ランスが征く   作:アランドロン

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変な薬を飲んだランス、それを見守る人々の話


第四話 二度目の朝

 少し開いたドアの側から室内をそっと覗き見る。

 別にやましい事をしている訳ではないのだから堂々と中に入れば良いのだが室内の雰囲気が私の行動を妨げた。

 そもそも自分がなんでこんな事をしているのかを思うと腹立たしくもあるのだが。

 

 『ランスの寝室前』

 

 室内には数人の影がある。

 そのいずれの人間もベットを取り囲んでいた。

 その中心地点、ベットに寝かされているランスは苦しげにうめき声をあげ、苦悶の表情を表している。

 

「ううぅ…」

「ランス様…」

 窓側とベットの間にはシィルが心配そうな表情で、うっすらと涙すら浮かべていた。

 

「おとーさん…」

 その横でランスの子供、リセットがランスの手をギュっと握っている。

 こちら側、入り口から見える範囲では数人の女性がランスを見守っている。

 まるでこれでは葬式の様で、ランスを心配をする者しか入ってはいけない結界が張ってある、そんな感じだった。

 

「ランス大丈夫かな?心配だね、お姉ちゃん…」

 私の背後から少しテンションの低い、妹のナギが声をかけてくる。

 

「…薬一つでどうにかできるならとっくに私が殺しているわよ」

 心配なんか、私はしていない。

 心配してはいない。

 それにほら、私なんかが心配しなくてもこれだけの人員がいるのなら、どうにかなるだろうと私は思う。

 そもそもに、私が心配しなくては行けない事ではない。

 変な薬を疑いもせずに飲む阿呆が悪いのだから。

 

 あれから一晩、みんな(主にビスケッタさんなのだけれど…)が一生懸命に看病しているが一向に回復する兆しが無い。

 そもそもにあの薬が何なのか皆目、見当もついていないのが現状だ。

 昨日の晩に皆で話し合ったのだが、薬を持ってきた等の本人、あてなは、

 

「変な子供がご主人様が気に入る惚れ薬だからもってけって言ってたのら」

 とか、もう怪しさの塊でしかない事を言うのだから呆れて物も言えない。

 一応、薬と言う事でアルカネーゼさんがフロストバインさんの処へ駆け込んだらしいのだが、

 

「ん?なんじゃろうな…、少なくとも既存の薬ではないのぉ、どちらかと言えば呪物の様にしか見えんが…」

 とか、怪しさを通り越して危険の匂いしかしない。

 まぁ、慕われている様に見えるランスだが、私を含めて恨みを買っている人間は星の数だろう。

 毒殺したくなる気持ちもわかるのだが、何分、相手はあのランス。

 マリアの片思いの相手という事もあり、放って置くのも目覚めが悪い。

 

「お姉ちゃん」

「なによ?」

 ナギは私の顔を見ながらにやりと笑った。

「ツンデレ?」

「…何よそれ?なんだかムカつく単語ね」

 私はナギの頭を軽く小突いた。

 なんだかんだとランスの城に居ついた私とナギ、特にナギはランスと周囲の影響を少し受けすぎているようだった。

 ともあれ、この状況はあまりよくない気がする、いや、気がするだけではない。

 今現在はここにいる、城に常駐しているメンバーだけがこの事を知っているが、これがもしあの能天気な女王とかに知れたら大事になりそうな気がする、いや、なるのだろう。

 

 私はため息と共に最悪な事も踏まえて今後、ナギとどうするか、考えなくてはならないのだ。

 少なくとも私は今のナギと自分の関係に満足しているし、無理に大人の体を取り戻そうとかは考えていない。

 ならば、どうするべきか…。

 

 

「どうしましたか?」

「え゛!」

 私は不意に背後からかけられたナギ以外の声に驚いて振り向いた。

 振り向くと、極至近距離に法皇様が居た。

 

「や、ただいまです」

 気だるそうに一歩離れ、片手を上げるクルックーさんは首を傾げた。

 

「…覗き趣味が?」

「無いわよ、有ってもランスとか無いから」

 少し上がった心臓を落ち着かせながら返事を返す。

 

「…お帰りなさい」

「ただいまです、それでどうされましたか?」

 再び首を傾げた無表情のクルックーさんに、私はため息交じりに又聞きの昨日の出来事を伝えた。

 どうして私が説明しなくちゃ行けないのか、少し苛立ちながら。

 

 

 

 

『ランスの寝室』

 

