思いついたSS冒頭小ネタ集   作:たけのこの里派

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Put Satanachia 3

 

 間桐桜。

 彼女がその様に名乗れるようになったのは、間桐に引き取られてから四年後になってからだった。

 それまでの彼女の記憶は遠い過去のように思える遠坂(本当の家族)と、よく解らないモノの軋む様な鳴き声。

 そして『おじいさま』の嗤い、苦痛と不快感で満ちていた。

 

 そんな桜は、気が付けば誰かに抱き起こされていた事を覚えている。

 自分の頬に零れ落ちる涙と、苦渋に歪む表情。

 そして、その人は何もしていないのに謝罪の言葉を繰り返す少年の顔。

 

 次に目覚めた時、彼女の暮らしは一変した。

 自分を蟲蔵に放り込む怯えた顔ばかりする男の人は居なくなり、怖かったおじいさまは何処にも居なくなった。

 身体から蟲は居なくなり、苦しい思いをしないで済むようになり。

 居るのは、義兄と名乗る少年だけ。

 その時、漸く彼女は自分が救われたのだと理解した。

 

 依存とソレ以外の狭間は何で定義できるのだろうか。

 恋、愛、憎しみ、怒り。

 人間の感情は言語化するには混沌が過ぎ、しかし一方たった一言で表現できる事もある。

 

 少女にとってそれは紛れもない恋であり、愛であり、そして依存だったというだけの話なのかも知れない。

 ソレからの間桐桜の原動力は『間桐慎二に見捨てられたくない』であった。

 自身が遠坂から養子として預けられた事を『捨てられた』と認識していたからか、自身を救った慎二に見捨てられることを何より恐れた。

 

「─────桜、お前は自衛の手段を学ばなくちゃいけない」

 

 痛ましい、あるいは険しいような。

 万能の天才は先祖そっくりと笑うのか、あるいは伝説的な錬金術師は苦笑いするだろうか。

 この頃の桜と接する慎二は、いつも通り傷口を抉られている様な苦痛に耐えるように顔を歪ませていた。

 

 虚数魔術。

 それが自身の魔術なのだと教えられ、ソレを使いこなせと言われた。

 それだけが、桜自身を護ることができるのだと。

 

「はい、わかりました兄さん」

 

 慎二の言葉に逆らうなどあり得ない。

 最初は魔術と聞いて身体を固めたが、蓋を開ければ最初は座学と、蟲での改造(かつての修練)に比べれば何ら苦ではない。

 幸か不幸か、かつての改造によって桜の魔術回路とスイッチの形成は既に行われており、比較対象が本当に悪かったことから、本当に苦痛を感じていなかった。

 慎二が心身の治療を優先していた当初、初歩だが魔術を成功した時に慎二が褒めた時など、忘れていた笑みを思い出したほどだった。

 知識が増えるにつれ、魔術の技術がほんの少しでも向上する度に、桜は自身が慎二の役に立てていることを実感し、充実した。

 

 ─────だって兄さんは魔術が使えないんだから。

 兄が持ち得ないモノを、自身が埋める。

 桜が慎二にとって必要不可欠な存在になれば、捨てられることなどありえないのだから───。

 

 そんな、暗い欲望が彼女の奥底に鎮座していた。

 

「カレン・オルテンシア────いえ、間桐カレンです。

 宜しく御願いします。姉さん」

 

 それからすぐに現れたのは、少し姉に似た純白の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話 義兄(あに)義妹(いもうと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の義妹だ。出来れば仲良くしろよ」

 

 桜同様に間桐へ引き取られた少女。

 カレンと名乗った彼女を呆然と見る桜を尻目に、慎二はそう言った。

 彼女は意外なほど慎二に従順だった。

 彼女が無意識に掃除などを行っていた事から、慎二に言われるがままな姿は従順なメイドの様。

 しかし従順という意味ならば、桜も同様である。

 だが、幼い頃から魔術による虐待を受けていた桜に、まともな家事など出来るわけがなかった。

 

 そんな彼女達の境遇は真逆だった。

 桜は養子先で虐待を受け、カレンは養子に来るまで虐待を受けていた。

 より正確には桜は改造で、カレンは迫害であった。

 

