SAOにプレイヤーチャットが搭載された件【連載するよ!】 作:秋ピザ
とうとうボスとの決戦が始まるわけで。
果たして、隊長は如何にしてボスたちを攻略したのか。
そして何故、彼の服は跡形もなく消失していたのか、全ての謎が、今、解き明かされ───ません。
ボスを増やしすぎて長引きそうで不安になっている半ニートなのでした。
……24個12対の目玉が、こちらを睨んでいる。
言うまでもなく、それらは全てこのクエストのボスモンスターたちが俺に対して向けるものだ。
普段ならこういう時は『いや~、モテる男はつらいねぇ』とでも言ってやるところだが、残念ながら今はそんなことを言っている余裕はない。
何度も何度も確認しているが、こいつ等は例外なく全て並のボスモンスターなんかよりも強い文字通りの怪物なのだ。
最初っから最後まで
まぁ、もちろん秘策がない訳じゃあないが、それに頼るのは追い詰められるまで待つとしよう。
俺は方針を決めると、12体の中でももっとも大柄な敵にターゲットを定め、刀を構える。
そしてそれが合図となるように、12体のボスたちは一斉にこちらへと即死級の攻撃を次々と放ってきた。
火水土風と言ったいわゆる四大属性、よく分からんけど雷、見るからに状態異常を引き起こしそうな霧状のビーム、その他もろもろなんでもござれ。
もう明らかにクリアさせる気ないよねと思わざるを得ないほどのえげつない攻撃だが、残念ながら最初の攻撃は確実に回避する方法が判明している。
「残念ながら通行止めだっ!」
俺は無意味に叫びながら、自分の足元に粘菌スライムからドロップした液体をぶちまける。
するとそんな行動はそもそも想定されていないのか、こちらに向かって接近していたボスたちを転ばせる。
当然ながらそれは遠距離攻撃を行った個体には意味がないが、幸いにして突進を行うボスはこの中でも大柄なものが多い。
なので、その巨体が盾代わりになって攻撃を受け止めてくれるのだ。
俺は最初の攻撃をしのいだのち、転倒したボスが立ち上がるまで適当にツンツンし、復帰する寸前で退避して今度は同じく立ち上がろうとしている別のボスの背後に隠れる。
すると、遠くのボスたちは先ほど突進したボスを転ばされてうっかり命中させてしまったことから何も学んでいないのか、バカの一つ覚えのように凶悪な遠距離攻撃を繰り出してくる。
もちろんそのどれもが即死級の威力を誇り、普通の盾なら一発分の削りダメージだけでも死にかねないが……残念ながら俺が盾代わりに使っているのは奴等と同じボスだ。そのふざけた耐久力は盾なんかとは比べ物にならないわけで。
第二波の遠距離攻撃は、たった今俺が背後に隠れたボスに当たり、それを再びダウンさせるだけで俺にダメージは入らない。
なんの意味もなさなかったわけだ。
いやぁ……なんて素晴らしい光景だろう(ゲス顔)。
圧倒的なHPを持つボスへの有効打をボスによる同士討ちで与えつつ、一発たりとも受けるわけにはいかない攻撃を防ぐ───これぞ名付けて『多人数戦闘なんだからフレンドリーファイアに気を付けろよバーカバーカ!』作戦である。
その種は、SAOにこっそりと存在する、mobの攻撃がmobに当たるとヘイト値が一切変化しないままダメージが入るという仕様をなんの工夫もひねりもなく悪用しただけに過ぎない。
もちろんそんなことが日常的に起こればプレイヤーたちはただmobにmobを倒させるだけでレベルを上げられてしまう。
そのため、通常のmobや取り巻きを召喚するタイプのボスはフレンドリーファイアを避けるため、ある一定の条件が満たされていると特定の攻撃を使わなくなるという傾向が存在する。
例えば……俺の検証によると、コボルドロード系は『自身のHPが一定以上』『1つ目の条件を満たしている時で、取り巻きが近くに居る』のような条件下では周辺一帯を薙ぎ払うタイプのソードスキルや攻撃を繰り出さなくなるし、一部の例外的な奴を除けば突進なんかも味方が居る状況下ではあまり使われない。
だから、普通はこのmob同士のフレンドリーファイア仕様を知っていたとしても、せいぜいがフィールドに出没するタイプのネームドをトレインして突進させ、種族的に関係のない雑魚に当てて命懸けの楽をするくらいしか出来ない。
……だが、この場所に揃えられたボスたちはどうだろうか?