 ランス様の手をギュッと握る小さな手に、私は不意に目を潤ませる。

 

「大丈夫、ですよ、皆いますから」

 私はリセットちゃんの小さな肩に手を置いて慰める。

 

「おねーちゃん…有難う…」

 リセットちゃんは少し笑顔を見せてはくれたけど、やっぱり表情は暗い。

 こんな小さな子をも泣かすなんて、流石ですよ、ランス様…。

 

「どうぞ、これを」

「あ、ありがとうございます」

 私の目が潤んでいるのを見たのだろうビスケッタさんがハンカチを渡してくれた。

 本当に優しい人でまた、涙が出てくる。

 

「…ただいまです」

 私が涙を拭くと、入り口からクルックー様、志津香さん、ナギちゃんが入ってきた。

 何時も明るいナギちゃんも今日は何処か沈んでいる、志津香さんとクルックー様は……分らないけど。

 

「お帰りなさいです」

 皆が口々に、お帰りとクルックー様に声をかける。こういう処は素直にランス様に感謝している。

 ランス様との二人旅も、苦労は多かったけど…、殆どが苦労だったけど、こういった形で優しい人たちに囲まれるのは、やはりランス様の人望があっての事なのだろう。…一部は違うのだろうけど。

 

「ランス…」

 クルックー様がみんなの間を抜け、ランス様の側に来た。

 

「リセットさん、少し離れて貰えますか?」

「…うん」

 クルックー様がリセットちゃんに少し微笑んだ様に見えた。

 リセットちゃんが離れたのを見てランスの胸に手をかざす。

 

「ううっぅうぅ…」

 ランス様の顔色は未だ変わっていない。

 クルックー様は手をかざし、私では分らない高度な呪文を唱えた。

 青色の、綺麗な魔法陣と共に、光がランス様を包んでいく。

 苦しんでいるランス様の顔も青白く光り、少し可笑しく見えるがそれどころではないので自重した。

 やがて、光はランス様の中へ沈んでいった。

 

「おねーちゃん、どう…?」

 リセットちゃんが居の一番でクルックー様に問いかけた。

 その時、クルックー様の表情は初めて見る苦悶の表情を浮かべていた

 

「駄目、ですね。」

「そんなぁ…」

 リセットちゃんが再びランス様の手を取った。

 クルックー様の解呪が効かないとなると、本当にどうしていいのか…、再び目が潤む。

 

「なにか高度な…、いえ、これは複合魔術とでも言いましょうか…。」

「複合魔術?」

 志津香さんが眉を顰める、何かにつけて衝突しているランス様と志津香さんだが、やはりこうなると志津香さんも心配なのだろう。

 

「はい、複数の魔術を有機的に連携させ、新たな魔術を作り出す法です。これは高度に魔術に精通していないと出来ない所業です、失敗すれば何かしらの副作用を齎すものですので…。」

「高度な魔術に精通している、ねぇ…」

 アルカネーゼさんがクルックー様の話を聞いて、リセットちゃんに目を向けた。

 それに気が付いた数人は同じようにリセットちゃんに目を向ける。

 でもリセットちゃんは高度な魔術なんて使えないし…。

 

「…違うもん!喧嘩はするけどこんなひどい、おかーさんはしないもん!」

 リセットちゃんは声を荒げた。

 なるほど、皆リセットちゃんじゃなくて、母のパステル様を疑っていたね。

 少しほっとしたが、リセットちゃんは怒っていた。

 

「でもなぁ?高度な魔術が使えて、兄貴に恨みを持っているってなると…、なぁ?」

 皆がうんうんとうなずいた。

 私も氷から出られた後の事をビスケッタさんやアルカネーゼさんに聞いたが、確かに恨みを持っていても仕方ないように思えた。しかも禁欲モルルンとかいう前歴もあるし…。

 

「…いいもん!私、おかーさんに助けてもらうもん!」

「あ…!」

 リセットちゃんは皆の間をするすると抜けて出て行った。

 追いかけなきゃ!と、思い、続いて行こうとした時、何かにぶつかった。

 

「きゃ!あ…」

「ごめんなさい…」

 そこに居たのはクラインさんだった。

 起きてからまだ一度しか有っていなかったが存在が薄くている事に気が付かなかった。

 

「いい、私が行く、私がリセットちゃんを連れて行くから」

「は、はい…」

 クレインさんは私を立ち上がらせてくれると、再び姿が見えなくなった。

 良く分らない現象に私が目をぱちくりさせていると、

 

