魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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ギリギリ投稿。

危なかったです。前回の後書きの流れのままこの話しを書くのがズルズル遅れ、今日になってみれば、まだ千文字も書けていないという事態。慌てて書き上げ時間を確認して見れば、完成したのは投稿20分前。
そんなわけでミスがあったりするかもしれませんが、御容赦ください。




九校戦編Ⅻ

 

 

 

大会九日目。どうやら昨日の間に兄さんが後始末を終わらせたようなので、この日からは安心して試合の観戦を楽しむことができる。ミラージバットの試合も特に何か起こることはなく、深雪の優勝と共に一校の総合優勝が飾られた。

俺はまたも繰り上げになったパーティーのことを確認すると自分の部屋に戻りベッドに倒れ込む。原作では今日が兄さんが無頭竜を潰す日だったが、昨日の内にやってしまったので今は自分の部屋にいるだろう。

そういえば今頃は九島烈と風間が会っているころではないだろうか。うろ覚えだが四葉の戦力について話し合っていたはず。確かに四葉の戦力は強くなった。しかしそれは攻撃する為のものではなく、二度と悲劇を起こさない為に自分たちを護る力だ。それに俺と兄さんという戦略級の戦力が抜けた場合、四葉の力は他の十師族と同等までガタ落ちする恐れがある。

九島烈はそれを知っているのか、それとも知らずに言っているのか。あるいは何か他の狙いがあるのかもしれない。前々代当主で俺の祖父に当たる四葉元造と親しくしていたらしいので四葉を貶めるようなことはしないだろうが、弱体化を考えているとなると警戒せざるを得ない。まあ、向こうが直接的に手を出してくることはないだろうし、少なくとも俺の原作知識が残っている来年までは何もしないと考えていい。そんなことをつらつらと考えている内に俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ九校戦の最終日、今日行われるのはモノリスコードのみ。そのモノリスコードも克人や服部の活躍で危なげなく勝ち進み、ついにモノリスコード決勝戦、第一高校対第三高校が始まってた。

宿命の対決とでも言うべきこの試合は誰の目から見ても分かる程に一方的なものになっていた。先ほどから相手は氷の礫を飛ばしたり、崖を崩して岩を落としたり、沸騰させた水をぶつけたりと地形を利用した多種多様な攻撃が克人に向かって繰り出されている。だが、それらの攻撃は全て克人の張った障壁魔法に阻まれていた。様々な攻撃に対して克人は対応する障壁を幾重にも張り、全てを防ぎ、悠々と敵陣に向かう。

多重移動防壁魔法【ファランクス】。

この魔法は何種類もの防壁魔法を途切れさせることなく更新し続けるという高度な技術による持続力が強みだ。俺には克人のような高度な真似は不可能だ。元々、俺が障壁魔法があまり得意ではないことも理由の一つだが、それを抜きにしても感嘆するほどに克人の魔法は洗練されていた。

三高の選手は克人の歩みを止めることはできず徐々に距離は縮まっていく。そしてお互いの距離が十メートルを切ったところで克人の歩みが止まった。否、止まったのではない。一瞬の停滞は次の行動に向けての溜めだった。一歩、そして勢いよく地を蹴った。加速・移動魔法が掛かった克人の身体は水平に宙を飛ぶ。そのままショルダータックルで相手選手めがけて突っ込み自身の周囲に張ったままの対物障壁で相手を吹き飛ばした。克人は吹き飛ばした相手には目もくれず、次のターゲットめがけて跳躍した。相手がどんな魔法を行使しようとも、克人はそれを真っ向から叩き伏せる。なすすべもなく三人目の選手が吹き飛ばされ、圧倒的な結果でモノリスコードの優勝は一高に決まった。

 

 

 

「凄いですね……あれが十文字家の【ファランクス】ですか……」

 

観客席で手を叩きながら呟く深雪の感想はありふれたものだった。それだけ衝撃を受けている証拠だろう。実際、俺もこの試合、いや克人の魔法に圧倒されていた。あの鉄壁の防御を破るのにはどれだけの干渉力が必要になるのだろうか。少なくとも、俺がモノリスコードのレギュレーションの中で克人に勝つのは不可能に近いだろう。それこそあの防御を破るには特異魔法を使うことになるのは必須だ。

 

「違うな……あれは多分、本来の【ファランクス】じゃない。最後の攻撃……あれは【ファランクス】本来の使い方ではないように思える」

 

しかも兄さんが言ったように未だに本気ではないのだから恐れ入る。唯々感心して拍手を送っていると、ふと克人と目が合った。これは偶然ではないだろう。考えれば当然だ、兄さんが将輝に勝って克人は力を誇示するような試合をしたのだから、同じく将輝に勝った俺に対してアピールするのは必然だ。

