魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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明けましておめでとうございます。

ポケモンが楽しすぎる今日この頃。
ポケモンの小説書きたい欲が凄いけど、絶対難しいよね……。

ちなみに毎年この時間に投稿する話は、31日の15時から22時の間に書いています。
宿題は後回しにするタイプ。

あと、お気に入り4000突破ありがとうございます。
圧倒的感謝……!!



来訪者編XVI

 

プラズマの余熱が肌を焼き、深紅の髪が炎のように揺らめく。此方を睨め付ける瞳は、彼女の蒼穹とは似ても似つかない金色に染まっていた。

 

「……リーナか」

 

呟き反応を見るが応えはない。それは彼女が「アンジェリーナ」ではなく「アンジー・シリウス」として立っているからなのだろう。

リーナから一切視線を外さないように警戒しながら、残りのキャパシティは全てエイドスの情報収集に回すが、やはりエイドス側からではパレードを打ち破ることはできないようだった。しかし、それ自体は大した問題ではない。いくらエイドスの情報を改竄しても、プシオンを観る俺の眼には無力だ。どういう訳か、位置座標のエイドスは改竄していないようだが……

 

問題は先ほど放たれたプラズマビーム。

 

現代魔法において、プラズマを放つだけの魔法なら然程珍しいものではない。だが、それが指向性を持ち完全に収束されたビームならば話は違ってくる。あれだけの威力を持ちながら完全に制御されたビームを放つのに、どれだけ魔法力が必要になるのか。恐らくあの魔法を放つ為に普段【パレード】で位置座標の改竄に使っている魔法演算領域を割いているのだろう。

深雪にも勝らずとも劣らない魔法力を持つリーナを持ってしても、多大なるリソースを割かなければならない魔法。さらに僅かに視えた放出系を基礎として構築された魔法式。これらが示すのは即ち────

 

「ヘビィ・メタル・バースト……?」

「────っ」

 

疑念を含んだ呟きだったが、その言葉に金色が小さく揺れ動いたのを俺の眼は間違いなく捉えていた。その反応があれば、今の魔法がヘビィ・メタル・バーストだと確信するには十分だ。

 

戦略級魔法【ヘビィ・メタル・バースト】

 

重金属を高エネルギープラズマに変化させ周囲にプラズマをまき散らす、数ある戦略級の中でも最大の威力を持つ魔法だ。

しかし、ヘビィ・メタル・バーストは戦略級の名が指す通り、広範囲殲滅型の魔法だったはず。だが、今の攻撃はプラズマを収束させてビームとしている上に、周囲の住宅地に一切被害がない事から、有効範囲までもが完璧に制御されているのは間違いない。

ここまで多くの事象改変を行う為に必要な魔法力は、()()()()()()()では足りないはずだ。それをどうしてリーナ1人で使えているのか。その秘密は恐らく、リーナが持っている杖。先ほど魔法の発射口となっていたあの杖こそがその秘密を握っているのだろう。

正直、今すぐにでもあの杖を調べ尽くしたい衝動に駆られるが、それを行おうとしたらもう一度あの杖からプラズマが放たれるのは想像に難くない。

 

そして何よりも問題なのは、その放たれたプラズマビームを防ぐ手立てを俺が持ち得ていないことだ。

 

現在の間合いは60メートルはあるが、先ほどの攻撃はその距離を2ミリ秒で詰めてきた。発動されてからでは対処できるような強度を持つ魔法は間に合わず、発動までの間も速すぎる為に術式焼却では後手を取るだろう。

 

だが、それほどの速度を持つのなら、それが例えプラズマだったとしても強い衝撃波が発生するはずだ。それがなかったということは、あらかじめプラズマの通り道が作ってあったのは間違いない。つまり、その通り道を先に察知すれば対処することも不可能ではないはずだ。

 

僅かな兆候でも見逃さないように知覚を総動員してリーナを観察していると、突如としてリーナが踵を返し振り返ると、薄く、笑う。誘っているのは、明らかだった。

悩んだのは一瞬。罠があるのは間違いないが、それを差し置いて往来の真ん中で魔法を打ち合うわけにもいかない。それに、罠があろうが何だろうが、俺が負けるはずがない。

自分を鼓舞するように、そして相手を挑発するように、不敵な笑みを浮かべる。

 

その視線を受けて尚、リーナは笑うと、軽やかに地面を蹴って跳躍した。

 

 

 

 

 

 