「どちらにせよ、このままにはして置けません、一度AL教本部に戻ります。」

「じゃぁあたいも付いていくよ、ここに居ても役に立ちそうにないしね」

 アルカネーゼさんとクルックーさんはなぜか硬い握手を交わすと、一緒に部屋から出て行った。

 

「…まぁここに居ても意味ないし、部屋に戻るわよ」

「…うん、シィルおねーちゃん後お願いします」

「わかりました、ごめんね」

「ふぅ、ビスケッタさん」

「はい」

 部屋から出て行こうとする志津香さんが振り返り、ビスケッタさんに

「この事は他言無用、特にこの城の外へは知られない様にして下さい」

「…かしこまりました」

 と、言い残し、出て行った。

 他言無用か、そうですよね、他の方に心配をかけてはいけないもんね。

 私は頷き、ランス様の看病をすることにした。

 

「うぅ…」

 相変わらず、顔色の悪いランス様。

 何かあると直ぐに私に押し付ける癖に、…早く元気になってください。

 私は絞ったタオルをランス様の額にそっと置いた。

 

 

 

 

 

『ランス城 玄関ホール』

 

「大丈夫だから、私も一緒に言ってパステルさんに話をしてみよう?」

 部屋を飛び出し、少し落ち着いた私の頭をパステルお姉ちゃんが優しく撫でてくれている。

 私は服の袖でグイっと目元を拭う。

 

「うん…、ありがとう」

「…、皆、悪気はないと思うの、許してあげて」

「うん…」

 解っている。

 実際にお父さんとお母さんの仲が悪いのは事実だ。

 会えば直ぐに口喧嘩を始めるし…。

 でもあれは愛情の裏返しだと思う。

 ほら、なんて言ったかな…、ツンデレだっけ…。

 

「でも…、おかーさんはそんな酷い事しないもん…」

 ちょっと不安な気持ちもあるけど、お母さんはそんな卑怯な事はしない。

 カラーの女王としての誇りも持っているし、やるなら真っ向から喧嘩をするはずだもん。

 

「うん、分ってる、」

 そっと撫でる手が心地よい。

 お父さんの知り合いのお姉ちゃんは皆優しくて好きだ。

 

「だからね、女王様に話を聞きに行こうね?」

「うん!急ごう!」

 そうだ、お母さんなら魔法に詳しいし何かわかるかも知れない。

 ううん、お父さんを起こすのはお母さんの役目だもん!そうに違いない!

 私はクレインお姉ちゃんの手を取り、再び外に向かって歩き始めた。

 

「ん?誰だろ?」

 玄関の扉が外から開かれる。

 入ってきたのは…

 

「あ、かなみお姉ちゃん!」

 帰って来たんだ、そうだね、そう言えばクルックー姉ちゃんと一緒だったんだ。

 

「あ、リセットちゃん、ただいま。」

「うん、お帰りなさい!」

 かなみお姉ちゃんが笑顔で手を振ってくれたので、私も手を大きく振って返した。

 

「ん?リセット?ああ、カラーのね」

 かなみお姉ちゃんの後ろから入ってきたのはリアお姉ちゃんだった。

 リアお姉ちゃんは隣にマリスさんを連れ、睨むようにこちらを見ていた。

 

「あ、うん…」

 私はクレインお姉ちゃんの後ろに隠れる様に逃げた。

 

「ふん、どうでもいいわ、かなみ、行くわよ」

「あ、はい」

 私の横を見ずにリアお姉ちゃんは通り過ぎて行った。

 お母さんと仲が悪く、どうにも苦手だ。

 かなみお姉ちゃんは片手をあげ、「ごめんね」と言って通り過ぎて行った。

 

「…はぁ、志津香さんの心配も女王様の前では無意味、見たいね」

「どういう事…?」

 私は意味が解らず、クレインお姉ちゃんを見上げたが、

 

「んーん、リセットちゃんは気にしなくていい、さ、行こう?」

 と少し微笑んだお姉ちゃんに手を引かれ、私はお父さんのお城を後にした。

 大丈夫かな、お父さん。

 

 

 

 

 

『ランス城 通路』

 

「はぁ、ランスが…」

 私はマリス様に説明を受けていた。

 クルックー様のお供を終えた私は町で少し買い物をしていた。

 旅の疲れの休憩がてら、町の噴水で休憩していた私の前に現れたのがマリス様とリア様だった。

 なんでもランスの身に危機が迫っているとかで慌ててこちらに来たらしいのだが…

 

