魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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遅れないで投稿できたのが久しぶりな気がします。
一応、一週間に一回更新を目指しているんですけどね……。
不定期更新タグが付いてるので多めに見てください。




来訪者編Ⅶ

 

 

 

パラサイトたちとの戦闘が起きた翌日。

俺は放課後に一人でクロス・フィールド部の第二部室に向かっていた。このクロス・フィールド部というのは、魔法戦技によるサバイバルゲームのクラブなのだが、もちろん俺がこの部活に所属しているというわけではない。では何故クロス・フィールド部に行くかというと、今朝駅で待ち伏せしていた真由美に放課後に来るように言われたからだ。

クロス・フィールド部は十文字克人が所属していたクラブで、その第二部室が部活連の非公式な会合に使われていることは暗黙の了解として知られていた。そして、クラブ引退後の克人が第二部室を私室的に使っているというのも、知る人ぞ知る公然の秘密だ。

予想通り、第二部室の扉を開くと中では真由美と克人が待っていた。

 

「独りか?」

「ええ、呼ばれたのは俺ひとりですし」

 

克人の言葉には深雪というよりも兄さんがいないのかという疑問が込められていたのだろう。しかし、十中八九話の内容が昨日の事である以上、兄さんを連れて来る必要はなかった。それに、もしも兄さんを連れてきていたら深雪まで一緒に来るとごねていたと思う。

 

「紅夜くん、昨日の晩、外出しなかった?」

「ええ、出かけましたよ。バイクで」

 

真由美の質問の意図が読めている以上、わざわざ時間をかける必要はないだろうと考え、聞かれてもいない内に情報を追加しておく。

 

「……何処に行ったか教えてもらってもいいかしら?」

 

間が空いたのは俺が素直に答えるとは思っていなかったからか。例え予想外のことだとしても、こう簡単に動揺を表に出してしまうのは真由美が腹芸に向いていない証拠だろう。

俺としては探られても痛くなるような腹は無い、とはいかないものの、知られてもどうにかなる程度のことなので、一々黒い会話をする必要もそのつもりもない。

 

「件の吸血鬼との交戦中の幹比古――ああ、吉田に呼ばれて、吸血鬼と吸血鬼を追っていたであろう正体不明の魔法師とやり合いました」

 

正体不明などというのは完全に嘘なのだが、真由美と克人からも特に不審がられている様子はない。まあ、こうして嘘を吐くことには昔から慣れているので、腹芸に向かない二人では見抜くことはできないだろう。

 

「何時からだ?」

「昨日は呼ばれたから駆け付けただけですよ。俺は幹比古たちの捜索には加わっていません」

 

幹比古たちの捜索に加わってないだけで独自に探していますが、と口に出すことはなく内心だけで付け足しておく。

 

「二人とも1-Eの西城レオンハルトが襲われたことは知っていますね?」

 

誰に、とは言わずに疑問の形を取りながらも断定する。当然、二人から帰って来たのも肯定だった。

 

「一体何が起こっているのか、知りたいのは先輩たちだけではありません。犯人を見つけて、引き渡して、それで終わりというのは到底安心できるものではありません。単独犯なのか複数犯なのか、一体どうやって血を抜いているのか、これ以外にも様々な疑問が上がるというのに、何も分からずに幕引きなど到底許容できるものではありまん」

 

許容できないのは俺じゃないけど。

原作知識で俺はパラサイトの正体がほぼ分かっているのだから、これも完全に嘘。

 

「先輩たちがどの程度状況を把握していて、この事件をどう終わらせるかを教えてもらわないと、協力はできませんね」

 

これも嘘、もう既に知っていることだ。原作知識様様である。

ここで協力され行動を共にすることになっては寧ろ俺が困るのだが、一応最低限の協力的態度だけは見せておかなければならない。

 

「紅夜くんが協力を約束してくれたら、私たちの掴んでいる情報を教えるわ。ただし、わかっているとは思うけど他言無用よ」

「了解です。協力しましょう」

 

間髪入れずに即答した俺に真由美は胡乱気な視線を向けてくる。

 

「……それは私たちの捜査隊に加わってくれるということ?」

「まあ、そう取ってもらって大丈夫です」

「何故急に? 師族会議の通達を見なかったわけではあるまい」

 

克人が言っているのはパラサイトの捜査に当たって十師族から通達された協力要請のことだろう。本来一般の高校生が見れるようなものではないが、俺は一般的な高校生とはかけ離れているのでノーカウントとする。それに、マル秘指定されていない情報なら案外簡単に入手することができるのだ。

 

「百家でもない俺が出る必要はないでしょう? 直接依頼されれば別ですけど」

 

白々しさしか感じないセリフだが、建前としては完璧なもので文句のつけようがないはずだ。これがもしも腹芸に秀でている相手なら別だったかもしれないが、少なくとも目の前の二人はそういったことが苦手なタイプであり、内心でどうあれ形の上では頷くことしかできない。

 

「……でもいいの? さっきは協力する前に情報を開示することが条件だって言ってたと思うんだけど」

「そこにこだわってたら何時までたっても話が進まないでしょう。なに、騙されたら相応の対応をとるまでですよ」

 

正直すぎるように見せかけて脅しのような圧力をかけている俺の言葉に、真由美は乾いた笑いを漏らした。

 

「了解。じゃあ今の段階で分かっていること全部説明するわね。ただその前に、一言だけいいかしら?」

「何ですか」

「紅夜くん、性格悪すぎよ」

「知ってます」

「…………」

 

