地雷は転生者複数。
沈む、沈む、沈む、沈む。
心に在るのは達成感。
役目を果たし、怨敵にも一泡吹かせることが出来た。
海は深い。
底に沈んだと思ったら、更に落ちていく感覚が続く。
いつまで私は沈んでいくのだろうか。
今や鉄塊と化した我が身では、何も知ることは叶わない。
暗い。
水底は日の光すら通さないほど深く、そしてあまりに暗い。
人は死んだら何処へ逝く?
それは正しく人知未踏の問いだ。
ならば道具は、兵器は?
簡単だ。
解体され、使える部品は使い回され、使えないものは廃棄処分。
道具故に、幾らでも替えは効くのだから。
しかし、祖国では九十九神、八百万の神という万物魂魄の信仰がある。
万物に魂、神が宿るという信仰だ。
また、千年存在した物品は、神へと昇華するという付喪神信仰も存在する。
ならば私にも、この無惨な残骸の私にも。
魂は宿るというのか。
心は在るというのだろうか。
答えは出ない。
確認など出来はしない。
況してや、鉄の塊に欲求など。
でも、せめてもう一度叶うなら。
あの、暁の水平線に────────
その願いに答えるように、届く筈の無い深淵に光が射した。
深海の底に沈んだ筈が、突如発生した激流によって、身体が流される。
私の身体が浜辺の様な場所に打ち上げられたのは、その直後だった。
身体が重い。
倦怠感と疲労感に包まれている。
そこで漸く、自身の異変に気が付いた。
鋼鉄の我が身に、疲れだと?
その問いに至った直後、ジャリッ、と砂浜を歩く足音が彼女の耳に届く。
そんな人間の様なモノ、自分に有りはしないのに────
「────────────おや? こんなところに黒髪巨乳美女が、って……アイエエエエ!? ナガト!? ナガトナンデ!!!?」
意識というものをその瞬間初めて知覚した私は、その少年の様な声色の絶叫が響く前に失った。
一話 黒王
時は大海賊時代。
大海原にロマンと冒険を求めて、益荒男達が海を駆け抜ける。
そんな謳い文句が存在するこの時代に於いて、その通りの義侠心溢れる存在は全体の割合から見れば余りに極少数である。
海賊とは、海の略奪者。
人々から奪って奪って奪い尽くす賊徒共。
いくら冒険やロマンを謳おうとも、その事実は変わりはしない。
世界政府直轄の海軍は、そんな犯罪者共の存在から人々を護っているという安心を与える、民の味方である。
そしてその海軍の本部、マリージョアで将校達は集まっていた。
その中でも際立った存在感を醸し出しているのは二人の老兵。
海軍本部最高責任者にして元帥である、仏のセンゴク。
もう一人は、大海賊時代が訪れる切っ掛けを作った海賊の頂点『海賊王』ゴール・ド・ロジャーに、唯一渡り合った存在。
海軍中将『英雄』ガープ。
そんな王の存在した時代を駆け抜けた歴戦の勇者である二人は、良く口論を重ねる事がある。
大概はガープが問題を起こすのが原因なのだが、今回も例によってガープが問題を起こしていた。
端的に述べると、全くの部外者を連れてきていたのだ。
「ガープ貴様!