「かなみ、貴方本当に役に立たないわね」

「うっ…」

 リア様とは子供の件で少し険悪になった事もあったが、今では前より少し距離が近くなったような気がする。

 気がするのだが、そんな目で睨まれると自信を無くしてしまう…

 

「リ、リア様は良く分りましたね、ランスの危機なんて…」

「はぁ、かなみ、貴方を解雇してから私が何の手も打ってないと本気で思っているの?」

 リア様にランスの身辺警護&調査の任を解かれてからは確かにそこは少し気になっていたのだけど…。

 

「貴方以外にもリーザスには忍者は居るのですよ?かなみ」

「そ、そーですよね、ははは…」

 マリア様に指摘されながらも私はランスの周りに忍者は居なかったと思い返すが。

 

「ほら、顔に出ているわよ、全く…、そんのだからダーリンの周りに変な虫が寄ってくるのよ、はぁ…、」

「ううっ…」

 詰まり、私が気付いていないだけでこの城の周りにはリア様の私兵が隠れているという事なのだろう…。

 自信を、無くすなぁ…。

 

「こちらの城のメイド長は気付いて居られたようですが…」

「うううっ…」

 もう顔も上げられない…、ていうかビスケッタさん、何者なのよ…。

 リア様に弄られている間にランスの部屋の前に付いた

 

「マリス、私の格好、大丈夫?」

「はい、いつ戻り完璧でございます」

「そう…、ス~っ、…ハァ~…、よし、」

 そう言いながら深呼吸をするリア様、ランスに嫌われたくないのだろう、こういうリア様を見るとあれだけの事をしていたのに可愛い人なんだとも思えてくるのが不思議でたまらない、

 そうしてマリス様が部屋のドアを開ける。

 

「ダーリン!!!大丈夫!!!?」

 まるでスタートダッシュを決める様にドアが開いた瞬間、リア様はランスのベットに飛びついた。

 あ、シィルさんが跳ね飛ばされて転がった。

 

「かなみもどうぞ」

「あ、はい」

 私が中に入るとマリス様が後ろ手にドアを閉めた。

 既にランスに抱き付いているリア様は半泣きだ。

 やはりリア様にはランスが必要なのだろう。

 わ、私にもランスは必要なのだが、ここまでリア様の愛が深いと元主従関係としてはちょっと考えてしまう…。

 

「…、大丈夫?」

「は、はい、すいません…」

 私はランスをちらりと見た後、シィルさんに手を貸し、立たせてあげた。

 ランスに抱き付き目を潤ますリア様、脈を図ったり、ビスケッタさんと話をしているのはマリス様。

 私はその輪に入るに入れず、少し離れたところでシィルさんとその光景を見ていた。

 

「…それで、ランスは大丈夫なの?」

 私は率直にシィルさんに話を振ってみた。

 

「分りません…、今の処惚れ薬を飲んだとしか…」

 惚れ薬で気絶、ねぇ…。

 

「何と言うか…、ランスらしいわね」

「そう、ですね、」

 私もシィルさんには負けるがいい加減、ランスとは腐れ縁。

 こんな簡単にランスが死ぬとはどうしても思えない。

 

「まぁ、何時もの如く、なんとかなっちゃうんでしょうね、どうせ」

「は、ははは」

 シィルさんが涙目なりながら、同意の乾いた笑いを浮かべる。

 本当、ランスには勿体ないくらいの良い子なのに…。

 

「はぁ、こんなの、私にかないっこ無いじゃない、馬鹿」

 私は苦しそうに寝ているランスの顔に向かってつぶやく、もちろん聞こえる訳無いのだが。

 私の横では「はぁ…」と苦笑いを浮かべるシィルさん、多分今抱き付いているリア様と私を比較しての笑いなのだろうが。

 そんな一番の恋敵を見て私も苦笑を浮かべ、二人で笑う。

 

「かなみ、何気持ち悪いことをしているの?」

 と、ランスに抱き付いたままこちらを睨むリア様はため息交じりにランスから離れた

 

「…決めた、マリス」

「はい、何でしょうリア様」

「ダーリンが治るまで政務はこちらでします。準備を」

「はい、かしこまりました」

 やっぱり、絶対言うと思った。

 

「医者や看護人も何人か派遣しなさい。最上級の人間を。」

「はい、かしこまりました」

 …暫らく、この城も慌ただしくなるのだろう事を想像して、私とシィルさんは同時にため息を着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『???』

