魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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前回の話しを投稿してから、お気に入り登録件数が一気に伸びて驚きました。
やはり主人公が活躍したからでしょうか、それともヒロインが決まったからかもしれません。

もしリーナの登場に期待した方には申し訳ありませんが、リーナが出て来るのはこのペースの更新だと半年以上先になるかもしれませんよ?
主人公の活躍を期待した方はあと少し待っていてください。VS一条は私も書くのが楽しみですから、大暴れさせてやりますとも!(笑)




九校戦編Ⅸ

 

 

 

九校戦五日目の朝。

俺と兄さんに深雪の三人は今日から始まるアイスピラーズブレイクの会場に来ていた。俺と深雪の試合は最後の方なのでまだまだ時間があるのだが、第一試合の明智英美のエンジニア担当が兄さんなのでこんなにも早く会場に来ていたのだ。それでも試合開始まではあと三十分と少し早めに来たのだが、そこには既にエイミィが来ていた。話を聞くと早起きしすぎたと言っているようだが、よく観察してみると早く起きたのではなく寝れなかったというのが正しいようだ。それでもなんとか一回戦は勝ち抜き、二回戦が始まる間に感覚遮断カプセルを使って半分強制的に睡眠をとらされていた。

そして次は第五試合、雫が出場する番だ。ステージに上がってきた雫の衣装は豪華な振袖で派手と言ってもいいものだった。九校戦を初めて見る俺としてはこの衣装は派手過ぎるように思えるのだが、どうやら周りの反応を見る限りではそこまで珍しいものではないらしい。まあ、俺も人の事は言えないので少し安心した。

 

そしていよいよ試合開始の時間になった。フィールドの両サイドに立つポールに赤い光が点り、その光が黄色になる。そして更に青へと変わった瞬間、雫の指がコンソールを舞い、自陣の十二本の氷柱に情報強化が投射された。少し遅れて相手選手の移動魔法が襲い掛かる。しかし相手の魔法は雫の氷柱を微動だにさせることすらできなかった。そして攻撃魔法が途切れた隙に雫の魔法が相手の氷柱に行使され、三本の氷柱が粉々に砕け散った。

 

「あれは……【共振破壊】のバリエーションかしら?」

「正解」

 

深雪が見事に雫の魔法を当てて見せる。対戦相手の手の内を見ないようにとモニター室で兄さんと別れていたが、この試合の分だけなら特に意味がなかったような気がする。

雫が使う魔法については、照準補助システム付きの汎用型を作った時などに俺も少し手伝っているので全て把握している。なので魔法の詳しい説明も可能なのだが深雪は聞くのを自分の力のみで勝ちたいと言って拒否していたが、正解を教えるくらいは構わないだろう。

これだけ聞いていると深雪ばかりを応援しているように聞こえるかもしれない。もちろん姉弟として深雪を応援する気持ちは強いが、それ以上に雫が深雪を相手にどこまでやれるかを俺は楽しみにしていた。原作知識で結果は知っているし、そうでなくても深雪が負けるとは思っていないが、先ほど十七夜栞という存在を持って原作知識以外の可能性を見てしまったのだ。期待してしまうのも仕方がないだろう。

その為にも雫が決勝に行けるようにしっかりと応援しよう。俺がそう考えている目の前で、雫は自陣の氷柱を一本も倒されることなく次の試合への駒を進めた。

さて、そろそろ深雪の試合――――そして、俺の試合の番だ。

 

 

 

 

 

女子アイスピラーズブレイク一回戦の最終試合、深雪の試合がそろそろ開始されるのだが、紅夜は観客席にも深雪の控室にもいない。それは何故か、実は女子アイスピラーズブレイクの試合と同時に男子アイスピラーズブレイクの最終試合が始まるからだ。とは言っても競技の性質上、時間にズレが生じるのはよくあることで、紅夜の試合は予定よりも五分ほど遅れていた。それによって深雪の試合を控室のモニターで見る程度の余裕はできたので紅夜にとっては歓迎するべきことだったのだが。

