魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

46 / 53

ま、間に合った……
ギリギリで書いたので、普段より雑です。短いです。すみません。
気付けば来訪者編を書き始めて、そろそろ一年という……
せめて今年中には終わらせられるよう頑張ります。

それでは皆様良いお年を




来訪者編Ⅺ

 

 

 

身体の一部にサイオンを収束、そして圧縮。

普段【術式解体(グラム・デモリッション)】を使う時のイメージ。いつもとは違うのがここからだ。本来であれば、そのまま術式に向かって放出するのだが、今求めているのは情報次元への干渉。必要なのは情報次元での認識。

眼を啓き、認識する。七色に煌めく不定の世界の中、狙い定めるのは孤立情報体( 式神 )。仮初とはいえ、孤立情報体はプシオンを核にしているが故に、変動する視界の中でも見逃すことはなくしっかりと視えていた。目視した標的に向かって、情報次元での座標を設定。そして、通常の放出のイメージではなく、指定した座標でサイオンを解放する。

イメージ通り、情報次元で孤立情報体の位置に出現したサイオン弾は、膨大なサイオン量を以て式神を構成する情報をかき消した。

 

「──よし」

 

理想の結果をもたらすことに成功して、思わず声が上がる。未だに制御ができないかもしれないと不安に思っていたが、成果は上々だ。これなら、恐らく()()の使用にも問題はないだろう。そんなことを考えていると、気分上々といった俺の横で、兄さんが悔し気に呻いた。

 

「うーん。こればっかりは適正の問題だよねぇ。できない人間には、どれだけ努力してもできない類の技だからね、これは」

 

先生が俺たちの結果を見比べて呟く。兄さんを突き放すような言葉に、深雪が鋭い視線を飛ばすが先生は表情一つ変えない。もっとも、こめかみ辺りに冷や汗を浮かべているのは隠しきれていなかったが。

 

「3日で(ことわり)の世界に遠当てを放てるんだから、適正がないということではないと思うんだけどね」

 

取り繕うような先生の言葉は、しかし嘘ではないのは確実だった。むしろ、たった3日で感覚を掴んだのなら、十分に早いと言えるだろう。それでも兄さんが悔しそうにしているのは、俺が遠当てを1日でモノにしたことが大きい。もともと俺の魔法は兄さんよりも情報次元への干渉に傾倒しているので、こればっかりは先生の言う通り生まれ持った才能の問題だ。

 

「兄さんは既に何処を狙えばいいのか分かってるんだから、アプローチの仕方を変えるか、いっそ別の攻撃手段を作ってもいいと思う」

「買い被りすぎだ。行き詰っているのは認めるが、そんな簡単に新しい魔法を作るのは難しい」

 

よりによって、兄さんが俺に向かってそんなことを言うのか……

兄さんのあんまりと言えばあんまりの言葉に、思わず心の中でため息を吐く。

 

「そうかな? 君は術式の改良や開発にかけては非凡な才を持っているじゃないか。自分から可能性を狭めてしまうのは得策じゃないと思うけどねぇ」

「そうそう。新しい魔法を作るんだったら、俺でも手伝えるし」

 

先生の言葉にも難色を示す兄さんに、後押しするように言葉を重ねる。実際詳しくは覚えていないが、俺は原作知識で兄さんが遠当てを改良して使えるようにしたことを知っているので、術式の改良をするだけならかなり容易く終わるはずだ。

 

「そうですよ、お兄様! 僭越ながら、どちらも諦めてしまわれる必要はないかと存じます。術式解体による直接攻撃を第一の対策としつつ、新たな魔法の開発を平行して進めればよろしいのではないでしょうか」

 

深雪の言ってることは普通であれば無茶苦茶なことなのだが、俺はそれが不可能ではないと知っている。先生の言う通り、兄さんの術式関係の才能はずば抜けているのだ。

あの兄さんが深雪の期待に応えようとしないはずもなく、これが止めとなって兄さんは肯定の意で首を振った。

 

 

 

 

 

 

二月上旬。皆が雪辱を晴らす為にパラサイト対策を進める中、凶報は太平洋の向こう側から唐突に舞い込んだ。俺たちが朝食を食べる為にリビングに集まっていた時、まるでタイミングを図ったようにそのニュースはテレビから流れてきた。

 

「これは……!」

「雫が教えてくれた情報と同じか」

「……内容は随分脚色されているようだけどな」

 

ニュースの内容は、とある政府関係者が匿名で内部告発したという形をとっていた。その言葉を簡単にまとめるなら、雫がもたらした情報をより詳細にしただけのものだ。

日本の兵器──俺の魔法に対抗して、魔法師たちがマイクロブラックホールの生成実験を強行し、異界からデーモン(パラサイト)を呼び出したこと。魔法師たちはデーモンを使役して日本の兵器に対応しようとしたが、制御に失敗して身体を乗っ取られたこと。昨年末から世間を騒がせている吸血鬼の正体が、身体を乗っ取られた魔法師たちによるものだということ。

ニュースでは、これらを踏まえた上で魔法という力の危険性を訴え、その力が本当に必要であるかを我々はもう一度考えなければならない、という形で締めくくられていた。

 

「うまくオブラートに包んではいるが……」

「ではやはり……?」

「魔法師排斥が本音だろうね」

「また面倒な……」

 

