魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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ここからは紅夜の出番もほとんどないので駆け足で提供します。
(言えない、サブタイのローマ数字が大きくなるとカッコ悪いからだなんて絶対に言えない……!)




九校戦編Ⅺ

 

 

 

大会七日目。

今日は新人戦モノリスコードが行われる日でもあった。そして、原作通り事件は起きる。フライングにより開始直後に放たれた【破城槌】で廃ビルが崩れ、森崎たちが瓦礫の下敷きになってしまったのだ。原作知識を持つ紅夜はこの事故を止めることは可能だったのだが、原作からできるだけ剥離させたくない紅夜がこの事件に介入することはなかった。森崎たちには悪いが達也と深雪に関係ないことで原作を変えることはあまりしたくなかった為だ。まあ、それでも紅夜というイレギュラーな存在があるので原作が歪むのは避けられないだろうが。一応原作と違ったことが起きることを考えていろいろと対策、と言うほどでもないが準備はしていた。

 

紅夜がそんな感じでいろいろと動いている時、達也はミーティングルームに呼び出されて真由美や克人、摩利などの幹部たちにモノリスコードの出場を薦められているところだった。

 

「……二つほど、お聞きしてもいいですか?」

「ええ、何かしら」

 

真由美の許可をもらい達也は競技の予定について質問する、答えは予想通りのもの。だが、達也にとっては次の質問が一番重要なことだった。

 

「何故自分に白羽の矢が立ったのでしょう? 自分という特例を作るなら、一条選手に勝った紅夜を出場させる方が良いと思うんですが」

 

遠回しの拒絶、そして達也にとって今の質問は純粋な疑問でもあった。選手ですらない自分が出場するという特例が認められるくらいならば、既に二つの競技に出場している紅夜が三つ目の競技に出場するという特例も認められるのではないか。

そんな問いに、真由美は困った顔と嫌悪感が入り混じったような複雑な表情をして口を開く。

 

「もちろん最初は紅夜くんの出場を考えていたのだけど……。その、上から圧力が掛かったのよ」

 

その答えで達也は大体の事情を察した。恐らく一条に勝った紅夜を出させたくないのだろう。克人が交渉役をしていたことを考えると、もしかしたら十師族直々に圧力が掛けられたのかもしれない。これは確かに真由美が嫌悪感を現すわけだと達也は納得した。

ここにいる者たちが知るはずもないのだが、同じころ情報を得た将輝も真由美と同じような表情をして不満を露わにしていた。

しかし真由美や将輝が不満を現したところでそれが覆るわけもない。結局、達也はモノリスコードに出場することになり、選手も二科生から選ぶという異例の事態になったが、紅夜が出場することにはならなかった……のだが。

 

「もしもし、紅夜。今から小通連と幹比古の術式を調整するんだが、手伝ってくれないか?」

『何それ面白そう。今立て込んでるからちょっと待ってて、あと十五分で行く!』

 

本人は気にも留めていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、どういうことだ!?」

 

とあるビルの一室、その中央に置かれたテーブルを囲む男の内の一人が手下からの報告に外面を取り繕う余裕もなく悪態を吐いた。

 

「大会委員に潜り込ませた工作員が行方不明! これでは電子金蚕を使うことができないではないか!?」

 

もう一人の男が叫び怒りを露わにする。もはや彼らには冷静な思考をする余裕など欠片も残されていなかった。

 

「もはや手段を選んでいる場合ではない」

「その通りだ、観客が大勢死ねば大会どころではないだろう」

「ではジェネレーターを送り込むということに異論はないな?」

 

誰かも反論の声は上がらない、この場に彼らを止める者は存在しなかった。

 

「念の為に行動を起こすジェネレーターは三体にするべきだ」

「そうだな、それなら誰も止めることなどできないだろう」

 

テーブルを囲む男たちは狂気を含んだ笑みを浮かべる。それは生への渇望、今の精神状態ならば男たちは生きるために核兵器の発射ボタンを躊躇いなく押すことだろう。傍から見ると滑稽な彼らの醜い足掻きは留まるところを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人戦モノリスコードは達也の巧みな作戦によって順調に勝ち進み、ついに新人戦モノリスコード決勝。