 

いよいよ出番となり、紅夜がステージに上がると観客が大きくどよめいた。それも当然と言える。なにしろステージ上に現れた紅夜は制服姿ではなく、黒い燕尾服――――それも、執事服と言われるものに身を包んでいたのだから。男子アイスピラーズブレイクで衣装を変えた前例がないということではないのだが、それでも相当に珍しいことは確かだし、紅夜という誰が見ても満員一致で美形の人物が執事服などという恰好で出て来るのは観客にとって驚きしかないだろう。

紅夜は観客が大勢見ている中で緊張の欠片も見せず、綺麗な礼をして見せた。途端に会場からかん高い歓声が響く。

 

 

 

「こちらもか……」

「でも、やっぱり似合ってるよね」

「姉弟揃って似合い過ぎ」

 

紅夜の様子を別会場のモニターで見ていた達也や真由美たちは摩利、五十里、花音の言葉に同意するように頷いた。達也だけは頭を痛そうにして抑えていたが。

全員の視線が集まる先で、ついに試合が始まろうとしていた。

 

ポールに赤の光が点り、さらに黄色へと変わる。そしてポールの青が赤く染まった瞬間、紅夜の指が閃いた。発動された魔法は振動減速系魔法。故に紅夜の魔法発動速度は深雪よりも少し劣るが誤差でしかなく、もたらした効果に差異などなかった。

 

「まさか紅夜君まで……」

「……【氷炎地獄(インフェルノ)】」

 

紅夜の使った魔法は深雪が使ったものと全く同じもの。領域を二分し、運動エネルギーや振動エネルギーを減速、もう一方のエリアにその余剰エネルギーを逃がすことで冷却と加熱を行う高難易度魔法。当然、そんな魔法に相手はなすすべもなく、紅夜が空気の圧縮、そして解放を行うと同時に全ての氷柱が崩れ去り、一瞬にして勝敗が決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会六日目。

今日はアイスピラーズブレイクの第三試合から決勝までが行われる。ちなみに順番は深雪が第一試合で俺が最終試合だ。大会運営側は選手のコンディションから俺も第一試合にしようとしていたが、視察に来ている魔法関係者の為に俺の順番を最後に回したそうだ。かなり苦渋の決断だっただろう。

そんな訳で今回は深雪の試合を観戦する程度の余裕はあるので、兄さんと深雪と一緒に控室に向かう。その途中で原作通り三校の選手、クリムゾンプリンス一条将輝とカーディナルジョージ吉祥寺真紅郎の二人が立っていた。

 

「第三校一年、一条将輝だ」

「同じく第三高校一年の吉祥寺真紅郎です」

「俺は第一高校一年の司波紅夜、よろしく」

「第一高校一年の司波達也だ。それで、クリムゾンプリンスとカーディナルジョージが試合前に何の用だ?」

 

向こうが自己紹介をしてきたのでこちらも返しておく。

体格や身長は中性的と言われる俺の方が劣っているが、ルックスは俺の方が上だなと意味もなく対抗心を持ってみる。意味は違うが向こうも俺たちに対抗心を燃やしているようで闘争心むき出しの視線を向けてきた。

どうやら少し相手をしなければいけないようなので兄さんが深雪を先に行かせて話を続ける。

 

「プリンス、そろそろ試合じゃないのか?」

 

兄さんの言葉に一条が思いっきり動揺する。確か一条の試合は第一試合のはずなのでそろそろ時間的に不味いはずだ。試合が終わってからでもよかっただろうに。

俺と兄さんの呆れた視線に一条が言葉に詰まるが、吉祥寺が話を切り替えることでフォローした。

 

「僕たちは明日のモノリスコードに出場します。君たちはどうなんですか?」

「俺たちはモノリスコードは管轄外だ」

 

