ランスが征く   作:アランドロン

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お待たせしました。


第五話 ランスの一日目

『ランス城 通路』

 

 ランスが目を覚ました次の日、寝過ぎで少し怠い体を動かす目的で城内をうろうろしていた。

(…ん~、少し頭が重いなぁ…)

 ランスはお決まりのいつもの緑の服を着て、ノロノロと城を散歩していた。

(結局、あの薬はなんだったんだろうか?)

 リアが帰った後、寝ている間の事情をシィルから聞いたランスは、変な薬を持ってきたあてな2号へのお仕置きをピグと共に今朝実施し、その後フラフラとしている。

 フラフラと歩き、城の曲がり角に差し掛かった時、考え事をしているランスに小さな子どもがぶつかった。

 

「きゃ!」

「おっと、」

 ランスがぶつかった対象に視線を落とす、そこには尻もちをついた小さな志津香がいた。

 

「……曲がり角でぶつかるとか、俺様との出会いを演出したいのか?」

 にやりと笑うランスの顔を見た志津香はむすっとした顔のまま、

 

「ぷち炎の矢」

 速攻でランスに攻撃した。

 

「うわっと!いきなり何をする!」

 ランスはすんでの所で体を捻り、飛んで来る炎を避ける。

 

「あんたが気持の悪いこと言うからでしょう?」

 志津香はふんっと鼻を鳴らし、ランスに睨み着けていた。

 

「あははは、志津香が既に超絶かっこいい俺様に惚れているのは知っているんだ、意地をはるな」

 ランスはニヤニヤと笑顔を浮かべながら手を差し出し、志津香を立たせてやる。

(はぁ…、ホント、こんな奴のどこがいいのかしら?)

 と親友のマリアのはにかむ顔を思い浮かべながらも自分の顔が少し熱くなるのを感じていた。

 

「む?どうした?図星で言葉もないか?」

 にやにやと笑うランスを無視する。

 認めたくはない、認めたくはないが自分がどこかランスを意識しているのを感じ、嫌悪感から溜息を吐きながらランスの横を通り過ぎる。

 

「かわいい奴め、あはははははー」

 と、ランスも再び歩き出すが志津香はそのランスの後ろ姿をちらりと見た。

(…ん?なんだろう、何か違和感が…)

 ランスの歩き去る姿をしかめ面で見つつ、まぁどうでもいいか、と自室で待つナギの処へ向かうことにした。

 

 

 

『ランスの部屋』

 

「あ、ランス様、」

 ランスが自室に戻るとシィルがベットの側の椅子に腰を下ろし、本を読んでいた。

 

「む、何を読んでいるのだ?エロ本か?」

 ランスはすたすたとベットに近づき腰をおろす。

 シィルは本を閉じるとランス向きに椅子を向きなおした。

 

「はい、これを読んでいました」

 と、ランスに今自分が読んでいた本の表紙を向ける。

 『猿でも実践!育児究極攻略!子供の成長まるわかり!』

(…育児書?)

 ランスはおもむろにその本をシィルから奪い取ると、無表情でベットの側のゴミ箱に投げ入れた。

 

「あ、あああ!」

 シィルは慌ててゴミ箱から本を抜き取った。

 

「お前に育児など関係ないだろう?」

「わ、私だって子どもができるかもしれないじゃないですか……」

 語尾がだんだん小さくなっていくシィルの様子を見ながらランスは心底、不思議そうな顔をでシィルを見た。

 

「はぁ?そうならんように避妊魔法を掛けさせているのだろうが」

「そ…、それはその、そうなんですが…」

 シュンと肩を落とし、うなだれるシィルを他所にランスは頭をかいた。

 

「そもそも、もうガキなどいらん、あっちこっちでポンポン生まれやがって、面倒だ」

「……そう、ですか…」

 ランスの言葉にシィルはズーンと効果音が出そうなくらい暗い顔をした。

 

「はぁ…、かなみさんがうらやましぃ…」

 聞こえるか聞こえないかの静かな声量で愚痴をこぼす。

(……なんだこいつ、ガキなんぞ欲しいのか?)