 

 視界は狭く、薄暗いダンジョンの中、俺は松明を片手に歩いていた。

 石畳のダンジョンはコツコツと俺の足音を反響し、冷たい空気は肌に染みる。

 

「うー、ここは何処なんだよ…」

 どの暗い歩いているのだろう。

 ひたすら一本道の通路を歩く。

 時間の感覚が曖昧で、いつから歩いているのか分らない。

 何故か体力だけは尽きず、いつまでも歩いて居られる様だった。

 

「…おーい、シィルー…」

 それでも。

 誰も居ない通路を歩いて居ると孤独が襲ってくる。

 空腹も無いが、胸がギュッと締め付けられるような不安に襲われる。

 

「うーん…、本当に何処なんだよ…」

 そもそもに何でこんな処に居るのかも思い出せない。

 いつの間に迷い込んだのか。

 少なくとも、ここ最近、ダンジョンなんぞに立ち寄った覚えも無い。

 

「ふぅ…、」

 コツコツ…、ひたすら歩く。

 

 

「…ん?」

 前方、光がわずかに届いている視界の果てに、ちらりと人影が見えた。

 

「お!おーい!!」

 走る。

 少し近づいた影は、こんな処には無縁だと思っていた裸の女性だ。

 抜群のプロポーションを誇るその影はこちらに気付いたかと思うと、一目散に奥に走っていった。

 

「ま、まてええええええ!!!」

 孤独からか性欲からか、俺は全力で追いかける。

 しかし走れど走れど、いっそ追いつく気配はない。

 

「くそぉぉぉぉ!!」

 さらに足に力を籠める。

 

「あ!!」

 暫く走ると、影は不意に現れた左手の木製のドアを開けるとそこに飛び込んだ。

 

「逃がさん!!!」

 俺はドアの前に立つと木製のドアノブを掴み、一気に開けた。

 そこは小さな部屋で、暖炉にベット、小さな家具たちが備え付けられていた。

 

「そこかぁ!!」

 ベットに盛り上がるシーツ、俺はそのシーツを思いっきりはぎ取った。

 そこに居た裸の女性は……。

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「きゃあ!!!」

 跳ね起きる。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、……」

 此処は…、俺の部屋…、

 ランスは周囲をキョロキョロと確認する。

 自分の部屋、自分のベット。

 どうやら先ほどの裸女は夢だった様で、ランスは一息ついた。

 

「…ふーっ、」

 額の汗をぬぐうように袖を額に当てる。

 

「ら、ランス様…?」

 (あーっ、くそっ、なんて夢だ、)

「そのーっ…」

 (なんで俺様がフロストバインの裸なんぞ夢で見なけりゃならないんだ)

「あのーっ…」

 (最悪だ、死にたい…)

 

「ら!ん!す!様!!」

「うおおおお!!!」

 突然の耳元での大声に驚いたランスはベットの端にまで反射的に逃げた。

 声の方に振り向くランス。

 

「な、なんだ…シィルじゃないか…」

 ランスは心臓を抑え、一息吐いた。

 

「ら、ランス様、その、大丈夫、なのですか?」

「だ?大丈夫?何が、だ…?」

「ランス…様!!」

 シィルは飛びつくようにランスに抱き付いた。

 突然のシィルの行動に体を支えきれず一緒にベットから落ちた。

 

「おおう!」

「ランス様…」

 それでも抱き付くのを止めないシィルは涙声でランスの名を呼び続ける。

 何が何だかわからないランスはシィルを無理やり引き離した。

 

「ええい!この馬鹿者!ちょっと離れろ!」

「きゃ!」

 無理やり引き離した反動でシィルがしりもちをついた。

 

「何なんだ一体…」

 ランスは頭に手を置き、状況を整理しようと考え始めた。

 その時、部屋のドアが勢いよく開かれた。

 

「ダ――――――リーーーーーんんん!!!!」

「うおおおおおおおお!!!あが!!!」

 まるで減速なぞ知らんと言ったリアがダッシュのままランスの顔目がけて抱き付いてきた。

 再び押し倒されたランスは頭を床に打ち付けた。

 

「ダーリン!心配したんだよ!!!もー!仕事に手が付かなかったんだから!って、ダーリン!!?」

「…おぅふ…」

「ら!ランス様ー!!」

 白目をむいたランスをリアは必死に揺さぶるが、返事が返ってきたのはそれから2時間後だった。

 

