ランスが征く   作:アランドロン

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第二話 シィルのパーティー

 『ランス城の大広間』

 

 シィルが目覚めてから二日目、シィルは大広間に広がる光景に言葉を失っていた。

 ランスが城を持ったというのも未だ半信半疑なシィルはランスに連れられて大広間に来ていた。

 あちらこちらに置かれた白く丸いテーブルの上には御馳走が並べられ、それを囲むように人が集り各自談笑をしている。

 そして大広間の頭上には、

 

          『☆シィル様 せーかんパーティー☆』

 

 と、少し下手くそな文字の、巨大な垂れ幕がかかっている。

 突然の状況にシィルが口を開け、ポカーンと垂れ幕を眺めていると。

 

「何をアホ面しているんだ?、ばかもん」

 と、シィルの頭をランスが当たり前の様に軽くはたいた。

 

「いたっ!…で、でも行き成り私のパーティーだなんて言われても、困りますよぉ…」

 頭を押さえたシィルは痛みか感動かは分らないが目じりに涙を貯めている。

 

「ふん、香ちゃんにお前の事を知らせたらやらせろってしつこくってな、仕方なくだ」

 ランスはシィルから顔を背け、会場の自分の女達を見渡す。

 

「香様が…」

 香姫の顔を思いだし、今にも泣きそうになっているシィルの背後からビスケッタがお酒を持ち、近寄って来た。

 

「はい、今回の食材もJAPANからの祝いの品で作らさせていただきました」

 ランスとシィルにお酒を手渡す。

 ランスはお酒を受け取ると一口、口を潤す。

 シィルはアタアタとお酒を受け取ると、会場をを見渡した。

 

「でもすごい人数ですね…」

 ビスケッタもシィルの視線の先を追う。

 食事をする者、酒を酌み交わす者、ひたすら駆け回っている者、様々な人達がワイワイと楽しんでいた。

 

「総勢で78名かと、中にはただお酒を飲みにきた方もいらっしゃるようですが…」

 と、ビスケッタは会場の端の方に立ち大口で酒をあおり女生と話している天理教のハゲ頭、言裏を睨む。

 

「あー、男は立ち入り禁止だと言ったのに…」

 ため息を漏らし頭を掻くランス、会場の反対にはなぜか呼んでもいないバードも居た。

 

「それでは私は給仕に戻ります」

 ビスケッタは頭を下げ、メイド隊に指示を出すべく戻って行った。

 それと入れ替わるようにランスの背後から小柄な女性が抱きついてきた。

 

「ダーリン!はっけーん!!」

 小柄な女性、既に腐れ縁の勢いのリアはランスに抱きつくとランスの体に頬ずりし始めた。

 普段の執務中には絶対見せないとろけた表情のリアは凄く満足気だ。

 

「おわっと、リア!酒がこぼれるではないか!」

 ランスは慌ててお酒の入ったコップを持ち直した。

 リアは「えへへ~」と抱きついたままシィルの方を向き、表情を変え、静かに口を開いた。

 

「復活、おめでとう、」

「あ、ありが…「でも、そのままでもよかったのに」

 プイっとシィルから顔をそむけた。

 シィルはひきつった笑顔で「とうございますぅ…」と聞こえない程、静かにつぶやいた。

 ランスがリアを引きはがそうと手で押しのけているとリアの視線の先から純白のドレスを着たシーラが歩いてきた。

 

「ランス様、お久しぶりです」

 シーラはこちらに近寄ると深々と頭を下げた。

 

「おおシーラか、久しぶり」

「シィル様、初めまして。ヘルマン大統領、シーラ・ヘルマンです」

 スカートのすそを持ち頭を下げるその姿は気品に満ちていた。

 

「や、その、は!はじめまして!シィルです!」

 シィルも慌てて体を90度曲げる。

 行き成り自己紹介してきた人は想像していなかった大物で、シィルの下げた頭の中はパニックになりかけていた。

 

「こら、シーラ」

 そんなシィルの考えなぞ関係なしにランスはシーラの下げた頭を叩いた。

 丁度頭を上げたところでランスの蛮行を見たシィルはビクッと体を跳ね上げた。

 

「ラ、ランス様!」

 慌てるシィルを他所にランスはシーラに言葉を続けた。

 

「お前は女王である前に俺様の奴隷だろ、忘れるなよ」

 ランスがフンと鼻を鳴らす顔を見ると、シーラは満面の笑みで言葉を返した。

 

