東方〜二人の白狼天狗〜   作:ふれんど

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参拾陸巻~空~

「ひ、柊さん!?」

 椛は何が起きたのか理解できなかった。

「まさか、幻!?」

 幻が死んだであろう場所に目をやるが、幻の死体は変わらずにそこにあった。

「幻じゃないとしたらなんで……いや、とりあえず医務室につれていかなきゃ!」

 椛が急いで運ぼうとした時、何もない場所から声がかかる。

「待ちなさい」

 椛が声のかけられた方をみると、空間が歪み、八雲紫が出てきた。

「なんで、八雲が……」

「なんでって、その子がそんな状態だから来たのよ」

 紫は幻の死体を空間に片付けながら言う。

「率直に言うわ。その子、柊はそう長くはもたないわ」

「なっ……なんてことを言うんですか! そんなことあるわけがないじゃないですか!」

「考えてもみなさい。人間の体でここまで持ったことが凄いと思うわ。負担が大きすぎたのよ。短い期間で連続して妖怪の相手をして……人間の体にただの妖狼の気がまとっているだけなのよ。普通だとこんなに力は出ないわ。なのにこんなにも力があったのだから、筋肉へのダメージも大きいはず。合わせれば並大抵の負傷じゃすまないわ。この吐血はほとんど終わりの前触れだと思ってもいいわ」

「じゃあ、どうしたらたすかるんですか……」

 椛の質問に対して、紫は何故か黙っている。

「なんで黙って……っ! 助ける手段が無いっていうんですか……? このまま見殺しにしろと……?」

 紫は黙っている。

「そう、ですか……だったら」

 椛は飛び立ち、

「何もしないよりは何かをした方がいい! あなたと話している時間が無駄だった!」

 総会場の方へと飛んでいった。

「……失敗したわねー。黙っていれば、永琳が間に合うと思ったのだけれど……行動派だったのね。まぁ仕方ないわ。後を追いましょ」

 スキマを開く。

「永琳の様子を見てからでもいいかもしれないわね」

 そう言うと、紫は空間に消えていった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「柊さん、待っていて下さい。もうすぐつきますから」

 最短距離で医務室に向かう。

「すみません! 柊さんが!」

 医務室の天狗は勢いよく入ってこられて驚いたようだが、すぐに冷静さを取り戻すと、椛の方に近づいてきた。

「とりあえずその子をここに」

 柊を布団の上に下ろし、その横に二人は座る。

「抜け出した子じゃないか。だからあれほど言ったのに……」

「いきなり血を吐き出したんです! それで――――」

 そこまで言って椛は止まった。八雲の言っていたことを言おうかためらったのである。

「それで?」

「……いえ、なんでもないです。すもません、気持ちが高ぶってたみたいで……」

「いや、いいんだよ」

 椛は言わなかった。

「しかしこれはどうしたものか……治療は――――」

 医者が続きを言おうとした時、廊下から声が聞こえてきた。

「どいてどいて! 柊ちゃんが大変なんだから!」

 椛は、柊に必死で完全に存在を忘れていた。

「柊ちゃん!?」

 双葉だった。

「双葉さん! 大丈夫だったのですね。怪我は……?」

「うん、無事だったよ。怪我はね……目がさめたら八雲が目の前にいて、あなたひどい怪我ね。神社のことは今回は免じてあげるから、とりあえず今は怪我を治しなさいって言われて、治してもらったの。そんなことろり、柊ちゃんは!?」

 双葉が布団の上に目を向けた瞬間、表情が変わった。

 

 

 

 

「嘘……死んで、る……」

 椛もいわれて目を向ける。気づいてはいけなかった。むいてはいけなかったのに、体が動いてしまった。

 そして、認めざるをえなくなった。

 

 

 柊の体から、妖気が感じられないのを。

 

 

 


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