「あれ、私何してたんだっけ」
あまり開かない目をこすりながら、昨日のことを思い出す。
「そうだ、私人間に戻ったんだっけ」
あまり実感がない。いろんなことが目まぐるしくすぎていって、いちいち整理する時間がなかったからなのかもしれない。
「まぁ、いっか。思い出したいときに思い出せば。それより、能力ってまだ使えるのかな」
前と同じように、昔を思い出しながら能力を使おうと試みた。
「あれ、使える」
意外にもまだ能力だけは使えるのだとわかった。ただ、
「人間の体って重く感じる……。これじゃあ妖怪の時みたいに動き回れないなぁ」
あぁ、椛さんの助けになることが出来ないのか。
そんなことを考えていると、椛さんが入ってきた。
「柊さん、体はもう大丈夫ですか?」
「えぇ、だいぶ楽にはなりました」
「そうですか。ならよかったです」
そう言ってる椛さんの顔は、言葉とは裏腹にどこか悲しそうだった。
「椛さん、どうかしたのですか?」
「……その、柊さんに伝えなければいけないことが……」
「……なんですか?」
私は何を話されるのかがわからないまま話しを促す。
「天狗の掟上、天狗以外の種族は山に住んではいけないのです。ですから、人間に戻ってしまった柊さんはもう山にはいられないんです……」
椛さんの表情が次第に曇っていく。
「……そんなのって、おかしいですよね……。だって、いくら短い期間だったとはいえ、私たちは共に戦った仲間です! それなのに、種族が変わってしまっただけで一緒にいられないなんて、そんなの、そんなの……!」
椛さんの目には涙が浮かんでいた。
それをみても、私は冷静でいられたことが不思議だった。なぜかは分からない。椛さんと離れてしまうことは寂しいことだ。だけどもそれは私にはどうしても必然のような気が前からしていたようにも思えていた。
「椛さん、私も悲しいです。ですが、やっぱり私だけの都合で椛さんに迷惑をかける訳にはいきません」
私がそれを言うと、椛さんは驚いたような顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、大天狗様も同じようなことを言っていたので」
「あ、そうでしたか。でしたらなおさらです」
「柊さん……」
「では、すぐに支度しますので」
この時、椛さんを見てしまうと心が変わってしまいそうで怖かった。
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私は支度を終え、椛さんの家を出る。
「それでは、今まで本当にありがとうございました」
「……本当にごめんなさい……」
「椛さんが謝ることではありませんよ」
「ここからまっすぐ進めば人里に出ます。そこからは本当に申し訳ないのですが私はお力添えが出来ません」
「いえ、大丈夫です。本当にありが……」
「柊ちゃーん!」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「双葉ちゃん!」
「柊ちゃん、どこいくの?」
「人里に」
「え!? なんで!?」
私と椛さんはここまでの経緯を話した。
「そうなんだ……。人里だと私もあまり入れないからなぁ……。会う機会も少なくなっちゃうね」
「そうだね。でも完全に会えないわけじゃないから」
「そうですね、では――――」
みなまで言う必要は無かった。その内容はお互いわかっていたから。もし再び会うときがあるとすれば、運命が、この世界がそうなるように仕向けるだろう。
それまでは――――。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
とりあえず、東方~二人の白狼天狗~の第一部はこれにて完結です。
本当にここまで読んでいただきありがとうございました。
もしかしたら、この続編が名前を変えて出てくるかも……?しれませんが、そのときになったら、その時でよろしくお願いします。
最後に、本当に有難うございました。