こいつらにはフレンドリーファイアを回避するための条件付けは存在するのか?
答えはNOだ。
そもそも、12体ものボスを同時に投入してくるこのクエストがトチ狂っているだけで、普通は2体で1組になっているか、複数のボスでHPバーを共有(某死にゲーの三人の公王みたいなものだ)でもしていない限り、ボスが複数同時に現れることはほとんどない。
しかしその前提である『ボスは基本的に単体で出現する』が存在しないはずなのにこいつらはHPバーの共有も、対のデザインもされていない。
あとはもう分かるだろう。
言ってしまえば近接型のボスを延々と先程の液体や、あるいは足元への集中攻撃による転倒。時に他のボスの遠距離攻撃を誘導したノックバックなどを悪用して盾代わりに使い続け、こちらの消耗を最低限に抑えながら近接型を抹殺するだけの作戦、つまるところ本来ならば『面白くない』と切って捨てて焼いて消し去るようなものだが……案外バカに出来ない楽しさがある。
「GR……無、念……」
「おい待て何故一瞬だけ喋ったし」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「お前はお前で新しいな!?」
まず余裕ができるから、こいつら1体1体に仕掛けられた訳の分からないアソビゴコロ(またの名を悪意に満ちた嫌がらせの源泉とも)がよく見える。
さっきまでグルグルうるさかったのにいきなり人間の言葉を喋って驚かせてきたり、どこぞの未確認生物のような奇声を上げたり。
コイツらって本当にかやひこが用意した最強最悪のボスなのか?と疑問に思ってしまう。
そんなことを考えている内に、不意に盾代わりにしているボスたちのHPが少々心もとないことに気付く。
すでにHPバーも最後の1本が半分を切っているし、そろそろ終わりだな。
「なぁお前ら、最期に言い残すことある?」
「「…………」」
「無視かよ感じわりぃ。ケッ!」
俺が盾として使っていたボスたちが、ポリゴンとなって掻き消えていく。
同時にそれまでボスたちの決死の(強制)身代わりによって防がれていた攻撃が俺に降り注ぐ。
だが、その攻撃は当たらない。
いまだ減っていない遠距離攻撃を行っていたボスたちの攻撃は、何一つとして俺には届かない。
「ヴぁーかヴぁーか!どこ狙ってやがんだクソエイム共!」
もちろん、本当にこいつ等がクソエイムな訳ではない。むしろ長い時間をかけて俺の居る場所に攻撃を打ち続けてきたのだから、本来なら確実に当てられていただろう。
しかし残念なことに、その正確さが仇となっているのだ。
そう……俺を狙った攻撃は、全て……同じく俺を狙った攻撃によって無力化されているのだ!(謎のしてやったり顔)
これもまた例のアレ、つまるところ同士討ち防止設定の付与し忘れによる悲劇の産物、とでも言うべきものなのだが……まぁそこのところはあまり気にしないでもいいだろう。
味方の攻撃に遠慮してタイミングをずらす回路を搭載し忘れるなんて、こちらにとっては行幸でしかないんだからな。
さっきまではボスの巨体に当たっていたおかげで重複して撃ち落とし合っているのが分かりにくかったが、それがなくなったおかげで、その無様な状況を映し出している。
無論、普通ならこんなとんでもないクエストの途中で『立ち止まる』という選択をしないだろうから、その分ターゲットが分散してこの現象は起こらない。
もちろん俺だってわざわざ自殺するようなことをやりたいとは思わないから、この現象は本来発覚しなかったのだろうが……何回か前の挑戦の途中、偶然にもふぃーちゃんがこれを引き起こすことに成功したのだ。
その原因と言うのが、何やらお気に入りのアクセサリ(ストラップ的な奴だった)を落としてしまったらしく、咄嗟に拾おうとしてしゃがみこんだからなのだが、よくもまぁあの状況であんな死亡フラグを建てられたものだよ。
どこぞの艦船系美少女アニメだって犠牲者は
……アレはマジのトラウマ案件だった。
あんなトラウマを現実で体感したくはないものだなぁ。そう考えながら、俺は残るボスたちとの戦闘に備えるのであった。
残りボス数:10