我が名はグリンデルバルド   作:トム叔父さんのカラス

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アラゴグ可愛いよアラゴグ


11話 三年生と大蜘蛛

 元リーマン現魔法少女、ヨーテリアさんです。

 今年3年生になります、趣味は魔法の研究です、早速ですが大ピンチだったりします。

 

「探せ!まだガキだ、遠くには行けない」

「殺してやる、恨みを晴らしてやるぞ」

「グリンデルバルドの血統めぇぇっ」

 

 俺を生ませた奴の被害者達に追われてロンドンの裏路地のゴミ箱に隠れてます。うん普通だな、普通の13歳少女だ。

 クソが、臭いし怖いし鬱になりそう、俺は駅に向かってただけだぞ。

 どうせホグワーツに通ってるのがバレたんだろうが、駅内でこいつらに囲まれた時はちびるかと思った。

 畜生、誰か早く助けてくんないかな、俺一人であんな何十人も相手出来ないよ、むしろ一人でも無理だわ。

 

「この箱に隠れていないか?」

 

 やばい、一人こっち近寄ってきた。

 杖持ちで目は血走り明らかに正気じゃない、捕まったら間違いなく死ぬ、酷い目にあってからじっくり時間かけて殺される。

 畜生二年前リドルに人生説いたせいか!?その通りにパッと死んじまうよコレ。

 

「 見 ィ つ け た ァ 」

 

 蓋を開けて満面の笑みを浮かべてた野郎の顔面に自慢の錫杖を思いきり叩き付けてやった。

 くぐもった声を上げて倒れるそいつを蹴飛ばしさあ逃げようすぐ逃げよう、大通りに出ればなんとかなる筈だ。

 

「どこへ行くんだ?お嬢ちゃん?」

 

 なんでお決まりの(回り込まれた!)今やるんだよ!

 

「手間取らせやがって、イヒッ、殺す、まず殺す。殺した後に犯してバラして溝川の肥やしにしてやる」

 

 やばい、本気でキマってるよアイツ。

 クソ、魔法使うと周りにバレるけど仕方無い、殺されるより遥かにマシだ。

 

「〈エンゴージオ〉!」

 

 顔面を狙ってお得意のエンゴージオを発射!頭が膨れ上がって動けなくなる筈だ。

 

「ふん」

 

 杖で受け流しやがった畜生!

 

「アズカバンなぞ上等だ、死刑でも構わん、俺の息子が受けたのと同じ呪文で殺す!

 〈アバダケダブラ〉ァッ!」

 

 緑の閃光が俺の顔の真横を通り、偶然通りかかった大ネズミに直撃しその命を一撃で刈り取った。

 は、ははは、マジかよ、コイツ市内で〈アバダケダブラ〉撃ちやがった!?

 腰が抜けて尻餅をついてしまう、やばい。

 

「あ″あ″っ、なんて燃費の悪い・・・ッ!

 次は外さん、確実に、殺す!」

 

 顔面を蒼白にしながら杖を振り上げる男。

 畜生死んじまう。こんなにもあっさりと!救いとかどうでもいい!やっぱり死にたくないよ!

 嫌だ、もう死ぬのは嫌だ、トラックだけで沢山だ。

 

「〈アバダ・・・〉」

「何やってんだ、テメェッ!」

 

 大通りから体格のいいデカい男が怒鳴り、杖を振り上げていた気狂いがそちらを振り向く。

 

「親父、警察呼んでくれ、魔法使いな!?」

 

 隣にいた小さな男に警察を呼ばせ、男は杖すら構えず気狂いに突進する、えっ?

 馬鹿かこのパーマ頭!?相手はアバダ撃てんだぞ!

 

「お前ェェェッ、この瞬間を邪魔するとは!

 許さんぞ、〈ステューピファイ〉!」

 

 問答無用で失神呪文を放つ気狂い。紛れもなく猛進する男に直撃したんだけどコイツ知ったこっちゃ無しに男に飛び掛かりやがった!

 

「ぐけェェッ、ま、魔力がァッ」

 

 男に殴り倒されて呻く気狂い、すぐさま男に押さえ付けられて身じろぎ一つ出来なくなる。

 

「大人しくしろ、この野郎!姉ちゃん、もう安心だぞ!

 ああ、魔法省の方!こっちだ!早く来てくれぇ!」

 

 姿あらわししたらしき役人達が駆け付けて来て、気狂いは取り押さえられ無事逮捕、男は役人達に称えられ、照れながら現場を離れる。

 これ事情聴取とかされるよな、名前も聞かれるか?