東京という煌びやかな街の中に埋もれるように存在する小さな空き地。昼夜を問わず明るい街の中にある暗い空白地帯。そこにある小さな街灯の下で、リーナは黄金の髪を晒していた。

空き地に一歩踏み入れて、気づく。夜の黒い帳の下に、さらに被さるように展開された光学系魔法。恐らく監視衛星や成層圏プラットフォームのカメラを遮る効果を持つ魔法。そしてそれが、この空き地にかけられている唯一の魔法だった。

 

「コウヤ」

 

罠の一つもないことに意外感を持っていると、除き見られる心配がなくなったからか、はたまた別の理由か。リーナは普段と同じように俺の名前を呼んだ。

 

「まさか本当についてくるとは思わなかったわ」

「女性の誘いは断らない主義なんだよ」

「嘘ね、嘘」

 

軽い冗談を取り付く島もなく切り捨てられ、おどけるように肩を竦ませる。

 

「リーナだって、誘うにしても随分とつまらない場所を選んだじゃないか」

「これで十分よ。アナタにも、ワタシにも」

「随分と自信家だな」

「アナタは自惚れ過ぎね」

 

まあ否定できないな、なんて内心で小さく笑っていると、リーナは脇下で抱えるように杖を構え、こちらへと向けてきた。

 

「コウヤ。投降しなさい。アナタがどんなに強くても、このブリオネイクの前では無力よ」

「ブリオネイク、ね……」

 

綴りから考えて、元はブリューナクか? それは何とも、運命的な話じゃないか。

最近使えるようになった魔法の名前を思い返して、小さく笑う。

 

それを勧告の否定と捉えたのか。

 

リーナの持つ杖の先についた円筒の中に、魔法式が構築されたのを知覚が捉えた。術式焼却は────間に合わない。

反射的に起動式を()()()()()()()()()、障壁魔法を構築する。

 

杖の先端が煌めいた。

 

障壁とせめぎ合ったのは、ほんの一瞬。ガラスが割れるような音と共に細い閃光が右腕の側をかすめた。

右肘の上に久しく感じることのなかった激痛が走る。衝撃に体が揺れ、その勢いを利用して後ろに大きく跳んだ。生垣を飛び越え、着地する。骨まで抉られ辛うじてつながっている右腕に気を取られ、片膝をつくと、プラズマの刃が目の前の生垣を焼き払った。

左手でCADを構えたまま、虚空に消えるプラズマの刃を観察する。

 

「ブリオネイク。太陽神ルーの持つブリューナクを再現したという意味か? 俺を自惚れていると言うなら、そっちは自惚れが過ぎるぞ」

 

杖を構えたまま、歩み寄ってくるリーナに語りかける。

 

「そうかしら? コウヤは今にも死ぬかもしれないのに?」

 

焼け落ちた生垣を挟んだ位置で立ち止まると、杖の中で再び起動式が展開される。

 

杖の中に仕込まれた重金属をプラズマに分解する魔法。そして、魔法によって生み出されたプラズマが、それを包む円筒の中で刃へと形を変える。

構えたCADのすぐ先に突き付けられた刃を見て、最後のピースが嵌る音が聞こえた。

 

「……自惚れが過ぎるという言葉は撤回しよう。まさか、FAE理論を実用化させていたとはね」

 

俺のセリフを今まで冷たい表情で聞いていたリーナだったが、FAE理論を口にした瞬間、大きく目を見開いて驚きを露わにした。

 

「どうしてアナタがFAEセオリーを知っているの?」

「別におかしな事じゃないだろ。アレはUSNAと日本の共同で行われた研究だ」

「でもあれは極秘研究よ! しかも破棄された研究のはずだわ!」

「その極秘を君は知っていて、破棄されたはずの研究成果がそこにあるじゃないか」

 

言葉に詰まったリーナを見て薄く笑い、会話を続ける。

 

「フリー・アフター・エグゼキューション。魔法の発動直後に生じる物理法則の破綻した僅かな時間に魔法を差し込むことによって、物理法則を完全に無視した改変を行うという理論だ」

 

 

「実に面白い理論だよ。これを利用すれば、物理法則によって縛られることなく事象改変を行える。例えば、拡散するはずのものを収束させて指向性を持たせたり、拡散する性質そのものを抑え込んで、一定の形状変化させることもできるはずだ。そのプラズマの刃みたいにね」

 

 

 

