魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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大変お待たせしました!

遅くなった理由はドラクエです。当初は適当にやるつもりだったんですが、案外面白くてハマってました。――モンスター数さえどうにかなればなぁ……。
取り敢えずJOKERとレオソードはゲットしたんで満足です。あとは竜神王を作りたい。キンスペ配布はよ。

そんなわけでようやく投稿です。ですが、お待たせした割には今回の話は短いです。





来訪者編Ⅴ

 

 

 

地べたに座り込む俺の前で、兄さんと先生の激しい攻防が行われていた。

上下左右から撃ち出される拳や手刀、そして掌。更にはそれを躱し、絡めとり、払い合う。先生と兄さんの体術はほぼ互角。体力は兄さんの方が上。読み合いにおいては俺も兄さんも先生には遠く及ばない。故に、俺たちが先生に勝つには駆け引きをさせる暇も与えず攻め続けるしかない。そうした結果、兄さんより体力が少ない俺は、こうして退場しているのだが。

そんなことを考えている合間にも、二人の攻防は続いており、兄さんが先生の間合いに入り込み、強烈な突きを繰り出そうとしていた。そこで、【叡智の眼(ソフィア・サイト)】によって組手を視ていた俺は、先生の存在が揺らいだことを感知した。

同じように【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】で視ていたであろう兄さんは、先生に向かって【術式解散(グラム・ディスパージョン)】を放った。途端に消える先生の幻影であったもの。しかし、それを消しても先生の存在を掴み取ることはできなかった。

そこで俺は封印を緩めてから、良く視えるようになった眼で、何時も視ている場所の更に奥深くまで眼を凝らす。そうして視えるようになった先生の居場所は兄さんの前、兄さんが狙っていた場所の三十センチ先だった。兄さんは咄嗟に突きを伸ばすが、それは先生の体を残したフェイントであり、誘い込まれた兄さんの身体は八雲によって投げられ、地面に叩きつけられた。

 

 

 

「いやぁ、焦った焦った」

 

兄さんの関節を決めていた手を離して言った師匠のセリフは、普段と変わらず飄々としたものだったが、あながち嘘というわけではなさそうだった。

 

「先生、今のは何ですか?」

 

満足な受け身もとれぬままに地面に叩きつけられ、苦し気に咳込む兄さんが落ち着いたのを確認した俺は、体力が回復したこともあって、立ち上がると同時に問いかける。

 

「いや、まさか【纏衣の逃げ水】が破られるとは思わなかったよ」

 

汗をぬぐう仕草をしながら話す先生の言葉に、おぼろげな原作知識が反応する。詳しい効果は覚えていないが、確か兄さんの眼を誤魔化せるような術で、九島の使う【仮装行列(パレード)】の原型となった魔法だったと記憶している。

 

「その視ただけで術式を読み取ってしまう君たちの異能は、相手にとって脅威そのものだ。でも、それを逆手に取る手段がないわけじゃない」

「今の幻術がそれだと?」

 

ようやく立ち上がれるようになった兄さんが質問する。

 

「纏衣は本来、この世ならざるモノの眼を誤魔化す為の術なんだけどね」

 

先生の言葉に、俺は他の二人に気付かれないように笑う。

纏衣の術がこの世ならざるモノの眼を誤魔化す魔法なら、それを見抜けてしまった俺は一体何なのだろうか。まあ、ある意味では俺も『この世ならざるモノ』と言えるかもしれない。

そんな、どこか自虐染みたことを考えていると、兄さんの言葉で意識が引き戻される。

 

「師匠」

「うん? どうしたんだい?」

「今、この世ならざるモノの目と仰いましたが」

「ああ、成る程」

 

兄さんの問いかけに対し、先生はそれを予期していたかのように瞬時に答えた。

 

「僕たちが相手にするのは、人間ばかりじゃないよ。この世ならざるモノの相手は、それほど珍しいことじゃない」

「しかし、俺の友人の古式の術者は、本物の魔性に遭遇するのは極めて稀なことだと言っていましたが……」

「達也くんの友人と言うと、吉田家の次男か。まあ、彼の言っていることも間違いじゃないけど……君にしては、切り込みが浅いね」

 

先生はそこで一旦言葉を切る。もっとよく考えてみろということだろう。その言葉通りしばらく考え込んだ兄さんは、やがて答えを見つけたのか口を開いた。

 

「幹比古の言ったことは間違いではない。かといって、完全に正しくもない。そういうことですね? 本物の妖魔、化生と遭遇、つまり偶然出会うことは極めて稀であっても、偶然でなければ、何者かの作為の下でなら決して珍しくない、ということですか?」

「辛うじて及第点かな。うーん……達也くん程の知恵者でも記号化と先入観の罠を避けるのは難しいということか。ちなみに紅夜くんは分かるかい?」

「はい」

 

八雲の問いかけに対し俺が即答すると、二人とも少し驚いた様子を見せる。まあ、この答は兄さん程現代魔法の先入観にとらわれていないからこそ出たものだろう。俺は物事を論理的に考えることについては兄さんには及ばないが、その代わりに兄さんよりも柔軟な発想が出来ると自負している。

 