選手が登場に観客たちは困惑の雰囲気を漂わせている。それも当然のことで幹比古とレオの二人がマントとローブという、何とも言えない不思議な恰好をしていたからだ。そんな観客たちの中で周りとは違った反応を見せる人物が一人、エリカは幹比古たちの恰好に大爆笑していた。思いっきり周囲の注目を集めていたエリカだったが、実はもう一人、周囲の注目を集めずに大爆笑している人物がいた。

 

「アッハハハハハハ――――! げ、原作で知ってるとはいえ……プッ、お、面白すぎ……アハハハハ――――っ」

 

紅夜は会場に現れた幹比古とレオの恰好を手元の情報端末のディスプレイで見て、遠慮などせずに思いっきり声を上げていた。しかし、その声は強い風に攫われて誰の耳にも届くことはない。それもそうだろう、何せ今紅夜がいる場所はホテルの屋上なのだから。……いや、一人だけ聞いてる者がいた。

 

『ちょっと、紅夜君、声を抑えて!』

 

手元の情報端末のスピーカーから負けじと張り上げられた声に紅夜は冷静さを取り戻す。

 

「いやぁ、すみません藤林さん。ところで奴らに動きはありました?」

『いいえ、今のところ動きはないわね。それにしても、大会委員の工作員といい、ジェネレーターだったかしら? どこから情報を得たのよ』

「ちょっと知り合いに情報通がいるんですよ」

 

紅夜の返答は答えになっていないものだった。藤林も元々大した答えは望んでいなかったのか深くは突っ込まずに会話が途切れる。

今の会話から予想できるかもしれないが、紅夜が屋上にいる理由はジェネレーターの監視だった。そう、原作と違うことが起きたのである。実はモノリスコードの試合開始前にも無頭竜が達也たちのCADに電子金蚕を仕込もうとしているという情報を得て工作員を確保していた。途中、達也からかかってきた電話にヤる気が上がって、工作員の肢体を焼失させてしまったのはちょっとしたお茶目だろう。

とにかく、そんなこともあって予め警戒していた紅夜が情報を集めた結果、この試合にジェネレーターが三体も入り込むことが分かったのだ。無頭竜の動きが原作よりも活発なのは恐らく自分がスピードシューティングとアイスピラーズブレイクで優勝したことで焦っているからだろうと紅夜は予想していた。ジェネレーターを三体も送り込んで来る辺り、向こうはもう手段を選んでいる余裕すらないのだろう。こういう敵は何をしでかすか分からないので最後まで気が抜けない。

そんことを考えてしばらくした時、紅夜がディスプレイを見て声を上げた。

 

「流石に【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】なしじゃ一条の相手は無理だったみたいですね。老師には気が付かれた可能性が高そうだ」

『…………』

 

紅夜の声に藤林は沈黙で返す。この質問は意地悪だったかと紅夜も少し反省した。またも奇妙な静寂が辺りを支配する。しかし、その静寂が破られるのは案外早かった。

 

『紅夜くん、ジェネレーターが動いたわよ!』

「了解!」

 

藤林からの報告を受けた紅夜は近くに置いてあった小型のバイザーを装着した。バイザーの電源を入れ、ディスプレイを見て起動したことを確認すると、黒を基調にして紅のラインが入った拳銃型CADを手に取る。

 

『数は三、映像と位置座標を送るわ』

 

バイザーに目標の映像と座標が映し出され、紅夜はその情報を元に【叡智の眼(ソフィア・サイト)】を発動した。ホテルの屋上から試合会場までは直線距離でも五百メートル以上は離れている。しかし、紅夜にとっては距離など関係のないものだ。膨大なエイドスの海を渡り、位置座標周辺の情報が脳裏に流れ込む。紅夜が把握した状況は三体のジェネレーターが今にも観客に襲い掛からんとしたところだった。しかし、ジェネレーターが観客に手を掛けるより、紅夜がCADの引き金を引く方が圧倒的に早かった。