 といってもソレを知っているのは()()()()()()()、この時カレンと桜は各々の事情は知らない。

 あるのは、二人共が結果的に慎二に救われたという事実のみ。

 

 元より姉──かつて姉だったヒトに憧れている桜にとって、義理とはいえ妹とは完全に未知だ。

 

 しかし、慎二に「仲良くしろ」と言われた以上、桜はそうなるように努力することに否は無い。

 幸い、姉の参考材料はいる。

 拙いながらも理想の姉を演じつつ、何時しかそれが─────演技では無くなった。

 

 中学に上がった辺りでカレンが口から毒を吐くようになってしまい、それを止めんとするようになったのも、姉としての役割を果たそうと必死だったからなのかもしれない。

 

 慎二が望むように、いつしか自然となるように。

 そんな考えが、いつの間に無くなっていたほどに。

 桜は慎二の望む通り順調に、少しずつその心を癒していたのだ。

 

 そんな関係が日常になった辺りから、桜は慎二に明確な好意を懐き始めた。

 元より自身を地獄から救い上げた、唯一の家族。

 

 敬うべき義兄であり、自身を救い出した異性である。

 それが心身の成熟によって異性愛という選択肢を与え、慎二にとって都合の良い女としての自分を求め始めるようになった。

 

 桜が中学に上がった頃。

 もう彼女は過去の記憶に魘される事はなくなった。

 愛しい兄に、困った妹。

 彼等を護るのは、魔術を扱える自分なのだと胸を張れる。

 慎二の役に立てる。その事が魔術の鍛練で技術が向上すると同時に実感できて、幸せだった。

 

 一つの心残りを除いては。

 

『────良くやった、桜』

 

 虚数空間の新しい使い方を覚える度に、そう言いながら桜を誉める慎二の顔。

 

 そんな言葉とは裏腹に、酷く苦しそうな無表情の仮面で覆い隠す事に失敗した、酷く歪な顔。

 

 時が経つほど、徐々に剥がれ始めた慎二の鉄仮面。

 

 桜が慎二に好意を寄せれば寄せる程。

 魔術の腕が磨かれる度に、まるでナマクラで抉られる様に彼は顔を歪める。

 

 桜は、慎二に笑って欲しかった。

 恋慕するが故に、好意を持つが故に、救ってくれた兄に、少しでも恩を返せるように。依存するが故に。

 

 だが、幾らやっても何をやっても、慎二は苦しそうだった。

 そんな思いを抱いて数年後。

 桜は、ソレを観た。

 

 

 

 

「──────なに、アレ」

 

 

 

 

 桜は、その光景を信じられなかった。

 

 世間一般には、そう珍しくもない無い光景。

 棒高飛び込みを、何度も何度も永遠繰り返すのではないかと思うほど愚直な行為を繰り返す赤毛の少年。

 ソレだけなら桜も良かった。

 今もあの地獄が続いていたら眼を奪われていたかもしれないが、今の桜は見続けることはなかったろう。

 問題は、そんな赤毛の少年に()()()()()()()()()()()()()()()()姿()が傍にあったこと。

 そんな表情を、桜は知らない。

 

「だれ、だれだれだれ、だれなの……?」

 

 どれだけ桜が努力しても成せなかった、そんな普通の少年の様な慎二の表情を、容易く、簡単に、難なく引き出したあの赤毛の少年は誰だ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「……衛宮、士郎」

 

 教師に聞けば、その少年の名前は直ぐ様知ることができた。

 教師間でも有名なその少年の評判は、少し行き過ぎているが積極的に他人の助けを行うというもの。

 尤も、それを利用しようとする生徒も過去にいた様だが、実際に実害は出ていないのだという。

 まるで、全員が都合良く改心したかのように。

 

 その話を聞いて、士郎を庇っているのは慎二だと桜は即座に思い至った。

 話によれば、実際に、慎二と士郎は小学生の頃からの付き合いが在るのだという。

 

「……じゃなかったんだ」

 

 兄を、慎二を奪われるのだと思った。

 だが、幼い独占欲からくる恐怖など蓋を開けてみればご覧の有り様。

 奪われるも何も、慎二ははじめから桜のものではないという、当たり前の事実だけがあった。

 