フッと笑い、視線で俺はお前より強いと告げる克人に、俺は口角が上がるのを抑えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事に表彰式も終わり、閉会式の挨拶やその他諸々も終了した。それならば早く帰りたいところなのだが、そういうわけにもいかない。開会前と同じくパーティーが開催されるからだ。幸いなのは開会前の懇親会とは違って本当の意味で親睦を深める場だということか。面倒といえば面倒だが、開会前の下らない話がグダグダと続くパーティーよりもマシなことには違いなかった。それでも他校の生徒や大会関係者、挙句の果てにメディアの関係者まで纏わりついてくるので、うんざりとした気分になるのにはあまり変わりがないかもしれない。

そんな手合いの相手が面倒だったので、俺は将輝のもとへ避難していた。将輝も有名人には違いないが、一条ということがあり相手は少し遠慮するのだ。そこで俺と将輝が二人で話し合っていたら、声を掛けにくくなるというわけだ。将輝も俺と話したいことがある上に、面倒なのに纏わりつかれるのも嫌だと言って、快く了承してくれた。途中から吉祥寺も加わり、魔法の活用方法や戦術面など様々なことを話していた。兄さん以外の人物から魔法の専門的な考察を聞くのが面白くて、将輝を傍目に吉祥寺と話し込んでしまったのはご愛敬だろう。

まあ、そんなこんなでパーティーの名目通りに時間を有意義に使うことができたのだが、ここからがパーティーの本番、俺にとっては面倒な時間、ダンスの始まりだった。

 

「……メンド」

 

思わず呟いた俺を誰が責められようか。

 

「そんなこと言うもんじゃないぞ紅夜。……まあ気持ちは分からなくもないが」

 

……どうやら責める奴はいたようだ。

 

「分かるんだったら愚痴くらい言わせろよ、将輝」

 

苦笑する将輝に憂鬱な気分を吐き出すようにため息を吐く。将輝は生まれた時から慣れているかもしれないが、俺は元は一般人なのだ。この世界に完全に染まっている自覚はあるが、こういった部分はどうしても慣れることができない。いや、慣れることはできても、どうしても面倒だと思ってしまうのだ。さて、どうやってこのストレスを発散しようかと考えていると、一つ、この場で可能な発散方法を思いついた。

 

「じゃあ俺はお姉様と踊って来ることにするよ」

「は? お姉様って……」

 

キョトンとする将輝に俺はできるだけステキな笑顔を意識して笑う。

 

「もちろん深雪のことだ。じゃあ、頑張れよ!」

「……ちょ、ちょっと待て!」

 

固まった将輝に背を向け人の生垣に向かう。後ろから再起動した将輝のこえが聞こえるが、俺は努めて気が付いていないふりをした。

将輝をからかいストレス発散をしてスッキリしたところで改めて深雪のもとに向かって歩き出す。ここで周囲を見渡したりしてしまうと相手を探していると間違えられるので、真っ直ぐ目的地に視線を据える。さっきのはストレス発散も兼ねているが、深雪と踊るつもりなのは本当のことだった。最初に深雪と完璧な踊りを見せれば、ダンスに自信のない奴らは俺と深雪に声を掛けにくくなっているだろうという希望的観測があったからだ。問題は完璧なダンスを踊れるかだが、四葉として育てられた俺と深雪は基準よりも遥かに上手いはずだ。それに深雪とのダンスならば何度かしたことがあるので、息が合わないという心配もない。

人の壁をかき分けて何とか深雪の前に出る。都合の良いことに、どうやら集まっていた奴らは気後れして、まだ深雪を誘っていないようだ。確かに深雪のような美少女に声を掛けるのに戸惑うのは理解できるが、俺は深雪の弟なので、そこらへんの問題もなく自然体で深雪の前に進み出る。

 

「是非とも私と踊っていただけませんか?」

 

少々遊びながらも、作法に則り恭しく礼をした後、手を差し出す。

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

深雪も作法通りの礼をして、俺の手を取る。……ここで将輝をもう一度からかってやろうかとも考えたが、流石に可哀想なのでやめておくことにした。

 

 

 

その後、深雪とのダンスを終えたのだが、やはり希望的観測は希望に過ぎなかったようで、何人もの相手と踊る羽目になった。途中から知らない相手よりマシだということで、最終的にほとんどの時間を一校の生徒と踊っていたのだが。真由美と踊った時はあまりに変則的なステップで、めんどくさいと漏らした俺は悪くないと思う。その言葉を真由美に聞き咎められて足を思いっきり踏まれてしまったのはご愛敬だ。それでもステップが乱れなかった真由美は流石と言えた。

ダンスをぶっ続けでしていれば疲れるのは当然のことで、一息つきたくなった俺は同じく疲れたようにしている兄さんのもとに向かう。まあ俺と違い兄さんは精神的に疲れているようだったが。途中で俺と兄さんの分の飲み物を貰い、いざ兄さんに声を掛けようとしたとき、反対から向かって来る克人を見つけた。

 

「紅夜もいたか。丁度いい、二人とも付き合え」

 

いきなり来たと思えばそう告げるなり、突然のことに唖然とする俺たちを気にせず背を向けて歩き出す。どうやら拒否権はないらしい。

 

