我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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お知らせ通り14話投稿を持って本番入り。
最後のただの日常、お楽しみください。


14話 天涯孤独で優しい男の話

 ルビウス・ハグリッド。

 グリフィンドールの二年生であり、もじゃもじゃ髪の頭と、黄金虫のような目を持った、異常な程デカく勇敢で優しい男の名だ。

 彼は決して優秀では無かったが、しかし周囲の友人達、何より自分より小さな父親に、それはそれは、大層に愛されていた。

 

「うん、ちっと字が汚いが、いいだろ」

 

 ひしゃげたペンを置いて、手紙を眺めるハグリッド。

 ハグリッドに服の棚にちょこんと乗せられても、大笑いしてみせた彼の父親に書いた手紙だ。

 

「どうも体調が悪いらしいからなぁ。

 体に気を付けろ、よし」

 

 親を気遣う一文を書き足し、封筒に入れる。

 後はふくろう便で自宅に送るのみだ。

 

「さぁて、忘れモンはねぇな?

 とっとと飯済ませて、ふくろう小屋に行かにゃーな」

 

 封筒をポケットにしまい、朝食に向かうハグリッド。

 談話室に出れば、獅子寮の生徒がたむろっていた

 

「よおハグリッド、もう行くのか?」

 

 親しい生徒が笑いながら声をかけてくる、ハグリッドは大きな声で笑い返し陽気に返事をする。

 

「おう、腹が減って仕方ねぇ。

 先に行ってるぞ、オメェらも早くな」

 

 笑って手を振り合いながらハグリッドは談話室を後にする。

 彼は他の者と比べて、明らかに大きい。故に大広間への道のりは、彼には少し短い。

 大広間に入るとそこには食事を行う生徒と、バイキング形式のパンやベーコンなどがあった。

 腹が減ったというのは半分は嘘。彼は大広間では食事をしない。朝食を懐に隠し、大広間を出ていこうとする。

 

「ヨーテ、急がないと間に合わないよ」

「馬鹿、あのゲテモノ見ながら飯なんか食えるか」

 

 スリザリン席には朝食にがっつく金髪の少女と、呆れ顔でそれを見つめる柄の悪い少年が居て、ハグリッドは苦笑しながら彼らに近寄った。

 

「よう、どうしたフィルチ」

「ヨーテが満腹まで食うって聞かないんだ。

 どうせアイツ見たら全部吐くのに」

 

 困った様子でため息をつくのは、スクイブだが退学をギリギリ免れる成績をキープするアーガス・フィルチ。彼より2つ上の友人だ。

 そして食事にがっつくこの少女は学年最悪の札付き、ヨーテリア・グリンデルバルドだ。

 

「ほふぅ、食った食った。

 じゃあ行こうか、ゲテモノが待ってる」

「おう」

 

 二人が幾つか朝食を掠めとりローブに隠し、三人で朝食を隠して膨れた部分をうまい具合にカバーしつつ、大広間を出る。

 彼ら三人には共通の目的がある。

 この朝食をハグリッドのとある友達に届ける、その為に毎朝、こうして食事を密輸するのだ。

 

「アラゴグ!ごはんだぞぉ!」

 

 誰も立ち寄らない廃倉庫にて、ハグリッドが大声で、自分の友達を呼んだ。すると倉庫内の隅から、彼の最愛の友が現れる。

 大きな八本の脚に、膨れたお腹、つぶらな数えきれない複眼。

 ここ一年で大型犬くらいに成長した、ハグリッドの親友、アラゴグだ。

 

「お″え″ッ、うぐぶっ、ゴブッ」

 

 ヨーテリアが口を押さえて苦しみ始めると、アラゴグは不機嫌そうに鋏を鳴らした。

 

「カシャ、ヨーテリア、無礼だぞ、カシャカシャ。

 見るなり吐きそうになるなんて、カシャ」

「すっかり喋れるようになったな」

「おう!何てったってアラゴグは天才だからな!」

 

 ハグリッドは誇らしげに胸を張り、アラゴグへ懐から取り出したパンを渡す。

 するとアラゴグは器用に二本の脚でパンを掴み、鋏で切り分けながら食べていく。

 

「本当は肉がいいんだろうが、ベーコンはあまり持って来れなんだ。

 すまねぇな、アラゴグ」

「カシャ、構わんよ、ありがとうハグリッド、カシャ」

 

 ハグリッドからベーコンを受け取りながら嬉しそうに鋏を鳴らすアラゴグ。

 ハグリッドもパンをかじりながら、笑って彼の殻を叩いていた。

 やがてアラゴグが朝食を全て平らげ、彼らはそれぞれの場所へと戻る。

 ハグリッドはふくろう小屋だ、手頃なふくろうを見つけ、足の筒に手紙を入れた。

 

「頼んだぞ」

 

 ハグリッドが声をかけると、ふくろうはふんぞり返って一鳴きし、小屋の窓からハグリッドの自宅へと出発する。

 

「さ、授業だ、遅れちゃまずい」

 