適当な返事を返しながら、心の中で戦うことになるだろうけどと付け足す。

 

「そうですか、残念です。いずれ君たちと戦ってみたいですね。今度は僕たちが勝ちますが」

「それにアイスピラーズブレイクも俺たちが優勝をもらう。時間を取らせて悪かったな」

 

完全な宣戦布告、だが俺にとっては望むところだ。さあ、どこまで俺を楽しませてくれだろうか。決勝が待ち遠しいな。

 

 

 

 

 

深雪の試合が終わり観客たちが醒めぬ興奮からざわめく中で俺は自分の控室へと移動していた。本当は時間ぎりぎりまで他の試合も見て居ようと思っていたのだが、自分のCADを衝動的に弄りたくなり早めに控室に来てしまった。

別に、本当に衝動的にCADを弄りたかったわけではない。ただ、一条たちからの宣戦布告を受けてちょっとテンションが上がっただけのことだ。本来なら今回の試合も【氷炎地獄(インフェルノ)】を使うつもりだったのだが、一条たちの宣戦布告に答える形でアピールしておこうと思った。どの魔法もいつでも使えるようにはなっているが念の為だ。どうせなら最高のパフォーマンスで試合に臨もうじゃないか。

 

 

 

そしてついにアイスピラーズブレイク第三回戦最終試合。

舞台上に上がった俺は執事風の礼をすると、今までで一番大きい観客たちの声援を聞きながら試合開始の合図を待つ。

 

ポールが赤い光を放つ。そして黄色に変わり最後に青く光った瞬間、俺は指を弾く動作と共に魔法を行使した。

魔法名は【スフィア・ブラスト】。効果内容は単純なもので可燃性の気体を収束、そして発火と同時に開放するもの。ただし、その魔法がもたらした効果は絶大だった。相手のエリアで爆発した気体は一気に膨張、爆轟とともに強烈な熱風と衝撃波をまき散らし、相手の氷柱を全て吹き飛ばした。そのまま広範囲に広がろうとしていた爆発は俺の障壁魔法に阻まれ、唯一出口の作られた上空に向けて飛び出した。そして爆風と共に吹き飛んだ氷柱は熱によって溶かされ水となり、さながら雨のように上空から観客席に降り注いだ。

 

観客たちから上がる悲鳴と歓声、そして試合終了の合図を受けて俺はもう一度お辞儀をすると舞台上から降りて控室に戻った。

 

さて、俺からの宣戦布告は受け取ってもらえたかな、一条将輝?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受けて立つぞ司波紅夜。だが、決勝は俺が勝つ!」

 

紅夜が舞台を降りるのと同じころ、試合を観戦していた一条将輝は紅夜の意志に気が付き受け取った。

 

「司波紅夜、気を付けてね将輝。彼は強敵だ」

「ああ、分かっているさ」

 

真剣な顔で忠告してくる吉祥寺に将輝も真面目な表情で返した。

十師族として一条の名は伊達ではない。将輝なら並の相手なら本気を出さずとも簡単に倒すことができるだろう。それでも紅夜は全く油断のできない相手だった。

 

「将輝、楽しそうだね」

「……え?」

 

言われて気が付く、知らぬ間に将輝は口角が上がっていた。何故かと疑問に考え思い当たる、自分は司波紅夜のような強敵が欲しかったのだと。

誰かに自分の全力をぶつけてみたいという強者故の悩み。そして今、自分の全力を受け止められるかもしれない相手がいる。そう思うと将輝は自分の口に笑みが浮かぶのが抑えきれなかった。

 

同じような思いを持ち、強敵を前に笑みを浮かべる紅夜と将輝。この二人、実は結構似た者同士なのかもしれなかった。

 

 

 




 
今回の紅夜の衣装は完全に悪ノリしましたw

それと、雫のハードルが上がってるような気がしますが、特に何かあるわけではありません。



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