 ・・・逃げよう、面倒は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て事があったんだ。私は悪くない」

 

 ホグワーツ校内、ダンブルドアへの弁明でした。

 その場から逃げてから駅に向かったら列車出発しててマジ泣きした後、魔法省に保護されてホグワーツに護送され、保護者のダンブルドアに回収されて今に至る。

 

「しかしのう、最初に保護されておれば少なくとも組分けには間に合ったじゃろう」

「興味ないから問題無い」

「アルバス怒るよ?」

「ごめん」

 

 マジトーンで言われたら謝るしか無い。

 うん、今回はすまなかったと思ってる、俺は悪くないけどな!あの気狂いにディメンターはよ!

 

「とにかく談話室に向かいなさい、友達が心配しておったよ」

「ん」

 

 ダンブルドアに促され談話室に帰る俺。

 リドルはともかく、フィルチおじさんに謝るか?多分死ぬほど心配してる筈だ。

 さて、薄暗いスリザリン談話室の扉にたどり着いた。

 スリザリン寮は地下、泉の下に位置するらしい。涼しげというかぶっちゃけ不気味だし、しかも扉には今回は門番つきだ。

 

「ヨーテリア・グリンデルバルド。

 前から何かやらかすと思っていたが、3年になっていきなりやらかすとはな」

 

 スリザリンお付きのゴースト、血みどろ男爵である。

 全身を鎖で巻いた不気味だが真面目な奴で、去年はなぜかずっと俺を監視してたけどあれマークしてたのね、2年大人しくしてて良かった。

 

「弁明も無しか、ふてぶてしい奴め。

 合言葉は(純血)だ、間違えるな」

 

 壁に溶けるように去る男爵様、クールだね。

 ていうか弁明が無いんじゃないあんたが怖くて口が動かないんだよ!今にも殺しに来そうだし目キツいしさ!

 

「純血」

 

 とにかく談話室に入るか、二人はどこかな?

 

「このッ、糞野郎!適当、抜かしやがって!」

「適当なもんか、アイツは退学になったに決まってる!

 あんな悪党はスリザリンには要らない、ぐがっ!?」

 

 フィルチおじさんが同級のガキと喧嘩してた、またかよフィルチおじさん、今回は勝ってるけど。

 珍しく魔法無し、おじさんがマウントポジションで同級のガキを殴る殴る、サンドバッグワロタ。

 でそれを手下の皆さんと眺めるリドル。あいつ止める気まったく無いな、どうした優等生。

 

「アーガス、どうした」

「ヨーテっ!良かった、心配したんだぞ!

 こいつがっ、お前が退学になったって!」

「去年大人しくしてた筈なんだがなぁ」

「一年で問題起こしたからだろ」

「うるさいぞリドル」

 

 何でこうも嫌われるかねぇ、名前だけだよ?風評被害は魔法界でも健在だわぁ。

 

「駅で問題があって汽車に遅れただけだ。

 退学になるような事はしてないし勿論するつもりも無い。残念だったな?ん?」

 

 固まってるガキ共を煽ってから談話室を抜けて自室へと向かう。

 研究も一年で随分進んだ、初歩は完全にOK、後は最初の目標をどうにか達成するだけだ。

 ああ早く再現したいなあ、楽しみだ。

 

「隙を見せたなグリンデルバルド!

 今日こそ友達の仇を討ってやる、〈ステューピファイ!麻痺せよ!〉」

 

 忘れてた、四六時中いろんな奴に背中狙われてたな。

 さて、俺に呪文を撃ちやがった馬鹿に向き直り、錫杖を構えて魔力を集中イメージするのは盾、俺の研究成果の初歩の初歩、プロテゴの形状変化の成功例。

 俺が最初に発現した魔法の、完全制御!その晴れ舞台だ、見さらせ!