「ガハハハハ! 良いじゃろう? ワシの孫娘なら、ゆくゆくは海兵に成るんじゃ! なら何の問題もあるまい!!」
「あ、私記者に成りたいから海兵はちょっと。本出したいです!」
「ガァァああああああプゥゥウウウウッ !!!」
海軍の中でも中将を含めたそれ以上の将校以外が参加することの許されないこの会議において、唯一の部外者。
少女の名はモンキー・D・セレナ。
英雄ガープの孫娘にして、世界的犯罪者『革命家』ドラゴンの娘。
そして上記の肩書きを持つ、前世の記憶を保有する転生者でもある。
前世の記憶を保有するが故に、幼い外見に不釣り合いな淡々とした口調で祖父の問い掛けに答える。
「のうセレナや、何で海兵になりたくないんじゃ?」
「だって爺様、唯でさえ父が最悪な現状で、兄が海賊を志しているのですよ? もし兄が問題を起こせば責任を取らされ首切りに、なんて事もあり得ます。私イヤですよ、身内のツケを払わされるの」
「ぬぅ……」
この世界に転生して己の周囲を知った彼女の心境は、絶望半分ワクワク半分である。
革命軍のリーダーという父と、海賊に憧れる兄。
何より人が容易く死んでしまうこの世界観に絶望した。
これが絶望。
彼女がまず考えた事は、強くなることである。
強さが無ければ何も出来ないのは、あまりに有名な原作を彼女知るが故に明白だった。
それ以上に、この美しい世界を見て歩きたかったのだ。
これがワクワク。
今後の指針として、海賊は勿論海軍に入るのも嫌だった。
成る程、世界を渡り歩くにあたって、航海に必要なモノは沢山ある。海軍に入ればそれら全てが殆ど解決するだろう。
しかし、彼等は悪を討つ民衆の味方だがその上層部である世界政府はその限りではない。
原作に於いてその権威を護るために島の一つを地図から消し去り、生き残りの少女を生き地獄に叩き落とす。
他にも、世界政府公認の海賊である七武海が原因で起こった問題を、海賊が解決したはずの手柄を海軍の手柄にしたり。
重犯罪者が大量に脱獄したのを、世間には一切報道しなかった事もある。
「何より天竜人が致命的にアウトです。アレのお守りなど御免被ります!!」
今の、世界の大多数の国家が加盟する世界政府を設立した一族の末裔────世界貴族、天竜人。
その正体は権力に任せ、自分達以外の人をモノのように扱う外道共。長年の内に伝承・根拠が歪んで権力が暴走し、人を人とも思わないような「教育」により、世界中の全ての地域において殺傷行為や奴隷所有等の傍若無人の限りを尽くす極悪非道を当たり前のように行う悪人。自分達こそが至高の集団であると唱えられ続けた環境が生み出した怪物といえる存在。
海軍に入れば、必ず彼等を護衛する任務が与えられるだろう。
例え目の前で何の罪もない人が、戯れに殺される場面を目の辺りにしても何も出来ない。
偏に世界政府の走狗たる海軍ではなおのこと。
「ほぉ、よく知っとるのぉ。じゃが安心せい、ソレは少し前の話じゃ」
「……………………へっ?」
嫌悪と侮蔑の入り雑じった感情を隠そうともしないセレナを、ガープは感心した声色で諭した。
「────────今の天竜人は、マリージョアの最深部に建造されたシェルターの中で暮らしている。海の外はおろか、シェルターの外にすら出ようとはせんよ」
この事には、流石のセレナも絶句した。
「天竜人にとって、『黒王』はトラウマじゃからのぅ。奴等の居る海に足を踏み入れるのすら恐ろしいのじゃろう」
「黒王……?」
そんなもの、聞いたことがない。
何より、彼女の知識の中にはそんな、世界貴族を怯ませる程の存在は知らない。
「それってつまり、マリージョアが墜ちた……!?」
「世間には公開しとらんがな。あ、これ言ったらイカンヤツだったか? まぁワシの孫じゃ! 大丈夫じゃろ!!」
「㊙ネタとしてメモらせて貰いますね!」
「ガァァァァプゥウウウウッッ!!!」
再びセンゴクの怒号が響くが、相も変わらずガープは馬耳東風。
だが、セレナの頭の中は件の王者で一杯だった。
「黒王…………」
◆◆◆
海軍本部の訓練場で、爆音と轟音が響く。
片方はセレナ。
六式で高速移動をしながらも、肩で呼吸をするなど押されているのが目に見えて理解できる。
