1話 トラックのちダンブルドア
「は?」
行き遅れ兄貴系2⚫歳社蓄型リーマン。
家からでて数メートルの地点でそんな俺はピンチだった。
な ぜ ア ク セ ル 全 開 の ト ラ ッ ク が 目 の 前 に 迫 っ て 来 て る ん だ ?
「待てよ、おい、冗談だよなこれ」
運転手の焦る顔が嫌にはっきり見える。トラックがトロく見えるのに体がそれ以上にトロくてトラックに轢かれるのをゆっくり待つしかない。
スゴいな、どっかにあったぞこんな現象。
ああ酷ぇな、まだ死にたくないな。
弟の大学費、親父一人じゃ無理だよな。つーか親父一人であの一升瓶空かないよな。
お袋も買い物大丈夫かな、普段仕事帰りに俺がしてるからな。
死にたくないね、死にたくないよ、何だよこれ。
「死にたくなッ」
あぁ、俺ってこんな簡単に吹き飛ぶんだな。
知らなかったよ。
死んだ、多分死んだ。
だってここ病院でもさっきの場所でも無いし、腕折れたままで痛くないし、つーかどこだよ。
「申し訳ありませんでした」
そして目の前で頭下げるこの筋肉質のジジイ誰だよ。
「私はこの一帯を管理する神です。
同僚が派遣で来た矢先に、あなたの寿命を0にしてしまいました。
お詫びに別の神の担当地に転生させます」
ハハッワロス、何言ってるかさっぱり分からん、とりあえず重要そうな言葉を拾おうか。
「私は貴方達のミスで死んだんですね?」
「そうです、申し訳無い」
「謝ったってどうにもなりませんよ死人ですし。
とりあえず私を元の場所に生き返らせてください」
「それは出来ません。
申し訳無い事にあなたの死は、もう決定した事になってしまいまして」
そっかー、仕方ないよな。
世の中にはどうにもならない事はよくある。弟の学費とか。
「ざけんな」
そうだよ弟の学費だよ。
どうすんだよおい、俺居なきゃ弟の将来どうなんだよ、弟の目指してるデカい夢どうすんだよ。
「何とかしろ、してみせろ。俺はまだやる事あるんだよ」
「しかし私ではもうどうにも」
「どうにかしろ!!」
思わず怒鳴るが気にしてられない、俺は怒っている。
無意識に殴りかからないのが不思議な位だ。
「ふざけんなよ、人殺しといて何だよそれ、生き返らせろ!神様だろう出来るだろうが!!」
怒りのままに怒鳴り付ける。当たり前だろこっちは殺されてるんだ。
そんな俺を見てコイツは謝罪ムードを霧散させ、まるでゴミを見るみたいな目で見下して来やがった。
「たかが人が、下手に出ていればすぐ調子に乗る。
経緯はあれ神の厚意をここまで踏みにじるのか。
いつものように、″わかりましたありがとうございます″ とでも言っていれば良いものを」
何を言ってるんだコイツは、ふざけてるのか。
「もういい、望み通り生き返らせてやろう。
ただし、お前はお前では無い者に転生する、運命も過酷極まりない物にねじ曲げてやろう。
神への不敬を来世でとくと悔いるが良い」
そう言われた途端足元が抜けた。
慌てて下を見たけど、足場が消えた訳じゃ無くて、足場に呑まれつつあるだけだった。
「うおっ!? クソッ、何だよコレ!?」
「さらば不遜な人よ、二度とお前に家族は微笑まない」
「ああああッッッ! ふざけんな、ふざけんな!?」
目の前のドグサレを殴ろうとして拳を振り回す。畜生早く当たれよ、もう胸元まで呑まれてんだよ。
「クソッタレがァ!! 呪う、呪ってやるぞ畜生!
こんな、こんな理不尽あってたまるか!」
もう肩まで呑まれた、腕が振れない、喚くことしか出来ない、俺は元の生活には戻れない。
「⚫⚫⚫・・・っ」
ああ、最後の言葉が弟の名前かよ。
ここは、どこだ? 俺、マジで転生させられたのか?
最悪だな、もう、家族に会えないのか、泣けるよ、会いたいな、親父、お袋、⚫⚫⚫。
・・・あれ?おかしいな、弟の名前こんなだっけ?みんなどんな顔して、あれ、おかしいな。
何で 思い 出せない?