 ランスはへこんだシィルの顔をマジマジと見た後、シィルの頭にポンと手を置くと少し照れながら、

 

「はぁ…、まぁ、なんだ、考えてやらんこともないが…」

 ランスの言葉に反応したシィルが半信半疑の顔をあげる。

 

「…本当、ですか?」

 と、ランスを少し涙目に上目使いで見る。

「……、い、いつかな」

 シィルの上目づかいに少し顔が熱くなるのを感じたランスはプイっと窓の外の方に顔を向けた。

 外では親子だろうか、窓の縁に鳥が二匹戯れている。

 

「は、はい!ありがとう、ございます…………」

 ランス以上に真っ赤に顔を赤らめたシィルは顔を下に向け自分の靴を眺める。

 

「………」

「………」

 ランスはシィルの頭をゆっくり撫でていた。

 なんとも気恥ずかしい空気が流れているその部屋の外では。

 

 

「…甘酸っぱいですね」

「何アレ、……うらやましぃ」

「その、覗きは良くないと思うんだけど?」

 ランスの部屋の前で、覗きを行うクルックーとかなみ、そしてその二人を傍観しているアルカネーゼの姿があった。

 

「はぁ…、やっぱりランスはシィルちゃんがいいのかなぁ」

 かなみは少しドアから離れ、溜息を諦めの言葉と共に洩らした。

 

「どうでしょう?わかりません、が、他の女性より特別扱いなのは間違いないですね」

 ランスのカラー騒動から始まる経緯を知っているクルックーは、ランスがシィルのためならどんな危険も冒すという認識ができている。

 

「そう、だよねぇ…」

 かなみも同じことを知っている為、肩を落とす。

(私にはあそこまで本気にはなってくれないだろうなぁ…)

 

「でも兄貴だからなぁ…、誰か一人を恋人にするとは思えないんだけど…」

 苦笑しつつ頭を掻くアルカネーゼをクルックーは見つめる。

 

「そう、ですね、ランスに恋人が出来るとは思えませんが…」

「うわ、はっきり言っちゃったよ。」

「でも私より付き合いの長いかなみさんの方が情報が正確だと思います。かなみさんはあの二人の関係をどう見ますか?」

 クルックーは少し落ち込んでいるかなみに質問した。

 かなみは少し顎に手を当て考える。

 

「んー、シィルちゃんはランスに高確率で惚れているのは知ってるんだけど…、ランスの方は分りずらいのよね…」

「分りずらい?兄貴が?」

「うん…、当然一番付き合いが長いから他の女性よりシィルさんは特別何でしょうけど…、かといって恋人扱いしているのを見たことないし…」

「それはかなみさんが思う恋人像が二人に合致しないだけではないですか?」

「……そんな事を言われると判断のしようがないんだけど…」

 かなみは暗に役に立たないと言われたように感じ、へこんだ。

 

「なんにせよ、シィルさんが兄貴に一番近いってのは最近良く分るけどさ」

「そうですね、一番の無理難題を押し付けられているのは間違いなくシィルさんです。」

「……私も結構無理難題押し付けられてんだけどなぁ…」

「……まぁ、分らないのなら本人に聞いて見るのが良さそうですね」

「本人って……、あ!」

 かなみとアルカネーゼが止める間もなくランスの部屋の扉を開け入っていった。

 

 

 

「ランス、こんにちは」

 突然ドアが開き、慌てたランスとシィルは咄嗟に距離を取った。

 

「な、クルックーか…」

 突然の来訪にはぁとため息を着くランス、シィルは先ほどまでの光景を見られては居たのではと顔を真っ赤にして俯いた。

 そのシィルを横目にちらりと見た後、クルックーはランスに質問をした。

 

「ランス、」

「なんだ?」

「シィルさんは恋人なのですか?」

「ぶふっ!!!!」

 突然の予期しないクルックーの質問にランスは盛大に吹いた。

 シィルはますます真っ赤になり、縮こまっていく。

 

「ゴホッ…、お、お前にはこいつが恋人に見えるってのか!?」

「まぁ、見方によっては見えますが」

 ランスはシィルを指さし、深く眉をよせ顔で否定をクルックーに訴える。

 

「チガウ!間違っているぞ、クルックー」

「はい?」

「こいつは俺の奴隷で、俺は奴隷に恋愛感情なぞ抱かんわ!」

「?そうなのですか?」

「そう!なの!だ!」

 ランスは体を使い、全力で否定し、肩で息をする。

 その側ではシィルが少し涙目になりかけているのがクルックーには見えた。

 

「だ、そうですよ、かなみさん」

「え!!わ、私に振るの!!?」

 ガタリと慌てたかなみは、部屋に入ってきた。

 

「はい、ランスとイチャイチャしたいと言う事ですよね?」

「いぃ!!?……そりゃ…」

 クルックーに指摘されたかなみは一気に真っ赤になり、一歩後ずさりながら何かをぶつぶつとつぶやいている。

 その姿をシィルはウルウルと見ていた。

 

