お待たせしました。
最近忙しくて書き上がったのが先程です^^;
それにしても、昼間に何気なく覗いたら日刊ランキングに載っていてとても驚きました。
これもこんな駄文を読んで頂いている皆様のお陰です。
本当にありがとうございます!
エリカと美月に自己紹介をした後は特に何があるわけでもなく、エリカに勧められたケーキ屋もといカフェテリアで昼食をとり帰宅した。エリカと美月の二人が兄さんと深雪の空気にいろいろ言いたげな顔をしていたが、俺としてはもう慣れたものなのでスルーした。
そして次の日の朝。
既に当たり前になった早起きをし、顔を洗うと動きやすい服に着替えてダイニングに降りる。
「おはよう、紅夜」
「おはよう兄さん。深雪もおはよう」
「おはよう紅夜。ジュースはいる?」
「ああ、もらうよ」
タイミングとしてはちょうどよかったようで、兄さんも降りてきたばかりらしい。深雪から受け取ったフレッシュジュースを一気に飲み干すと、いつも通り兄さんと出掛けようとしたとき、深雪が珍しく一緒に行きたいと言い出し、三人で家を出た。
家を出た俺たちは徒歩で目的地に向かっていた。……とは言っても、普通に歩いているわけではない。
深雪はローラーブレードで一度もキックをしないで坂道を滑り上がっている。その速度は時速60キロ近い。そして、兄さんは深雪の隣を一歩のストライドが10メートル近い走りで並走している。もちろん俺も普通に走っているのではなく、魔法を使っている。
使っているのは兄さんたちの使っている加速魔法と移動魔法の複合術式ではなく、加速魔法単体だ。効果は兄さんたちと同じでベクトル操作だが、俺の場合は移動魔法を使っていないので、少しでも失敗すると大きく飛び上がってしまうことになる。だが、この移動方法には慣れたもので、今ではポケットに手を突っ込んで某一方通行スタイルで走ったり、アクロバティックなことをしてみたりしていても余裕がある。
この場合、兄さんたちの方が魔法制御は難しいが、移動魔法を使っていない俺の方は身のこなしの訓練になる。
走ること10分、俺たちは目的地である小高い丘の上にある寺に着いた。
その寺の門を兄さんとくぐると同時に稽古が始まった。稽古とは言っても何か指導があるわけでもなく、中級以下の門人たちによる総掛かりだ。とはいえ、この手荒い歓迎にも慣れたもので、襲い掛かってくる門人を手早く倒していく。
そして最後の一人を地に伏せたところで視界の端に、怯える深雪と手をワキワキとさせながら詰め寄る先生――――九重八雲という何とも危ない光景が映った。
またか、と呆れながらも同じく門人を倒した兄さんと目を合わせると、先生に二人同時に襲い掛かった。
「先生、どうぞ。お兄様と紅夜もいかがですか」
「おお、深雪くん、ありがとう」
「サンキュー」
「……少し、待ってくれ」
既に恒例となっている騒動が終わり、深雪からタオルとコップを受け取る。
汗こそ掻いているが、まだまだ余裕のありそうな先生と、座り込んではいるがまだ動ける俺は笑顔で受け取るが、地に仰向けで倒れて余裕のない兄さんはしばらく呼吸を整えた後で受け取った。
何故兄さんが倒れ伏しているのに俺が無事かといえば、単に俺が途中で抜けたからだ。それでも、途中まで俺と兄さんの二人を相手にしていたのに余裕がありそうな先生は正直、化け物だと思う。
稽古で汚れた服を魔法を使ってきれいにすると、深雪が持ってきた朝ご飯を食べることにする。
「もう、体術だけなら達也くんと紅夜くんには敵わないかもしれないねぇ……」
縁側に腰を下ろし、サンドイッチを頬張っていると、珍しく先生が俺と達也を褒めてくれた。だが先生が言うとあまり褒められている気がしないのは何故だろうか?
「体術で互角なのにあれだけ一方的にボコボコにされるというのも喜べることではありませんが……」
「しかも二人掛かりで」
「それは当然というものだよ。僕は君たちの師匠で、さっきは僕の土俵で相手をしていたんだから。君たちはまだ15歳。半人前の君たちに遅れをとるようでは、弟子に逃げられてしまいそうだ」
「お兄様と紅夜はもう少し素直になられた方がよろしいかと存じます。先生が珍しく褒めてくださったのですから、胸を張って高笑いしていらしたらいいと思います」
「……それはそれで、ちょっと嫌な奴に見えると思うが……」
「寧ろ見てて痛い人だよな、それ」
……何故か【ダークネス・ブラッド】を片手に高笑いしている自分の姿が思い浮かんだが、頭を振ってその幻覚を振り払う。
俺は決して中二病では無い……はずだ。うん。
俺たちは学校に着くと兄さんと別れ、深雪とともにA組の教室に向かう。教室に入ると早速とばかりに深雪の周囲に人だかりができるが、いつものことなのでスルーすると自分の席に向かう。
「紅夜君、おはよう」
「おはようございます、紅夜さん」
「ああ、雫とほのかか、おはよう。雫とは席が近いみたいだな、よろしく」
「うん、よろしく」
運のいいことに雫と席が近くのようで、二人に挨拶をすると雫の後ろの席に座る。
「あの、紅夜さん。お姉さんのことあのままでいいんですか?」
そう言ってほのかが視線を向けた先には、深雪がクラスの半数近くに囲まれている光景だった。……まあ、可哀想だとは思うが助けるきはない。
「あんなのいつものことだし、それに俺があの中に入ったら状況が悪化するだけだろ」
「なんでですか?」
「……ああ、なるほど」
俺の言葉にほのかは首を傾げているが、雫は理解したようで小さく頷いていた。
分かっていないほのかの為にヒントとして周囲を見るように伝える。周囲をそっと観察すると深雪の周りに集まっていないクラスメイトのうち、半数以上が俺たちのことを見ていた。
女子は俺に話掛けようかと迷っていて、男子から向けられる視線は女子たちの態度と雫とほのかと仲良く話している俺への嫉妬。
そんな状況を見ればさすがにほのかも分かったようで、苦笑を浮かべる。
「分かっただろ? 俺が止めに入ったら、深雪の周りの奴らも同じような反応をするだけだろうし」
「ん、確かに」
「あはは……」
