SAOにプレイヤーチャットが搭載された件【連載するよ!】 作:秋ピザ
激しい天和戦争が終わり、その場にはようやく復活したよく分からん女と、それぞれ獲物を持っていつでも斬りかかれるように準備している俺たちが雀卓を挟んで向かい合っている、という奇妙奇天烈な状況が出来上がっていた。
ソードブレイカー的な短剣を逆手に持ちつつ、もう片方の手には針と呼んでも差し支えないようなほどに細い剣を隠し持ったふぃーちゃんは巨乳への私怨やらなにやらで今にも飛び掛かりそうだからこの状況もいつまで続くかは分からないが。
「えーっと………とりあえず、説明するから武器をしまってくれないかなー、なんて」
「却下」「お前は油断ならない」「だが、断る」
「そんな寄ってたかっていじめないでよ!せめて1人くらい味方してよ!」
「巨乳に人権はないんだよバーロー!」
そんな膠着状態の中、女がなんとか話し合いによる解決を提案するも、あえなく俺たちのノーセンキュー攻撃によって撃墜されてしまった。
正直なところ俺は話し合いに応じてあげても良いと思うのだけれど、ふぃーちゃんがねぇ?
今時のふぃーちゃんは凶悪なユニークスキルもあることだし、はっきり言って敵に回したくはないんだよな………別に戦うことになっても勝てるとは思うけど。
少なくともふぃーちゃんのユニークスキルが攻防一体を体現しつつ圧倒的な手数を用意できるようなチートスキルだった、なんてことにならない限りは勝てる。
前回苦戦したのもユニークスキルにこだわりすぎてたのが原因だったんだから(さりげない言い訳)。
「ひ、酷い!これが現代人の冷え切った心だというの………」
「………お前があと10歳若ければ味方してやったんだがなぁ?」
「なんで!?男は単純な生物だから胸が大きけりゃどうにかなるって父さんが言ってたのに!」
「甘い!甘すぎるぞ女よ!今時胸はなだらかな方が強いんだよ出直してこいやぁ!」
「そーだそーだ!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ………こうなったらそこの人!助けてよ!」
さて、そんな思案の中、不意に女は俺に助けを求めてきたが………果たして、俺は出会って数分の人間に救いの手を差し伸べるほどの聖人君子だっただろうか?
その答えはこれまでの俺を知る人であれば容易に分かるだろう。
「へいへい、おい二人とも、このままじゃ埒が明かないから一旦ストップだ………いいな?」
俺はメニューから複数の装備を取り出して全身に纏いながらそう言った。
別に深い意味はないが、とりあえずのこけおどしの意味を込めて(そもそも今回は実用性の高い装備を持ってきていない)。
これで止まらないようなら物理言語での対話になりかねないが………いや、大丈夫だな。俺の誠意がちゃんと伝わったらしい。
ふぃーちゃんとろーくんは俺の
そしてそれを確認した女は急に説明口調になって語りだす。
「えー、それでは大変長らくお待たせいたしましたが───超々高難易度クエスト、封印を超える者の特別ルールを説明させていただきます」
「………おい店長」「マスター?」
「なんだよお前ら、俺に疑惑の目を向けるなよ」
「「何か問題が起きたら
何故か説明開始とともに俺へ疑惑の目と酷い偏見が向けられた。解せぬ。
俺みたいな天使のように優しくて純粋で情に厚く死後2分以内に成人の列に加えられてもおかしくないような人間を疑うなんて………その考え!人格が悪魔に支配されている!