 

『ランスの寝室』

 

「なるほどなぁ、確かになんか飲んだような覚えがあるなぁ…」

 再び目覚めたランスは、後頭部に出来た大きなたんこぶをさすりながら状況を整理していた。

 ランスの部屋にはシィル、リア、マリス、かなみがいる。

 

「そうだよぉ、本当に心配したんだからぁ…、」

 リアは起きたランスに叩かれた頭をさすりながら涙目でランスに話しかける。

 

「あほが、死ぬところだったぞ。はぁ…」

「大丈夫だよ、愛があれば死なないもん」

「関係ない、マリスが居て良かった…」

 再び気絶したランスを回復したのはマリスだった。

 

「マリスは私の物だもの、つまりダーリンを助けたのは私だもん!」

「あほ、お前に殺されかけたんだよ」

「……てへっ」

 可愛い顔をしてごまかすリアにランスはため息を着いた。

 

「そ、それでさ、ランス」

「あん?」

 かなみが少し怪訝な顔で訪ねて来た。

 

「その変な惚れ薬って、何か効果はあったの?」

「薬…、そういえば、って、お前らは既に俺に惚れているからなぁ…、効果がわからん…」

「わ、私は別に…」

「はいはい、えっと、マリスどう?ダーリンに惚れた?」

「いえ、特には」

 かなみの言葉を遮り、リアはマリスに問いかけるが、マリスはいつも通りの無表情だ。

 ランスはため息を着いた。

 

「はぁ、効果なしかよ、」

「い、良いじゃない、ダーリンは私に愛されてるんだし!あ!凄い!ほら、効果抜群だよ?」

「いえ、リア様はその、あ…はい、すいません…」

 最初から惚れていると言おうとしたシィルをリアがもの凄い形相で睨む。

 言葉がしりすぼみになりつつ、リアに謝った。

 

「まぁ何にせよ、何も無くて良かったじゃない、」

 かなみが「はぁ」とため息を着きつつ、少し微笑む。

 その声に釣られて、シィルも力を抜いた。

 そのまま六人で談笑が始まり、数分経ち、ドアをノックする音が室内に響いた。

 

「開いてるぞー」

 ランスが返事をすると、ドアが静かに開いた。

 入ってきたのは志津香だった。

 

「……、リア王女、玄関に兵士が来てるんだけど…」

 訝し気にランスを見た志津香はそれだけ言うと、部屋から素早く出て行った。

 

「なんだあいつは?」

「さぁ?さてと…」

 リアは腰かけていた椅子から立ち上がると、

 

「ダーリン、ごめんなさい、お仕事が入っちゃた」

「ん?おお、行け行け」

 すまなそうに少し頭を下げたリアにランスは片手で帰れとハンドシグナルを送る。

 

「ひどい…、ダーリン!また来るからね!」

「はいはい、帰った帰った」

「ぐすん、もぅ、ダーリン冷たい…」

 そのままマリスを連れて、リアはドアの前まで来ると、

 

「今度はエッチしようね!」

 と一言だけ言い残して、出て行った。

 

「はぁ…、」

 シィルはため息を着き、今度こそ全身の力を抜いた。

 未だにリア王女に慣れないシィルは今まで緊張していたのだろう。

 

「全く、あいつは子供が出来ても変わらんな」

「まぁそりゃリア様だからね、」

 その一言で固唾けるかなみも中々に豪胆な奴だとランスは内心で評価を下した。

 

「まぁいい、シィル」

「あ、はい、何ですか?」

「すまないが水を持ってきてくれ、喉が渇いた」

「はい、ちょっと待っててくださいね」

 シィルは立ち上がると部屋から出て行った。

 ランスは体の調子を確かめる様にストレッチを始めた。

 

「…ん?なんだよ?」

「ん、んー、別に…」

「?なんだよ、はぁ…」

 かなみは訝し気な視線をランスに送る。

 ランスは不思議に思いながらもストレッチに戻った。

 かなみは頭を傾げた。

 (……今、すまないって言わなかった?)

 普段のランスならシィルに対してそんなことは言わなかっただろう。

 少し奇妙に感じながら、シィルが帰ってくるまでランスと本当にどうでもいい会話を続けた。

 




 久しぶりの投稿です。

 遅くなって申し訳なく思います。

 書き方とか代わっててすいません。

 それでも、地道に書いては居ます。

 頑張ります。。。。

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