「……私は」

 

 兄の、何を知っているのだろう。

 ひねくれているのも知っている。

 不器用なのも知っている。

 優しい事も知っている。

 魔術回路が無くて、魔術を使えないのも知っている。

 だけど。

 

「私は兄さんが、何が好きで何が嫌いかも知らなかったんだ」

 

 桜が知らない慎二を、衛宮士郎は知っているのだ。

 憧れる姉に対するソレを、遥かに超える嫉妬が桜を襲った。

 

「貴方は───一体何なんですか」

 

 気が付けば、桜の前には眼を虚ろにして立つ士郎がいた。

 彼に意識はない。

 桜は初めて、慎二との鍛練以外で他者に魔術を使ったのだ。

 使用した魔術は、暗示。

 基礎であり、桜でも十分に扱える魔術の一つだった。

 

「貴方は、兄さんの何ですか?」

「……友、達」

「貴方のお節介で、兄さんがどれだけ振り回されているか、知っているんですか?」

「……具体的には知らないけど、慎二に助けられているとは、何となく───」

 

 そんな士郎の言動に、桜の頭へと一瞬で血が上る。

 

「ッ──貴方は、兄さんに迷惑を掛けていながら、なんでそんな事をするんですか!?」

 

 その言葉が切っ掛けだったのか、果たして。

 しかし、開いたのは地獄の釜の蓋だった。

 

 

 

「──────誰かの為に成らなくちゃならない

「……えっ?」

 

 

 

 虚ろだった士郎の目が見開かれる。

 それはまるで、化けの皮が剥がれたかのようだった。

 

正義の味方に

約束だから

助けなくちゃいけない

救わなきゃいけない

他者の為に

誰かの為に

救えなかったのだから

託されたのに、死なせてしまったのだから

救わなければ

助けなければ

正義の味方に

正義の味方に

「─────どうやって?

 

 ギョロリ、と。

 蛇に睨み付けられた様な錯覚に陥る。

 無論、錯覚だ。

 士郎は元々の対魔力の低さも相俟って、眼球さえも簡単に動かせるはずがないのだから。

 だけど。

 

正義の味方は、どうやったらなれるんだ?

 

 未だに暗示の術中にも関わらず、彼の問い掛けは桜を絶句させるには十二分過ぎた。

 

 確かに桜も巨悪と対面する経験はある。

 間桐臓硯は十分に人に仇なす妖怪である。

 その恐ろしさを、桜は身を以て知っていた。

 だが、これはなんだ? 

 

「っ──────」

 

 比較するのが悪かったのだろう。

 なまじ彼女が救われたことも要因の一つやもしれない。

 だが既に救われた五百年の妄執の被害者と、人類悪の獣の被害者では何もかもが違ったのだ。

 桜はすでに、救われているのだから。

 

 浅慮と最愛の兄の言い付けを護れなかったこと、そして他人の底を覗き見てしまったことへの後悔が、弾かれる様に桜を駆け出させた。

 

「……あれ、何で俺……?」

 

 暗示が解かれた士郎が、周囲を見渡す。

 そこは夕焼けの学校の廊下が広がっていた。

 

「───おい、何やってんの衛宮。さっさと帰るぞ」

 

 いつの間にか現れた慎二が、煩わしそうに士郎の背中に声を掛けた。

 瞬間、混濁した士郎の意識がハッキリとする。

 

「えっ? わ、悪い慎二。その、……今誰か居なかったか?」

「……お前だけだよ」

 

 帰り支度を済ませた慎二は、士郎の質問に素っ気なく答える。

 少女の姿は、何処にも無い。

 

 振り返ってみれば、衛宮士郎との関わりなど最初から桜だけで完結していたのだ。

 

 だからきっと。

 自分の食べていた弁当を、彼が作っていた事を後から知って。

 そして彼が怪我をした事で家事全般を教わろうとしながら、片手を使えない間手伝っていたのは──償いたかったのかもしれない。

 

 利己によって他人の傷口を開き、覗いてしまった事への、精一杯の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮邸での最高純度の光属性たる藤村大河。

 放っておけなさ等でも目を離せず、しかし最大の清涼剤となっていた衛宮士郎。

 彼等との交流は、慎二の心を少しずつ癒していった。

 それこそ、思わず笑みを溢すほどに。

 

 しかし桜は、それさえも()()()()()()()()()()()()()でしかないのではないか─────と。

 そんな思いが脳裏から離れない。

 

 だが桜は、一体何が慎二を悩ませ、苦しませているのかまるで分からなかった。

 

 魔術が使えないための劣等感? 