 

「〈ルーデレ 弾け〉」

 

 発動した瞬間に俺の目の前で爆発が起き、その爆発により失神呪文が跳ね返され、野郎の真横のランプを粉砕した、惜しい。

 こいつは俺のプロテゴの暴発の再現だ、魔力の込め具合もイメージの仕方も適当でいいから凄まじく発動が早い、咄嗟の防御には最適だぜ。

 しかも自分に影響無いように調整したら今回みたく相手に完全に跳ね返るようになった。

 超便利だ、燃費もアホみたいに良いし、一年掛けた甲斐があった、ヨーテリアさん満足。

 

「せっかくだ、もう1つ見せてやる」

 

 気分が良いからもう一つの成果も見せてやるよ、喜べよ?実験体にしてもらえてるんだからな。

 

「〈エンゴージオ〉」

 

 自分の左腕に錫杖を当てて肥大呪文を発動、すると俺の細腕が見る見る内にアスリート顔負けの超筋肉に早変わり!これぞエンゴージオの神秘、魔法式バンプアップぞ。まあ筋肉をピンポイント肥大させただけなんだが・・・

 

「ッ、ル″ァ″ァ″ア″ア″ッ!」

 

 近場のソファーをソイツの近くに投げつけ再び腕に錫杖を当てて、えーと、反対呪文はー。

 

「〈レデュシオ 縮め〉」

 

 おお合ってた、腕が元通りだ、よし。

 小便漏らして腰抜かしてるアホに中指立て、さっさと部屋に行かねば、だ。授業の準備だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、準備も終わりましていざ授業、最近だらけてるピーちゃんは部屋の籠へ投入、流石に重いわ。

 3年になって教科増えたからピーちゃん乗せたらほぼ動けなくなっちまう。

 で、大量の教科書抱えて移動中。教室まで長いわぁ辛いわぁ。

 

「ぐえっ」

「おっ、すまねぇ」

 

 角でやたらでかい男に衝突し見事に吹き飛ばされる俺。 

 何?今日は厄日?今日も厄日だわ、ワハハ。とりあえず散乱した教科書を拾うか。

 

「すまねぇ見えなかった、手伝うぞ」

「いやいい、こっちもごめん」

 

 今時珍しい優しい男だなこいつ、俺もあやかるべきかねぇ今女の子だけど。

 しかしデカイな、新任の教師か・・・?

 

「あっ」

「おっ」

 

 こいつ、見覚えあるぞ!?確か今日のロンドンで俺助けてくれた大男!間違いない、パーマだし!

 

「あの時のデカいパーマ!?」

「あの時の姉ちゃん!?」

 

 相手も俺に覚えがあるらしく、黄金虫みたいな目を見開いて驚いている。

 

「新しい教師だったのか、凄い偶然」

「あん?いや、俺ぁ教師じゃ無ぇぞ?

 今年一年生になったんだ、オメェさんは?」

 

 うそーん、一年生でそれかよ、バケモンかよ。

 ・・・黄金虫みたいな目の巨漢?まさかね。

 

「私はヨーテリア・グリンデルバルドだ。

 スリザリンの三年生、お前は?」

「スリザリンかぁ・・・まあいいか。

 俺はルビウス・ハグリッド!グリフィンドールだ。よろしくだセンパイぃ」

「ふおおお!?」

 

 無意識に抱き付いてた、許されるよな!?ハーグリッドだぁぁぁっ、ハグリッド!!すげぇ、ハグリッドだよマジかよ!映画でも原作でも優しくてデッカいハグリッド!成る程ぉハグリッドなら失神呪文効かないよな、何故だか知らんけど呪文に耐性あるらしいし。

 

「お、おい、どうしたよ」

「ご、ごめん取り乱した」

 

 うおおお、学生時代のハグリッド若いわー、学生服それ特注っしょ?もう俺二人分はデカいや。

 

「ハグリッドだ、ハグリッドだぁ・・・んふふ」

「どうしたんだよオメェさ、いやセンパイ」

「ヨーテでいい」

「お、おう。しかしやべぇそれ所じゃ無ぇっ、すまねぇヨーテ!またな!」

 

 持ってた包みを抱え直し、どこかへ走ってくハグリッド、あれ教科書では無いよな、なんだろ。

 まあいいや、授業授業と、今日は良い事あるぞぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヂグジョウ″」

 

 いい事無えよぉっ、呪文学ひどい目にあったわ!何でフィルチおじさんアグアメンディやろうとした!?しかも何でホースで誤魔化そうとした!?