「多分現代魔法師でも全員接触したことがあるはず。特に兄さんは、その眼で知覚できるでしょ。名称にも入ってるんだから」

 

その言葉に兄さんはハッと目を見開く。その驚愕は予想を超えていたものだったのか、非常に珍しいことに、兄さんの口から「あっ」という声が零れた。

 

「紅夜くんは満点だ。達也くんも分かったようだね。現代魔法師がスピリチュアルビーイングと呼んでいるもの、つまり精霊も立派に『この世ならざるモノ』だ」

 

知性の有無は二の次だと続けて説明をする師匠だが、それは俺たち現代魔法師に理解しやすいようにこちらの理論に合わせて話しているからだろう。その証明に、先生は一通りの説明を終えると、そもそも精霊に意思がないことを確認できているのかと訊ねてきた。そして俺たちはその言葉を否定できない。いや、そもそも精霊に意思があるとした方が説明のつくことが多いくらいだ。それに、俺は精霊に意思があるのかは判らないが、精霊という存在が確固たる個として存在していることは解っている。

 

「師匠、もう一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「言ってごらん」

「現代魔法においては、精霊は自然現象に伴ってイデアに記述された情報体が、実態から剥離して生まれた孤立情報体だということになっています。そして元になった現象の情報を記述している為に、魔法式で方向性を定義することにより、その情報体から現象を再現できる。これが精霊魔法だと解釈されています」

 

なっているやされているという表現を使っていることからも、兄さんはこの解釈が完璧なものではないと理解できているのだろう。この解釈を先生は大方合っていると言った。それはつまり、少しの食い違いもあるということになる。だが、兄さんの追及は食い違いに対するものではないかった。

 

「人の幽体に寄生して人間を変質させるパラサイトは、一体何に由来する情報体なのでしょうか?」

「パラサイトか……イギリス風の表現だね。彼らが何に由来する情報生命体なのか、残念ながら僕も知らない。人の精神に干渉するのだから、精神現象に由来するものだとは思うけどね」

 

精神に由来する情報生命体。それはつまり、精神に由来する魔法という現象を紐解く重要な手がかりになるのではないか。四葉がこの存在を知ったら間違いなく手に入れようとするだろう。いや、確か原作知識ではそうなるように動いていた記憶がある。そしてそれは俺にとっても望まれること。魔法とは何か、精神とは何か、これを理解することが四葉の研究であり、俺の願いでもある。

 

「僕は人型の妖魔も動物型の妖怪も、情報生命体である妖霊がこの世の生物を変質させたモノじゃなかと考えている。そして、物理現象に由来する精霊がこの世界と背中合わせの影絵の世界を漂っているように、精神現象に由来する妖霊は精神世界と背中合わせの写し絵の世界からやってくるんじゃなかと思うんだ。遭遇例が少ないのは存在しないからではなく、僕たちがまだ精神を観察する術を十分に持たないからじゃないのかな。ロンドンに集まった連中からすれば異端の思想なんだろうけど、それが僕の偽らざる自説だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生の説は間違いなく本当のことだろう。

俺は原作知識から照らし合わせて、パラサイトの発生原因はUSNAで行われた余剰次元理論に基づくマイクロブラックホールの生成実験が原因となっていると考えている。これらのことから俺が導き出したのは、パラサイトがマイクロブラックホールを通し別次元から流れ込んだものだというもの。

余剰次元理論というのはそもそも異次元というものがあり、その異次元に重力が漏れ出しているという仮説から形作られているものだ。もしも、その異次元というのが先生の言う精神世界的なもの、もしくは魔法的世界であるのならば、異次元に干渉することで何かしらの安定を保っているであろう重力がブラックホールという形で消費された場合、物理的次元と精神・魔法的異次元の境界というものが揺らいでしまうのではないだろうか。そして揺らいだ境界から物質世界に流れ込んだのがパラサイトだとすれば、パラサイトとマイクロブラックホールの生成理論の関連性に辻褄が合う。

もしもこの仮説が事実だった場合、パラサイトがどういうものなのかを解析すれば、精神というものを理解することに大きく近づく。

 

そもそも、パラサイトが精神的情報生命体であり、それが異次元から流れ込んだものだとすれば、精神とは一体どこにあるのだろうか。

先生の言う精神を観察する術があったとして、その精神が何処にあるものなのか、精神とはどのように発生するのか、それが判明することはあるのだろうか。

俺は精神がどんなものか、どこにあるかは視知っていても解らない。

 

もしも、精神とは一体何なのかが理解できれば、世界が変わるのだろうか。

 

それを知りたくて、俺は精神を渇望する。

それが理解できれば、『物語』を終わらせることができるかもしれない。

故に、『物語』を傍観することはやめだ。

胸を焼く痛みに耐え、先を見据えよう。

 

 

そうすれば、俺がナニかが解るかもしれないのだから――――

 

 

 

 

 




 
何かノリで書いてたら、後半で紅夜くんが勝手に原作ブレイクを決意しました(ブレイクするとは言ってないない)

一応プロットは作ってあるんですが、ほとんど機能してないんですよね(笑)
次の投稿はもう少し早くできる……はずです。



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