「だけど魔法発動直後に生じる物理法則の破綻なんて、ほとんどないに等しい。忌々しいことに、世界の修正力とやらが働かないのは、1ミリ秒にも満たない僅かな時間だ。そこに魔法を差し込むなんて、人間の反応速度では不可能に近い。だからFAE理論は、理論止まりで実証されることはなかった」

 

 

 

 

「まさかそれを────その物理法則を遮断する結界の中で魔法を発動させることによって、無理やり物理破綻のタイムラグを伸ばすなんて。それを考えた技術者は間違いなく天才だよ。……ああ、ヘビィ・メタル・バーストを考えたのもその技術者か。だったら、あの魔法の完成度の高さにも納得がいく。確かにリーナの言う通り、俺は自惚れてたみたいだな」

 

 

 

 

 

「コウヤ!」

 

 

 

 

 

俺の言葉を聞いていたリーナが突然大きな声を上げた。いつの間にかプラズマの刃が消えていたブリオネイクを構え直し、こちらを強く睨みつけてくる。

 

「もう一度だけ言うわ。投降しなさい!」

 

それは、戦意が失われそうな自分を奮い立てるような、そんな叫び声に聞こえた。

 

 

「俺を捕らえてどうするつもりだ?」

 

 

薄く、笑う。

 

 

「人体実験か? 俺は魔法力が高いから、その秘密を暴く為に体中を弄り回すのかもな」

 

 

リーナの顔が青く染まる。

 

 

「それとも、洗脳か? 便利だからな。実力があって何でも言うことを聞く死兵は」

 

 

それは、いつか聞かせた毒。

その続き。

 

 

 

「──そうやって、戦争の道具にするんだろう?」

 

 

 

 

 

 

「──……っ、動けなくしてでも連れて行く!」

 

何かを振り切るように告げたリーナが、ブリオネイクの先端を紅夜の足先へと向けた。

絶対絶命の状況。左手にCADは握られているが、引き金を引く様子はなく、今から魔法を発動してもヘビィ・メタル・バーストの発動には間に合わない。

それでも尚、紅夜は笑う。

 

そして、発動された魔法が紅夜の足を貫く────ように見えた。

貫かれたはずの紅夜の体は、ゆらりと不自然に揺れ、消えた。

 

「なにが!?」

 

動揺を隠そうともせず慌てて周囲を見渡すリーナ。その視線が自分の背後まで及んだ瞬間、深紅の瞳と視線が交わった。

 

「おやすみ」

 

その瞬間、リーナが何を言おうとしたのか。ただ、音もなく口を開けて、それより先に紅夜が()()()()()CADの引き金が引かれた。

 

 

 

 

 

「リーナ」

 

後片付けを終えて戻って来た紅夜は、未だに意識を失っているリーナに聞こえていないと知りつつも語りかける。

 

「やっぱり君には軍人は向いてないよ」

 

例えば最初にヘビィ・メタル・バーストを撃って来た時、周囲の被害を考えずに魔法を放っていたら、紅夜は間違いなく戦闘不能になっていただろう。

ヘビィ・メタル・バーストで右手を狙った時も、最初から両足を吹き飛ばすつもりで撃たれていたら、もっと大きなダメージを負ったのは間違いない。

FAE理論も別にバレたところでリーナには関係のないはずだったのに、律儀に紅夜の話に付き合っていた。

何よりも、紅夜の話にあんなにも動揺したことが、彼女の甘さを表していた。

 

「だからあんなにも、精神が無防備になる」

 

話に付き合わなければ、揺らぐことはなかった。普段の彼女なら、紅夜が発動した魔法に気付けないはずがない。リーナならば──クドウならば気付ければ対処できる程度には、簡単な魔法だったはずなのだ。

 

「やっぱり君は、シリウスには向いてない」

 

呟き、地面に倒れたリーナを抱えて、気づく。

 

「……この服、気に入ってたんだけどな」

 

右側だけが半袖になった服を見て、小さくため息をついた。

 

 

 




 
毎年後書きが長くなるのは小説的になぁ……と思いつつ、一年に1、2回しか更新しないから話したいことが多いのでついつい後書きが増えるんですよね。
まあ、活動報告でやれって話なんですが。

小説でどうしてこの表現を選んだのか、とか。もっとこうした方がいいとか。
ふと、他の人と文書について語り合ってみたいと思ったので、もしかしたら活動報告でそういう話をするかも。メッセージとかくれてもいいのよ?
というわけで、みんな作者のお気に入り登録をしてくれよな!(ダイマ)(ダイマックスではない)

それでは皆様、今年もよろしくお願いします。


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