「はい、申し訳ありませんランス様。…ふふ、シィル様。私もランス様の奴隷なのでそんなに畏まらないでください」

 とシーラはシィルに手を差し伸べる。

 シィルは無言でその手を取り、握手をすると、

 

「え、えええぇぇ!!」

 と、手を握手したまま、目を見開き硬直した。

 

「ふん、たかが奴隷じゃない。奴隷らしくあっちで掃除でもしててくれる?」

 リアは面白くないっと言った表情でシーラに冷たい視線を送る。

 そこにリアの従者のマリスが視界の影からすっと現れた。

 

「リア様、シーラ姫に用事がおありでしたのでは?」

 マリスは無表情のままタンタンと仕事をリアに告げた。

 

「…マリスまで私とダーリンの時間を邪魔するの?」

「いえ、決してそのようなことは」

 リアは頬を膨らませむーっとマリスを睨むがマリスは表情を変えない。

 

「えーい!鬱陶しい!いい加減離れんか!」

 ランスは体に引っ付いたリアを両手で思いっきり引き剥がした。

 

「きゃん!…だーりんのケチ!後でいーっぱい可愛がってよ!」

「わかったわかった、」

 とランスは半泣きで腕をブンブンと振っているリアにあっちに行けと手で示す。

 

「絶対だよー!…あ、シーラ。私の部屋でお話をしましょう」

 と、先ほどまでの子供の様なすねた顔をやめ、誰もが恐怖するリーザスの女王スマイルでシーラに告げると、マリスを従えさっさと自分の執務室へ歩きだした。

 

「分りました。それではランス様、シィル様、後ほどに」

 シーラは頭を下げるとリアに続いて行く。

「わー!ま、待ってください、もう少しJAPAN料理食べたかったのにー…」

 会場の中にいた女、シーラの従者ルシアンが慌ててシーラの後を追っていく。

 

「おいシィル、いつまで固まっているんだ」

 ランスは握手したままの形で固まっているシィルの頭を叩いた。

 

「痛っ!」

 痛みで現実に戻されたシィルは半泣きでランスの顔を見る。

 

「…私が居ない間に何があったのかを聞くのが怖いですよぉ」

「お前が気にするようなことは何もない。いつもどおりシーラも俺様の魅力にメロメロになっただけだ、がははははー!」

 

 (…はぁ、凄い人がまた増えたなぁ…)

 とシィルは大口を開けて笑うランスを見て尊敬と気苦労でため息を漏らした。

 

 

 

「ランス殿」

 ランスが近くの食事を手に取り食べていると、背後から声が掛けられた。

 ランスとシィルがそちらに向くと、JAPANの軍神である謙信と、参謀の愛がこちらに歩み寄ってきた。

 

「御無沙汰しております」

 謙信が笑顔で頭を下げると愛は無表情のまま頭をチョコンと下げた。

 

「おーおー、謙信ちゃんに愛ではないか、よく来てくれたなー」

 がはははーと大口を開けて笑い、謙信と握手をした。

 

「シィル殿、心配したよ、無事で何よりだ」

 謙信はシィルに向き直り手を差し出す、それをシィルは笑顔で受け取った。

 

「はい、謙信様も態々来ていただいて有難うございます」

 と、握手したまま頭を下げた、それを見て謙信は微笑んだ

 

「そういや香ちゃんは?」

 ランスは愛に視線を向け、質問をする。

 

「香姫は公務で来られないそうです、ですので私たちが名代として来ました」

 と、愛がランスに事務口調で言う。

 

「香殿はシィル殿とランス殿に会いたがっていたよ」

 謙信が残念そうに眉を下げ、言葉を付け足した。

 

「私ももう一度香様に会いたいです、」

 シィルはちらっとランスを見る、言った処でランスの気分しだいだから叶う訳もないと思っていたら、

 

「そうだな、俺も会いたい、そのうちJAPANに行ってみるかな、」

「は、はい!是非行きましょう!」

 ランスの言葉にシィルがニコニコと笑顔になるとランスは鼻息を「フン」と漏らしながら謙信に顔を向けた。

 