まぁそれはともかくとして、この女………クエストの説明用NPCだったのか。その割にはグラの作り込みが凄いけど。
「特別ルール、それは………このクエスト中に限り!コンティニュー可能です!」
「「「ナ、ナンダッテー」」」
「あ、ちなみに自分の武器を使って自殺すると普通に死んじゃうから気をつけてねー♪」
そんなことを考えながら、俺たちは女が説明するクエストの特殊ルールを聞き流していく。
いわくこれはかやひこが自分でコンティニューしまくっても攻略できなかったが為の措置だとか、いわくこのクエストは理論上攻略可能ではあるが、難易度はエルナークの財宝やサガフロ2で初期ステ初期装備初期メンバーのまま完熟エッグ戦、と言ったレベルのふざけた難易度らしい。
作った奴は頭が沸いてるな、とも言っていたそうだ。
流石は天才、ジョークも実に秀逸だよ。
「それじゃー、クエスト挑戦のためのゲートを開きまーす!」
そして、俺がかやひこを内心で嘲笑っていることも気にせず、女はクエスト用フィールドへのゲートを開く。
ゲートはいわゆるワームホールのような形をしており、今すぐにでも吸い込まれてしまいそうな見た目をしていた。
俺はゲートが開いたのを確認すると同時に、その奥に鎮座するなにかに視線を向ける。
………なにかが揺れ動いているように見える。
なんとなく既視感のある、しかしよく分からないナニカが。
それは俺に、今すぐそれを手に入れねば、という危機感を与え………
「さて、それじゃ誰から入る?最初に入ると心が折れやすいからおすすめはしない………」
「いざっ、
「えっちょっそんなの聞いてな………」
「ファイヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
………とりあえず、敵の戦力確認と揺れ動くナニカの正体の確認を兼ねた凶行を俺に決行させる運びとなってしまった。
あー、これは予想外だったんだー。ゲート移動だったらとりあえずこの女を投げて当て馬にしようとか考えてもいなかったからなー。あーなんてことだチクショウ許さねーぞ茅場明彦!
そんなことを考えつつ、俺は理不尽な
見たところ、まだ内部に変化はない。強いて言うならば女の表情が非常に絶望的なモノになったことくらいだろうか。
うん、流石にかやひこからの先兵とは言ってもやりすぎてしまったかもしれないな。ここで投げるのはろーくんで良かったかもしれない。
死んでもコンティニュー出来るそうだから。
「何見てんだよ店長、まぁさっきはグッジョ………うわぁ」
俺が『やっぱこっち生贄にすりゃよかったか?』なんて考えながらろーくんに視線を送ってみるとろーくんはそんな酷いことを言ってきたが、その時突然始まった敵の出現に言葉を失ってしまっていた。
狭い空間の中、同時に現れる12体の敵。
そのサイズは1体1体は大きいわけではなく、むしろプレイヤーと遜色ない大きさだった。
だが、そこから感じる圧のようなもの………ヴァーチャルの世界でそんなものを感じるとかちょっと訳わからんが………は、少なくとも俺がこれまでリアルで倒してきた強敵たちにも匹敵しうるものだ。
それが12体。俺ならともかく、あの様子じゃ多分手も足も出ないだろう。
そう考える間にも、女は12体の凶悪な敵による蹂躙を受け、あっという間にHPが尽きてコンティニューすることになった。
どうやらコンティニュー出来るというのは本当らしいな。
「あぁもう!死ぬかと思ったよ!?いくら私が優しいお姉さんでも怒るからね!」
「いや、お前が怒っても姉貴の3000億分の1も怖くないぞ?」
「………アレはもう人間じゃないよな………俺は好きだけど」
「ろーくん、それ姉貴に聞かれたら殺されるぞ」
「ねぇ!ちゃんと聞いてよ!無視しないでよ!」
俺が冷静にコンティニュー可能設定が真実であることを確認している間にも女はヒステリックに騒ぎ立て始めたので、とりあえず空気が読めて大人で優しい俺はクールにメニューから煮干しを取り出してプレゼントした。
………おい、無言で投げつけるなよ。食べ物を粗末にしちゃいかんってウチのジジイが言ってたぞ。
今回多用したネタのネタ元が分かる人は居りますでしょうか………いたならばその考え!思考が悪魔に支配されている!(気に入った)
なお、次回は恐らく隊長さんがようやくクエスト攻略をスタートする予定です。たぶん(当てにならない予告)。