『六式』とは身体能力を極限まで鍛えることによって習得できる、称通り6つの技で構成される超人的な体技である。
彼女は十歳半ばの年で六式を幾つかマスターしていた。
その時点で彼女の潜在能力の高さは瞭然だろう。
セレナは大きく上空へ跳躍、なんとそのまま滞空しながら人間に在らざる鴉の如き黒い翼を広げた。
「ハッ!」
セレナの声と共に暴風が走り、地面が圧力により凹む。圧縮した空気の壁が地面に叩き付けられたからだ。
しかしその結果は失敗。
命中させるべき、拉げる筈の相手は直ぐ様回避していた。
それを避けた相対者が攻撃を放つ。
飛来するかまいたち────即ち六式体技の一つ、『嵐脚』である。
しかし鎌鼬に見えてそれは、斬撃と錯覚するほどの極薄に加工された鋭利な衝撃波。
所詮空気の波でしかないソレは、大気を掌握している彼女にとっては時間稼ぎにしかならない。
『トリトリの実、モデル鴉天狗』の能力者。
ゾオン系幻想種であるそれが、セレナのもう一つの肩書きである。
彼女はその飛行能力に加え、知覚内の大気を神通力によって自在に操ることが出来る。
風という普遍的な物体を操る為、他の悪魔の実と比べ桁違いの操作領域を持つ能力だが────
しかし相手は、その能力を悉く貫いてくる。
虫が混じった異形の様な男は、セレナの作り出す風を覇気の込められた手甲の様な毒針と拳を以て突破していく。
当たり前の様に拳圧を飛ばしてくる相手に、風の防御など薄氷に等しかった。
減圧や真空精製などの精密な大気の操作について、未熟な彼女にはまだ出来ずにいる。
大技も、予備動作が大き過ぎるために隙を生じてしまう。
一撃必殺の空手の有段者である相対者には悪手極まり、セレナにとって死路でしかない。
単純な最高速ならばトリトリの実の能力に於いて最速を誇る彼女だが、やはり根本的な自力が違うのか。
男は最終的に六式体技の空中歩行『月歩』と高速移動『剃』の複合技『剃刀』により、上空にいるセレナの懐に潜り込み風を振るう前に毒針を突き付け、その相対は幕を下ろした。
「────黒王について?」
「はい、お願いしますコマチ艦長」
「いや、俺コマチはコマチだけど、艦長じゃないから。漢字読みだと駒地だから」
会議が終わり、セレナが模擬戦をと真っ先に向かった先は、最近知り合った同類の元だった。
屈強な体格と逆立てた黒髪に、顎鬚と薄い口髭に大柄にも関わらず優しそうな表情から、気の良いオジサン、というイメージを与える。
「いやいや、あんな悪魔の実食べて、そんな顔してて空手使える時点で艦長でしょう」
「俺その漫画読んだこと無いんだけど、そんなに似てる?」
コマチ中将。
ムシムシの実、モデル『大雀蜂』を得た猛将だ。
同時に、セレナと同じ転生者でもある。
ガープによってマリージョアに頻繁に連れてこられるセレナが、そのあからさま過ぎる外見を見逃す訳がなかった。
その後いくつかの会合を経て、転生者であることを認識。
以降同類であることを良いことに何かと頼っているのである。
コマチ本人にしてみても、どう考えても子供にしか見えない少女が頼りにしてくるのは、大人として悪い気分ではなかった。
何より、叩けば伸びる成長性に爽快感すら覚えていた。
「黒王とは何者ですか? 原作にそんな存在は居ない筈です」
「何者ねぇ……俺は当時グランドライン以外の海の査察してたから、直接あったことは無いんだがなぁ」
コマチは顎鬚を擦りながら、海軍の保有する黒王の情報を言い始めた。
────曰く、圧政者の死神。
黒王が訪れた直後に反乱によって、当時国民を弾圧し圧政を強いていた国家の王が悉く死亡している為。
────曰く、弱者に対する救済者。
貧困や病魔に喘いでいた国、民に対して奇跡の様に食糧をもたらし、病人を悉く完治させた為。
────曰く、万軍を率いる覇王。
敵対者に対し容赦が無く、見渡す限り海を埋め尽くさんばかりの艦隊を有している為。
肩書きだけでも大層なモノばかり。
それもその筈、マリージョアを落とせることは即ち、あらゆる国家を超える戦力を有しているに他ならない。
そして黒王の関連すること言えば、宗教である。
「宗教って……」
「何でも助けられた民衆が勝手に創ったらしいよ? 基本的にはボランティア活動程度の、成り立ち的には仏教に近いか?」