「謙信ちゃん、今日の夜俺の部屋に来い」←ランス、部屋を指さす 

「わかった」←謙信、赤面しつつも頷く

「駄目です」←愛、無表情

「しかし・・・」←謙信、眉をよせ困る

「駄目です」←愛、無表情

 ランスの突然の無茶振りに、受ける謙信とそれを遮る愛。

 愛に遮られシューンと捨てられた子犬の様な顔の謙信を見て愛はため息を漏らす。

 

「はぁ、今日は顔を見にきただけです、またそのうち時間を作りますから…」

 愛の言葉に謙信はぱぁっと明るくなった。

 

「いや、俺様の話を…」←ランス、ムッとする

「駄目です」←愛、無表情

「くっ!」

 もはや聞く耳持たずの愛にランスは苦い顔をする。

 

「やぁ、ランス、最近どうだい、はっはっはー」

 またもや背後から声を掛けられた。

 しかしかけられた言葉はセリフとはかみ合わない棒読みで違和感しかなかった。

 その声にランスが振り向くとそこには片手を上げて此方を見上げているクルックーが居た。

 

「…頭、大丈夫か?」

 ランスが心配そうな顔でクルックーを見る。

 

「はい、大丈夫ですよ?」

 何か問題でもと首をかしげるクルックー。

 

「さっきのは?」

「頭上を飛んでいた妖精に教えてもらった新しい挨拶です」

 とクルックーが指差す上空には、小さいピグ達が両手に肉を持ち、会場内を縦横無尽に飛び回っていた。

 

「…妖精というより害虫じゃないのか?」

「駆除しますか?」

 クルックーは素早く肩掛けの鞄からゴキジェットを取り出す。

 

「いや、いい。ほっとけ」

「わかりました」

 出した時と同じ速度でサッと鞄に仕舞う。

 

「クルックー殿、お久しぶりです」

 謙信がクルックーに手を差し出すとそれを受け取り握手した。

 

「お久しぶりです」

 クルックーは相変わらずの無表情だ。

 

「謙信様のお知り合いですか?」

 クルックーと面識のない愛は謙信に質問をした。

 

「うむ、少し縁あってな。クルックー殿はAL教の法王だ」

「どうも、法王です」

 突然の大物に愛が目を見開いた。

 

「そして俺の女だ」

「ランスの女です」

 愛は絶句し、口をパクパクとし驚愕を表していた。

 

「もう貴方の事で驚くことはないと思ってたけど…」

「俺様の凄さがやっと理解できたか?がはははー」

 愛は眉を深く寄せ、頭を抱えていると謙信がそっと愛に声をかける。

 

「。あまり悩むと、その、はげ。」←謙信、オロオロと愛の額を見る

「ハゲません、」←愛、無表情

 

 がはははーの笑い声と愛の深い溜息が交る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おとーさん!!」

 暫らく五人で雑談をしていると突然ランスの真横からダイブしてきたリセットにランスはお酒を落とす。

 

「おおっと!」

 ボスっと体にぶつかるリセットに思わずランスはリセットを両手で受け止めた。

 

「あそぼー!」

 ランスは満面の笑みのリセットを床に立たると頭に手を乗せ頭をグシグシなでる。

 

「めんどい、ピグと遊べ」

 ランスは心底めんどくさそうに上を指さし答える。

 

「んー、わかった!ぴーぐちゃーん!」

 とリセットは両手の肉を振り回してチャンバラをしているピグに駆け寄って行った。

 

「お父、さん…?」

 シィルは未だかつてないほど眉間にしわを寄せて頭を抱えた。

 

「ランス殿に似て相変らず可愛いな」

「まぁ、あれだけ誰彼かまわずしていれば出来るでしょうが。カラーですか?」

 愛はランスを睨みつつ聞いた。

 

「あー、まぁそうだ…」

 ランスはため息を漏らした、その様子に謙信が不安そうな顔を浮かべる。

 

「ランス殿は子供は嫌いなのか?」

「嫌いだ」

「そ、そうなのか」

 と、少し謙信は肩を少し落とし落ち込む。

 それを見てまたもや愛がため息を着いた。

 

「ここにおったか」

 肩を落とす謙信の背後からパステルが声をかけて来た。

 

「よお、パステル」

「ほぅ…、お主が生シィルか」

 ランスを意図的に無視したパステルは徐にシィルに近寄る。

 

「な、なま?」

 高圧的な態度のパステルに気押されシィルは後ずさった。

 

