魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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今回も三人称です。

急いで書いたので、少々適当な部分があったり、ミスが多かったりするかもしれませんので、後で加筆修正する可能性があります。御容赦ください。




追憶編Ⅳ

 

 

 

 

敵が降伏をしたことにより兵士たちの安堵が広がる。が、それは少し早すぎた。

 

「司令部より伝達! 敵艦隊別働隊と思われる艦影が粟国島北方より接近中! 高速巡洋艦4隻、駆逐艦8隻!」

 

この報告を聞いて紅夜は思わず舌打ちをした。

 

(チッ、こんなところで原作との違いが出てくるのか!)

 

原作よりも6隻多い艦隊数、だが紅夜はすぐに問題はないと判断した。

達也の【マテリアル・バースト】に艦隊数が少し増えた程度は問題ない。敵の砲撃の数が増えるだろうが自分が全て防ぎきればいい。

紅夜はそう考えていた。

 

その時、隣で通信機を使い何かを話していた風間大尉が大きな声を出した。

 

「予想時間20分後に、当地点は敵艦砲の有効射程圏内に入る! 総員、捕虜を連行し、内陸部へ退避せよ!」

 

その命令に紅夜はため息を吐いた。味方より多い捕虜を抱えて、一体どう逃げ切るつもりだろうか? そもそも生きて帰らなければ捕虜も逃げ出してしまうというのに。風間大尉も同様の考えなのだろう。顔にこそ出していないが、この命令を快く思っていないのは明白だった。いっそ殺してしまえばいいのに、なんて一瞬浮かんだ考えを振り払う。

 

「特尉方、君たちは先に基地へ帰投したまえ」

「敵巡洋艦の正確な位置は分かりますか?」

「それは分かるが……真田!」

「海上レーダーとリンクしました。特尉のバイザーに転送しますか?」

 

達也はその前に、と真田の質問を遮って、射程伸張術式組込型のデバイスを要求した。訝し気にする風間大尉に達也は有線通信のラインを出し、内緒話を始める。そして話終わった風間大尉は自分と真田中尉を残して撤退命令を出した。

 

「紅夜、お前も撤退を」

「断る」

「……何故だ?」

 

あまりの速さで即答され、達也は少し沈黙した後に理由を尋ねた。

 

「兄さん、【マテリアル・バースト】を使うつもりだろ。その間無防備になる兄さんを誰が守るんだよ」

「それは……」

「な? だから俺も残る」

「……分かったよ」

 

達也は紅夜を説得するのは無理だと分かったようで、諦めたようにため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五分後、達也の手元には要求した通り射程伸張術式組込型が握られていた。

達也はマシンガンから弾丸を抜き取り、一つずつ両手で合唱するポーズで手に持ち、再びマシンガンに込めなおすという傍から見れば意味の分からないことを五回繰り返していた。

だが、【叡智の眼(ソフィア・サイト)】でエイドスを視ている紅夜だけは何が起きているかを正確に理解していた。

達也がやっているのは銃弾を一旦元素レベルまで分解し、それを再成で元通りにするという作業だった。

 

「敵艦有効射程距離内到達予測時間、残り十分、敵艦はほぼ真西の方角三十キロを航行中……届くのかい?」

「試してみるしかありません」

 

達也はそう答えると、武装デバイスを構える。そして魔法を発動した。

 

銃口の先に筒状の術式が展開、本来ならそこまでで魔法は終了するはずなのだが、達也はさらに物体加速仮想領域の先にもう一つの仮想領域を展開させた。

そして達也は狙撃銃を発砲した。

 

「……ダメですね。二十キロしか届きませんでした。敵艦が二十キロメートル以内に入るのを待つしかありません」

「しかしそれでは、こちらも敵の射程内に入ってしまう!」

「分かってます」

「二人は基地に戻ってください。ここは俺と兄さんだけで十分です」

「バカなことを言うな! 君たちも戻るんだ」

 

真田中尉は何度も説得を試みるが、すべて突っぱねられる。

 

「我々では代行できないのか?」

「無理です」

 

風間大尉の問に達也が即答すると風間大尉は予想外のことを言ってきた。

 

「では、我々もここに残るとしよう」

「……自分が失敗すれば、お二人も巻き添えですが」

「百パーセント成功する作戦などありえんし、戦死の可能性が全くない戦場もあり得ない。勝敗が兵家の常ならば、生死は兵士の常だ」

 

風間大尉の言葉は達也が説得を断念するには十分だった。

 

 

沖合に水の柱が上がる。

それは紅夜たちが敵艦隊の有効射程内に入った合図でもあった。

 

