神はみんな死んだ。さあ、超人万歳、と言おうではないか
フリードリヒ・ニーチェ
────駒王学園。
数年前まで女子高だったが、社会の煽りを受け共学化した、駒王町にある学園。
その駒王学園の生徒会室に、本来生徒会に所属していない生徒が三人、大量の汗を流しながら与えられた椅子に座っている者達がいた。
彼等は罪人であり、刑罰を待つ虜囚である。
そして彼等にとっての裁判官である教師達の下した罰を下す処刑人、生徒会長が刑罰を言い渡す。
「────停学ですね」
「ゴフッ!!」
単刀直入で。
艶のある綺麗な黒の短髪に眼鏡を掛け、厳格さを全身から表現している生徒会長、支取蒼那は後ろに大半が美少女な女生徒で構成される生徒会に置きながら、彼等────松田、元浜、そして兵藤一誠の罪を口にする。
「覗きを現行犯で四回、不適切物の学校への大量持ち込み。更に恐喝とも取れる発言を女生徒へ幾度も行ったという証言もあります────異議はありませんね?」
「……」
ぐうの音もでない。
彼等は駒王学園に於いて変態三人組と呼ばれ忌み嫌われる男達だった。
元より現行犯。
言い訳などしようがない。
「これは本来、生徒達の要望の通り退学にされてもおかしくない事です。恐喝は兎も角、特に覗きは警察沙汰ですから。ですが停学中の貴方達の反省によっては、という先生方からの恩情であることを忘れないでください」
「「「はい……」」」
「私自身も、貴方達が停学中で反省し態度を改めてくれればと思っています。何か、言い残すことは?」
「────」
彼等は性欲の権化と表現して相違ない人間だ。
それは度重なる覗きや入学理由の『モテたい』から今に至る言動が示している。
しかし、しかしだ。
彼等は胸を張って言えることがある。
「女体は────
「ロリ最高ッ」
「おっぱい!!」
『────』
駄目だコイツら…早くなんとかしないと…。
生徒会の意見は一致した。
停学という明らかに親にまで連絡が行く事態に、帰宅するためトボトボと消沈しながら校門へ三人は向かう。
「何故だ」
「何が」
「何故俺達はモテない」
駒王学園に三人が入学したのは、共学化したとはいえ男女比が圧倒的に女生徒よりだったことだったが、二年生になった直後この状況だ。
三人が周囲を見渡せば、嫌悪感溢れる女生徒の侮蔑の視線。
普段ならばセクハラ以外何物でもない叫びで散らすことが出来るのだが、これ以上自分達の立場を悪くすることは出来ない。
唯でさえ、極めてどうしようもなく下らない理由での停学だ。
全てを知った両親の反応が怖かった。
一体何が悪いのか。
「いや、完全に自業自得だろうに」
そんな三人に飽きれ声を掛けたのは、彼等にとって対極の存在だった。
ルビーの様な美しい赤い髪に、絶世の美少年と形容できる容姿を持つ『駒王学園の二大イケメン』と名高い最上級生。
暮森陸人。
「─────暮森先輩」
「─────パイセン」
「─────ぱいぱい」
「やめろ、精神患者みたいでおぞましいぞお前ら」
その三歩後ろに控えている女生徒の名前は姫島朱乃。
『駒王学園の二大お姉さま』と称され、黒髪ポニーテールに和風清楚な佇まいで落ち着いた性格。日本人離れの優れたスタイルという完璧さから、男女問わず人気を得ている。
特に朱乃の乳房は爆乳のソレ。
三人が鼻の下を伸ばしながら釘付けになる直前、暮森が自分の身体で視界を遮る。
そんな彼女を侍女の如く連れている暮森は、まさしくリア充を体現していた。
「っと」
「ぬ!? おのれ見えぬ……」
「イケメン死すべし……」
「爆発四散……」
「はっはっはっ、停学御愁傷様だ」
煽りに来ていた。
「全く……お前達も言動さえ直せば、充分モテる筈だぞ?」
「うるせぇ! リア充に俺達非モテ男子の何が解る!」