「う……、いや、まぁ、その……」

「違うのですか?」

「………違わない…。」

「だそうですよ、ランス。」

 ランスに振り向き、ほら、と真っ赤なかなみをクルックーは指差した。

 

「……はぁ…、まぁなんだ、取り敢えず俺は一向に構わんぞ」

「…え?本当?」

「お、おう、なんなら今からSEXするか?」

「…いや、そういうのじゃないと思いますよ、ランス様」

 シィルはランスのニヤニヤする顔を見た後、ため息を吐いた。

 でもかなみは満更でもない様にもじもじしていた。

 

「あははは、なんだ、シィルも一緒が良いのか?」

「い、いえ、そういう意味でもないですよぉ…はぁ」

「私もしてもらうなら一人が良いと言うか…その…」

 かなみは何を想像しているのか、いまだにもじもじしている。

 シィルも考えるのを止めたのか、椅子に座りなおした。

 

「…?」

 しかし部屋の外で、巻き添えは御免だと言う風なアルカネーゼは、聞いていた室内の様子に違和感を感じていた。

 

「なんか、兄貴元気が無いような…、これも呪いのせいかな…?」

 アルカネーゼは時間が無くなってきたので取り敢えずクルックーを呼ぶため、室内に入った。

 アルカネーゼはクルックーに質問をする。

 

「それで兄貴はとりあえず大丈夫なのか?」

「はい、体には特に害は無いと思います」

 そのクルックーの言葉を聞きかなみとシィルはホッと息を吐く。

 

「…その呪いの効果だと思いますが、ランスの性格が少し変わって来ていますね」

「はぃ……?」

 シィルはランスを見る。

 

「んー?俺様にはわからんが……変わったか?」

 ランスはシィルに聞いて見るが、シィルはは小首を傾げる。

 

(何だろう…、言われてみれば何か違和感が…)

 悩むシィルにアルカネーゼが割り込んだ。

 

「…あのさ、その、なんか兄貴の笑い方、変わってないか?」

「…あ!!」

 かなみとシィルは同時に声をあげる。

 

「笑い方?」

 アルカネーゼはうんと頷いた。

 

「そうですね、以前のランスは下品な笑い方でしたが、今のランスは何と言うか、少し普通ですね」

「下品て…」

 ランスはクルックーの言葉に眉を顰める。

 

「そうよね、がははーって大口開けて笑ってたもんね」

「気付かなかったです…」

「しかし、笑い方が変わる呪いとか…、地味すぎるな」

 かなみとシィルが少し笑い、ランスは頭をかいた。

 

「ま、まぁ良かったじゃん。兄貴的にはエッチできなくなる呪いの方じゃなくてさ」

「あほか!嫌な事を思い出させるんじゃない!!」

 苦笑するアルカネーゼにランスは大口をあげて威嚇する。

 

「もうモルルンだけはうんざりだ……」

 ランスは嫌な出来事を思い出し、肩を落とした。

 

「……笑い方ですか…、何か引っかかりますね」

 とクルックーの言葉にランスは振り向いた。

 

「ん?何かあるのか?」

「はい、予想ではありますが…、この呪いは段階を踏んで発展していく呪いだと思いわれます」

 クルックーはランスの頬に手を当てる。

 

「…眠るたびに進行し、最終的にはある一定の性格に変革させる、そんな呪いだと感じました」

「兄貴の性格がねぇ…、何とか出来ないの?」

「今の私には無理ですね、呪いの構成も特定しないと…」

 と、シィルに振り向く。

 急に見つめられたシィルは「はぃ?」と首を傾げた。

 

「例の薬の瓶、ありますか?」

「あ、それならビスケッタさんが保管していますけど…」

「わかりました」

 クルックーはランスの頬から手を離すとすたすたと部屋から出ていく。

 

「ランスは私が必ず回復します」

 と告げて。

 その一連の様子をランスはぼーっと見つめていた。

 

「…性格が女になったりするとか?」

 アルカネーゼの言葉に三人が振り向き青い顔をしてた。

 

 

 クルックーとアルカネーゼがランスの呪いを調べるためにAL教本部に出発し、それから少し時間が経ち、ランスはビスケッタが用意してくれた夕食を食べていた。

 ランスが食卓を見渡すとシィル、志津香、ナギ、かなみ、キャロリがもくもくと食事をしている

 

(……女にはなりたくないなー)

 ランスは先ほどのやり取りを考えながら食事をしていた。

 全然気にはしていなかったがやはり考えれば不安になってくる。

 