仏教は他の三大宗教と違い、開祖である釈迦が宗教、伝説、戒律や神話などを形成したのではない。
釈迦が口にした教えを弟子達が経として記録し、そこから戒律を作り上げたにすぎない。
「世界政府の多くの加盟国の国王まで信者なのがまた面倒でな」
「宗教とか嫌な予感しかしない」
「……それでも、革命軍ほど危険視されていた訳じゃなかった。今でこそ黒王なんて大層な名がついてるけど、当時は海賊ですら無かったからな。まぁ一応億超えの賞金首をホイホイ捕まえてたから、当時は非常に有能な賞金稼ぎ程度の認識だった」
切っ掛けは天竜人が起こしたある事件だった。
何の事はない。
何時ものように天竜人が理不尽に人を虐げていた。
目の前を通っただけの子供を撃ち殺そうとしたのだ。
「その子供を、黒王が庇ったらしいんだよ」
「おや?」
「まぁ案の定、ソレが気に入らなかった天竜人が黒王も撃ったんだけど…………」
黒王自身が死ぬことは無かった。
例え銃弾を撃ち込まれようとも、死なない理由があった。
しかし当時の黒王は、実はそこまで戦闘力が高いわけではなかった。
恐らく今は完璧に使い熟しているであろう六式の一つ、身体を鋼鉄のように鋼化させる体技────『鉄塊』すら身に付けていなかったのだ。
「問題は彼の戦乙女────黒王の仲間というか、部下が怒り狂ってその場で天竜人をミンチにしたんだよ」
「……は?」
問題は、黒王の周囲にあった。
黒王を信仰レベルで慕っていた彼の走狗が、直ぐ様行動に移した。
黒王を撃った天竜人は即座に、まるで巨大な大砲をゼロ距離で受けた様に木っ端微塵………挽肉と化した。
更にそれに激昂した他の天竜人が銃を向けながら殺すよう海兵に命令した瞬間に、それが敵性判断と言わんばかりに他の天竜人も無惨な死体を晒した。
護衛をしていた海兵を誰ひとり殺さず気を失わせるという配慮を見せながら、だ。
「で、でも。それじゃあ海軍大将が動くんじゃ」
「ああ、問題は其処からだ。連中はその海軍大将────確かサカズキ大将だったか。あの人を返り討ちにして、更に大艦隊で聖地マリージョアまで侵攻。包囲して爆撃を降らせたんだよ」
「えぇッ!?」
何分赤犬が負傷して居らず、また青雉が独自任務で不在であった為、最高戦力である海軍大将は黄猿だけであり、他は元帥であるセンゴクだけ。
そして黒王の軍勢の目的は海軍の打倒でも世界政府の排除でも無く、天竜人への報復だけだった。
唯でさえ大将すら下す戦力が、大将達と戦おうとせずにマリージョアの市街地────即ち天竜人の住む居住地のみを爆撃し続ける。
「連中の、黒王の従える軍事力は異常だ。大将を返り討ちにする単体戦力に、マリージョアへ爆撃を行えるこの世界ではあり得ない航空戦力。そして何より、連中の倒した黒王の部下は
「生き返る……?」
航空戦力も気になるが、そのワードはセレナの好奇心を惹き付けた。
海軍の調べによれば、黒王に従う者達────女性達は
「ヒトヒトの実────モデル
人の死体を戦死者に昇華させ、軍隊として使役する禁忌の能力。
かつてその実を食べた女王は、生涯不敗の神話を築いたという。
戦場で兵を失おうが、その能力さえあれば相手の兵士すら己のモノとする悪魔的な力だと恐れられている。
ロギア系最悪がヤミヤミの実だとすれば、ゾオン系最悪と言われている悪魔の実がそれだ。
いくら海軍とて、海兵は有限。
しかし相手は無尽蔵に等しい戦力を有している。
「唯一の救いは、戦乙女の主である黒王が極めて温厚的であるって事だな」
「黒王……良く良く考えてみれば、何者なんですかね」
「何者なのか、か。取り敢えず俺達と同じ、同類なのは確かだろ?」
原作に存在しない黒王は、戦乙女は間違いなく転生者、或いはトリッパーだろう。
だが問題は出自ではなく思想。
世界のパワーバランスを一変させてしまう程の戦力を、一体何に使うのか。
「案外、神様だったりしたり」
「北欧神話繋がり? そりゃ戦乙女を従えるのは神だろうけど……安直だねぇ。でもオジサンそんな悪魔の実知らないなぁ」
「カミカミの実……舌を痛めそうですね」
「というかそれたぶん紙だね。用紙人間だよソレ」
◆◆◆
「────────ぶぇっくしッッッ!」
────風邪ですか?