達也はデバイスを構えると四発の弾丸を試しに撃つと弾道を情報として追う。

それと同時に敵艦隊の砲撃が始まった。

 

弾道を追うことに集中している達也は魔法が使えない。そこで、予想通り紅夜が砲撃を防ぐことになった。

原作よりも圧倒的に多い砲撃を紅夜は必至に防いでいく。

 

いくら紅夜が強力な魔法師だろうと必ず限界というものが存在する。サイオン量は残り半分を切り、酷使した魔法演算領域は徐々に痛みを訴えてきていた。いや、寧ろアレだけ後先考えずに魔法を使って、その程度しか消耗していないというのは異常と言うべきだ。

 

「援護します!」

 

そんなとき、穂波の声が聞こえ、同時に防御魔法が展開された。

紅夜としては本当は来てほしくなかったが、今の状況で助かることは間違いなかった。

 

原作では、ここで魔法酷使をしたあまり衰弱死してしまうことになるが、自分がいる以上、原作よりは負担はないはずだ。そう考え、紅夜は砲撃の四分の一を波穂に任せることにした。

少しだけ余裕ができた紅夜は敵艦への嫌がらせに所々に【ダブル・バウンド】を使い、砲弾を倍速で跳ね返す。

 

そして遂に達也の【マテリアル・バースト】が放たれた。

 

次の瞬間、眩い閃光が爆ぜ、遅れて轟音が鳴り響いく。

 

そして後には不気味な沈黙が残るのみ。

それはつまり、敵艦隊は消滅したことを示していた。

 

だが、ホッと一息を吐く間も無く波の鳴動が伝わる。

 

「津波だ! 退避!」

「ダメです! 間に合いません!」

 

風間が大声で叫ぶが真田が悲痛な声を上げる。

 

原作との違いはここでも現れていた。原作では艦隊数は合計6隻だったが、今回出てきた艦隊は合計10隻。当然それに伴い達也が放った【マテリアル・バースト】の威力も増加していた。

それにより、原作では撤退が間に合ったが、今回の津波はどう考えても逃げ切れる規模ではなかった。

 

全員がこれまでか、と諦めにも似た感情を抱いている中、一人だけ生への活路を諦めていない者がいた。

 

「兄さん、アレ(・・)を使う」

 

そう、紅夜だ。

 

「アレ? まさか、あの魔法(・・・・)か? だが、あれは万全の状態でもかなりの消耗をするはずだ。それを今の状態で使ったら……」

「だけど他に今の状況を切り抜ける方法があるか?」

「それは……」

 

達也は紅夜の使うという魔法に、リスクが高いと難色を示すが、紅夜の切り返しに言葉に詰まる。

 

「待て、今の口振りだと特尉にはこの状況を打破する方法があるように聞こえるが……」

「はい、あります」

 

風間の問いに紅夜は力強く確かな自信を持って答える。

 

「ならばそれをやってはくれないか。先ほどの話から、その魔法には相応のリスクがあるようだが、今のままでは、全員が津波に飲み込まれてしまう」

 

風間にまで紅夜の味方をされてしまえば達也もそれ以上反論するわけにもいかず、小さくため息を吐くと「しょうがないですね」と呟いた。

 

「よし、それじゃあ兄さん、津波の情報を視せてくれ。流石に【叡智の眼(ソフィア・サイト)】の情報は重すぎる」

「わかった」

 

達也は紅夜の肩に手を置くと【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】を使い、イデアに接続した。

達也が接続したイデアを辿り保存されたエイドスの情報を読み取ると、魔法の発動エリアを指定していく。

 

「距離15キロ、高さ約18メートル、幅6キロ弱といったところか」

 

そう呟くと次の瞬間、紅夜からまるで暴風でも起きたかのように感じるほど莫大な量のサイオンが吹き出した。

 

「なんというサイオン量だ……」

 

そんな風間の声はもはや紅夜には聞こえていない。それ程集中をしていた。

 

使う魔法は紅夜の奥の手。

その魔法式が起こす効果は単純、原子振動の超加速。

 

四葉家一族は必然的に生れながらにして二つの系統を持つ魔法師を内包していた。一つは精神干渉の異能を強化された者。もう一つは強力で歪な魔法演算領域を備えている者だ。

この特徴はランダムに生まれる。例えば深夜は前者の特徴を強く受け継ぎ「精神構造干渉」という強化な精神干渉魔法を持っており、真夜は後者として精神干渉魔法を持たない代わりに彼女特有の魔法を生れながらに会得している。そして、深雪も深夜の子供らしく、生れながらにして「精神停止」という強力な精神干渉魔法を修得していた。しかし、その性質は精神干渉に留まらず、物理的な干渉に対しても影響を及ぼし、彼女の減速系統魔法は特異な魔法とすら言えるものだった。