「別に取って食ったりはせんわ、こ奴が必死になっておったからどのような女子かと思うたが、存外、普通じゃの」

 パステルは値踏みをするように上から下までシィルを見た。

 その視線にうっすら涙目になり始めたシィルはランスの後ろに素早く隠れた。

 

「おい、パステル俺様を無視する「うるさい、早く死ね」な」

 ランスの言葉を遮り、顔も見ず言い切った。

 

「ぐぬぅ…」

 ランスはパステルを睨むが、何処行く風と言わんばかりに無視を決め込むと側にいた謙信に顔を向けた。

 

「お久しぶりです、パステル殿」

「えっと、私は側近の上杉愛です」

 と謙信と愛は軽く会釈をする。

 

「ん?JAPANの人間か。珍しいの」

 フン、とパステルは鼻を鳴らす。謙信の事は覚えていない様だった。

 愛はパステルの額のクリスタルを見た。

 

 (カラー…ね、なんか偉そう、さっきの子の母親かな)

 

「えっと…、」

 シィルがランスの後ろから出て来て挨拶しようと言葉を探していると、

 

「ふん、まぁよいわ。わらわがカラーの女王、パステル・カラーじゃ、覚えておくが良い」

 と、パステルは顎をあげ胸を張る。

 

「じょ、女王さま!!?」

「意外な大物ね…」

 目を見開き驚くシィルと愛を見てパステルは女王としてのプライドをくすぐられ、鼻を高くし。

 

「ただのドジっ子だろ?」

 とランスがつぶやくと言葉も終わらぬうちにパステルがランスの脇腹にこぶしを突き出した。

 

「おおっと」

 素早くランスがよけるとパステルが舌打ちをする。

 

「ふん…、まぁ良いわ。今日はお前に話があったのじゃ」

 体制を戻しランスに向き直り、睨む。

 

「俺様は話なんかないぞ?」

「だまれ、おぬしの話なぞ聞きとうも無いわ」

 更に強気に睨むパステルにランスは、

 

「…お仕置きが必要か?」

 とつぶやく。

 ニヤリと小悪党の様な顔をするランスにパステルは生理的な恐怖を感じ少し怖気づく。

 

「な、なんじゃ。余は何も悪い事なぞしとらん!」

「クルックー!」

「はい」

 ランスが叫ぶと何時の間にかパステルの後ろ側に回っていたクルックーがパステルを羽交い絞めにする。

 そしてランスが両手をわきわきと生理的嫌悪感をあおる指づかいでせまる。

 

「あわわわ……」

「よせ!何をする!やめるのじゃ!!」

 シィルはどうしていいか分らず慌て、じたばたともがくパステルは顔が青ざめていく。

 

「炎の矢」

 その時、部屋の離れた位置からランスめがけて小さい炎が飛んで来た。

 

「うわちっちち!!!!」

 ボッと突然背中についた炎に慌てるランス。

 

「ランス殿!」

 謙信が近くにあった飲み水をランスの背中にかけ消化した。

 

「ぜ、ぜー」

「…大丈夫か?」

 ランスは床に手を付き荒い息を整え、謙信がランスの肩に手を置いた。

 

「…ふ、ふん、いいきみじゃ。ええい!お主もいいかげんはなせ!」

「はい」

 とクルックーは何事も無かったように素直に拘束を解く。

 

 (涙目ね…、余程嫌な過去でもあったのね)

 

 二人の関係性を何と無く悟った愛は、可哀想な物を見る目でパステルを観察していた。

 

「ヒール!」

 シィルはランスの少しやけどした背中を回復させるとランスに手を貸し立ち上がらせた。

 

「くそっ!」

 ランスは炎の矢が飛んで来た方向に顔を向けた。

 そこには逃げ始めた小さな影が一つ。

 

「お前か!志津香ぁぁぁ!!!」

 と、ランスは怒りの表情で志津香を追っかる。

 

「粘着地面!」

「とーう!!何度も食らってたまるかー!!」

「くっ!!」

 体が小さくなった志津香は何とかランスから逃げて廻っていた。

 

 

 

「あ、…用事を言いそびれてしまったではないか…」

 ランスが走って行った後、パステルがはぁとため息を漏らした

 

「あのぉ、ランス様に用事って…?」

 パステルはシィルをちらっと一瞥する。

 

「うむ、少しカラー総出で森の結界の調査をすることになってのぉ。そこで二、三日の間リセットを預けようということになったのじゃ」

「は、はぁ…」

 リセットって何の事だろうとシィルが考えているのを気にも留め巣にパステルは続けた。

 