 早歩きで授業に向かうハグリッド。彼は頭は良くない、だが幸せであった。

 満ち足りて、愛されて、親しまれて、そんな日々が続くことを、豪快に笑いながら願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・?」

 

 数日後届いたふくろう便を見て、ハグリッドは唖然とした。届いた手紙は、彼の父親の悲報だった。

 

「親父が、死んだ?」

 

 急病による父の死亡、彼は状況が把握出来なかった。

 しかしすぐに青ざめながら、手紙を破り捨てた。

 

「何を馬鹿な、悪戯に決まってらぁ」

 

 彼は信じなかった、信じたくなかった。陽気で優しいあの父が、あまりにも急すぎる。

 質の悪い悪戯、彼はそう片付けようとした。

 

「・・・ルビウス・ハグリッド君だね?」

 

 自室に彼の尊敬する偉大な魔法使い、アルバス・ダンブルドアが来た時、これは悪戯では無いと悟った。

 

「・・・親父は、ホントに死んだんですかい?」

「ああ、間違いない。

 自宅で安らかに眠っているのが発見された」

 

 ハグリッドは崩れ落ちそうな身体を、その精神力で持たせながら、ダンブルドアを見つめた。

 

「お、親父に会いてぇです、見て確かめてぇ」

「よかろう、わしも付いて行こう」

 

 ダンブルドアに連れられ、ホグワーツを出る。

 敷地を出るなり、ダンブルドアが姿あらわしをして、ハグリッドの自宅へと直接飛んだ。

 数ヶ月ぶりの帰宅、しかし穏やかな心境では無い。

 父親の寝室へとたどり着いた時、ハグリッドは耐えきれず崩れ落ちた。

 

「ああ、あ″あ″あ″あ″っっっ!!」

 

 顔に布を被せられた、小さな父親。

 陽気に笑って毎日を楽しんでいた男の亡骸が、そこに静かに、眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 葬儀はハグリッドのみで行う事にした。身内は居ない、父親には自分しか居ない、寂しいが勘弁してくれ、とハグリッドは父親の棺を墓に埋めていた。

 その間ハグリッドは歯を食い縛り、泣いて送るまいと、泣いて逝かせまいと耐えていた。

 

「急すぎるな、親父よお」

 

 ほとんど埋まった棺を眺めながら、ハグリッドは努めて気軽に呟いた。

 

「簡単に死ぬタマじゃないって言ってたろ、え?見えねぇが情けなくて仕方ないだろ?

 へん、この前まで俺に棚に置かれても、大笑いして楽しんでやがった癖によ」

 

 声色は明るいが、ハグリッドはさらに顎に力を込めた。

 

「いっつもゲラゲラ酒飲んでてよ。

 未成年の俺にまで薦めやがって、きっと満足して死んだんだろうな」

 

 棺が完全に埋まり、ハグリッドがスコップを地面に突き立てた。

 

「・・・馬鹿野郎」

 

 ハグリッドは努力した、しかし耐えられなかった。

 天を仰ぎ、盛大に男泣きするしか無かった。

 

「親父が死んだら、俺ァ世界で一人ぼっちなんだぞ!

 何で死んだんだよ、バカヤロォォオッッ!!」

 

 半日、ダンブルドアに慰められるまで、ハグリッドは吠えるように泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツに戻ってもハグリッドは立ち直れなかった。彼は天涯孤独となった、なってしまった。

 仲の良い生徒たちは彼を気遣ったが、それでも彼の心は癒えなかった。

 父親の笑顔と、静かな亡骸が忘れられなかった。

 朝食を隠し持っていく際も、彼は沈んだままだった。

 

「・・・ハグリッド?どうした?」

 

 アラゴグの廃倉庫には先客が居た。トム・リドル、彼の先輩の一人だ。

 アラゴグの存在を学校に知らせず、一番にアラゴグの養育に賛成した男だ。

 

「・・・何でもねぇよ」

「嘘をつくな、それはうちひしがれた顔だぞ」

「カシャ、ハグリッド、どうした?カシャ」

「何でもねぇんだ、ほっといてくれ」

 

 ぶっきらぼうに言い放つハグリッド。

 しかしアラゴグは4本の脚でハグリッドを抱き寄せ、不器用に彼を抱き締めた。

 

「カシャカシャ、無理をするな、友よ。

 私達は相談に乗る、乗ってみせる」

「聞くだけ聞かせるんだ、ハグリッド」

 

 その優しい言葉に、ハグリッドは再び泣いた。泣きに泣いた、もう涙は止まらなかった。

 ハグリッドは話した、父の悲報を。自分が孤独になり、一杯一杯である事を。

 しばらくして、ハグリッドは目頭をこすり、二人に礼を言いながらアラゴグから離れた。

 

「すまねぇ、だが楽になった、ありがとうな」

「気にするんじゃないハグリッド。

 自分の持ち物だ、大事にすべきだろ」

 

 リドルが何を言っているのかは理解しかねたが、自分を気遣った一言だと合点した。

 ルビウス・ハグリッドは天涯孤独となった。しかし、断じて一人ぼっちでは無かった。

 少なくとも、彼の中では、絶対に。


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