双葉と椛は動けなかった。
頭ではそのことを理解しようとしている。勝手に脳が働くのだ。
「そんな、うそ、ですよね……? 柊さんが死ぬわけ、ないですって……」
双葉も同じだろう。
どうしても信じられなかった。自分たちを助けてくれたというのに、なぜ助けた本人が一番の悪を背負わなければいけないのか。
「う、うぅ……柊、さん……」
椛は泣いていた。それにつられて、双葉も泣いていた。
もう柊とは話すことも、一緒に仕事することもできない。
辛い現実が二人の目の前に突きつけられた。
「やだ……いやだよ……柊ちゃん……」
ただ柊の名前を呼ぶことしか出来ない。
「ほんとにもう、手間かけさせるわね」
聞き覚えのある声に、二人は振り返る。
そこには、八雲 紫がいた。
「八雲!? なんでそこに!」
椛は警戒して剣を抜く。
「だからそう早とちりしないの。あなたたちのためにきたんだから」
「それはどういう……」
椛が聞き返そうとした時、紫の後ろから八意 永琳が出てきた。
「紫に頼まれて、薬を作ってきたのよ」
そう言いながら、小瓶を取りだした。
「その薬は……?」
「この薬は簡単に言えば蘇生薬よ。ただし、蘇生薬と言っても完全なものではないわ。あくまで試作だし、何より、試したことがないの。前から研究はしていたけど、作ってみたのなんて本当に初めてなんだから。絶対に生き返るという保障はできないわ。それでもいい?」
椛と双葉に断る理由はなかった。
「はい。お願いします」
「ちょっと待ちなさい。一つだけ言わなければいけないことがあるわ」
紫は一呼吸おいてから言った。
「もし蘇生が成功したとしても、恐らく、柊は白狼天狗ではなくなってしまうわ」
「え……?」
「実は、前に逃げ出した狼の霊が、その子にとり憑いていて、その子の中で、その霊を飼っている状態なの。だから、中の狼が消えれば、憑依も解けて元の姿に戻ってしまうの。ただでさえ、その霊は衰弱しているのに、あの激しい戦いの連続で、もう消える寸前なはずよ。そこに、身体を再始動させるためのエネルギーを使ったら、完全に消えるわ」
「そんな……」
「それでも、いいの?」
ここまで言われても、結局二人の意見は変わらなかった。
助けてもらったこと、今まで楽しくしてくれたこと。それを考えれば、迷うことなんて一つもなかった。
助けてもらったことへの、心からの感謝を伝え、また柊といつも通りに生活を送りたい。なにより、柊にもっと楽しんでもらいたい。
これらは自分勝手なことかもしれないが、もう一度柊と話したい。
それが彼女たちの一番の願いだった。
二人はゆっくりと頷いた。