「わらわは反対したのじゃがリセットがどうしてもというのでな…」

 と会場を見ると志津香を追っかけるランスをさらにリセットとピグが笑顔で追いかけていた。

 その視線の先にいるカラーの子供を見てシィルは合点がいった。

 

 

「しつこいわね!!炎の矢!」

「がはははー、そんなへなちょこなぞ当たるかー!」

 ひょーいとランスは炎の矢を避ける。

 

「きゃはははー!!」

「ブーン」「このばかちんがー」「そんのーじょーいー」

 そのランスの後ろをリセットが大声で笑いながら追いかけ、その上空ではピグが分裂しがブンブンと飛び回っていた。

 会場の人達はそれを眺め、笑う者やため息をつく者と反応は様々だ。

 

 

「教育に悪いので預けたくはないのじゃがのぅ…」

 はぁ、とパステルは深いため息を着き、頭を抱えた。

 

「そうですね、あれは悪い見本の塊です」

 表情を暗くしたパステルに愛が何気なく同情の言葉をかけた。

 

「おお、お主は解ってくれるのか?ここの女子共はどうもあ奴の認識をはき違えているようでのぅ…」

「貴方も気苦労が絶えないですね」

「ランス殿はあれで良いのだ」

「?ランスがどうかしましたか?」

 クルックーと謙信を見てパステルと愛は同時に深いため息を漏らした。

 

「まぁよい、少し休ませてもらおうかの」

「では、こちらに部屋を用意させていただきます」

 と、何時の間にか現れたビスケッタにパステルはビクっと体を跳ねさせる。

 

「お、驚かすでない!」

「申し訳ありません」

 ぺこりと頭を下げたビスケッタにフンと鼻息を荒くすると、ビスケッタに案内を任せ、パステルは会場を後にした。

 

 

「…女王様かぁ、なんか凄いことになってるなぁ」

「そうだ、ランス殿はいつも凄い吾人に囲まれている」

 謙信はキラキラと笑顔でシィルをに同調する。

 

「はぁ…。貴方もそうとう凄いんだけど、流石に女王や法王相手じゃ霞んできちゃうわね」

 愛は眩しいほどの笑顔の謙信を見る。

 出来れば謙信には幸せになって貰いたいと常々思っている愛は謙信の恋のライバル連中の顔を思い浮かべ、 本日何度目になるか、深いため息をつく。

 

 

「ああ居た、シィルさん、久しぶり」

 そこへ、マジックが現れシィルに声をかけた。

 

「あ、マジック様、お久しぶりです」

 頭を下げるシィル、此方も付き合いの長くなる相手に少し気を緩めた。

 

「今日はあなたの快気祝いと聞いてガンジー王に許可をもらってウルザと遊びに来たわよ」

「そんなわざわざ、ありがとうございます」

 もう一度頭を下げるシィルを制止するよう苦笑いをするマジック。

 

「マジック殿、お久しぶりです」

「あなたはJAPANの軍神さん、久しぶりね」

 マジックは謙信と愛と握手した。

 

「それで、ウルザさんは?」

 愛が質問するとマジックがため息を着きつつ返事をした。

 

「…それがね、ここへ来る途中のうし車の中にアニスが隠れててね…」

「ア、アニスさんが…?」

 シィルの頬に嫌な汗が流れた。

 

「そう、だから外のうし車でウルザが中に入るのを止めてくれているの、」

 マジックがため息を漏らすと外から『ちゅどーん』と大爆発の音が聞こえ、会場の皆がざわついた。

 

「アニス殿?」

「ああ、知らないのね。アニスはそうね…、一言で言うなら自然災害、かな」

「自然、災害…?」

 人につけられる敬称ではない、謙信は想像しようとムムと小首を傾げた

 

「とにかく。ここに入れたら会場、というよりこの城がなくなりかねないわね」

 マジック溜息をつき、シィルはハハハと乾いた声で眉を寄せながら笑った。

 

「だから長居できないの。今日は挨拶だけでごめんね、シィルさん」

「いえ、そんな、とんでもないです!来て頂いただけでもう泣いちゃいそうです!」

 事実、ランスの為ではなく自分の為に来てくれたのだと思うと胸が熱くなる。

 