 

 

真由美たちから情報を引き出し、協力する際に単独行動することを取り付けることに成功した俺は、意気揚々と生徒会室に向かっていた。

放課後とは言っても外はまだ明るく、時計の針も十二時を半分ほど回った程度。それも当然といえば当然で、今日が土曜日であるからだ。授業が終わった俺は、そのまま真由美たちとの話し合いに向かったので昼食をとっていない。そこで生徒会室で深雪が昼食をもち、待ってくれているのだ。真由美たちとの話し合いはそう時間がかからないだろうと言った為、恐らく深雪と兄さんは俺が戻ってくるのを待っているだろう。

 

少し急ぎ足で階段を一段飛ばししながら登り、生徒会室の前に到着する。すると、まるで図っていたかのように生徒会室の扉が開き、中からリーナが出てきた。俺が脇に避けるのと、リーナが扉の陰に隠れたのはほとんど同時。俺としては偶然にドアを挟んで様子見する形になったわけだが、その状況が何だか漫画や小説にありそうな展開に思えて、自身の滑稽さに唇が吊り上がる。ちょっとした膠着状態から先に動いたのは俺だった。

普段なら譲るところを、レディファーストを無視してドアを通り抜ける。

 

「やあ、リーナ。調子はどうだい?」

 

すれ違い様に声をかけながら肩を軽くたたく。

 

「ハイ、コウヤ。上々よ。ありがとう」

 

いきなり身体を触るという、女性に対するボディタッチとしてセクハラと思われても仕方がない行動。しかしリーナはそれを気にした様子はなく、にこやかな顔で答え、お返しに俺の肩を二回叩いて出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末の夕食後。

自分の部屋に戻った俺は、設置されている中型スクリーンの画面を眺めながら、最後の調整をしていた。三分割されたスクリーンのメインセクションには、成層圏監視カメラが映し出した東京都心部のリアルタイム映像と、その上を移動する三種類の光点。サブセクションの上半分にはメインセクションに対応する道路地図とその上を動く光点。下半分にはテキストデータが三十秒間隔でスクロール表示されている。

この映像は全て独立魔装大隊のおかげによるものである。成層圏監視カメラは真田の協力、十師族の捜査隊と千葉の捜査隊のトレーサーシグナルは藤林が割り出してくれたからだ。妨害勢力――スターズだと思われる光点は、成層圏プラットフォームに搭載された傍受用無線機が補足したデータを、独立魔装大隊のスパコンで分析したものを流してもらっていた。

 

「しっかし、スターズの技術は凄いな」

 

作業に手を動かしながらも、スクリーンを見て呟く。

パラサイトの動きを直接確認することはできないが、パラサイトを探す三つの勢力の動きから大体の位置は絞り込める。そして、スターズだと推測される光点は、街路カメラ併設のセンサーも成層圏プラットフォームの観測機も使えないにも関わらず、いち早くパラサイトの動向に対応しているように見えた。

俺のおぼろげな記憶によれば特定のサイオンを感知する独自の技術を持っていたはずだが、その技術は日本にはないものだ。俺と兄さんが全ての技術を網羅しているとは思っていもいないが、悔しいという気持ちと、それを上回る知的好奇心が俺の中で疼いていた。

だが、今はそんなことをしている場合ではない。

 

「――――よし、行くか」

 

スクリーンを確認しながらも、端末のキーボードを叩いていた手を止める。そして先ほどまで調整していた黒に紅いラインの入るCADと、紅を基調にして黒の装飾が施された特化型のCADを両腰のホルスターに仕舞い込んだ。さらに何時も日常生活などに使っている端末の形状をした汎用型CADをポケットに突っ込み、最後に着慣れた黒いハーフコートを羽織る。

 

扉を開き一階に降りると、リビングでは兄さんと深雪が俺が見ていたのと同じ映像を大型スクリーンで見ていた。俺が降りてきたのに気が付いたようで、二人は立ち上がると玄関まで見送りに来てくれる。

 

「紅夜、本当に行ってしまうの?」

「ああ、さっきも言っただろ? 大人しく兄さんと待っていてくれ」

 

俺の手を握り、どこか不安げな様子で問うてくる深雪に、あくまでも軽く微笑みながら返す。

夕食の前にも同じやり取りをしたはずなのだが、それでも深雪は納得できていないらしい。弟として深雪に心配されるのは素直に嬉しいのだが、深雪をわざわざ危険な場所には向かわせたくない。

俺の記憶が確かであれば、原作だと兄さんが出かけた後に先生が来て深雪を連れてきたが、兄さんが一緒にいるのであれば、先生がいたとしても深雪を危険な場所に近づけたりはしないだろう。

 

「大丈夫だって。横浜の時ほど危険はないだろうしね」

 

茶化すように言って笑えば、深雪も笑顔で俺の手を放してくれた。

 

「じゃあ、行ってくる」

「ああ、気をつけろよ」

「いってらっしゃい」

 

二人の声を背中に受けながら、俺は戦場に向かうための一歩を踏み出した。

 

 

 

 




 
また短めですね。まあ、今回は溜め回のようなものなので、次回はもう少し文字は多くなると思います。
日常より戦闘回の方が文字数が多くなるのはどうにかしたいところ。でも戦闘の方かサクサク書けて楽なんですよね。

で、前書きで定期更新を目指したいと言っておきながらアレですが、次回の更新は遅れると思います。申し訳ないです。


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