 他の魔術師による襲撃への恐怖? 

 それは、桜が間桐家に養子になって8年が過ぎても、まるで分からなかった。

 

「────痛っ」

 

 彼女達の生活が一変したのは、桜とカレンが高校に入学してから暫く経ってからだ。

 小さい痛みと共に、それは彼女の手に現れていた。

 

「これ、は……」

 

 花のような赤い文様が、痣のように手の甲に浮かび上がったソレを、桜は知っていた。

 聖杯からマスターに与えられる、自らのサーヴァントに対する3つの絶対命令権。英霊の座から英霊を招くにあたり、聖杯を求め現界するサーヴァントが、交換条件として背負わされるもの。

 その一画一画が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶であり、マスターの魔術回路と接続されることで命令権として機能する。200年続く血塗られた儀式の参戦権。

 

「令呪─────」

 

 聖杯戦争。

 七人の魔術師が、霊長最強の守護者たる英霊を使い魔(サーヴァント)として召喚し、万能の願望器たる聖杯を求め殺し合う魔術儀式。

 

 それについては、ある程度魔術を扱えるようになってから兄から教わっている。

 

 遠坂、アインツベルン、そしてマキリ───即ち間桐。

 聖杯戦争は始まりの御三家と呼ばれる三つの魔術師達が作り上げた儀式であり、桜はその内遠坂の生まれで、今は形としては同じ御三家の間桐に養子として存在している。

 

『間桐は500年前に全盛を迎え、ボクの代で完全に衰退した。

 遠坂時臣にしてみれば、臓硯が後継者欲しさに桜を養子として要求したのだと思ったんだろうな。

 桜、お前の特異な才能を自身では育てきれなかったと想定すれば、正しく棚から牡丹餅だったろうよ。

 聖杯戦争の存続は時臣の望む処ではあった筈だし、見事踊らされた訳だ。

 まぁ、他家の魔術師の魔術を調べるのは基本宣戦布告と同義。間桐の腐り具合を知る術は────いや、あるにはあったか。

 まあそれはいい。兎も角、これは60年周期が必要なもので、僕達が当事者になることは無いさ』

 

 最期の言葉はまるで、高望みをするなと自分に言い聞かせるような言い方であった。

 

 聖杯戦争を起こすために、舞台装置である大聖杯が60年掛けて地脈から魔力を溜め込む必要があるからだ。

 だというのにも拘らず、何故マスターの証である令呪が発現する──────? 

 無論、その事は即座に慎二に報告をした。

 焦燥の中に、また一つ慎二の中で自身の役割の比重が増える事に喜びを隠しながら。

 だが。

 

 

 

「─────あぁ、やっと来てくれたか」

 

 

 

 報告をした際、兄は初めて桜にその表情を見せた。

 桜を助けてから今までついぞ見せなかった、安堵の顔。

 心底ホッとした様な、心の奥底に常にあった悩み事が解消した様な、うっかり見せてしまったような表情を。

 

 歓喜が桜の胸を満たす。

 実ってすらいないというのに、秘かに育み続けた恋が花開いたと錯覚するほどに。

 ずっと見たかった、望みが叶った。

 これ以上ないほど、自身が慎二にとって必要不可欠な存在であるという確信を得られた事が嬉しかった。

 

 そう、嬉しい。

 嬉しいのに。

 だというのに、何故頭の隅で不安が覗くのか。

 

 ───覚えがある。

 その、儚ささえ覚える澄みきった笑顔に。

 老獪な怪物に翻弄され、結果として何一つ成し遂げることが出来なかった、自身を助けると言った男の人の顔を。

 そう、あの人の名前は何だったか───────

 

 どうして、兄はもう一度笑ってくれないのか。

 桜がサーヴァントを召喚する理由は、慎二だけだった。

 