「あはは、まぁ最初は父が来ようとしてたんだけどね、でもランスが嫌がると思って…」

「そう、ですね…」

 マジックとシィル、二人は苦笑いを浮かべる

 『どーん』と二度目の轟音が城の外で響いた

 

「…ごめんね、今日はこれで帰るわ。謙信さんもまたね」

「ああ、また会おう」

 とマジックは手を振りながら城から足早に出て行った。

 

 

「はぁー、なんだか緊張しっぱなしですぅ」

「大変ですね、心中察します、」

「ありがとうございます」

 シィルがため息を付くと、ランスがリセットを小脇に抱え帰ってきた。

 リセットは抱えられじたばたと手足を動かしながら笑っている。

 

「むー、」「きゃははは」

 ランスは難しい顔をしていた。

 

「ランス様、どうかしました?」

 シィルはランスに、側のテーブルに置かれた水を手渡した。

 その水をランスが一気に飲み干すと、

 

「なんであいつがいるんだ…?」

「誰ですか?」

「志津香を外まで追っかけたらアニスが居た…、慌てて逃げて来たのだ」

 ランスはリセットを手放した、と言うか落とした。

 

「きゃ!え~、もう終わり―?」

 リセットは不満そうにランスの腕を捕まえた。

 

「貴方にも苦手があるのね…」

「あいつは別だ、」

 首をコキコキ鳴らしながら愛の質問に答え、ため息をついた。

 

「あー、死ぬかと思った」

「ランスは死にません、私が回復します」

 いつの間にか居なくなって、いつの間にか戻って来ていたクルックーがランスの袖の煤を払った。

 

「あ、クルックーさん、いつの間に?」

「はい、ランスの悲鳴が聞こえた気がしたので外に行ってました」

「でもすごかったよ~!ひゅーどかーんって!」

 リセットは身振り手振りで外の大惨事を伝えようとしている。

 

「最後のあれ、凄かったねー、おとーさん!」

 飛び跳ねるリセットの頭に手を置きめんどくさそうに「あーはいはい」と返事をしている。

 

「さっきマジック様が来ていましたよ?」

「ああ、さっき外で会った、ウルザと一緒にアニスを引きずって帰ったよ」

 ランスは溜息を付き、テーブルの食事に手を伸ばした。

 

「ランス」

「ん?なんだ?」

 ランスはキャッキャ言いながら腕にしがみつくリセットを振り回しながらクルックーに振り向く。

 

「急な話で悪いのですが、どなたかに護衛を頼めないでしょうか?」

「どっか行くのか?」

「ええ、仕事で教会を2か所程出向かなくてはならなくなりまして、三日程で良いのですが」

「ん?アルカネ―ぜはどうした?」

「風邪です」

「風邪か……、」

 風邪ならば仕方ないとランスはまだリセットをぶんぶん振りまわしながら周りを見た。

 

「わたしが行こうか?」

「貴方は仕事があります」

 謙信の言葉に瞬時に愛が言葉を返すと「そうか、では仕方ない」と声を漏らす。

 

「お、丁度いい人がいるではないか、」

 とランスは何処か満足げなリセットを降ろし、大きく手を振る。

 

「おーい、戦姫―」

 会場の端で会話もせずもくもくと、しかし上品に食事をしている戦姫を大声で呼ぶ。

 こちらに気付いた戦姫は食事を中断し、歩み寄ってきた。

 

「どうした?大将、戦いか?」

「いやいや、いきなり物騒な事を言うな」

 戦姫の期待のまなざしをランスは言葉で遮る。

 

「クルックーの護衛をして欲しいだけだ」

「よろしくお願いします」

 ぺこりとクルックーは戦姫に頭を下げる。

 

「なるほど、了解した」

 戦姫はあっさりと頷くとクルックーに質問をする。

 

「して、どこに行くのだ?魔族の領地か?」

「いえ、自由都市の教会に向かいます」

「そう、か…」

 戦姫は期待の言葉を聞けず少し肩を落とす。

 

「お、そうだ、あいつも連れて行け」

 ランスは徐に両手を合わせ、パンパンと鳴らす。

 …しーん、

 もう一度手を鳴らす。

 …しーん、

 

「だー!かーなーみー!!」

「なによ…」

 すぅっとランスの背後にムスッとした表情のかなみが現れた。

 

「手を叩いたら三秒以内に出て来いといったではないか、」

 かなみはため息をつきながら、

 