思わず呟き、首を振る。兄さんの言葉も強張ったようなものではなく、呆れを多分に含んでいるものだった。正直、俺は魔法師排斥など本当にどうでもいいのだが、兄さんの目標や物語的にも魔法師排斥運動というのは邪魔な存在だ。いずれ必ず物語の敵として立ちはだかるだろう。そう考えると、とてつもなく面倒だった。

 

「魔法師ではないものの方が多いのだから、メディアがどちらにつくかなんて考えるまでもないか。それより、問題なのはニュースソースだ」

「ちょうど、俺たちのクラスに詳しそうなのがいるじゃないか」

 

朝食を食べ終えて立ち上がり、二人に向けてニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

第一高校前駅の改札口の前。ここから高校までは一本道で行けるために、電車通学の人は余程のことがない限り、必ずここを通る。予想通り、疲れた表情で改札から出てくる金髪の女性を見つけ、俺は笑顔で行くてを阻んだ。

 

「おはよう、リーナ」

 

俺の姿を認めた瞬間、リーナは慌てて反転しようとして──固まった。俺の視線の先、リーナの背後に立つ兄さんと深雪の気配に気づけたのは流石と言えるだろうが、少し遅すぎた。

 

「人の顔を見て逃げ出すなんて、酷いと思わないか?」

「ア、アハハハハ……」

 

誤魔化すように笑顔を浮かべるリーナに合わせ、俺も目を細めてニッコリ笑いかける。リーナの笑顔が引き攣ったように見えたが、きっと気のせいだろう。

 

「まあ良い。これは後でしっかりと話し合うとして、今は別に聞きたいことがある」

「……何の話?」

「二人とも、このままでは注目を集める。歩きながら話すとしよう」

 

後ろから追いついた兄さんに促されて、四人で学校に向けて歩き始める。リーナが警戒心を露わにしながらも抵抗せずに大人しくついてくるのは、ここで騒ぎを起こすのが拙いと分かっているからだ。

 

「今朝のニュースは見たか?」

「……見た。不本意だけど」

 

俺の質問に対して、リーナは本当に不本意だというのが分かる表情で答えた。

 

「アレはどこまで本当なんだ?」

 

ほぼ全てが嘘だと分かっていながらも、確認の為に問いかける。相手も俺たちが事情を察していると分かっているからか、隠す必要もないと不満を露わにした。

 

「肝心なところは全部嘘よ! 表面的な事実は押さえてあるから質が悪い! 情報操作の典型だわ!」

「やはり、か。しかし、あの内容は機密扱いだろう? 何故簡単に外部に漏れたんだ?」

 

声量こそ抑えているが、激しい感情を表す声音。それに対して質問を返すと、僅かな沈黙が入った。こうして口に出すと、雫の持ってきた情報源が気になるところだが、いったん頭の片隅に追いやってリーナの答えを待つ。

 

「…………『七賢人』よ、多分」

「七賢人?」

 

全く覚えのない固有名詞に、記憶を掘り返しながら言葉を繰り返す。しかし、いくら考えようと『七賢人』という単語に覚えがない。単純に忘れた原作知識の中にあった言葉なのか、それとも原作にはいなかった存在なのか。恐らくは前者なのだろうが、後者だった場合は色々と不安だ。

 

「The seven Sages って名乗る組織があるの。正体不明だけど」

「君たちに正体が分からない? USNA国内の組織なんだろ? そんなこと有り得るのか?」

「あるのよっ! 口惜しいことに!」

 

思わずといった様子で訊ねた兄さんに、リーナは本当に口惜しそうに答えた。

 

「七賢人って組織名も向こうから名乗ってきたもので、どんなに調べても尻尾が掴めないのよ。辛うじて分かっているのは、セイジの称号を持つ幹部が七人いるらしいってことだけ」

賢者(セイジ)ね……まんまじゃないか」

「だから正体が分からないって言ってるでしょうが!」

「ちょっとリーナ。お兄様に当たらないで」

「なっ、ワ……」

 

深雪のらしいと言えばらしい発言にリーナは爆発しそうになったが、深呼吸することで何とか抑え込んだ。

 

「……気にしたら負けよアンジェリーナ。あんなブラコン娘の発言を気にしてたらキリがないんだから。あんなブラコン気にしちゃ駄目ブラコン気にしちゃ駄目ブラコン駄目ブラコン駄目ブラコン駄目」

 

リーナが口の中で呟いていた言葉が辛うじて聞こえたが、恐らく近くにいた俺以外は気づいていないだろう。軽く同情の眼差しを向けながら、ブラコンって言葉を使うのかと、どうでもいいことを考える。

 

気を取り直して質問を続けているうちに、やがて学校の門が見えてきた。流石に校内で質問を続ける気もないし、聞きたいことも大体聞けたので、質問を切り上げる。

とはいえリーナとは同じクラスの為にわざわざ離れるほどの必要性もない。兄さんとは途中で別れ、普通の世間話をしながら同じ教室を目指す。

いくら思い返しても出てこなかった七賢人の詳細を考えながら、ふと深雪とリーナに挟まれている今の状況は両手に花かもしれない、などとくだらないことを思った。

 

 





(少し早いですが…)
明けましておめでとうございます。
亀更新でも完結目指して続けて行くつもりですので、今年もよろしくお願いします。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。