東方〜二人の白狼天狗〜   作:ふれんど

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参拾漆巻~思い~

 双葉と椛は動けなかった。

 頭ではそのことを理解しようとしている。勝手に脳が働くのだ。

「そんな、うそ、ですよね……? 柊さんが死ぬわけ、ないですって……」

 双葉も同じだろう。

 どうしても信じられなかった。自分たちを助けてくれたというのに、なぜ助けた本人が一番の悪を背負わなければいけないのか。

「う、うぅ……柊、さん……」

 椛は泣いていた。それにつられて、双葉も泣いていた。

 もう柊とは話すことも、一緒に仕事することもできない。

 辛い現実が二人の目の前に突きつけられた。

「やだ……いやだよ……柊ちゃん……」

 ただ柊の名前を呼ぶことしか出来ない。

 

 

「ほんとにもう、手間かけさせるわね」

 聞き覚えのある声に、二人は振り返る。

 そこには、八雲 紫がいた。

「八雲!? なんでそこに!」

 椛は警戒して剣を抜く。

「だからそう早とちりしないの。あなたたちのためにきたんだから」

「それはどういう……」

 椛が聞き返そうとした時、紫の後ろから八意 永琳が出てきた。

「紫に頼まれて、薬を作ってきたのよ」

 そう言いながら、小瓶を取りだした。

「その薬は……?」

「この薬は簡単に言えば蘇生薬よ。ただし、蘇生薬と言っても完全なものではないわ。あくまで試作だし、何より、試したことがないの。前から研究はしていたけど、作ってみたのなんて本当に初めてなんだから。絶対に生き返るという保障はできないわ。それでもいい?」

 椛と双葉に断る理由はなかった。

「はい。お願いします」

「ちょっと待ちなさい。一つだけ言わなければいけないことがあるわ」

 紫は一呼吸おいてから言った。

「もし蘇生が成功したとしても、恐らく、柊は白狼天狗ではなくなってしまうわ」

「え……?」

「実は、前に逃げ出した狼の霊が、その子にとり憑いていて、その子の中で、その霊を飼っている状態なの。だから、中の狼が消えれば、憑依も解けて元の姿に戻ってしまうの。ただでさえ、その霊は衰弱しているのに、あの激しい戦いの連続で、もう消える寸前なはずよ。そこに、身体を再始動させるためのエネルギーを使ったら、完全に消えるわ」

「そんな……」

「それでも、いいの?」

 ここまで言われても、結局二人の意見は変わらなかった。

 助けてもらったこと、今まで楽しくしてくれたこと。それを考えれば、迷うことなんて一つもなかった。

 助けてもらったことへの、心からの感謝を伝え、また柊といつも通りに生活を送りたい。なにより、柊にもっと楽しんでもらいたい。

 これらは自分勝手なことかもしれないが、もう一度柊と話したい。

 それが彼女たちの一番の願いだった。

 

 二人はゆっくりと頷いた。


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