドルが鋭く指示を出すと、生徒達がそれぞれ集団で固まりながら寮に帰って行く。

 

「何でだ、どうしてこんな、ありえない・・・」

 

 完全に狼狽えてブツブツと呟くリドル、我らが優等生もお手上げか、参ったな。

 どうにも原作の展開が思い出せない、思い出せればどうすべきか分かろう物を。

 

「なあ、犯人アイツじゃないかな?」

 

 遠くで生徒の一団が俺を指差して言っ・・・は?いや、何で俺がこんな事すんだよ。

 ガキ共が一斉に俺を見る。やめろ、違う、違うだろ、俺じゃない。

 

「闇の魔法使いの娘め・・・何をしたんだろう」

 

 最悪だ、すっかりそんな目じゃないか。

 かなり遅れてやってきたのはメリィソート先生だ。石になった生徒を見るなり目の色を変えて、他の先生を呼ぶようにリドルに指示を出した。

 それに従い先生方を呼ぶリドル、メリィソート先生は生徒の瞼を覗いたり脈を測ったりして状態を確かめた。

 

「生きている。が、石になっているな」

 

 やっぱりか、死んでなくて良かったな。

 俺も戻ろう、襲われるのは混血だけらしいが俺は純血かどうか分からない、危険だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 談話室はそれは静かな物だった。しかしガキ共は俺に気付くなり身を寄せあって、集団で俺を睨み付ける。

 ああ、もう最悪だっ、何でこうなるんだよ。

 

「何だ?何で私を睨むんだ?ん?」

 

 半分ほど激昂しつつ彼らを睨み返すと、怯まれたが一人が言い返してきた。

 

「何故って、お前が犯人だからだよ!

 ヨーテリア・グリンデルバルド、あれはお前の仕業だな!?

 お前は闇の魔法使いの娘だ、人を石にするなんて造作も無い筈だ!」

「私じゃ無いッ!私はあの場に居なかっただろ!?」

「じゃあ使い魔か何かを使ったな!?

 一年前から校内に怪物が居るって噂がある!そいつを使って、離れた場所から・・・」

「全部ッ!私のッ!せいか!もういい!」

 

 ソファーを蹴っ飛ばしてそいつを罵倒し自室へと戻る俺。話しても無駄だ、奴等は俺の話なんか聞かない、聞いた(ためし)が無い。

 ベッドに教科書を投げ込み、深々とイスに座る。ああ、幸運薬残して今日使えば良かったな。

 しかし、一年前から怪物の噂が、ね。間違いなくアラゴグだろう、やばいな、ハグリッドにアラゴグを逃がすよう言っとかないと。

 多分校内も調査する筈だ、見つかりかねない、見つかったら犯人扱いは確定だろう。

 魔法生物に常識なんか通用しない、だから明らかに事件と関係ないアラゴグでも余裕で生徒を石にしたって罪状がついちまう。

 

「クソッ、クソッ!」

 

 ああそれにしてもムカつく、何で俺が犯人扱いなんだよ、流石に先生方は真に受けないが、過ごし難くなる。

 ・・・どうにか、潔白を証明できない物か。

 ベッドに寝転がりピーちゃんを眺めながらぼんやりと思考に耽る俺。どうもしなくていい、ほとぼりが冷めるのを待とう、今回は俺が乱入したって何も無い筈だ。経緯は思い出せないが、今回の件は解決するんだから。

 俺の知らない所で全部終わってくれ、そう願いながら俺は、苛立つ気持ちを押さえてウトウトと、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しゅるり、しゅるりと、パイプの中を徘徊する者、バジリスクは学校が混乱する様を愉快そうに眺めた。

 途中青臭い継承者様を見かけたが、憤怒の形相を浮かべながら様々な場所を行ったり来たりし、教員を集めつつ時折自分の通り道であるパイプの辺りを睨み付ける。

 恐らくは自分の仕業だとバレたのだろう、何も問題は無い、バジリスクはそう大口を開けた。

 校内を見て回る内に、一人の少女に目が向いた。

 

ーー純血、それも古いものか。

 

 童の集まる談話室にて、ソファーを蹴っ飛ばした少女、皆が怯えて固まるのを一瞥し、自室へと戻った。

 バジリスクは面白い女だと思ったが、それより先に、恐ろしい顔をして彼女を品定めした。

 

ーーああ何と旨そうな、しかも孤独、無防備だ。

 

 その強気な立ち振舞い、清らかな肌、髪、あれの泣き叫ぶ様を眺めながら手足を引き千切り、丸飲みにしてみせたらどんなに美味だろう。

 

ーーああ、食らいたい、あの小娘を食らいたい。

 

 自然と胃が食物を求める、久し振りの飢えがバジリスクの正気を削っていく。

 

ーー小娘、背後に気を付けよ。私は常にお前を見ている。

 

 その大口を開けて眠る少女を眺めるバジリスクは、まるで笑っているような顔をしていた。


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