「…今、はじめて聞いたわよ」

「む…、そういや夢の中だったか」

 ランスはむぅと顎に手を当てる

 

「え、夢の中って…。私、ランスの夢の中に出て来たの?」

 少し声を抑え気味にランスに質問をする、かなみは少しドキドキする胸を抑えた。

 

「そうだ」

「そ、そう…」

 

 (え?なに?ちょっとうれしいじゃない。夢の中に出てくるとか…、恋人の会話、みたい)

 

 (夢の中でアヘアヘ言わせていたのだが…、まぁいっか)

 

 ランスは不自然なかなみの幸せそうな顔を見ていらない事は言わないことにした。

 

「それで、かなみ殿も付いてくるのか?」

「え?」

 急に戦姫に話を振られ、かなみは首をかしげる。

「うむ、こいつは役たたずだが色々便利だぞ?」

「ちょっと、どういう事よ…」

「私の護衛に付いてきて欲しいと言う話です」

 かなみはクルックーの方をちらっと見た後、ランスを睨む。

 

「なんで私が…?」

「行け」

「ちょ!」

 ランスは無表情でかなみに言い放った。

 

 (わたしにここから出てけっていうの???)

 

 かなみは少し泣きそうな顔になる。

 

「俺様の忍者だろ?だったら俺様の女を守るのも任務だ」

「…なに?私、いらない子なの…?」

 かなみはランスを上目づかいに見る。

 

「あー、…お前の力が必要だ。お前にしか頼めないんだ、」

 ランスはかなみの肩を両手でつかみ、真面目な顔をしてかなみに頼む。

 

「わ、わかった、わよ」

 

 (恋人の私にしか頼めないか…)

 

 (ちょろい)

 

 かなみはランスの言葉を良い方向へ脳内変換をしていた、その赤らめたかなみの表情を見ていた愛は涙が出そうになった。

 

「かなみさん」

 シィルに声をかけられたかなみはハッとにやけ顔を抑えシィルに振り向く。

 

「シィルちゃん、それに謙信さんと愛さん」

「久しぶりだな、かなみ殿」

「御無沙汰しております」

 謙信と愛は会釈するとかなみも会釈した。

 

「それで、今夜にでも出たいのですが」

「随分急ね、いいわよ、その前に子供をメナドに預けてくるからちょっとまってて」

 とかなみは会場を見渡し、自分で招待したのであろう親友のメナドの処へ歩いて行った。

 

 

「…?子供?」

 シィルはかなみの後ろ姿を不思議そうに見ていた。

 

 

「まぁ、なにかあったらあいつに言え。俺様にすぐに伝えてくれるだろう」

 ランスは歩き去るかなみの背を見ながらクルックーに言う。

 

「おとーさん」

 それまで静かにしていたリセットがランスに声をかけた。

 

「なんだ?」

「私、眠たくなっちゃった」

 と、リセットは大きくあくびをし、その頬を何気なくランスはつまむ。

 

「…おろーさん、いらいよ、」

 ランスはリセットの頬から指を離すとビスケッタを呼ぶ。

 

「はい、お部屋の準備はできております。リセット様、こちらです」

「おとーさんも一緒に寝よ」

「俺様はまだ眠くない…ふぁ」

 と、リセットがまたあくびをするとランスにもあくびがうつった。

 

「…俺も寝るか、シィル」

「はい、なんですか?」

 ランスは会場に残るワイワイと温まってきた会場を見た。

 

「後は頼んだぞ」

 ランスはシィルの頭にポンと手を置きさっさとリセットとともに部屋に帰って行った。

 

「え…、えー」

 シィルは泣きそうな顔で会場に残る人達を見ながら頭を抱えた。

 

「…自由人ですね」←愛、無表情

「はい、ランスは自由です」←クルックー、同じく無表情

「大将らしいな」←戦姫、更に無表情

「器が大きくて素敵ではないか」←謙信、優しく微笑む

 

 頭を抱えるシィルを他所に、愛、クルックー、戦姫、謙信はランスの後ろ姿に感想を漏らす。

 これだけの大物の集まりにシィルに同情の視線を送りつつ愛は、

 

「シィルさん、お疲れ様です」←愛、無表情

 と同情の手を涙目のシィルの肩に置いた。




ランスを最後にやったのは去年かな、大分覚えていないのでもう一度1からやり直すべきか悩みます

戦国ランスでは愛が一番好きでした、性格的に、


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