「美少女侍らせて羨ましけしからん!」
「是非とも代わってください!」
本音しかない僻みだが、それでも彼等の魂の雄叫びだった。
「お前ら祐斗を見倣え。アレは正に、心身共にイケメンと呼ぶに相応しいだろう?」
「イケメンを見倣ってどうする!」
「俺達がどれだけ努力しようともッ!」
「『ただしイケメンに限る』が付くんだよッ!!」
「でも兵藤は顔寧ろ良い方だろ? なぁ朱乃」
「えぇ、兵藤君の容姿は充分整っています」
「マジッスか!?」
暮森は兎も角、朱乃というまさしく美少女からのお墨付きとなれば喜ばないはずがない。
「裏切るか同士……!」
「妬ましい、妬ましいィ……ッ!」
「ギャー!? 来るなぁー!!」
尤も、そんな裏切りを見逃すほど、彼等は寛容ではないが。
幽鬼の様な元浜と松田に追われ、そのまま三人は校門で争い始めた。
「朱乃、お前あぁなるの解っていただろう」
「いえ」
クールビューティーというイメージがピッタリの彼女は、薄く微笑みながら、しかし直ぐ様表情を引き締まらせる。
社長秘書、という言葉が暮森の脳裏に浮かんだ。
「(うわソックリ)」
これが教育の賜物か、と自身のもう一人の姉のような、しかしソレ以上に複雑な関係である家族を彷彿とさせる佇まいに、思わず苦笑する。
「オイ! 兵藤!!」
「へ? どうしました?」
拘束されている兵藤が応える。首が締め上げられてる最中だったが、暮森の真剣な顔に二人も止まる。
「体の調子はどうだ? 虚脱感とか、何かが欠けてるみたいな感覚とかは無いか?」
「いえ、別に大丈夫です! 元気だけは取り柄ッスから!!」
「そうか……なら良い、続けてくれ」
「へ? いやお助けぇえええええええええッッ!!!?」
バキバキッ! と鳴ってはいけない音をBGMに、二人は各々が部長、副部長を勤める部活の部室に向かう。
「……懐かしいな」
「? 何がですか?」
「あぁ、悪い。何でもないよ」
ボソリ、と溢した暮森の呟きに、暮森自身にだけは聞こえた声に耳を傾ける。
『あぁ、懐かしい。酷く鮮明に思い出せるというのにな』
──────少年はあの日、真理を知った。
その少年は小学生ですらない程幼く、特別早熟な訳でも天才という訳でもない。
ならば家系が、家族は特別か?
否である。
両親共に平々凡々。極めて善良な一般人である。
いや、少年は少年にしか持ち得ない『特別』が眠っている。が、それは全く関係無い。
彼が真理を知る事が出来たのは、とある一人の求道者であり、真理の宣教者と出会ったからだ。
その宣教者もまたその真理を知ったが故に、少しでも多くの人間にその真理を知ってもらいたいと願ったにすぎない。
兎も角、少年はその宣教者にして求道者から真理を齎された。
しかし、少年は真理を知ったがゆえに、同時に『渇き』を知ってしまったのだ。
少年は真理を知り、そして真理の偶像を欲した。
少年にとってその真理は、最早崇拝し欲して止まないモノとなっていた。
あぁ、渇く。何故、何故だ。
至高の真理を、答えを得たというのに、何故自分は崇拝すべき偶像を持っていない。
仏教における観音像の様に。
キリスト教における十字架やマリア像の様に。
少年は自らの神の偶像が欲しかった。
しかし今の幼い少年では、その偶像を手に入れる事は困難を極めた。
あらゆる策を練ろうとも、それを実行し実現させる術を少年は持っていなかった。
最早麻薬だった。
少年は真理を求める為に誰よりも狡猾に、誰よりも情熱的に。悪鬼羅刹となってでもそれを損なわせるモノを滅ぼすだろう。
そして少年は、嘗ての純粋さを取り戻すことはできないだろう。
──────―渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇くッ!!!
この渇きを癒し、満たしたい。
「何か、探し物か?」
そして、それは現れた。
実はソレとは十年後少年は再会するのだが、生憎少年はそれを知ることはない。
何故なら、顔がボヤけて誰が誰だか分からないからだ。
現実にモザイク掛かってる奴の顔を覚えることなど出来はしない。
尤も、少年にはそんなことを不思議に思える程の余裕は無かった。
ソレが、少年が欲して止まないモノを手にしていたからだ。
「ッ! ソレはっ」
「君の欲しいものは、コレか?」
あぁ、欲しいッ! 何に変えてもソレが欲しいッ!!
魂の叫びとも言える慟哭に、しかし現実は簡単にはいかない。
何かを得るには、同等の対価が必要なのだ。
「正直、俺にとってコレはそれほど大切でも重要でもない。だが此方の都合上、契約という形が必須なんだ」
故に対価は、ソレが欲しいと思うモノ。
構わなかった。
少年にとって至高はソレであり、本来少年が持ちうるモノの中でそれを上回れるモノなど、真理に対する崇拝と渇望だけしかないのだから。
目の前のソレが欲しいものなど、そもそも自分にあるのかも分からない。
────―どうする?
コレは悪魔の囁きである。悪魔との契約である。
魂と引き換えに、どんな願いでも叶えてやろう。
少年にはそう聞こえた。
その対価とやらは、世界で唯一無二のモノかもしれない。そしてソレを奪われれば、将来後悔するかもしれない。
そもそも、こんな契約をする必要など何処にもないではないか。
時間と手間さえ掛ければ、容易く手に入るかもしれないのだから。
交渉の余地なく、答えは決まっている。
「欲しいぃぃぃぃッ!!!!!!」
「…………お、おう。契約成立な」
それでも、今すぐ欲しかったのだ。
「ま、まぁ良いか。兎も角これで契約は成った。まぁこんなもの、対価も大したことは────―!!?」
今まで感情らしい感情を読み取る事のできなったソレが、突然困惑と驚愕に狼狽する。
「何で……どうしてだッ…………!?」
「プリーズ! プリーズッ! プリィィズゥゥゥゥウッッ!!」
「っと、そうだな。これで『コレ』は永遠に君の物だ」
ぁあ、遂に。遂に掴み取ったぞッ!!!!
「────―ジャンボ巨乳大王ッッ!! ウッホたまんねぇっ! おっぱい!!!」
こうして少年────兵藤一誠は、生まれて初めてエロ本を手に入れた。
ソレは歩く。駒王の町を歩きながら、ソレは姿を現した。
エメラルド色の瞳に、幼いながらに人間離れした清純さと妖麗さを併せ持った美しい容姿。
そしてそれらを彩る真紅の髪が特徴の、一誠と殆ど年の変わらない少年だった。
「いやぁ……色々ツッコみたいことは山程有るんだが、もう記憶は観たか?」
『……あぁ』
紅髪の少年が語りかけたのは、一誠の中に眠っていた圧倒的な存在。
ウェールズの象徴であり、この世界で嘗て二番目に強い、神すら屠る天を冠する赤龍の王。
その龍が、口をパクパクさせて何かを言おうとし、躊躇ってはを繰り返している。
「……何か言いたいことがあれば聞くが?」
『────―感謝。圧倒的にッ! 感謝する……ッッ!!!』
天竜、赤龍帝ドライグ。
それが今神器という器の中で、『おっぱいドラゴン』という一つの未来が消え去ったことに、感謝の余り咽び哭いていた。
『……名を。お前の、今代の相棒の名を聞きたい』
一つの未来は可能性を閉じ、新しい紅の物語が幕を上げる。
「────サーゼクス。サーゼクス・グレモリーだ」
ハイスクールD×Dの兄妹反転or憑依物。
原作主人公が一般人化と、転生者複数、捏造設定などが地雷要素。