「んにゃ。俺は風邪引かないから、たぶん誰かが噂してるとかそんなんよ」
グランドラインのカームベルトの最深部。
この時代のおおよその船が辿り着くことの出来ない孤島で、着流しを着た少年がくしゃみををやらかしつつ、一人釣竿を傾けていた。
しかし彼は一人であることを強く否定する。
何故なら彼の隣には三頭身の奇妙な少女が、簡易の三角椅子に座っているからだ。
「処で妖精さんや。よくよく考えてみれば、カームベルトって海王類の巣じゃね?」
────かもしれませんね。
『妖精さん』と呼ばれた三頭身は、正座の状態を保ちつつ少年の釣りに付き合っている。
彼等は各々が恩人と認識しており、しかし妖精と呼ばれた三頭身が私用で何かを頼むということが極めて稀である。
故に片方の少年が妖精を私用で付き合わせるという状況が多い。
そんな二人に近付く影が現れる。
「此方に居られましたか、提督」
「おお長門。どしたい、何かあったか?」
黒い長髪に服の上からでも分かる大きな胸。
袖の無い着物に腹部の装甲、そしてヘソ出しルックスでミニスカートにも拘わらず、いやらしさではなく凛々しさを溢れさせている。
「不知火と多摩、球磨の別動隊。天龍率いる第六駆逐遠征隊から連絡がありました。もうすぐ帰還するとのことです」
「おぉ、ご苦労さまだ。後で出迎えなきゃなぁ。後鳳翔さん達に御馳走を作って貰うよう手配してあげて」
「了解しました」
提督と呼ばれた少年は、この主従の様な関係も当初は慣れなかったなぁ、と嘗ての時間を思い出す。
嘗てはここまで大所帯では無かったし、何より海から出れないと思い込んでいたので完全に無人島生活をしていたのだから。
「おっ、きたきたきた────!」
そんな時、釣竿が大きく揺らぎ強く引っ張られる感触に当たりと確信する。
「ソラァ!」
長門と出会った時の非力さが嘘のように、その腕力は容易く獲物を引き上げる。
その成長振りは、虚覚えの自分に比べて笑ってしまう程力強く。
「……は?」
それこそ、50メートル強の海王類を釣り上げてしまうほどに。
引き揚げられた海王類は、その大き過ぎる顎を持って自身を釣り上げた怨敵に喰らい付こうとする。
「────提督に対して不敬が過ぎるぞ、魚類」
そんな海王類の驕りを、側に仕えていた長門によって粉砕する。
突如、長門の背後に出現した砲台は、弾薬など不要と空砲の衝撃波を覇気で指向性を与え海王類に叩き込んだのだ。
結果、海王類は爆発四散。
塵と化した。
その様を見て少年は、某月の姫の決め台詞が頭を過った。
────────肉片一つ残さないんだからー。
「おいやめろ」
圧倒。
その砲撃もさることながら一番頭がおかしいのが、彼女は殴り合いの方が強い、というのである。
その実力は海軍最高戦力の三大将の一角、『赤犬』サカズキ大将を正面から下すほど。
何より海軍が頭を抱えているのは、彼女と同格が二人居るという点。
しかも三人とも各々がそれぞれの特化能力を持っている。
長門は白兵戦力。加賀は航空制圧力。
そして大和は圧倒的火力と耐久力というスペックだけなら黒王軍最強。
尤も、表の黒王軍に於いては、という前置きが必要なのだが────────。