 

魔法師の能力には、遺伝が大きく影響する。当然、紅夜もこの例に漏れず、特殊な魔法能力を保持していた。その性質は、双子である深雪に近しく、しかし正反対のもの。

紅夜特有の魔法、それは原子振動の加速による熱量の増加という単純明解な力だった。しかし、単純だからこそ、その威力には目を見張るものがある。

 

紅夜が【ダークネス・ブラッド】の引き金を引いた瞬間、指定したエリア内の温度は一瞬にして100万度にまで達した。

 

100万度、それは太陽の表面、コロナ部分の温度に匹敵する。

当然の如く、天災である津波でもその温度には敵うはずもなく、津波は何の前触れもなく一瞬で蒸発した。同時に、蒸発した水を収束系魔法を利用しエリア指定で遍在化させ、2次被害を防ぐ。

 

結果、残ったのは僅かな波と低空に発生した積乱雲のみ。

 

これが、人類が初めて『天災』に勝利した瞬間であり、また、戦略級魔法【灼熱劫火(ゲヘナフレイム)】が初めて使用された瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

そんな、扉をノックする音で紅夜の意識は浮上した。

どうやら少し休憩するだけのつもりだったが、いつの間にかうたた寝をしていたようだ。

ベッドで横になっていた身体を起こし目を擦る。

 

すると、もう一度扉をノックする音が聞こえ、紅夜は慌てて返事を返した。

 

「あ、はい、どうぞ」

「お邪魔するわね」

「真夜様?」

 

そう言って部屋に入ってきたのはなんと、紅夜の叔母に当たる存在、四葉現当主である四葉真夜だった。当主が自ら相手の元に足を運ぶ事は滅多にない。

紅夜も突然のことに驚き、ベッドから立ち上がろうとする。

そんな紅夜に「そのままでいいわ」と言って、真夜はベッドの傍に置いてある深雪や達也が使うお見舞い用の小さな椅子に座った。

 

「……何の用ですか?」

「あら、御見舞いに来ただけだというのに、その対応は酷くないかしら」

「貴女が何の用もなく訪ねてきたことなんて殆どなかったと思うんですが」

「そうだったかしら?」

 

口元に小さな微笑を浮かべ、白々しくとぼけるふりをする真夜に紅夜は小さくため息を吐く。それは明らかに当主に対する対応ではなかった。

真夜は事あるごとに面倒ごとを持って来る為に、紅夜もそろそろうんざりしてきているのだ。誰も来ないで一人でいるよりはマシだったが、それでも面倒なことに変わりはない。

 

「体調の具合は如何かしら」

「まあ、かなり落ち着いて来てますよ。なにせ、あれからもう3ヶ月以上経ってますからね」

 

そう、紅夜の言う通り、あの沖縄の事件から既に3ヶ月以上の月日が流れていた。

紅夜はあの後、魔法演算領域の酷使とサイオンの使い過ぎによって倒れ、体調を崩していたのだ。

 

その後も真夜とたわいのない会話を続けていると、真夜が唐突に切り出した。

 

「そうそう、貴方に伝えておきたいことがあるのよ」

「……御見舞いに来たんじゃなかったんですか?」

「そうよ。この話は御見舞いのついで」

 

そんな屁理屈とも言えることを語る真夜に紅夜はジトッとした視線を向けるが、真夜が全く堪えていないのを見ると諦めたように首を振った。

 

「それで、伝えておきたいことって何ですか」

「貴方のことを氷雨夜光(ひさめ やこう)という名前で戦略級魔法師として101旅団、独立魔装隊特務士官の名義で軍に所属してもらうわ」

「……マジで?」

「マジよ」

 

思わず素が出た紅夜に真夜はクスリと笑いながら同じように返した。

 

「101旅団に所属するまでは予想はしてましたが、戦略級魔法師としてっていうのは想定外なんですけど」

「仕方がないじゃない。貴方と達也があんなに派手なことをするんですもの。情報操作も大変なのよ。それなら貴方に注目を集めてしまおうと思ったのよ」

「……どう考えても、ついでで済ませて良い話じゃないでしょう」

 

そんな紅夜のせめてもの皮肉は、真夜に黙殺されたのだった。

 

 

 

 




 
紅夜のチートっぷりどうでしたか? まあ、この程度では達也には及びませんけど。
ちなみに、この小説は主人公最強です。

つまり……分かりますよね?


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