 

「ごめんヨーテ、いやホントごめん」

「ぶきしッ、デュクシッッ、クソ、厄日だ今日は!」

「ワロタ」

「リドル、そこに直れ。今日は殺す」

 

 畜生リドルに馬鹿にされるしずぶ濡れになるし、もうやだ、おへや帰って寝る、午後の授業休む。

 

「ん、廃倉庫に入ってる生徒がいるなあ」

 

 ケラケラ笑っていたリドルが目を細めて言う。確かに廊下隅の廃倉庫に入る人影が。

 

「見に行かないかい?」

「行くだけだ」

 

 好奇心は猫をもって言うけど、見たいよなやっぱり。

 二人を引き連れて廃倉庫に忍び寄り、首だけ出して中を窺うとなんかデカいのが居る。どう見てもハグリッドだわ、絶対そうだわ。

 

「ハグリッドじゃないか、何してる?」

「うへぇっ、ヨーテ!?」

 

 慌てて何かを隠すハグリッド君。

 何その慌て方、よっぽど大切か見せたく無い物か?何々お兄さん気になる、見せて見せて。

 

「何だ、何隠してるんだ」

「ちがっ、隠しちゃいねぇっ!違うんだ!」

「みーせーろーよーぉ」

「やめねぇかこの、やめろ!」

 

 ぐおお頭掴んで引き離すな、俺は物か!?生意気な、元リーマンなヨーテリアさんに対して!

 

「一年生、何を隠してるんだ?物によっては罰則物だぞ」

「オメェさんには関係ねぇ!ほっといてくれ!」

「貴様」

 

 おおリドル、おこだな?優等生おこだな?じゃあ手伝うんだ、何を隠しているのか調べるぞ。

 

「リドル」

「貴様も分かっているな?」

 

 おうともエリート坊や、ハグリッドを押さえてりゃいいんだろ?適任だわ任せとけよ、筋肉式拘束術だ。

 

「〈エンゴージオ〉さあハグリッド神妙にしろー」

「ぐええ何だその馬鹿力!?やめろぉ!離せぇ!」

「何だこの包みは、卵か?」

 

 リドルが包みの中から卵を発見する。

 白くて真ん丸、綺麗だな、何の卵だ?

 

「・・・これは」

 

 リドルが触れようとした瞬間、卵に亀裂が走る。

 え、マジで?生まれるの?ハグリッド離したげるよ。

 

「生ま、生まれる!タイミングの悪い、まだだ!

 【アラゴグ】!今出てきゃマズイ!」

 

 アラゴグ、この生き物の名前か・・・うん?前世の記憶が甦る。

 

ーー親父、この瓶開けよう・・・ひえっ、蜘蛛だ!?

ーー騒ぐな、たかだか小蜘蛛一匹・・・おい、どら息子!上にでかいのぶら下がってんぞ!

ーーギャアアアッッ!

 

 ああ、天井から女郎蜘蛛が降りてきた事あったな・・・俺蜘蛛が苦手でな、あの時はパニックになってた。しかし何故今それを思い出す?アラゴグ?あれ、覚えがあるが思い出せない。

 亀裂が広がって何かの爪みたいな物が出てくる、カニ足みたいだな、しかしアラゴグ、アラゴグねぇ、割と大事な記憶と言うか、タブーというか。

 お、考えてる間に卵から出てき・・・た

 

 

   靄のような蜘蛛の巣のドームの真ん中から、

   小型の象ほどもある蜘蛛がゆらりと現れた

         ーハリーポッターと秘密の部屋、その一文よりー

 

 

 ソイツは八本の足と無数の複眼、丸々と膨れた腹にカシャカシャ言う鋏と、生まれたての白っぽい体と産毛を持った超特大サイズのタランチュラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁーっ、アラゴグぅ!今はまずいっちゅうのに!」

 

 ハグリッドが頭を抱えて呻く中、リドルは冷静に目の前で呆然としている生まれたての大蜘蛛を眺めていた。

 間違いない、これはアクロマンチュラ、魔法生物の中でも一等危険で凶暴な蜘蛛、その毒は高価で取り引きされるがそれは問題では無い。

 

「一年生、これはアクロマンチュラだな?

 一体どこで手に入れた、こんな危険な種」

「ぐぐ、地元だ、地元で見っけたんだ」

 

 地元にアクロマンチュラ?何の冗談だよ。

 リドルは怪訝に思いながら、ハグリッドを叱責する。

 

「アクロマンチュラだけじゃ無い、魔法生物の飼育は禁止されてるんだぞ?これは退学になっても文句は言えない」

「そ、そりゃ承知だが・・・」

 

 目を泳がせて後ずさるハグリッド。ちゃっかり蜘蛛を回収している、反省してないな。

 