「…ビスケッタさん、」

「はい、なんでしょう?」

 ランスの背後で背筋を伸ばし、控えていたビスケッタが答える。

 

「ビスケッタさんは呪いには詳しくないのか?」

 シィル、志津香、かなみ、キャロリの食事がピタッと止まりランスを見るが志津香は目があうと視線をそらし、食事を再び始めた。

 

「いえ、残念ながら専門外です」

「そうか…ビスケッタさんなら知ってそうだったんだけどなぁ」

「申し訳ありません、ここはクルックー様の報告を待つしか。もちろん、わたくしも独自にクルックー様をお手伝いさせては頂きますが」

「そうだなー、……面倒だなぁ」

 ランスの部屋から出て行ったクルックーはビスケッタから瓶を受け取ると本拠地の川中島にアルカネーゼを連れて帰って行った。

 

「まぁ、ランスが大人しくなる呪いなら大歓迎だけど…」

 と志津香は食事をしながらつぶやく。

 

「でもランスさんが大人しくなる、なんて想像出来ないですよ」

 キャロリは志津香のつぶやきに対して苦笑しながら答えた。

 

(……理想の旦那に……ないわよね)

 かなみは溜息を飲み込むようにスープを飲む。

 

「ラ、ランス様はどうなってもランス様ですから、大丈夫ですよ」

「お兄ちゃんが大人しくなるかー、ピグちゃんが悲しむかもー、」

 ピグの大の仲良しになったナギは志津香に食べこぼしを綺麗にしてもらいながらピグを心配する。

 

「そういえばピグちゃんはどうしたの?」

「さっきまでキバ子と追いかけっこしてたのを見たけど?」

 かなみの質問に志津香が答えるが、その答えをビスケッタが皆の飲み物を入れながら答えた。

 

「ピグ様なら先ほどキバ子様と厨房のスープの中でお休みでしたのでお部屋までお戻りいただき、今は睡眠中の筈でございます」

「ふーん、遊ぼうと思ったのに」

 ナギは残念そうにスープをすする。

 他の人間はビスケッタの発言に今飲んでいたスープに視線を落とす。皆、一様に固まっている。

「スープって……、」

「……出汁?」

「……なんか出そう、だな」

 みんなの食事の手が完全に止まる。

 

「皆様のお食事は別のスープなのでご安心ください」

 ビスケッタの一言ほっと息を漏らすと皆、食事を再開した。

 

「…スープの中で寝るって、凄いね、熱くなかったのかな…?」

 キャロリは斜め上の感心を抱いていた。

 

「でもピグちゃんは甘いってキバ子ちゃんが言ってたよー」

 ナギの突然の発言に、仄かに甘いスープをすすっていた志津香のスプーンが止まる。

 

「だー!!食事中に気持の悪い話をするなー!」

 ランスはスープを飲むナギにびしっと指を指した。

 

「なんか食欲なくなっちゃいました……」

「わ、わたしも……」

 シィルとかなみの言葉に、志津香とキャロリも頷きもスプーンを置いた。

 

「あー、だったら私にちょーだい!」

 と隣の志津香からナギは皿ごとスープを奪う。

 

「……いいわよ、あげるわよ、はぁ」

 志津香がため息をつくとビスケッタはみんなのスープ皿を下げ始めた。

 

「それでは食後の紅茶をお持ちいたします」

 と皿を載せたカートを押し、ビスケッタは厨房に戻っていく。

 

「はふー、それにしてもなー」

 ランスはふとシィルにぼけっとした視線を向ける。

 

「そうですね…、変な呪いじゃないといいですね…」

(女にはなりたくない…女は嫌だ…)

 

「そうか!!!!」

 ランスは突然、ひらめいた様に大声を上げて勢いよく立ち上がる。

 皆がびくっとランスの方を向く。

 

「ちょ!なによ、なんかくだらない事でも思いついたの?」

「うるさい!俺様超閃いた、」

 驚いた志津香は睨み着けるようにランスを見るが、ランスは無視し言葉を続ける。

 

「そうだ!寝なければいいのだ!」

「寝なければって……無理でしょ?」

 ランスは呆れ顔をしているかなみにビシッと指をさす。

 

「無理ではない!SEXしてれば起きていられるのだ!あはははー!!」

 腰の手を当て、自分の妙案に笑う。

 

「……はぁ、所詮ランスね」

 ランスの微妙に普通の笑い方に違和感を覚えながら、志津香はため息を吐く。

 

「あはははははー!」

 みんなが呆れた顔でランスを見るなか、未だにナギだけ美味しそうににスープをすすっていた。

 

 

 

 


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