アルバス・ダンブルドアは賢者であり、変人である。
しかしそれ以前に彼は教育者であり、また彼自身そうであると公言する。
あらゆる子らは学ぶ権利を持ち、彼ら教育者は学びを全力で、かつ平等に支援すべきと彼は考える。
例え性根卑しい俗物でも、盲目白痴の愚か者でも、どす黒い物を抱えた異常者でもそれは同じだ。
だって人は愛を知り変わる事が出来るから。
愛を信じる物は誰よりも強く、暖かく、幸せである。彼はそう信仰する、何時なんどきもどんな時も。
そんな彼は、鳶色の髭を整えある孤児院へ向かうが、その顔色は良いとは言えない。
これから会う子供は彼の最愛の友の子だ、そうであるが故に彼は罪悪感を感じる。何せかの子は彼の友が、伴侶と共に打ち捨てた者だからだ。
「わしがあやつを止められれば、あるいはのぅ」
孤児院の扉を手の甲で叩きながら呟く彼。
少しすれば扉が開き、中から薄汚れつつも快活そうな女性が顔を出す。
「どちらさんで? 引き取りは今日は一件だけよ」
「おおマダム、いかにもわしがその一件じゃ。
アルバス・ダンブルドア、で予約はないかの?」
「あぁありますとも、ささ、どうぞどうぞ」
少々気だるげに中に招かれる。孤児院は静かで、安心感のある暗さがあった。
子供達は分厚くあまり面白そうでない本を読むか、集団であれよこれよと何やら話し込んでいる。
女性とダンブルドアは階段を登り、二階へ向かう。
「で、あの子を引き取っていただけるんで?」
「ヨーテリアですかな? 勿論ですじゃ」
ヨーテリア、ダンブルドアが会いに来た子の名前だ。
気軽に呼んでみせたダンブルドアだが、女性は眉間にシワを寄せ、ダンブルドアを睨む。
「簡単に言いますがね、あたしゃ信用しませんよ。
親元のダチだか何だか知らないが、あれは生半可じゃない。
あたしゃついぞ、あれが笑った所を見ちゃいないんだよ」
「と、申されますと? マダム」
「あの子はね、心におっきな傷をこさえてんです。
あんたじゃ癒せない、あたしにゃ分かる」
そう言う間に二階の一室へとたどり着く。
「まあ好きになさいな、あの子は絶対に笑わない。また捨てるならこの孤児院にしな」
「心配無用、と申しておきましょう」
そうにこやかに言い、ダンブルドアは戸をノックし、中へと入っていく。
部屋は締め切られており、そこら中に家具が散乱していた。
これで匂いでもあればとても人の部屋には思えないだろう。
「ヨーテリア」
一言、ダンブルドアが声をかける。
するとカーテンの近くでノソり、と何かが動いた。
「そこにいるのかね」
ダンブルドアの声に反応し何かが近寄ってくると、暗いながらも大体の風貌が見えてくる。
年の割りに高い身長、細いがしっかりとした四肢、肩を通り越す明るい金髪、彼の友の特徴そのままだ。
「アルバス・ダンブルドア教授じゃ。
ヨーテリア・グリンデルバルド、君を迎えに来た」
そう呼んだ瞬間、ヨーテリアは右腕を振りかぶった。
「そのッ、名でッ、呼ぶなッ!!」
怒気を孕んだ言葉と共に何かを投げつける、それは皿の破片だった。
しかしそれはダンブルドアに触れる前に、何かに遮られるように落下した。
「ヨーテリア・・・」
「近寄んな、お前は、俺の親じゃ無い!」
狼狽えながらも歩み寄ったダンブルドアは、思わず息を詰まらせた。
ようやく見えたヨーテリアの顔は激情に染まりつつも、彼女の父をそのまま女にしたようだったが、その目は決定的に別物だった。
「何と・・・悲しい目をするのじゃ・・・!」
母譲りの明るいアメジストの目は、激情に駆られた表情とは対称的に、硝子玉のような無機質で、感情を感じさせない、酷く虚しい、死んだ魚のような目だった。
「ならぬ・・・ならんのじゃ・・・ッ、童が! そんな、悲しい目をしてはならん!」
我を忘れたダンブルドアは、衝動のままヨーテリアを抱き締めていた。
「そんな、そんな目をしないでおくれ、そんな死に行く者の目をッ、ましてや童がッ、しないでおくれ・・・!」
絶賛困惑中でございます、なんでコイツは俺を抱き締めて泣いてんだ?
転生してからロクな事無いな、いや全く。というか苦しい離してくれよ。
「何だよ、何すんだよ」
無理に引き剥がすとジジイは詫びながら鼻をかむ。
「すまん、取り乱した、驚かせて申し訳無いのう、ヨーテリアや」
俺はヨーテリアじゃ無いって言ったよね?それよりダンブルドア?
ダンブルドア・・・どっかで聞いたような聞かなかったような。
「先程も言ったがヨーテリアや、わしは君をある学校に入学させる為、お訪ねした。
・・・まあ半分建前じゃがの。わしは、君を養子に迎えに来たのじゃよ」
「養子は認めない。学校、てのは?」
「ホグワーツ魔法魔術学校、魔法使いの学校じゃ」
ヤバい理解した、しちゃったよ。
ここ、ハリー・ポッターの世界で間違いない。
自分に付けられた名前から察してはいたけど、というかこの時系列でこの名前まずくないか、確か居たよねお辞儀と同レベルのヤバい奴。そいつグリンデルバルドじゃん、ゲラートさんやん。
マジであの腐れ神呪ってやるぞ畜生。
「君はその様子だと察しておるようじゃが、その推測は恐らく合っておる。
君のお父上は、まあ、名の知れた男じゃ」
や っ ぱ り な 。
じゃあ学校とか通いようがない気がするんだが?
そもそも通う気無いし。意味無いじゃん。
「しかし、君はあやつとは血筋以外、何の関連のない子供だと魔法省は判断した。
よって君は何の弊害無くホグワーツへ入学出来るという訳じゃ。
魔法が使える以上、制御する術は学んでもらおう。
じゃないとわし監督不行き届きで魔法省に出頭した後、肥溜めに入れられちゃうからの」
「何であんたに責任が向くんだよ」
そう言ってやるとダンブルドアは、実に良い笑顔でこう言い放った
「だって君の入学手続き、保護者欄わしにして済ませちゃったんだもん」
「 ざ っ け ん な あ あ あ !!」