「だがよう、こいつの母ちゃんはな、こいつを大事に抱えて死んでたんだ。

 このままじゃこいつも生まれずに死んじまう、そんなのかわいそうだって、ずっと暖めてたんだ。

 なあ、どうか見逃してくれ、頼むよ」

 

 頭を下げて懇願するハグリッド。

 リドルは正直規則云々はどうでも良かったし、勝手に飼ってた蜘蛛に食い殺されるならどうだっていいと考えていた。

 しかし、アラゴグの出した音により、考えは一変する

 

「ハグ・・・カシャカシャ・・・リド」

 

 全員が息を呑んだ。

 今、確かにこの蜘蛛は鋏の音の他に、人の出すであろう言葉を発した。

 

「馬鹿な」

「お、おぉーっ!アラゴグ、何てお利口さんなんだ!

 生まれた時から喋れるなんて、まるで天才だ!」

 

 ハグリッドが歓声を上げて優しくアラゴグを抱き上げる。

 その間もアラゴグは確実に人の言葉を発し、鋏を動かしてハグリッドを気遣うように呼び続けた。

 

「リドル、アクロマンチュラって喋るのか?」

「いやありえない!こんなのありえない!

 凄い凄すぎる、アクロマンチュラは知能は高いが、絶対に人になつかず、話も通じない!それが、ましてや人の名前を!」

 

 リドルは興奮に身を震わせていた。

 前例の無い、奇跡としか言えない事象、その現場に居る事に、リドルは歓喜していた。

 

ーー欲しい、こんな凄い物、欲しくない筈が無い!

 

「よろしい、こんな貴重な物、凡人共には惜しい。

 この件は黙っていよう、しっかり育てるんだ」

 

 誰にも渡さない、いずれ僕の物になるんだ。そう思いながらハグリッドに優しく告げた。

 フィルチもそれに従う、彼はハナからヨーテリア以外には興味無いからだ。

 

「ほ、本当か?ありがてぇ、ありがてぇ!」

 

 涙ながらにアラゴグを抱き締めるハグリッド。その様はさながら親と子のようだった。

 

「アーガス、グリンデルバルド。

 僕らもアラゴグの養育に手を貸そうじゃないか」

 

 リドルが尊大に二人に振り向き、我が目を疑った。

 ヨーテリア・グリンデルバルドが恐怖している、壁に張り付き小鹿のように震え、唇を真っ青にして。

 

「ばっ、馬鹿じゃないのか?馬鹿じゃないのか!?

 そいつを育てる?トチってやがる!!

 私は降りる、そしてお前らに一生関わらない!」

 

 リドルは再び彼女に失望した、なんだこの小心者は。胆が小さいどころでは無い、そんなに法に触れるのが怖いのか!

 

「グリンデルバルドォォッ!貴様、この小心者!

 もう貴様など、僕の所有物には欲しくない!

 消えろォッ!僕の目の前から消えろォォォ!」

「うるせェよ誰だって苦手なモンあるだろ!?」

 

 その一言に、リドルは思わず静止した。

 こいつ、今( 苦 手 )と言ったか?

 

「今、なんて?貴様、嘘だろう?」

 

 震える彼女を見ながら問うリドル、しかし彼女は歯をガチガチと鳴らし喋る余裕も無い。

 

「・・・ハグリッド、ちょっとアラゴグ貸せ」

「へ、へぇ、大事に頼むぞ!?」

 

 リドルがアラゴグを抱き上げ、ヨーテリアに近寄る。

 

「ば、馬鹿ッ!寄せるんじゃ無ェッ!やめろ!」

 

 途端に必死な形相になり、リドルを追い払おうと愛用の錫杖を構え、振り回し始める。

 

「アラゴグ、わしゃわしゃしろ」

「カシャ」

 

 リドルの指示に従い、アラゴグが足を高速で動かす。

 

「うォォォーーッ!?やめろォォッ!」

 

 そのまま彼女に近寄り、顔面にアラゴグを押し付けた。

 

「あ″あ″あ″あ″ーーッ!?やめろぉ!やめてぇ!」

 

 わしゃわしゃと彼女の顔を撫で付けるアラゴグ、ヨーテリアは悲鳴をあげなんとか逃れようとする。

 

「ヒギィ」

 

 努力は実らず、彼女は白目を剥いて倒れ、それを呆然と眺める一同。やがてリドルが口を開いた。

 

「蜘蛛が苦手って、えぇーっ・・・」

 

 それはアラゴグも含め、その場の全員の考えを代弁した、最高に困惑で、最低に渾身の一言だった。


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