とにかく許せなかった。たったひとつの壁を壊すことのできなかった無力な自分と、幻がやったことの二つのことに対して。
椛はもう我慢の限界だった。冷静さを失い始めた椛は、無我夢中に剣を振る。
幻は後ろに下がりながら左右にかわしたり、受け流している。
「なんでそんなにムキになってるんだよ。別にお前に直接被害はないのに」
「私に直接被害があるかどうかなんて、関係ない! 私の大切な仲間を傷つけた! だから!」
「へぇ、じゃあ目の前にいたのにどうして助けられなかったのかね。俺の壁があったから?」
「うるさい! 黙れ! 私欲のために動いてるお前とは違う!」
幻は剣をかわしながら続ける。
「お前のそれだって、私欲じゃないのか? 私が仲間になってあげているから仇を撃ってあげないとっていう私欲が」
「違う、違う、違う違う!」
椛が剣を振り回す。しかし、その動きを見きった幻が椛にケリを入れる。
「うぐっ、げほっ……」
「結局最後まで無力だったな。自分の感情すらもコントロールできないで、ただ感情任せになって剣を振り回していただけだったし」
椛は立ち上がって幻に向かって走っていくが、あっさりかわされ、また蹴飛ばされる。
「あの世で守れるように頑張りな」
幻は双葉に刺したようなナイフを取り出すと、椛めがけて振り下ろした。
(やっぱり私は……)
そう思っていた矢先、
「はぁぁぁ!」
「なっ……!」
突然幻の横から剣が飛んできた。その剣は、幻の持っているナイフをはじき飛ばした。
「くっ……馬鹿な、なんでお前がここにいる!?」
椛が顔上げるとそこには、柊が立っていた。
柊は剣を鞘に収めながら、幻を睨みつけて言う。
「あんたにはまんまと一杯食わされた。人の記憶を好き勝手して何が楽しいだ……! 絶対に殺す!」
柊は幻の奥を見て言う。
「椛さん!」
その刹那、幻は振り返った。だが、そこには椛の姿はなかった。はっと気づき、すぐさま前を向く。だがそこにはもう既に、柊の姿は見えなくなっていた。
「ど、どこに行った!?」
当然これは、柊の移動速度などではなく、柊の能力が発動しているだけだった。だが、幻は柊の能力はいざしらず、ただただ見えない攻撃に耐え続けるしかなかった。
「クッソ……! 卑怯だぞ! 出てきやがれ!」
柊は姿自体は見えるようにしたが、幻の前には姿を見せず、声だけで返答する。
「卑怯なのはどっちだ。罪のない妖怪までも深刻な状態に落として、さらには私を受け入れてくれた天狗の皆さん。そして、椛さんと双葉ちゃんにこんなことまでした。全員に対して一方的に。それが卑怯だって言ってんの! ……卑怯者には卑怯で死ぬのが一番。目には目を、歯には歯をと同じよ!」
「……あなたはもう”つみ”よ!」