「提督、お怪我は?」
「……お、おう。大丈夫やで」
主従関係は慣れたが、この突然の破壊行動は未だに少年は慣れていなかった。
行動そのものはその全てが自分の為を想って、または自分を護るためだと理解しつつも過保護が過ぎると考えてしまう。
そもそも彼は死ににくい為、嘗ては危機感が足りず彼女達に要らない心配を掛けてしまったのが原因だ。
なのでとやかく言う事は無いが、流石に胆が凍結してしまう。
背中に浮かぶ冷や汗を無視し、兎に角話題をと話を変える。
「遠征に出た子達を出迎えに行きたいんだが、何時ぐらいだ?」
「本日の1130に帰還予定です」
彼女────長門だけではない。
少年の周囲には、見目麗しい美女美少女が存在している。
何というリア充。
少年は妖精さんとの嘗ての無人島生活を懐かしむ。
「しかし、此処も賑やかになったなぁ。昔は長門だけだったのに」
「全ては提督の御力のお蔭です。妄執と後悔に囚われた同胞をお救い頂けたこそ、今の我らが居るのです」
「そんな大層な。それにそのままの方が良いって子も居るぞ? レ級やらヲ級やら姫や鬼とか」
全くもって分を越えた幸せだ。
自分に出来ることなど、傷を治して食糧を増やす程度だというのに。
そんな過小評価極まりない自己評価をしている騒乱の中心にいる、ここ数年歳を取っていない彼────黒王と名前を誤認されている少年、コクトーは。
『此方不知火、報告します。多摩、球磨、龍田と共に提督を利用しようと画策した下郎────バロックワークスでしたか、ソレの支部の殲滅完了です。尤も、首領の情報は知らないようでしたが』
『そうか……良くやった。いつも通り、提督に知られずに帰還せよ』
『了解』
今、何も知らずに生きている。
黒王
記憶喪失のトリッパーで、本当の名前はコクトー。
食べた悪魔の実は『ヒトヒトの実モデル
奇跡は水上歩行とモーゼの十戒、悪魔の実のデメリットを消すことのできる退魔。
カリスマA+(後付け)と覇王色の覇気(後付け)以外の直接的な戦闘能力は、せいぜいCP9のルッチ程度。
外出時は顔を隠すため、擦り切れたローブを着ている。
長門
戦艦長門の残骸が悪魔の実を食べた人間戦艦。
能力は『ヒトヒトの実モデル
黒王軍の元凶。沈んだ船の魂を引き上げ、受肉させ深海棲艦を大量生産→その姿を嫌った者をコクトーが浄化→艦娘化のコンボで大艦隊を創り上げた。
人間で無い為人間の戦死者化が出来ない代わりに沈没船の深海棲艦化が可能。
戦闘能力は肉弾戦で赤犬をボコれるレベル。馬力が違うから仕方無いね。
妖精さん
コクトーが流れ着いた無人島、後に『鎮守府「黒島」』と名付けられた悪魔の実を食べた島から発生した存在。
能力は『バケバケの実・モデル
モンキー・D・セレナ
ルフィの義妹でガープに拾われた転生者。
能力は『トリトリの実モデル鴉天狗』。
外見イメージは『東方プロジェクト』の射命丸文。
コマチ
海軍中将のトリッパーで此方で嫁さん貰った既婚者。
外見イメージは『テラフォーマー』の小町小吉。
能力はハチハチの実モデル『大雀蜂』。
オカムーさん蒼鋼涼さん銃陀ー爐武さん、修正点を指摘して頂き感謝!