「ひ、柊さん!?」
椛は何が起きたのか理解できなかった。
「まさか、幻!?」
幻が死んだであろう場所に目をやるが、幻の死体は変わらずにそこにあった。
「幻じゃないとしたらなんで……いや、とりあえず医務室につれていかなきゃ!」
椛が急いで運ぼうとした時、何もない場所から声がかかる。
「待ちなさい」
椛が声のかけられた方をみると、空間が歪み、八雲紫が出てきた。
「なんで、八雲が……」
「なんでって、その子がそんな状態だから来たのよ」
紫は幻の死体を空間に片付けながら言う。
「率直に言うわ。その子、柊はそう長くはもたないわ」
「なっ……なんてことを言うんですか! そんなことあるわけがないじゃないですか!」
「考えてもみなさい。人間の体でここまで持ったことが凄いと思うわ。負担が大きすぎたのよ。短い期間で連続して妖怪の相手をして……人間の体にただの妖狼の気がまとっているだけなのよ。普通だとこんなに力は出ないわ。なのにこんなにも力があったのだから、筋肉へのダメージも大きいはず。合わせれば並大抵の負傷じゃすまないわ。この吐血はほとんど終わりの前触れだと思ってもいいわ」
「じゃあ、どうしたらたすかるんですか……」
椛の質問に対して、紫は何故か黙っている。
「なんで黙って……っ! 助ける手段が無いっていうんですか……? このまま見殺しにしろと……?」
紫は黙っている。
「そう、ですか……だったら」
椛は飛び立ち、
「何もしないよりは何かをした方がいい! あなたと話している時間が無駄だった!」
総会場の方へと飛んでいった。
「……失敗したわねー。黙っていれば、永琳が間に合うと思ったのだけれど……行動派だったのね。まぁ仕方ないわ。後を追いましょ」
スキマを開く。
「永琳の様子を見てからでもいいかもしれないわね」
そう言うと、紫は空間に消えていった。
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「柊さん、待っていて下さい。もうすぐつきますから」
最短距離で医務室に向かう。
「すみません! 柊さんが!」
医務室の天狗は勢いよく入ってこられて驚いたようだが、すぐに冷静さを取り戻すと、椛の方に近づいてきた。
「とりあえずその子をここに」
柊を布団の上に下ろし、その横に二人は座る。
「抜け出した子じゃないか。だからあれほど言ったのに……」
「いきなり血を吐き出したんです! それで――――」
そこまで言って椛は止まった。八雲の言っていたことを言おうかためらったのである。
「それで?」
「……いえ、なんでもないです。すもません、気持ちが高ぶってたみたいで……」
「いや、いいんだよ」
椛は言わなかった。
「しかしこれはどうしたものか……治療は――――」
医者が続きを言おうとした時、廊下から声が聞こえてきた。
「どいてどいて! 柊ちゃんが大変なんだから!」
椛は、柊に必死で完全に存在を忘れていた。
「柊ちゃん!?」
双葉だった。
「双葉さん! 大丈夫だったのですね。怪我は……?」
「うん、無事だったよ。怪我はね……目がさめたら八雲が目の前にいて、あなたひどい怪我ね。神社のことは今回は免じてあげるから、とりあえず今は怪我を治しなさいって言われて、治してもらったの。そんなことろり、柊ちゃんは!?」
双葉が布団の上に目を向けた瞬間、表情が変わった。
「嘘……死んで、る……」
椛もいわれて目を向ける。気づいてはいけなかった。むいてはいけなかったのに、体が動いてしまった。
そして、認めざるをえなくなった。
柊の体から、妖気が感じられないのを。