 

「────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 そこは間桐の魔術工房であり、かつて桜がなぶられ続けた忌避すべき場所であり。

 そして代々間桐が聖杯戦争にてサーヴァントを召喚してきた儀式場でもある。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 女性としての魅力あふれる唇から、その詠唱は紡がれる。

 その肌からは疲弊と負担から汗が。

 瞳は絶対に成功させるという意思が。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 サーヴァントとは、人類史に於ける英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、マスターである魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したもの。

 聖杯の魔力無しでは、凡百の魔術師ならば一生掛けても出来るか判らない大儀式である。

 尤も、完全な英霊を召喚するのは、いくら聖杯と言えど不可能であった。

 が、あらかじめ聖杯が用意した『七つの筐』に最高純度の魂を転写、収める事によりサーヴァントとして現界させている。

 

 そんな英霊召喚は本来、召喚の為の縁、触媒としての聖遺物が不可欠である。

 捧げられる聖遺物、これがなければ土地、召喚そのものが触媒になるだろうが、召喚そのものが失敗してしまう可能性もあった。

 

「────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 そして聖杯戦争はサーヴァントによる魔術師達の殺し合い。

 より強力な英霊との縁が深い触媒が求められるが───間桐が今回選んだのは、これといって誰かとの縁が強いとは言えない聖遺物だった。

 無論、複数の選択肢がある場合でもその中から性質の似た者が、また同一英霊でも比較的性質の似た側面が選ばれて召喚される。

 

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 エルトリアの神殿から発掘された鏡。

 それは前回の聖杯戦争において使われなかった、臓硯が用意していた聖遺物であった。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──―! 」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 疲労に満ちた身体が崩れ落ちる直前、誰かに支えられた。

 それが最愛の兄だと判り、苦悶の表情は安堵に変わる。

 

 煙と魔力の残滓から発生する、小さな火花が散っていく。

 だが、視界を覆う煙は直ぐ様晴れ、召喚陣の上に人影が映る。

 その先に、バイザーで顔を覆いながらも、その絶世と表現すべき美貌は人のソレを遥かに凌駕していた。

 豊満で芸術品のような肢体を、黒を基調としたボディコン服を纏い、地面に届くほどの綺麗な長髪の美女がいた。

 魔術師として、本来並外れた魔力を保有する桜自身のソレとさえ比べ物にならない程の、莫大な魔力そのもの。

 紛れもない英霊、間違いなくサーヴァント。

 

 だが、ソレを確認した桜の意識は、傍らにいる兄に向けられた。

 その仕草は、褒められたがっている子供のようで───

 

「成功だ。よくやった桜」

「─────あぁ、よかった」

 

 その言葉で、桜は多幸感で満たされる。

 彼女にとって兄の役に立つことは何より幸せであり、承認欲求を最も満たす事柄だ。

 それは英霊召喚で消耗した身体から、力を抜くには十分だった。

 

 意識が途切れながら、しかし脳裏に浮かぶのは妹の言葉。

 

『───────本当に愚かですね、義姉さんは……』

 

 そのことを話した際の義妹の反応に、何故あれほど憐憫が込められていたのか。

 桜は、まだ解らない。

 

 

 

 

 

 




桜視点。

今作の桜にとって士郎は、凛さえ超える嫉妬の対象である。
もし士郎が女だった場合慎二の計画が壊れるかもだったが、幸い野郎の友情を理解した彼女は慎二の交遊関係に以降口出しする事は無かった。 
それと、慎二と士郎の交友関係が小学校からなのは原作設定ではありません。
原作は中学からです。

ちなみに慎二が桜に魔術を教えられているのは、知識だけはあったから。
なので効率に関しては一長一短。見本を見せた方がいい魔術は上達は遅いが、少しのアドバイス、視点の切り替えの為の助言で十分効果が出るものは上達します。
それはロードエルメロイ二世の冒険を読めば判ってくれるのでは、と。
そして何より慎二は虚数魔術の使い手を知っていますので、教えるのは臓硯や時臣よりもずっと上手です。

勿論この時点では、慎二は変わらず魔術を使えません。
魔術は。

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