 

業火(ヘル・フレア)

 

人間の反射神経の限界に迫る速度で発動した魔法は、ジェネレーターが無意識に張っている情報強化を易々と貫いた。ジェネレーターの身体に魔法が作用し、分子の振動が超加速する。一気に分子の動きが激しくなったことによって分子間力の働きがなくなり、ジェネレーターは自身が何をされたかも理解できずに身体が一瞬で統合力のない気体へと化する。僅かな炎を残し、ジェネレーターという存在は跡形もなく消滅した。

紅夜は続けて二回、CADの引き金を引く。行使された魔法はどれも同じ結果をもたらした。

 

「――――目標の焼滅を確認」

 

紅夜の言葉に誤字はなく、文字通りジェネレーターの身体は焼けて消え去った。

 

『こちらでも確認しました、お疲れさま』

「藤林さんも、わざわざありがとうございました」

 

バイザーを外すと一つ息を吐く。流石に紅夜も長距離射撃には神経を使う。別に疲れたわけではないが、緊張が緩んだことによる無意識の行動だった。

 

『それにしても、達也君の分解といい、相変わらず恐ろしい魔法ね』

「まあ、俺の魔法も熱によるものとはいえ、分子間力低減による分解とも言えなくはないですからね」

『そうだったわね。四葉の御当主も分解のような魔法を使うし、やっぱり遺伝かしら?』

「……兄さんはともかく、俺はそうかもしれませんね」

 

通話相手には気が付かれない表情の微妙な変化、それは今の会話で紅夜に思うところがあったからか。しかし紅夜は通話相手の藤林に微塵もそれを感じさせることはせず、話題を変えた。

 

「それじゃあ残りは任せますね。後の仕事は兄さんにお願いします」

『……私たちや達也君の行動はお見通しってことね。達也君もだけど、紅夜君も年齢を偽ってない?」

「まさか」

 

藤林は内心の動揺を隠して軽口を返す。風間たちは紅夜によって捕らえられた工作員を尋問して、深雪の試合を妨害することが企てられていたという情報を入手していた。その情報で達也のことを動かそうとしていたのだが、藤林は実行に移す前に紅夜に見破られるとは思っていなかったのだ。その答えは実は藤林の軽口に隠されていたのだが、藤林がそれを知るはずもなかった。

 

「では、お疲れ様でした。……ああ、もしも時間外手当の請求が無理ならバイト代くらいは払いますよ」

『ちょっと紅夜君それどう――――――――』

 

藤林の声を無視して一方的に通話を切り、切り替わる画面を確認することはせずに端末を放り出す。宙を舞う端末がコンクリートの上に置いてあるタオルに衝撃を吸収されたのを確認して、紅夜は大きくため息を吐き、苦虫を噛み潰したかのように顔を顰めた。

 

「胸糞悪い……」

 

吐き出した言葉は非道な手段を使う無頭竜に対してか、はたまた別のことに対してか。言葉をさらった強い風もその意を知ることはかなわず、真実は本人の胸の内。

タオルに埋もれた端末の画面にはモノリスコード優勝を飾った達也たちが大きく写し出されていた。

 

 

 

 

 




 


実は今回の話しは割と早く出来上がったので、書き溜めでも作っておこうかなぁ、とか思っていたんですよね。そう、思っていたんですよねぇ………。

ええ、シルバウィークということもあって時間があるので何かラノベでも買おうかなと思い、久しぶりに本屋に行ったのがいけなかったんです。
本屋で『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』を見つけ、アニメを見たきり原作に手を出していないことを思い出し、たまたま財布にお金が沢山入っていたので、11巻全巻を大人買い。
二日で読み切ったところ、二次が書きたくなり、設定やら何やら考えていたら何時の間にか問題児の二次作が三話分が書きあがっていて、この作品の書き溜めは一つもできていないと。

全部シルバーウィークがいけないんです!


………はい、すみません。反省しています。
――――――ところで、ラストエンブリオが無かったんですけど、どこに行けばあるでしょう?←



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