「そういえば二人はもう受講登録は済ませたのか?」
ふと気になり、話題を変えるためにも口に出す。
「うん」
「はい、終わってます」
「じゃあ、終わってないのは俺だけか」
そういうことならさっさと終わらせてしまった方がいいだろう。俺は情報端末を立ち上げると利用規約やらなんやらを高速で頭に叩き込みキーボードを叩いて受講登録を済ませる。
と、ちょうどそのとき教室の扉が開き教師が入ってきたので、全員が席に着き教師の説明が始まった。
◆
「んん? 何この状況……」
「修羅場?」
「違うだろ……いや、ある意味似てるか?」
「お兄さん、妹さんをください。みたいな?」
「どちらかというと、恋人とその仲を引き裂こうとしてる人達じゃないか?」
「そんなこと言ってる場合ですか!?」
雫と軽口を叩き合っていると、ほのかに焦った様子で注意される。
「だってさ、アレを止めようとしても逆効果だと思うぞ?」
「確かに」
「それは……」
そう言いながら視線を向けた先には今まさに啖呵を切っている美月の姿だった。
「良い加減に諦めたらどうなんですか? 深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」
こうなったのは、放課後、俺と深雪を待っていた達也に深雪についてきたクラスメイトが難癖をつけたことが発端らしい。そんな一科生に切れた美月が切れたというわけだ。
そんな状況確認をしているうちに話しはさらにエスカレートしていく。
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ?」
「……どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」
「ハッ、おもしれぇ! 是非とも教えてもらおうじゃねぇか」
美月と、確かレオだったか? あの二人の言葉は悪手だ。冷静さを失っている今では相手を煽るだけだ。
……これは少々不味いことになってきたな。
「だったら教えてやる!」
激昂した男子生徒が特化型CADの銃口をレオに突きつけた。
だが、それも無意味に終わる。エリカが一科生のCADを弾き飛ばしたのだ。
「この間合いなら身体を動かした方が速いのよね」
「それは同感だがテメェ今、俺の手ごとブッ叩くつもりだっただろ」
突然言い合いを始めたエリカとレオに呆気に取られていた一科生が我を取り戻した。
事態を止めようと思ったのか、ほのかがCADに指を走らせる。
さすがに、止めようかと、目を閉じ【
ちょうどその時、飛んできたサイオン弾がほのかの術式が霧散した。
「止めなさい! 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
声を発した人物に視線を向けて、ほのかの顔色は蒼白になる。
その人物とは生徒会長の七草真由美だった。
「あなたたち、1ーAと1ーE組の生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」
冷たい声で命令をしたのは確か風紀委員の委員長の渡辺摩利だったか? 彼女はCADを既に待機状態にしている。
そんな張り詰めた雰囲気の中、兄さんが摩利の前に進み出た。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうつもりだったんですが、あまりに真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」
兄さんの白々しいとも思える言葉に摩利は冷笑を浮かべてさらに追求した。
「では、その後に1ーAの生徒が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのはどうしてだ?」
「驚いたんでしょう。条件反射で起動プロセスを実行できるとは、さすが一科生ですね」
「君の友人は、魔法によって攻撃されそうになっていたわけだが、それでも悪ふざけだと主張するのかね?」
「攻撃と言っても、彼女が発動しようと意図したのは目くらましの閃光魔法ですよ。それも、失明したり視力障害を起こしたりする程のレベルではありませんでしたから」
摩利の冷笑が感嘆に変わる。
「ほぅ……どうやら君は、展開された起動式を読みとることができるらしいな」
「実技は苦手ですが、分析は得意です」
「……誤魔化すのも得意なようだ」
兄さんを値踏みするような視線に俺も前に進み出る。
「兄さんの言う通り、本当にちょっとした行き違いだったんです。それに、彼女が魔法を発動するまでの状況を知っていたようでしたから、遠くで見ていたのでしょう? それなのに魔法が発動される寸前まで手を出さなかったということは、そこまでは校則に反していないんですよね? でしたら、そこまで問題にすることではないと思います。ちょっとした行き違いで先輩方の御手を煩わすのも申し訳ないですしね」
俺が笑顔でそう言うと摩利は何も言うことができないのか、悔しそうに黙り込む。
「摩利、もういいじゃない。達也くん、紅夜くん、本当にただの見学だったのよね?」
兄さんと俺が同時に頷くと真由美は笑顔を浮かべた。
「生徒同士で教え合うことは禁止されてされているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方がいいでしょうね」
「……会長がこう仰せられていることでもありますし、今回は不問にします。以後このようなこのようなことがないように」
全員が慌てて姿勢を正し、一斉に頭を下げる。そんな俺たちに見向きもせず摩利は踵を返した。
が、一歩踏み出したところで足を止め、背を向けたまま問い掛けを発した。
「君たちの名前は?」
そう言って振り向いた摩利の目は、俺と兄さんを映していた。
「1年E組、司波達也です」
「1年A組、司波紅夜です」
「覚えておこう」
そう言って摩利たちは立ち去って行った。
急いで書いたのでミスがあるかもしれませんが、見つけた場合は教えてくれるとありがたいです。