「……飲み物いる?」

「……ああ、いただこう」

 

兄さんにグラスを片方渡し、中身を一気に飲み干すと、空になったグラスを二人分ウェイトレスに渡して克人を追った。

 

 

会場から離れ静寂が支配する廊下を克人の背を追いかける中、俺は原作知識から似たような状況の記憶を引っ張ってきていた。すっかり忘れていたが確かにこんなこともあった。思い出したのはこの後の印象的なシーンに繋がっていたからだ。そうなると原作でいえば、そろそろ九校戦編が終了することだろう。

そんなことを考えている内に克人は目的地に着いたらしく、そこそこ広い庭で立ち止まる。

 

「よろしいのですか? そろそろ祝賀会が始まる頃だと思いますが」

「心配するな。すぐに済む」

 

兄さんの問に、おもむろに振り返った克人が短く答える。そして単刀直入に用件を問いただしてきた。

 

「司波、お前たちは十師族の一員だな?」

 

原作知識を持っている俺はこの問は分かっていたので動揺することはない。逆に言えば原作を思い出していなかった場合、動揺を露わにしていた可能性があるということだが。

本当に原作知識を思い出せてよかったと心の中で安堵する。

 

「いいえ。俺は十師族ではありません」

「まあ、一条に勝ったので疑う気持ちは分かりますよ」

 

兄さんの答えに乗る形で俺は明言することを避ける。兄さんと俺が兄弟なのだから兄さんが否定をしておけば俺が疑われることも先ずないと言える。

 

「――そうか」

 

じっと俺たちを見据えていた克人だったが、嘘はないと判断したのか無表情に頷いた。実際嘘は言ってないし。

 

「ならば十師族家代表補佐を務める魔法師として助言する。司波、お前たちは十師族になるべきだ」

「…………」

「そうだな……七草なんかどうだ?」

「どうだ、というのはもしかして結婚相手にどうだ? という意味ですか?」

「そうだ」

 

ここで真由美のことを俺たち二人に聞いているのは、どちらかでも十師族と結婚すればもう片方も自然と十師族の枠組みの中に入ることになるからだろう。

しかし何というか、言葉を失うとはこのことか。原作知識で知っていた、知ってはいたが、実際に目にするのとでは衝撃が違った。

 

「……七草会長の相手にはむしろ、十文字会頭のお名前が挙がっているのではありませんか?」

「確かにそういう話もあるな」

「……七草会長はタイプではないんですか?」

「いや? 七草はあれで中々、可愛いところがある」

 

これには兄さんも言葉を失くしていた。今の克人を見ていると、昼間の威風堂々とした姿が全て夢だったような気がしてくる。できれば今の方が夢だと嬉しいのだが、残念なことに間違いなく現実だった。

 

「もしかして歳を気にしているのか? フム……ならば七草の妹はどうだ? 最後に会ったのは二年前だが二人とも将来が楽しみな美形だった」

「……自分は会頭や会長とは違って一介の高校生なので、結婚とか婚約とかそういう話はまだ」

「俺も考えたこともありませんし」

「そういうものか?」

 

そういえば、本当にそういった話を考えたことはなかった。やはり元一般人としての感覚が抜けきらないのか。実際問題、秘密主義な四葉は婚約者問題とかをどうするつもりなのだろうか?

 

「そろそろ戻るか。二人とも、あまり遅くなるなよ」

 

何時の間にか話が終わっていた。どうやら現実逃避が上手くいったらしい。いや、現実逃避が上手くいくとか意味が解らないが。

 

「お兄様? 紅夜?」

 

深雪の声に兄さんと一緒に我に返った。

 

「どうされたのですか? 珍しいですね、私が近づいて来るのも分からないくらいボンヤリなさるなんて」

「……いや、ちょっと意外なものを見てな」

 

首を傾げる深雪に気にするなという意味を、そして気を取り直す意味も含めて首を振る。

 

「そういえばそろそろパーティーが終わる頃だな」

 

反射的に顔を顰める兄さんに深雪と一緒にクスクスとわらう。

 

「じゃあ俺は最後の曲くらい自分から踊って来ることにするよ。兄さんと深雪も祝賀会には遅れないようにな」

 

言外に祝賀会が始まるまで戻って来るなと告げてパーティー会場に戻る為に歩き出す。

最後の曲が既に流れ始めてしまっていたが、俺の足取りが早まることは無かった。

 

 

 

 

 





これで九校戦編はおしまいです。
次からは夏休み編に入りますが、正直あまり書くことがないので、オリジナル番外編みたいな形になると思います。……多分。
もしも書けなかった場合は夏休み編を飛ばして横浜騒乱戦編に入ることになります。番外編を書くにしても横浜騒乱編を書くにしても、ほとんど何も考えていないので、次の投稿はかなり遅れそうです。ご了承ください。

まあ、長くても一ヶ月くらいで投稿すると思うので気長にお待ちください。
ではでは、お付き合いいただきありがとうございました。



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